Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Evaluation of basic performance of Lumipulse Presto PIVKAII-N Eisai
Momoko FURUYAKouji YAMADAKiyomi SUGAWARAKouichi ASANUMAShingo TANAKADaigo NAGAHARANozomi YANAGIHARASatoshi TAKAHASHI
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2019 Volume 68 Issue 1 Pages 56-60

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Abstract

PIVKA-IIは,ビタミンK欠乏,ビタミンK拮抗薬投与,肝実質障害などで産生され,特に,肝細胞癌を有する患者血清中に高率に出現することから,腫瘍マーカーとして使用されている。今回,MU-3抗体(1次抗体)を用いた測定試薬で,新たに2次抗体をポリクローナル抗体からモノクローナル抗体に変更し,さらに,血漿測定も可能として発売された「ルミパルスプレストPIVKA II-Nエ-ザイ」が発売されたので,その基本的性能について検討した。その結果,同時再現性はCV値で1.8~6.3%,日差再現性はCV値で2.9~5.4%,希釈直線性についても概ね良好であった。現行試薬との相関性はy = 0.95x + 117.2,r = 0.99と良好であり,本試薬における血清検体と血漿検体の相関性はy = 0.78x + 231.4,r = 1.00と傾きがやや低い傾向だったが,測定上限を10,000 mAU/mLに設定して解析すると傾き1.04と良好な結果が得られた。以上の結果から本試薬は日常検査に有用と考えられた。

I  はじめに

PIVKA-II(protein induced by vitamin K absence or antagonist-II)は凝固活性のない異常プロトロンビンのことで,別名はdes-γ-carboxy prothrombin(DCP)として知られている。血液凝固因子のうち,プロトロンビン(第II因子),第VII因子,第IX因子,および第X因子はビタミンKを介して肝臓で合成され,これらのビタミンK依存性血液凝固因子のN末端付近にはカルシウム結合能を有する9~12個のγ-カルボキシグルタミン酸(Gla)残基が存在している。正常のプロトロンビンではN末端側に10個のGla残基を有しているが,ビタミンK欠乏,ビタミンK拮抗薬投与,肝実質障害などではプロトロンビン前駆体のグルタミン酸(Glu)残基がGlaに転換されにくくなり,10個のGlaすべてあるいは一部がGlu残基のままPIVKA-IIとして血中に放出される1)。中でも,肝細胞癌患者におけるPIVKA-IIのGla残基はきわめて少ないことが報告されている2)。1984年にLiebmanら3)は,PIVKA-IIが肝細胞癌を有する患者血清中に高率に出現することから,原発性肝細胞癌の検査診断において有用であると報告し,現在も腫瘍マーカーとして使用されている。

これまで,Gla残基数の少ないPIVKA-IIと反応性の強いMU-3抗体(1次抗体)4)を用いた測定試薬が使用されてきたが,今回,新たに2次抗体をポリクローナル抗体からモノクローナル抗体に変更し,さらに血漿でも測定可能となったルミパルスプレストPIVKAII-Nエーザイが発売されたので,その基本的性能に関して検討した。

II  対象および方法

1. 対象

当院において,2016年2月から5月に提出された患者血清98例と患者血漿55例(ヘパリンリチウム入り)の残余検体を用いた。なお,本研究は後ろ向き観察研究である。

2. 試薬および測定機器

ルミパルスプレストPIVKAII-Nエーザイ(以下,新試薬)を用い,ルミパルスプレストII(富士レビオ)にて測定した。比較対照法としてルミパルスプレストPIVKAIIエーザイ(以下,現行試薬)を用い検討した。

3. 測定原理

新試薬は2ステップサンドイッチ法に基づいた化学発光酵素免疫測定法で,反応プロトコールは以下の通りである。まず,抗体結合粒子に結合した抗PIVKA-II抗体(MU-3抗体:モノクローナル抗体)と検体中に含まれるPIVKA-IIによる免疫複合体が形成される。反応液を除去後,抗体結合粒子の洗浄が行われる。その後,抗PIVKA-II抗体を介して結合した検体中のPIVKA-IIとALP標識抗プロトロンビン抗体(モノクローナル抗体)による免疫複合体が形成される。再び,反応液を除去後,抗体結合粒子の洗浄が行われ,基質液を添加後463 nmに発光極大をもつ光の発光量を測定する。

4. 測定方法

①同時再現性:3濃度(Low, Medium, High)の患者血清をそれぞれ10連続測定して同時再現性を確認した。

②日差再現性:同時再現性で用いた3濃度(Low, Medium, High)の患者血清をそれぞれ小分け凍結保存し,5日間連続測定にて日差再現性を確認し‍た。

③希釈直線性:PIVKA-IIの測定値が69,409 mAU/mLの患者血清と56,675 mAU/mLの患者血漿(共にワーファリン未処方,肝細胞癌症例)を用い,それぞれ専用希釈液にて倍々希釈後,二重測定にて希釈直線性を検討した。

