2019 Volume 68 Issue 1 Pages 1-6
愛媛県立中央病院において分離したextended-spectrum β-lactamase(ESBL)産生Escherichia coli 268株を対象として,薬剤感受性検査成績の調査を行った。I期(2003–05年),II期(2009–10年),III期(2014–16年)にかけてESBL産生E. coliのceftazidime(CAZ),aztreonam(AZT)に対する非感性率の上昇を認めた。DNAシークエンスによりblaCTX-M-typingを実施したところ,I期,II期ではblaCTX-M-14が優位であったが,III期ではblaCTX-M-14に加えてblaCTX-M-27とblaCTX-M-15も優位であった。blaCTX-M-27陽性株とblaCTX-M-15陽性株は,blaCTX-M-14に比べてCAZとAZTに対する非感性率が高かった。したがって,ESBL産生E. coliのCAZとAZTに対する非感性率の上昇は,blaCTX-M-27陽性株とblaCTX-M-15陽性株の増加によることが明らかになった。さらに,blaCTX-M-27陽性株とblaCTX-M-15陽性株においてD240Gのアミノ酸置換変異が検出されたことからCAZに対する非感性率の上昇につながったと考えられた。
基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrum β-lactamase; ESBL)産生菌は,ペニシリンを分解するペニシリナーゼがその基質特異性を拡張することによって第3世代あるいは第4世代セファロスポリン系薬を分解できるようになった酵素を獲得した菌種である1)。ESBLは,クラブラン酸などのβ-ラクタマーゼを阻害する薬剤によりその酵素活性が阻害される特徴を持っている1)。
ESBLをコードする遺伝子は,主として染色体とは独立して自立複製可能なプラスミドと呼ばれる遺伝因子上に存在し,腸管内で水平伝播することが指摘されている2)。そのためESBLの耐性情報は施設内や環境内に拡散・伝播しやすいため,感染対策上もESBL産生菌の検出意義は高い3)。ESBL産生菌は抗菌薬による選択圧が高く,医療施設内において敗血症などの重症感染症の原因菌であるとともに4),5),尿路感染症などの市中感染症の原因菌としても注目されている6)。
ESBLをコードする遺伝子として,blaTEM型,blaSHV型,blaCTX-M型が知られている。近年,日本を含む世界各国においてblaCTX-M型ESBL産生菌の分離頻度が増加し,本酵素がESBLの主要酵素になっている7)。blaCTX-M型ESBLsには多数の遺伝子型が存在するが,blaCTX-M-1 group,blaCTX-M-2 group,blaCTX-M-9 group,blaCTX-M-8 group,およびblaCTX-M-25 groupの5グループに大別される8)。
本研究では,2003年から2016年の間に臨床材料から分離したESBL産生Escherichia coliの薬剤感受性検査を行った。さらに,分離した年代別によるblaCTX-M型遺伝子の調査を行うことにより,blaCTX-M型と薬剤感受性検査成績の関係について調査を行った。
愛媛県立中央病院において臨床(患者)材料から分離したESBL産E. coli 268株を供試菌株とした(Table 1)。供試菌株の分離された年によってI期(2003–05年),II期(2009–10年),およびIII期(2014–16年)に分類した。供試菌株の内訳は,I期:44株,II期:55株,およびIII期:169株であった。
Clinical specimens | No. of isolates |
---|---|
stool | 40 |
urine | 118 |
secretion | 18 |
sputum | 25 |
bronchial lavage fluid | 3 |
vein blood | 22 |
arterial blood | 9 |
bile | 7 |
pus | 9 |
ascites | 9 |
otorrhea | 3 |
nasal cavity | 5 |
Total | 268 |
McFarland 0.5に調整した被検菌液をミューラーヒントンS寒天培地(栄研化学)上に塗抹し,clavulanic acid/amoxicillin(CVA/AMPC)ディスクを培地中央に置き,中央から25 mmの間隔でceftazidime(CAZ),cefotaxime(CTX),cefpodoxime(CPDX),cefepime,ceftriaxone,およびaztreonam(AZT)のKirby-Bauer(KB)ディスク(栄研化学)を配置した。一昼夜培養後,CVA/AMPCディスク側に阻止帯の拡張が認められた株をESBL産生菌と判定した9)。
3. 薬剤感受性検査薬剤感受性検査は,ampicillin(ABPC),CTX,CAZ,CPDX,AZT,amikacin(AMK),levofloxacin(LVFX)の7種類の抗菌薬について,KBディスクを用いClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)のドキュメントに準拠して行った10)。臨床的ブレイクポイントの判断基準はCLSIのドキュメントに従い,感性(Susceptible; S),中等度耐性(Intermediate; I),耐性(Resistant; R)のクライテリアとした11)。
