Japanese Journal of Medical Technology
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
Materials
Survey of the acid-fast bacteria test trend in our hospital laboratory
Mizuho ABESiho MURAMATUHiromi AKAZAWAShuichi AMINO
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2018 Volume 67 Issue 5 Pages 779-784

Details
Abstract

当院検査室における抗酸菌検査動向調査を行ったので報告する。2012年10月から2017年9月の5年間において,当検査室でデータ管理している山梨勤労者医療協会(山梨勤医協)の医療機関での抗酸菌検出状況,年齢分布と性差,各検査項目の比較,薬剤耐性率,患者の臨床背景および非結核性抗酸菌症の診断・治療について検討した。5年間での抗酸菌培養陽性率は7.0%であり,結核菌(Mycobacterium tuberculosis; M. tuberculosis)35例(19.1%)非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteria; NTM)148例(80.9%)であった。年齢は,どちらも70歳代以上の高齢層に多いが,M. tuberculosisは10~30歳代の若年層にもピークが見られた。性別では,M. tuberculosisが男性優位,NTMは女性優位であった。検査項目では培養検査の陽性率が90%以上と高率であった。患者の受診動機は一般的な風邪症状の他,X線異常などの無症状の方も多かった。初期診療を行うにあたり,今回の動向調査が参考にされることが望まれる。また,抗酸菌分離状況は地域性があるため,県内の動向を把握することは感染管理の観点から意義があることと思われた。

I  目的

2016年の本邦における結核菌罹患率は13.9(人口十万対)で減少傾向である1)。結核菌(Mycobacterium tuberculosis; M. tuberculosis)はヒトからヒトへ感染し集団感染を起こすため,市中病院での初期診断は重要である。一方,非結核性抗酸菌(nontuberculous mycobacteria; NTM)は2014年の全国調査によると肺NTM症の推定罹患率は14.7と,M. tuberculosisを上回り増加傾向である2)。しかし届け出義務がないため,分離状況が不明である。

当検査室は,山梨県の医療を担う基幹病院である甲府共立病院(病床数283床)内にあり,山梨勤労者医療協会(山梨勤医協)の同一法人内の医療機関である3病院と国中地域の5つの診療所のデータ管理を行っている。M. tuberculosisおよびNTMの検出は地域性があることから分離状況をまとめることはその地域の発生動向を反映するものと思われる。

そこで,当検査室における抗酸菌動向を調査したので報告する。

II  対象および方法

2012年10月~2017年9月までの5年間,山梨勤医協医療機関で抗酸菌検査を実施した塗抹3,499件,培養3,285件,PCR 1,972件を対象とし1.抗酸菌検出状況 2.年齢分布と性差 3.各検査項目の比較 4.薬剤耐性率 5.患者背景 6.NTM症の診断と治療について検討した。

なお,同一患者,同一検体において連続して複数検体が提出された場合1件とした。塗抹検査は髄液,尿,組織を除き,至急対応もしているため,院内にてZiehl-Neelsen染色を直接法で実施した。提携外注先である一般財団法人東京保健会病体生理研究所にて,「抗酸菌検査ガイド2016」に基づきNACL-NAOH法による前処理後,培養検査はMIGTによる液体培養(日本ベクトンディッキンソン),PCRはコバスTaqMan MTB/MAI(ロシュ・ダイアグノスティックス),結核菌薬剤感受性試験はビットスペクトル(極東製薬)で実施した。

III  結果

1. 抗酸菌検出状況

各病院・診療所での抗酸菌培養件数と陽性件数を示す(Figure 1)。件数や陽性件数に差はあるものの,すべての施設で検査されていた。

Figure 1 

各病院・診療所での抗酸菌培養件数と陽性件数

検体材料は,喀痰・気管支洗浄液等の呼吸器材料が全体の84.0%を占め,続いて胸水,髄液,腹水,関節液,消化器材料,尿,膿,心嚢水・リンパ節等で各科から提出されていた(Figure 2)。

Figure 2 

検体材料の内訳

5年間で培養検査実施件数は3,285件であり,陽性率は7.0%であった。2015年から実施件数が減り,2016年には2012年の約半数となった。しかし,陽性率は2015年まで下降したものの2016年には上昇した(Table 1)。

Table 1  培養検査実施数および陽性率の年次推移
年度(年) 2012 2013 2014 2015 2016 合計
実施件数 815 681 759 596 434 3,285
陽性件数 68 53 48 27 35 231
陽性率(%) 8.3 7.8 6.3 4.5 8.1 7.0

5年間に培養,PCRいずれかで陽性となった,新規のM. tuberculosis陽性例は35例(19.1%),NTMは148例(80.9%)であった。検出割合の年次推移をFigure 3に示した。どの年度も,NTMの占める割合の方が高かった。

