2019 Volume 68 Issue 1 Pages 49-55
Streptococcus agalactiaeの選択分離培地であるVi GBS寒天培地による妊婦の腟および肛門部からの検出性能を評価した。S. agalactiae臨床分離株98株中97株は,Vi GBS上に良好に発育し,培養24時間以内に特徴的な赤紫色の集落を形成した。腟または肛門内の常在菌はほとんどVi GBSに発育しなかった。Enterococcus spp.,Streptococcus mitis,Pseudomonas aeruginosa,およびCandida spp.はVi GBSに発育したが,集落が着色しない,または極めて小さな集落であり,S. agalactiaeと容易に区別できた。綿棒で採取された腟分泌物287検体は従来法であるヒツジ血液寒天/BTB乳糖寒天分画培地,Vi GBSの順に塗布し,35℃,24時間,好気培養した。これらのうち,従来法との一致率は98.6%(283/287)であった。不一致は4検体認められ,2検体は検体中の菌量が極めて少ない検体であった。残る2検体はVi GBSで検出されたが,BA/BTBでは検出されなかった。糞便検体にS. agalactiaeを人工的に混合した模擬検体は,Enterococcus spp.による発育抑制は認められず,全6検体からS. agalactiaeを回収できた。Vi GBS寒天培地を用いた直接平板培養は,高い選択性能を有し,妊婦からのS. agalactiaeの分離に有用と考えられた。
Streptococcus agalactiaeはGroup B Streptococcus(GBS)と呼ばれ,ヒトの腟内や腸管内に常在するグラム陽性レンサ球菌である。S. agalactiaeは成人女性の10~30%が保菌している1)~3)。保菌者が妊婦の場合,約10%が産児に感染し,このうち20~40%に髄膜炎等の重篤な感染症を起こす4)~6)。このような事態を防ぐ目的で,本邦では妊娠中~後期の妊婦にGBSのスクリーニング検査が実施されている。
本邦におけるGBSスクリーニングは,2008年に日本産婦人科学会と日本産婦人科医会によってガイドラインが整えられ,GBS保菌検査を,妊娠33~37週に腟周辺の培養検査を行うことが推奨されている7)。しかし,S. agalactiaeは腟内のみでなく,他の泌尿生殖器や消化管にも常在している。検出感度の向上には,これらの部位からの検体を含む検査の必要性が論じられてきた7)~9)。
このような背景から,改訂された同学会ガイドライン―産科編2014では,妊娠33~37週に培養検査を行うことを推奨し,検体は腟入口部ならびに肛門内から採取することへ変更された10)。
一方,2010年に米国のCenters for Disease Control and Prevention(CDC)が発行した周産期におけるGBS感染症の予防に関するガイドラインでは,検査の実施時期や検体の採取方法に加え,選択増菌培地の使用を推奨している4)。
スクリーニングに用いる培地や培養方法は,S. agalactiaeの検出感度に大きく影響する。特に,肛門部から採取する場合は,腸内細菌科細菌やBacillus spp.など雑菌の混入が多くなるため,選択培地を用いてS. agalactiaeを的確に検出する工夫が必要である。そこで,今回我々は発色基質を用いたS. agalactiaeの選択分離培地「ポアメディアVi GBS寒天培地」(栄研化学)の性能を評価し,妊婦のGBSスクリーニング検査への有用性を検証した。
使用培地は,評価対象培地としてポアメディアVi GBS寒天培地(栄研化学,以下Vi GBS)を用いた。比較対照培地は,後述4の評価内容により,以下の4種類を使用した。すなわち,トリプチケースソイ5%ヒツジ血液寒天培地(日本BD,以下BA),ポアメディアドリガルスキー改良培地Blue(栄研化学,以下BTB),ポアメディアサブロー寒天培地(栄研化学,以下SDA)およびヒツジ血液寒天/BTB乳糖寒天分画培地(日水製薬,以下BA/BTB)である。
2. 使用菌株使用菌株は,2013年12月から2014年3月までに各種分離されたS. agalactiae 98株および本菌種以外の合計86株を使用した。臨床材料からの分離および同定は,当院臨床検査部の日常検査法によった。なお,S. agalactiaeと同定された菌株は,本菌種に特異的なCAMP因子をコードするcfb遺伝子をDanbingらの方法11)に準じてPCR法によって検出し,全株が本菌種であることを確認した。
3. 臨床材料臨床材料は,2014年4月から同年5月の間に当院臨床検査部へ培養目的で提出された腟分泌物合計287検体,および糞便6検体を使用した。