4. blaCTX-M型の遺伝子型別blaCTX-M groupの検出は,Sibata12),Yagi13),およびWoodford14)らの報告に従い,blaCTX-M-1 group,blaCTX-M-2 group,blaCTX-M-8 group,blaCTX-M-9 group,blaCTX-M-25 groupについてPCRにより確認した。blaCTX-M型遺伝子シークエンス用プライマーは,瀬戸15)および八柳16)らの報告に従い,検出されたblaCTX-M-1 group,blaCTX-M-2 group,blaCTX-M-9 groupについてPCR型別を行った。PCRプライマーを用いてダイレクトシークエンス法によりその塩基配列を決定した。その後,BLASTn17)を用い遺伝子型を決定した。さらにアミノ酸配列を推定するともに240番目のアミノ酸置換変異の検出を行った。
薬剤感受性検査成績をTable 2に示した。ABPC,CTX,CPDXは供試した268株全て非感性を示したが,AMKは全て感性を示した。CAZに対する非感性率は25.4%(68/268),AZTに対する非感性率は48.1%(129/268),LVFXに対する非感性率は75.0%(201/268)であった。
Period; Year (No. of isolates) |
Antimicrobial susceptibility test | ||||||||||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ABPC | CTX | CAZ | CPDX | AZT | AMK | LVFX | |||||||||||||||
S | I | R | S | I | R | S | I | R | S | I | R | S | I | R | S | I | R | S | I | R | |
I: 2003–05 (n = 44) | 44 | 10 | 34 | 44 | 44 | 26 | 11 | 7 | 44 | 17 | 2 | 25 | |||||||||
II: 2009–10 (n = 55) | 55 | 11 | 44 | 50 | 1 | 4 | 55 | 36 | 10 | 9 | 55 | 18 | 37 | ||||||||
III: 2014–16 (n = 169) | 169 | 32 | 137 | 106 | 18 | 45 | 169 | 77 | 40 | 52 | 169 | 32 | 11 | 126 | |||||||
Total | 268 | 53 | 215 | 200 | 19 | 49 | 268 | 139 | 61 | 68 | 268 | 67 | 13 | 188 |
S; Susceptible, I; Intermediate, R; Resistant
ABPC; ampicillin, CTX; cefotaxime, CAZ; ceftazidime, CPDX; cefpodoxime, AZT; aztreoname, AMK; amicacin, LVFX; levofloxacin
供試菌株の分離された年次別のCAZ,AZT,LVFXに対する非感性率をみると,I期では,それぞれ0%(0/44),40.9%(18/44),61.4%(27/44),II期では,9.1%(5/55),34.5%(19/55),67.3%(37/55),III期では,37.3%(63/169),54.4%(92/169),81.1%(137/169)であり,I期,II期,III期にかけて非感性率の上昇が確認された。
2. blaCTX-M型別blaCTX-M groupの型別結果をTable 3に示した。blaCTX-M-9 groupが最も多く80.6%(216/268),次いで,blaCTX-M-1 groupが14.9%(40/268),blaCTX-M-2 groupが4.5%(12/268)であった。blaCTX-M-1 group 40株のうちblaCTX-M-15が32株で最も多く検出され,blaCTX-M-55が6株,blaCTX-M-3が2株であった。blaCTX-M-2 groupの12株は,全てblaCTX-M-2であった。blaCTX-M-9 groupの216株はblaCTX-M-14が134株と最も多く,次いでblaCTX-M-27が77株,blaCTX-M-9が4株,blaCTX-M-24が1株であった。
Period; Year (No. of isolates) |
blaCTX-M-1 group (n = 40) | blaCTX-M-2 group (n = 12) | blaCTX-M-9 group (n = 216) | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
blaCTX-M-3 | blaCTX-M-15 | blaCTX-M-55 | blaCTX-M-2 | blaCTX-M-9 | blaCTX-M-14 | blaCTX-M-24 | blaCTX-M-27 | |
I: 2003–05 (n = 44) | 5 | 2 | 36 | 1 | ||||
