Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
A case of therapy-related myeloid neoplasm resulting in acute promyelocytic leukemia in a patient following breast cancer therapy
Mamiko HIRAOYoshiko KOUCHIRie TAKAHARATsukasa TAKAHASHIFumie TASAKA
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2019 Volume 68 Issue 1 Pages 180-185

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Abstract

乳がん治療後に急性前骨髄性白血病(acute promyelocytic leukemia; APL)として発症した治療関連骨髄性腫瘍(therapy-related myeloid neoplasms; t-MN)の症例を経験した。本症例は染色体検査で15;17転座は検出されなかったが,FISH法およびPCR法にてPML/RARA融合遺伝子が確認されたmasked型15;17転座であり,診断における遺伝子検査の重要性を示した。また,乳がん治療中にアルキル化剤を使用しており,本剤を使用した際に出現する特徴的な染色体異常である7番染色体長腕欠失が検出された。一般的に15;17転座をもつt-MNは予後良好であるが,本症例は予後不良とされる7番染色体長腕欠失も併せてもっており,t-MNの予後と染色体異常との関係を示唆する上で貴重な症例であると考えられた。

I  はじめに

治療関連骨髄性腫瘍(therapy-related myeloid neoplasms; t-MN)は,悪性腫瘍などの前疾患に対する化学療法,放射線照射後に発症する骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndrome; MDS),急性骨髄性白血病(acute myelogenous leukemia; AML),骨髄異形成症候群/骨髄増殖性腫瘍(myelodysplastic/myeloproliferative neoplasms; MDS/MPN)の総称である1)。今回我々は乳がん治療後に急性前骨髄性白血病(acute promyelocytic leukemia; APL)として発症したt-MNの症例を経験したので報告する。

II  症例

症例:49歳,女性。

主訴:汎血球減少。

既往歴:APL発症5年前である20XX − 5年4月に乳がんの診断を受け,外科で部分切除術を施行後,放射線治療を実施。20XX − 4年11月に再発,多発肺転移を認めたため,ホルモン療法とシクロフォスファミドを含む化学療法を継続していた。

現病歴:20XX年3月の外科外来受診時に汎血球減少を認めたため,血液内科紹介となり骨髄穿刺を施行。骨髄中に異常細胞を多数認めたため,急性白血病の疑いで入院となった。

入院時検査所見(Table 1):生化学検査では,LDが241 U/Lとやや高値を示していた以外は特に異常は認められなかった。末梢血液検査では,赤血球数(red blood cell; RBC)3.35 × 1012/L,ヘモグロビン(hemoglobin; Hb)11.1 g/dL,血小板数(platelet; PLT)320 × 109/L,白血球数(white blood cell; WBC)0.6 × 109/Lと汎血球減少を呈し,芽球様や核形不整で一部顆粒を持つ異常細胞を10.0%認めた(Figure 1A)。凝固検査では,APTT 33.9 secと正常,PT 14.5 secとやや延長,フィブリノゲン(Fib)は142.0 mg/dLと低値,フィブリノゲンフィブリン分解産物(FDP)23.9 μg/mL,Dダイマー9.5 μg/mLと高値を示しており,線溶優位の凝固異常が認められた。

Table 1  入院時検査所見
生化学 血液 凝固
​CRP 0.03 mg/dL ​RBC 3.35 × 1012/L ​APTT 33.9 sec
​TP 6.9 g/dL ​Ht 30.8% ​PT 14.5 sec
​ALB 4.5 g/dL ​Hb 11.1 g/dL ​PT-INR 1.13
​TB 0.6 mg/dL ​網赤血球 12.3% ​Fib 142.0 mg/dL
​AST 21 U/L ​PLT 320 × 109/L ​AT III 114.0%
​ALT 27 U/L ​WBC 0.6 × 109/L ​FDP 23.9 μg/mL
​LD 241 U/L ​ Seg 12.0% ​Dダイマー 9.5 μg/mL
​γGT 18 U/L ​ Band 1.0%
​UA 3.1 mg/dL ​ Eos 0.0%
​CRE 0.50 mg/dL ​ Baso 0.0%
​UN 13 mg/dL ​ Lymph 73.0%
​Na 143 mmol/L ​ Mono 4.0%
​K 4.1 mmol/L ​ 異常細胞 10.0%
​Cl 107 mmol/L
​Ca 9.6 mg/dL
Figure 1 