4. 評価方法Vi GBSの評価は以下の4項目について行った。
1) Vi GBSにおける発育性Vi GBSにおける発育性は,S. agalactiae 98株を用い,Miles & Misraの方法12)により,Vi GBSとBAにおける発育性を比較した。すなわち,滅菌生理食塩液1 mLに被検菌をMcFarland No. 0.5に調製し,原液とした。原液100 μLを滅菌生理食塩液900 μLで10倍希釈し,10倍希釈系列を5段階(10−1~10−5/mL)作製した。10−4/mLおよび10−5/mLの菌液1 μLをVi GBSおよびBAへ塗布した。培地は,35℃,24時間好気培養後,集落数,色調,および直径を確認した。
2) Vi GBSの選択性能Vi GBSの選択性能は,腟分泌物および肛門周囲から分離される可能性のあるS. agalactiae以外の菌種について,Vi GBSにおける発育阻止能を評価した。使用菌株はグラム陽性菌13菌種34株,グラム陰性桿菌14菌種45株,および酵母4菌種7株の合計86株である。対照培地はグラム陽性菌にはBA,グラム陰性桿菌にはBTB,酵母にはSDAを使用した。被検菌は滅菌生理食塩液にMcFarland No. 0.5の濁度に調製,原液とした。原液1 μLをVi GBSおよび対照培地に塗布し,35℃,24時間好気培養後,発育の有無を観察した。
3) 腟分泌物を用いた評価腟分泌物を用いた評価は,日常検査と並行して行った。すなわち,滅菌綿棒で採取された腟分泌物を対照培地であるBA/BTBに塗布し,連続してVi GBSへ塗布後に画線塗抹した13)。両培地は35℃,24時間,好気培養後,S. agalactiae発育の有無と菌量を判定した。分離培地上の発育菌量は,−~3+の4段階に判定した。培養菌量の判定は,培地の1/3までの発育を1+,1/2までを2+,1/2以上を3+に分類した。
4) 糞便を用いた評価日本産婦人科学会と日本産婦人科医会によるガイドラインでは,妊婦の保菌検査では腟入口部ならびに肛門内からの検体採取が推奨されている。そこで,糞便にS. agalactiaeを混合し,Vi GBSによる回収能を評価した。糞便は検査が終了した残余検体を用い,糞便1 mgを滅菌生理食塩液9 mLに浮遊し,ボルテックス後,900 μL採取した(模擬糞便液)。S. agalactiaeは滅菌生理食塩水1 mLにMcFarland No. 0.5の濁度に調製し,10−5/mLの段階に希釈した。先に作製した模擬糞便液900 μLに10−5/mLの被検菌液を100 μL添加し,Vi GBSとBAに10 μLずつ接種後,画線塗抹した。なお,培地への最終接種菌量は10~100 CFUとなる。両培地は35℃,24時間,好気培養後,S. agalactiae回収の有無と発育菌数を算定した。
S. agalactiae 98株の発育性状(10−5希釈液を1 μL接種時)をVi GBSとBAで比較した。Vi GBSとBAに発育したS. agalactiaeの集落をFigure 1に示した。S. agalactiaeは24時間以内に特徴的な赤紫色集落を形成し,色調は均一であった。S. agalactiae保存菌98株のVi GBSとBAにおける集落数と集落直径を比較しTable 1に示した。Vi GBSに非発育が1株認められ,残り97株の平均集落数はVi GBSが14.3,BAが12.9であり,両者に有意な差は認められなかった(p = 0.246)。集落直径の平均値は24時間培養でVi GBSが0.8 mm,BAが1.0 mmであった。48時間培養後でVi GBSが1.4 mm,BAが1.8 mmでありBAの方が有意に大きかった(p < 0.001)。
Colony morphology of Streptococcus agalactiae on Vi GBS agar (right) and sheep blood agar (left) after 24 and 48 h of incubation at 35°C
Colony count/size* |
Incubation period (h) |
Vi GBS | BA** | p value | ||
---|---|---|---|---|---|---|
Mean | SD | Mean | SD | |||
Colony count | 24 | 14.3 | 8.0 | 12.9 | 7.7 | 0.246 |
Size (mm) | 24 | 0.8 | 0.2 | 1.0 | 0.2 | < 0.001 |
48 | 1.4 | 0.2 | 1.8 | 0.4 | < 0.001 |
*Growth at a dilution of 10−5 on two agar media.