II: 2009–10 (n = 55) | 1 | 3 | 2 | 4 | 1 | 38 | 1 | 5 |
III: 2014–16 (n = 169) | 1 | 29 | 4 | 3 | 1 | 60 | 71 | |
Total | 2 | 32 | 6 | 12 | 4 | 134 | 1 | 77 |
I期に分離された44株の内訳は,blaCTX-M-14が36株と最も多く,blaCTX-M-2が5株,blaCTX-M-9が2株,blaCTX-M-27が1株であった。II期に分離された55株の内訳はblaCTX-M-14が38株と最も多く,blaCTX-M-27が5株,blaCTX-M-2が4株,blaCTX-M-15が3株,blaCTX-M-55が2株,blaCTX-M-3,blaCTX-M-9,blaCTX-M-24がそれぞれ1株であった。III期に分離された169株の内訳は,blaCTX-M-27が71株と最も多く,blaCTX-M-14が60株,blaCTX-M-15が29株,blaCTX-M-2が3株,blaCTX-M-3,blaCTX-M-9がそれぞれ1株であった。
3. blaCTX-M型別と薬剤感受性検査成績の関係blaCTX-M型別のCAZ,AZTに対する薬剤感受性検査成績をTable 4に示した。CAZ,AZTに対する非感性率は,同順でblaCTX-M-15陽性株が65.6%(21/32),87.5%(28/32),blaCTX-M-55陽性株が,66.7%(4/6),66.7%(4/6)と高く,次いでblaCTX-M-27陽性株が31.2%(24/77),45.5%(35/77)であった。blaCTX-M-14陽性株は,13.4%(18/134),34.3%(46/134)であった。
blaCTX-M group | blaCTX-M type (No. of isolates) |
Antimicroboal susceptibility test | |||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
CAZ | AZT | ||||||
S | I | R | S | I | R | ||
blaCTX-M-1 group | blaCTX-M-3 (n = 2) | 1 | 1 | 2 | |||
blaCTX-M-15 (n = 32) | 11 | 10 | 11 | 4 | 7 | 21 | |
blaCTX-M-55 (n = 6) | 2 | 4 | 2 | 4 | |||
blaCTX-M-2 group | blaCTX-M-2 (n = 12) | 12 | 1 | 8 | 3 | ||
blaCTX-M-9 group | blaCTX-M-9 (n = 4) | 4 | 3 | 1 | |||
blaCTX-M-14 (n = 134) | 116 | 1 | 17 | 88 | 27 | 19 | |
blaCTX-M-24 (n = 1) | 1 | 1 | |||||
blaCTX-M-27 (n = 77) | 53 | 8 | 16 | 42 | 16 | 19 |
S; Susceptible, I; Intermediate, R; Resistant
CAZ; ceftazidime, AZT; aztreoname
blaCTX-M型別のアミノ酸置換変異の検出成績をTable 5に示した。blaCTX-M-15,blaCTX-M-55,およびblaCTX-M-27において240番目のアミノ酸が,アスパラギン酸からグリシンへの置換変異が検出された。
blaCTX-M group | blaCTX-M- type | D240G |
---|---|---|
blaCTX-M-1 group | blaCTX-M-3 | − |
blaCTX-M-15 | + | |
blaCTX-M-55 | + | |
blaCTX-M-2 group | blaCTX-M-2 | − |
blaCTX-M-9 group | blaCTX-M-9 | − |
blaCTX-M-14 | − | |
blaCTXM-24 | − | |
blaCTX-M-27 | + |
D; Aspartic acid, G; Glycine
近年,ESBL産生菌の分離率が急速に上昇しており,臨床上および感染対策上,極めて大きな問題となっている6)。八柳ら16)は,2003年以降blaCTX-M型ESBL産生E. coliの分離株数が顕著に増加傾向にあると報告している。さらに,blaCTX-M-15型ESBL産生菌が秋田県の医療機関において侵淫し,CAZを加水分解する株が拡張し始めていると報告している16)。
そこで,本研究において,2003年から2016年の間に愛媛県立中央病院において臨床材料から分離したESBL産生E. coliの薬剤感受性検査成績について調査を行った。さらに,分離されたESBL産生E. coliのblaCTX-M型遺伝子の調査を行うことにより,blaCTX-M型と薬剤感受性検査成績の関連性について検討を行った。