Figure 3 

M. tuberculosisおよびNTMの検出割合

NTM培養陽性で,同定された137例の内訳は,Mycobacterium avium complex(MAC)が全体の86.1%を占めた。その他に,M. kansasiiM. gordonaeM. fortuitumM. abscessus等が検出された(Figure 4)。

Figure 4 

非結核性抗酸菌の内訳

2. 年齢分布と性差

M. tuberculosisは70歳代以上で77.1%,80歳代が最多であったが,10~30歳代の若年層にもピークがあった。一方,NTMは50歳代から増加し70,80歳代にピークがあった(Figure 5)。

Figure 5 

M. tuberculosisおよびNTM検出例での年齢分布

性別では,M. tuberculosisは男性が多く,NTMは女性が多かった(Figure 6)。

Figure 6 

M. tuberculosisおよびNTM検出例での性差

3. 検査項目の比較

1) 検査項目別陽性率

M. tuberculosisの塗抹陽性率41.1%に対し,NTMは27.2%と低かった。培養陽性率はどちらも高く,PCRはそれに劣った(Table 2)。なお,件数とはそれぞれの項目に依頼があった中でM. tuberculosisおよびNTMが陽性となった数である。また,PCRはMACのみの陽性率とした。

Table 2  検査項目別陽性率
M. tuberculosis NTM
塗抹 件数 34 147
陽性数 14 40
陽性率(%) 41.2 27.2
培養 件数 33 147
陽性数 33 139
陽性率(%) 100 94.6
PCR 件数 30 57
陽性数 20 40
陽性率(%) 66.7 70.2

2) M. tuberculosis検出例で塗抹・培養・PCRが同時に依頼された結果内訳

同時依頼は27例あり,そのうち培養のみ検出が6例(22.2%)あった。培養陽性までの期間は,1週4例,2週15例,3週5例,4週2例,5週1例で2週目陽性が多かった(Table 3)。

Table 3  M. tuberculosis検出例で塗抹・培養・PCRが同時に依頼された結果内訳
塗抹 培養 PCR 症例数
+ + + 11
+ + 8
+ 6
+ + 2

4. M. tuberculosisの薬剤耐性率

M. tuberculosis検出例で薬剤感受性を行った31例中,耐性率はstreptomycin(SM)9.7%(3例),isoniazid(INH)6.5%(2例)で他は感受性であった。

5. 患者背景

M. tuberculosis検出例で診療記録より調べられた25例での受診動機は(重複あり),一般的な風邪症状である発熱,咳,痰や食欲不振,倦怠感などの非特異的な症状が多かった(Table 4)。一方,NTM検出例で同じく106例において,同様に風邪症状が多かったが,痰の中に血が混じるといった血痰が60%と半数以上を占めていた。また,X線異常といった無症状例も16.0%と多かった。

Table 4  M. tuberculosis検出例での受診動機(重複あり)
発熱 14 チアノーゼ 1
9 心窩部痛 1
食欲不振 7 腰痛 1
5 腹痛 1
倦怠感 3 糖尿病教育 1
胸痛 3
呼吸困難 2
レントゲン異常 2

M. tuberculosis検出例での基礎疾患は25例中17例(68%)にあり(重複あり),心疾患,糖尿病,悪性腫瘍が上位を占めた(Table 5)。一方,NTM検出例では106例中86例(81.1%)に基礎疾患があり(重複あり),慢性気管支炎,慢性閉塞性肺疾患,陳旧性肺結核などの呼吸器疾患が最も多く,高血圧,糖尿病,脳血管障害・精神疾患が続いた。また,基礎疾患なしの20例中13例(76.5%)が女性ですべてMACであった。

Table 5  M. tuberculosis検出例での基礎疾患(重複あり)
心疾患 9 慢性心不全 6 整形疾患 3 リウマチ 1
心筋梗塞 2 痛風 1
拡張型心筋症 1 ヘルニア 1
糖尿病 5 脳疾患 2 脳出血 1
悪性腫瘍 3 脳梗塞 1
消化器系疾患 4 慢性肝不全 1 呼吸不全 1
肝硬変 1 鉄欠乏性貧血 1
十二指腸潰瘍 1 パーキンソン病 1
胃潰瘍 1
高血圧 3

6. NTM症の診断と治療

NTM検出例のうち診療記録により調べられた106例中NTM症と診断されたのは,47例(44.3%)で,そのうち治療を行ったのは20例(43.5%)であった。治療は,clarithromycin(CAM),ethambutol(EM),rifampicin(RFP),の3剤併用が13例と最も多かった。

IV  考察

当院は,結核病床を持たない山梨県内の市中病院である。抗酸菌培養検査での陽性率7.0%,検出割合,M. tuberculosis 19.1%,NTM 80.9%は結核病床を持たない病院での報告と同程度であった3),4)