**Trypticase soy agar with 5% sheep blood.
S. agalactiae以外の菌種86株のVi GBSにおける発育性をTable 2に示した。
Organism | No. of strains |
No. of strains growth on Vi GBS |
Colony color |
---|---|---|---|
Gram-positives | 34 | ||
Group A Streptococcus | 2 | 1 | white |
Group C Streptococcus | 3 | 1 | white |
Group G Streptococcus | 5 | 3* | purple |
Streptococcus mitis | 3 | 3 | white |
Streptococcus pneumoniae | 1 | 0 | |
Enterococcus faecalis | 3 | 3 | white |
Enterococcus faecium | 3 | 3 | white |
Enterococcus casseliflavus | 1 | 0 | |
Staphylococcus aureus (MSSA) | 4 | 0 | |
Staphylococcus aureus (MRSA) | 3 | 1* | purple |
Staphylococcus epidermidis | 3 | 0 | |
Staphylococcus saprophyticus | 1 | 0 | |
Bacillus cereus | 2 | 0 | |
Gram-negatives | 45 | ||
Escherichia coli (non-ESBL) | 3 | 0 | |
Escherichia coli (ESBL) | 3 | 1 | pink |
Klebsiella pneumoniae | 6 | 0 | |
Klebsiella oxytoca | 3 | 0 | |
Enterobacter aerogenes | 3 | 0 | |
Enterobacter cloacae | 3 | 0 | |
Serratia marcescens | 3 | 0 | |
Citrobacter freundii | 3 | 0 | |
Proteus mirabilis | 2 | 0 | |
Proteus vulgaris | 1 | 1* | purple |
Morganella morganii | 3 | 0 | |
Aeromonas hydrophila | 2 | 1* | purple |
Pseudomonas aeruginosa | 4 | 2 | green |
Acinetobacter baumannii | 3 | 0 | |
Stenotrophomonas maltophilia | 3 | 0 | |
Yeasts | 7 | ||
Candida albicans | 3 | 3* | white |
Candida glabrata | 2 | 2* | white |
Candida tropicalis | 1 | 0 | |
Candida parapsilosis | 1 | 0 |
*Tiny colony.
グラム陽性菌ではGroup A StreptococcusおよびGroup C Streptococcusの一部,Streptococcus mitis,Enterococcus faecalis,Enterococcus faeciumが発育したが,集落の着色は認められず,S. agalactiae との違いは明瞭であった。Group G StreptococcusとMRSAの一部の株は,集落が紫色を呈したが,直径0.1 mm以下の微小集落であった。
グラム陰性桿菌は,ほとんどの株の発育が抑制された。Escherichia coli(ESBL)は1株がピンク色の集落を形成した。Pseudomonas aeruginosaの一部は緑色のR型集落を形成した。Proteus vulgaris とAeromonas hydrophila は紫色の極小集落を形成した。
酵母様真菌は7株中5株(Candida albicans, Candida glabrata)が発育したが,白色の微小集落であり,S. agalaciaeとの識別は容易であった。
2. 患者検体を用いたVi GBSの評価 1) 腟分泌物腟分泌物287検体におけるS. agalactiaeの分離状況をVi GBSとBA/BTBで比較し,Table 3に示した。両培地とも陰性は245検体,両培地とも陽性は38検体,一方の培地にのみ発育したのは4検体であり,一致率は98.6%であった。両培地に発育した38検体のS. agalactiaeの菌量は,10検体において不一致が認められたが,全て1段階の差であった。
Majority of growth on agar media |
Vi GBS | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
− | 1+ | 2+ | 3+ | Total | ||
BA/BTB* | − | 245 | 2 | 247 | ||
1+ | 2 | 21 | 2 | 25 | ||
2+ | 2 | 7 | 2 | 11 | ||
3+ | 4 | 4 | ||||
Total | 247 | 25 | 13 | 2 | 287 |
*sheep blood/modified-Drigalski biplate agar.
両培地における培養の不一致は4検体認められ,BA/BTB陽性でVi GBS陰性の2検体は,BA/BTBに1~2集落の発育が認められた。BA/BTB陰性でVi GBS陽性の2検体は,BA/BTBにE. coliやKlebsiella spp.などの腸内細菌科細菌が旺盛に発育していたため,BA/BTBでS. agalactiaeの発育を確認できなかった。
2) 糞便検体からのS. agalactiaeの回収S. agalactiaeを混合した糞便検体からの回収試験の結果をTable 4に示した。コントロールには72集落が発育したのに対し,模擬糞便6検体はVi GBSに74集落以上の発育が認められ100%回収できたものと解釈した。
Simulated stool specimen |
Other isolates (majority on direct plate media)* |
Colony counts of S. agalactiae on Vi GBS |
---|---|---|
Control** | 72 | |
1 | E. coli (3+) | > 100 |
2 | E. coli (3+) | > 100 |
3 | E. coli (3+), P. aeruginosa (2+), Enterococcus spp. (3+) | > 100 |
4 | Candida spp. (3+) | > 100 |
5 | Enterococcus spp. (3+), Candida spp. (2+) | 80 |
6 | Enterococcus spp. (3+), Bacillus spp. (2+) | 74 |
*Add to 1 mg of feces in 9 mL of physiological saline.