薬剤感受性検査成績では,ペニシリン系薬のABPC,セファロスポリン系薬のCTXおよびCPDXに対しては,全ての株が非感性を示すことが確認されたが,セファロスポリン系薬の中でもオキシイミノ基としてカルボキシプロポイミノ基を有するCAZおよびAZTに対する非感性率は低くかった。しかし,I期,II期,III期にかけて年次別に比較すると,CAZおよびAZTの非感性率の上昇が確認された。さらに,I期,II期,III期にかけてLVFXに対する非感性率の上昇が確認された。近年,ESBL産生E. coliにおいてフルオロキノロン系薬に対して耐性を示す株が増加している18)。今後は,病院内において多くの抗菌薬に耐性を示すESBL産生E. coliの監視と抗菌薬の適正使用が重要であることが考えられた。
blaCTX-M groupの遺伝子型においては,blaCTX-M-9 groupが最も多く検出され,木場ら19)およびChongら20)の報告と同様に臨床材料から分離されるESBL産生E. coliにおいて優位なgroupであることが確認された。blaCTX-M型の遺伝子型については,約170種類ある中で,blaCTX-M-9 groupのblaCTX-M-14が最も多く,次いでblaCTX-M-27,blaCTX-M-1 groupのblaCTX-M-15の検出頻度が高かった。しかし,年次別でblaCTX-M型についてみると,I期からII期,すなわち2003年から2010年頃までは,blaCTX-M-9 groupのblaCTX-M-14が最も多く検出されたが,III期の2014年から2016年にはblaCTX-M-27が増加し,blaCTX-M-14よりも多く検出された。また,blaCTX-M-1 groupは,II期の2009年頃よりblaCTX-M-15,blaCTX-M-55が検出されるようになった。さらに,III期の2014年から2016年には,blaCTX-M-15の検出数の増加がみられた。Kurodaら21)は,2008年から2009年に分離されたESBL産生E. coli 101株の内訳は,blaCTX-M-14が最も多く,次いでblaCTX-M-27,blaCTX-M-15の順で検出されたと報告している。またHaraら22)は,2000年から2010年のなかで,2010年にはblaCTX-M-27およびblaCTX-M-15が検出されるようになったと報告しており,検出されるESBL産生E. coliの遺伝子型の種類が増えると共に遺伝子型が変化していることが確認された。Johnsonら18)によると,blaCTX-M-1 groupのblaCTX-M-15が世界各国において優位に分離されるようになってきたと報告している。今回,2010年以降にblaCTX-M-15の検出頻度が高くなったことの関連性が示唆された。
blaCTX-M型における各薬剤に対する薬剤感受性検査成績では,分離株数の多かったESBL産生E. coli株では,blaCTX-M-14と比較してblaCTX-M-27およびblaCTX-M-15おいてCAZおよびAZTに対する非感性率が高かった。このことからI期からII期,III期にかけてblaCTX-M-27およびblaCTX-M-15の検出頻度が高くなったことがCAZおよびAZTに対する非感性率が上昇した原因と考えられた。
blaCTX-M-27にコードされるCTX-M-27は,D240Gというアミノ酸置換変異により,活性中心の構造変化に関与することによって,CAZの分解効率を上昇させることが報告されている23)。その他に,blaCTX-M-15においても同様なアミノ酸置換変異は,CAZの分解効率を上昇させることが報告されている24)。各blaCTX-M型によるD240Gのアミノ酸置換変異を検出すると,blaCTX-M-27およびblaCTX-M-15の他にblaCTX-M-55においても陽性であったことから共通のアミノ酸置換変異がCAZに対する分解効率の上昇につながったものと考えられた。また,AZTについてもCAZ同様にオキシイミノ基としてカルボキシプロポイミノ基を有することから,非感性率の上昇につながったと考えられた。
近年,フルオロキノロン系薬に対して耐性を示すESBL産生E. coliに関する報告が数多くみられるようになってきた。blaCTX-M型E. coliの中でもblaCTX-M-15型のmultilocus sequence typing(MLST)131などの特定のクローンの流行が指摘されている25)。今後は,MLST131も含めてLVFX対する薬剤耐性遺伝子解析も検討していく予定である。
臨床材料から分離したESBL産生E. coliの薬剤感受性検査成績の調査を行った。III期(2014–16年)に分離された株のCAZ,AZT,およびLVFXに対する非感性率が高かった。そこで,薬剤感受性検査成績とESBL産生E. coliのblaCTX-M-typingを行い比較検討した。結果として,III期ではblaCTX-M-27が最も多く,次いでblaCTX-M-14,blaCTX-M-15の順であった。さらに,D240Gのアミノ酸置換変異を検出するとblaCTX-M-27の他にblaCTX-M-15およびblaCTX-M-55においても陽性であったことからCAZに対する非感性率の上昇につながったと考えられた。AZTについてもCAZ同様にオキシイミノ基としてカルボキシプロポイミノ基を有することから,非感性率の上昇につながったと考えられた。
本研究はヒトを扱った研究ではないため,本学の規定により倫理委員会の対象とはらならなかった。
本論文の要旨は第66回日本学検査学会(2017年6月,千葉)において報告した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。