依頼された検体材料は,呼吸器材料が84.0%で,既報と同様であった5)。しかし,透析患者の頸部腫瘤よりM. tuberculosisが検出された例もあり,呼吸器内科以外,その他の材料からの検出も見逃せない。

実施件数は2015年から減り,2016年には2012年の半数になってしまった。それは,2012年に常勤していた呼吸器内科医が現在不在であるためと思われる。一方,M. tuberculosisの年次推移をみると2015年まで下降したものの2016年には再び上昇した。これは山梨県の結核菌罹患率の推移と一致する傾向であった1)

検出割合では,すべての年度でM. tuberculosisよりNTMの割合が高く,全国調査で言われているNTM症の増加2)が窺えた。また,その中でも肺MAC症が88.8%の大多数を占めると言われており2),本調査でも同程度であった。しかし,検出された菌種の中には,病原性が高いと言われているM. kansasiiや,難治性のM. abscessusが含まれ,見逃さぬよう注意が必要と思われる。

近年の年齢階級別の結核罹患率は高齢層ほど高く,また新登録結核患者数では,0~29歳の若年層で増加が認められ1),本調査も同様であった。その背景には,高齢者の結核患者の多くは過去に感染し内因性再燃により発病し,若い年齢層は高蔓延国から流入してくる外国人や職業由来が多いと言われている6)。従って,高齢層はもちろん若年層も結核を疑う必要がある。

性差においても,M. tuberculosisは男性優位,NTMは女性優位と既報と同様であった3)

検査項目別では,NTMの塗抹陽性率が27.2%と低く,M. tuberculosisと比べて排菌数が少ないためと思われる7)。PCRの陽性率も検体の質に左右されるため培養に劣る。本調査では,既報と比べるとPCR陽性率が若干低く5),良質な痰が提出されていない可能性があり,今後の検討が必要であると思われた。そしてPCRは死菌でも陽性になるため,治療の効果の判定はできない。NTMの診断基準では,培養陽性が必須であり8)菌種によって病原性,治療が異なるため菌種同定は必要である。また,培養検査をすることで薬剤感受性を実施することができ,薬剤の選択,耐性状況が把握できる。従って塗抹,PCR共に院内感染に対応する迅速性においては有用であるが,各検査の特性を考え検査方法を選択することは大事である。また,M. tuberculosisの感染管理に関して塗抹,PCRが陰性であっても遅れて培養が陽性になることがあるということを念頭におく必要がある。

M. tuberculosisの耐性率では,RFPの耐性は無かったがSM,INHの2剤は既報と同程度であった4)

M. tuberculosis検出例での基礎疾患は,腎疾患,糖尿病,悪性腫瘍が多いと言われているが9)本調査では腎疾患ではなく心疾患が多かった。NTMでは,呼吸器疾患が多かったこと,基礎疾患なしの女性が多かったことは既報と同様であった3),7)。また,無症状で発見される症例が増加傾向で10)本調査でも健診でのX線異常で受診される方が16.0%であることから見逃さず診療に繋げられることが望まれる。また,血痰で結核を疑い塗抹検査を至急で行うことが多々あるが,肺NTM症の方が早期から血痰,喀血を生じやすく10)本調査でもNTM検出例で喀痰の60%が血痰であったことから結核だけでなく肺NTM症の可能性もあると思われる。NTMは,水や土壌などの環境に棲息し,ヒトからヒトへ感染しないため院内感染の心配はない。しかし,数回の培養陽性が必須であるため8)診断には時間がかかりきちんと診断されない例もある。経過観察で良い場合もあるが,治療は長期に渡り薬剤による副作用もあるため患者の理解も必要である。

平成28年,山梨の結核罹患率は8.7と10を切る低蔓延レベルで,全国でも低い方である1)。低蔓延レベルの弊害として診断の鑑別に上げられなくなることがある。また,年齢階級別の結核罹患率は高齢層ほど高いことは先に述べたが,さらに結核患者の中にはホームレス者,日雇い労働者,外国人などの社会経済弱者の割合が高くなってきており,これらの者は健康保険証を持っていないため医療機関受診が困難であり健診の機会のないものもいる11)。山梨勤医協の事業所には老人介護関連施設もあり,また2010年8月から無料定額診療事業を行っている。それ故,診療機会は充分あると言える。初期診療を行うにあたり今回の調査結果を臨床に情報還元し参考にされることが望まれる。

V  結語

今回の調査で,山梨県国中地域で医療活動を行う山梨勤医協の医療機関における抗酸菌動向が明らかとなった。抗酸菌分離状況は地域性があるため,山梨県内のサーベイランス資料として参考にされることが望まれる。

 

本研究は,当院倫理審査委員会の承認を得ております(承認番号2017-20)。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2018 Japanese Association of Medical Technologists
feedback
Top