末梢血および骨髄血の異常細胞の形態(メイギムザ染色)

A:末梢血(60×) B:骨髄血(60×)

骨髄検査所見(Table 2):全有核細胞数 353 × 103/μL,骨髄細片は過形成で,異常細胞が90.8%と全有核細胞の大部分を占めていた(Figure 1B)。その多くは核形不整で,細胞質に多数のアズール顆粒をもち,一部にAuer小体,少数ながらfaggot細胞を認めた。細胞表面マーカーはCD13 91%,CD33 96%,CD34 5%,HLA-DR 50%であった。染色体分析では,7番染色体長腕の欠失が20細胞中9細胞に認められた(Figure 2)。

Table 2  骨髄検査所見
骨髄像 細胞表面マーカー 染色体・遺伝子
​NCC 353 × 103/μL ​CD2 5% ​染色体分析 46,XX,add(7)(q22)[9]/46,XX[11]
​巨核球数 5 /μL ​CD3 3%
​顆粒球系 4.2% ​CD4 1% ​FISH法
​リンパ球系 2.0% ​CD7 1% ​ PML/RARA 融合シグナル1個
​単球 0.6% ​CD8 2%
​赤芽球系 2.4% ​CD56 (−) ​PCR法
​異常細胞 90.8% ​CD10 (−) ​ PML/RARAキメラmRNA
​ペルオキシダーゼ染色 96.6% ​CD19 2% ​ 定性 Long(+)
​CD20 1% ​ 定量 2.3 × 104コピー/μgRNA
​CD13 91%
​CD33 96%
​CD14 (−)
​CD34 5%
​CD41 (−)
​HLA-DR 50%
Figure 2 

骨髄血の染色体核型(Gバンド法)

46,XX,add(7)(q22)[9]

↑はadd(7)(q22)を示す。

形態よりAPLが疑われたため,PML/RARAプローブ(LSI PML/RARA Dual Color, Dual Fusion Translocation Probe: Vysis)にてFISH法を行ったところ,Atypical pattern(Fusion1 Orange2 Green1)の非常に小さな融合シグナルが認められた(Figure 3)。PCR法では,定性でPML/RARAキメラmRNA Longが検出され,定量では2.3 × 104コピー/μgRNAであった。染色体分析とFISH法の結果よりMasked型15;17転座を疑い,PML/RARA融合遺伝子の存在部位をMetaphase FISHにて確認したところ,46,XX,add(7)(q22)のMetaphaseと46,XXのMetaphaseの両方で17番染色体上にPML/RARA融合遺伝子を認めた(Figure 4)。

Figure 3 

骨髄血のFISH法

赤の↑はPMLシグナルを,緑の↑はRARAシグナルを,黄色の↑はPML/RARA融合シグナルを示す。

Figure 4 

Metaphase FISH

A:46,XX,add(7)(q22) B:46,XX

左側は光学顕微鏡下,右側は蛍光顕微鏡下でのMetaphase を示す。

左側:↑はadd(7)(q22),PML/RARA融合シグナルが認められた場所を黄色丸で示す。

右側:赤の↑はPMLシグナルを,緑の↑はRARAシグナルを,黄色の↑はPML/RARA融合シグナルを示す。

治療経過(Figure 5):治療関連急性前骨髄性白血病(t-APL)と診断され,APL204に準じてATRA単剤で治療を開始したが,途中,末梢血中にAPL細胞の増加を認めたため,IDR + AraCを追加して寛解導入療法を行った。20XX年4月28日の骨髄検査で,骨髄血中にAPL細胞を認めず,血液学的完全寛解が得られたため,MIT + AraCによる地固め療法1コース目を開始。同年5月26日の骨髄検査で,PML/RARAキメラmRNAは検出されなかった。以降,DNR + AraCとIDR + AraCにて地固め療法2,3コース目を行い,Am80による維持療法を終え,20XX + 3年7月10日の骨髄血検査でも分子遺伝学的完全寛解が確認された。