**Add to diluted 10−5/mL of S. agalactiae in 900 μL simulated stool specimens.
検体No. 2およびNo. 6をVi GBSとBAで培養した状況をFigure 2に示した。BAではS. agalactiaeの発育を認識できなかったが,Vi GBSでは他菌の発育が抑制され,S. agalactiaeの発育を確認できた。
Growth of Streptococcus agalactiae on Vi GBS agar (right) and sheep blood agar (left) from simulated stool specimens
妊娠中のGBSスクリーニング検査は,米国CDC 2010年版ガイドラインにより,妊娠35~37週のすべての妊婦に対し,腟および直腸の保菌検査が推奨されている。検査法に関して,ヒツジ血液寒天培地のような非選択培地への直接接種法はS. agalactiae保菌女性の50%において偽陰性が指摘されていることから,選択培地や選択増菌培地を用いた検査法が推奨されている4)。一方,本邦のガイドラインは検査法の詳細について言及していないが,日常検査では血液寒天培地を用いる培養法が普及している。近年では,選択増菌培地や発色基質を用いた選択分離培地が国内でも市販されており,それらの性能が評価されている14),15)。
本検討において,S. agalactiaeは24時間以内に99.0%の菌株が集落を形成し,非溶血株を含め赤紫色の集落を形成した。非溶血株は1~4%にみられるが,本株による新生児感染症も報告されていることから,これらも的確に検出できる検査法が求められる16)。今回の腟分泌物を用いた検討ではVi GBSとBA/BTB間で検出率の差はなかったが,両培地における培養の不一致は4件認められた。Vi GBS偽陰性であった2検体は,検体中の菌量が少量であったことが影響したものと考えられた。BA/BTBで偽陰性であった2検体は他菌の発育が旺盛であり,Vi GBSでのみS. agalactiaeを検出できたことから,Vi GBSの優れた選択性が確認された。現在,S. agalactiaeの選択分離培地は数社から市販され,それぞれ性能が報告されている。金田ら14)はポアメディアGBS寒天培地(2015年発売中止)とクロモアガーStrep B寒天培地を評価し,検出感度,選択性,および集落の識別能は,後者が優れていることを報告している。大西ら15)は,Vi GBS,クロモアガーStrep Bおよびchrom ID Strep Bの3種は同等の性能を有することを報告している。しかし,Vi GBSはStreptococcus pyogenesが微小赤紫色集落を形成したため,S. agalactiaeとの判別が困難であったとしている15)。今回の検討でもS. pyogenesはVi GBS上で集落を形成したが,着色せず,S. agalactiaeと明瞭に区別できた。肛門部からの採取は日本産婦人科ガイドライン―産科編2014で実施が考慮されるレベルであるが,次回改訂時には推奨レベルが引き上げられる可能性がある10)。腟・肛門内擦過物には腸管由来の腸内細菌科細菌やEnterococcus spp.などが多数存在するため,腟・肛門内擦過物からS. agalactiaeを確実に検出するには,選択分離培地の使用が必須である3),14)。
また,E. faecalisによるS. agalactiaeの発育阻害はこれまでも報告があり,E. faecalisが産生するバクテリオシンが他の菌種の発育を抑制することが知られている15),17)~19)。今回,糞便にS. agalactiaeを添加した検討では,Vi GBSから被検菌を効率よく回収することができた。6検体中2検体はEnterococcus spp.の発育が旺盛であったが,対照検体と比較して接種菌数を100%回収することができた。
今回の検討では,Vi GBSに非発育の株が1株認められた。本培地に添加されている選択成分は公開されていないが,選択成分に感性であった可能性が示唆された。
当院では,先に述べたガイドラインの改訂10)を受けて産科と協議し,S. agalactiaeスクリーニング検査を,腟分泌物を用いた5%ヒツジ血液寒天培地による培養から,腟・肛門内擦過物を用いたS. agalactiae選択分離培地(クロモアガーStrepB;関東化学)による方法へ変更した(2014年12月)。その結果,S. agalactiaeの培養陽性率は従来の10~12%から14~19%へ上昇した。大西ら15)は,当院にて使用しているクロモアガーStrepBは,Vi GBSとほぼ同等の選択性を有していることを報告している。Vi GBSを臨床材料の検査に用いた場合も陽性率が上昇するものと考えられる。
以上から,Vi GBSは腟・肛門内擦過物を用いる妊婦のGBSスクリーニングに有用と考えられた。
Vi GBSは選択性に優れ,S. agalactiaeの発育は5%ヒツジ血液寒天培地と同等であり,Vi GBSに24時間以内に赤紫色集落を形成して他菌と明瞭に区別することができた。Vi GBSは妊婦のGBSスクリーニング(腟分泌物や腟肛擦過物)に有用であり,安全な周産期医療に寄与することができるものと考えられた。
本研究の要旨は,第26回日本臨床微生物学会総会・学術集会(2015年)にて発表した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。