Figure 5 

治療経過

ATRA:全トランス型レチノイン酸,IDR:イダルビシン,AraC:シタラビン,MIT:ミトキサントロン,DNR:ダウノルビシン,Am80:タミバロテン

III  考察

APLは,t(15;17)(q22;q21)由来のキメラ蛋白PML/RARAによって引き起こされ,治療にはPML/RARAを標的とするATRAと化学療法が併用して施行される。APLは DICによる臓器出血が早期死亡の原因となる場合があり,早期に診断し治療を開始する必要がある。したがって,当院では初発APL疑いの症例に対して,FISH検査の至急対応を実施している。本症例も形態よりAPLを疑い,FISH検査においてAtypical patternのPML/RARA融合遺伝子を検出した。その後の染色体分析の結果より,染色体検査では検出できないMasked型 15;17転座であることが判明し,診断における遺伝子検査の有用性を再認識した。染色体検査は,染色体異常の全体像を把握できるが,分染法で得られるバンドレベルで確認できる遺伝子異常には限界がある。一方で,FISH検査は領域特異的プローブを用いることで,特定の転座や逆位の検出が可能となるが,それ以外の異常を確認することはできない。こうしたそれぞれの検査法の特徴を理解したうえで,補完し合いながら検査を行うことが重要である。

化学療法,放射線照射後に発症する骨髄性腫瘍は,WHO分類第4版でまとめてt-MNと分類されている。t-MDSとt-AMLは全MDS,AMLの10~20%を占めている1)。本邦におけるt-MNの形態学的分類とその頻度に関する報告2)では,WHO分類のAPLに相当するFAB分類M3は,t-AMLのなかで6.3%みられており,de novoに対する割合とほぼ同等であるとされている。t-MNは細胞毒性をもつ治療によって起こった遺伝子変異の結果生じると考えられており,主にアルキル化剤,放射線治療,トポイソメラーゼII阻害剤が原因として挙げられている1),3)。典型的な場合,アルキル化剤や放射線治療では,5~10年の長い潜伏期間を経て発症し,多系統にわたる形態異型性を示す。こうした例は5番・7番染色体の全体あるいは部分欠損を伴ってしばしば複雑核型を示す。一方,トポイソメラーゼII阻害剤治療では,1~5年の短い潜伏期間を経て,MDS期をもたないt-AMLとして発症し,しばしば均衡型の染色体転座をもつ。本症例は,5年前に乳がんに対して放射線治療を行い,その後の再発ではアルキル化剤であるシクロフォスファミドを使用している。発症期間や染色体分析で7番染色体長腕の欠失が認められた点で,アルキル化剤や放射線治療によるt-AMLの特徴と一致する。しかし発症様式はAPLであり,Metaphase FISHの結果からは,元々の異常としてMasked型15;17転座があり,その中の一部の細胞が付加異常として7番染色体長腕欠失を獲得したと考えられた。均衡型染色体転座である15;17転座は,トポイソメラーゼII阻害剤の特徴として挙げられているが,本症例での使用歴はない。しかし,再発乳がんに対してホルモン療法と放射線照射を施行後にAPLを発症した症例の報告4),5)もあり,本症例でもアルキル化剤と放射線治療の他に,代謝拮抗剤や微小管阻害剤,ホルモン剤といった複数の薬剤を併用しており,15;17転座の誘因を明らかにすることは困難であると考えられた。

t-MNの予後は,染色体異常に大きく左右される。特に5番・7番染色体異常や複雑核型を持つ例は予後不良で,生存期間中央値は1年未満であるのに対し,均衡型染色体転座を持つ例は予後良好といわれており1),t-APLに関してはde novo例と同様に分化誘導療法への反応が良好であるとの報告3),6)~9)もされている。本症例もATRA単剤では効果が得られなかったものの,IDR + AraCの追加によって奏功し,発症から3年経った現在でも分子遺伝学的完全寛解が得られている。しかし,付加異常に予後不良といわれている7番染色体欠失を伴っていることから,今後の経過も注意深く観察していく必要があると思われる。

IV  結語

乳がん治療後にt-APLを発症した症例を経験した。本症例は,t-MNのなかでも予後良好とされる 15;17転座である一方で,付加異常として予後不良とされる7番染色体長腕欠失を併せもっており,t-MNの予後と染色体異常との関係を示唆する上で貴重な症例であると考えられた。

 

本論文の要旨は第47回中四国支部医学検査学会において発表した。

本症例は当院での倫理委員会の対象とならないため倫理委員会の承認を得ていない。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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