④相関性:現行試薬との相関性を患者血清98例で検討した。

⑤血清と血漿における相関性:同一患者から血清と血漿両方が確保できた55例について,新試薬における相関性を確認した。

III  成績

①同時再現性:3濃度の同時再現性を確認した結果,変動係数(CV)値は1.8~6.3%と良好だった(Table 1)。

Table 1  Within-run precision
Low Medium High
Mean (mAU/mL) 51 255 2,974
SD (mAU/mL) 3 5 80
CV (%) 6.3 1.8 2.7

②日差再現性:3濃度の日差再現性の結果は,CV 値で2.9~5.4%と良好だった(Table 2)。

Table 2  Between-day precision
Low Medium High
Mean (mAU/mL) 52 259 3,027
SD (mAU/mL) 2 14 88
CV (%) 4.4 5.4 2.9

③希釈直線性:希釈直線性を検討した結果,共に良好な直線性が得られ,また,日本臨床化学会で公表されているValidation-Support処理プログラムにて確認したところ,血清/血漿共に「測定範囲内で直線性がある」との評価を得た(Figure 1)。

Figure 1 

Linearity

④相関性:現行試薬との相関性を検討したところ,回帰式y = 0.95x + 117.2,相関係数r = 0.99と良好な結果だった(Figure 2)。

Figure 2 

Correlation of PIVKAII in “Lumipulse Presto PIVKAII-Eisai” and “Lumipulse Presto PIVKAII -N Eisai”. Using serum

⑤血清と血漿における相関性:新試薬における血清と血漿における相関性を確認したところ,y = 0.78x + 231.4,r = 1.00であった(Figure 3a)。さらに,傾きが0.78であったため,測定の上限を10,000 mAU/mLに狭めてみて解析し直したところ,回帰式の傾き1.04,相関係数r = 1.00と良好な結果が得られた(Figure 3b)。

Figure 3 

Correlation of PIVKA-II using “Lumipulse Presto PIVKAII-N Eisai”

a: The upper limit of the range is 80,000.

b: The upper limit of the range is 10,000.

⑥研究倫理対応:本研究は,札幌医科大学附属病院臨床研究審査委員会の承認を得て施行した(整理番号:282-97)。

IV  考察

本試薬における同時再現性および日差再現性は,共に現行試薬と同等の良好な結果であった。血清・血漿における希釈直線性も概ね良好であり,さらに日本臨床化学会のValidation-Support処理プログラムにおいても直線性が認められるという評価を得た為,直線性については問題ないと考える。

血清における現行試薬との相関性について検討したところ,98例における回帰式はy = 0.95x + 117.2,相関係数r = 0.99と良好な結果だった。一例に乖離が認められた(Figure 2図中矢印)が,この症例はワーファリンが処方されており,ビタミンKが阻害された結果,PIVKA-IIの産生が増加した一例であった。また,切片が117.2と高いが,この一例(ワーファリン処方症例)を除くと,傾き1.01,切片8.2と良好な値となった。したがって,ワーファリンが切片上昇の一因と考えられる。

今回結果には示していないが,相関に用いた98例の中にワーファリンの処方が確認された試料は全部で11例だった。症例数は11例と少ないが,ワーファリン処方群のみで相関の回帰式を求めたところy = 0.73x + 3,303.5と傾きが低く,切片が高かった。前述と同様ワーファリンが切片上昇の一因と考えられ,さらに傾きにも影響しているものと推察する。また,このワーファリン服用症例を除いた87例で相関性を確認したところ,y = 1.03x + 20.1,r = 1.00と良好な結果が得られた。ワーファリン処方にてPIVKA-IIが上昇することは周知の事実であるが,ワーファリン投与の症例においても肝細胞癌は存在することもあるので,ワーファリンでPIVKA-IIが上昇しているのか,癌で上昇しているのかの鑑別は重要と考えられる。実際に,当院でもワーファリンを服用している症例で肝細胞癌を疑い,PIVKA-IIの検査が依頼された事例を経験している。ワーファリン投与時に産生されるPIVKA-IIが,肝細胞癌で産生されるPIVKA-IIとどのような違いがあるか,すなわち,どのGlu残基がGla化されないのかについては未だ解明されてはいない。先に述べた通り,ワーファリン処方群のみにおける相関性についての回帰式の傾きがワーファリン未処方群に比べ低い傾向が確認されたことから,ワーファリン処方群では肝細胞癌症例で上昇するPIVKA-IIのエピトープと違うエピトープを認識している可能性も考えられる。

現行試薬は血清検体でしか測定できなかったが,新試薬では2次抗体をポリクローナル抗体からモノクローナル抗体に変更したことと,非特異反応に対する吸収剤の処方見直しにより,血漿検体でも測定可能となったことから,新試薬における,血清検体と血漿検体における相関性を確認した。回帰式の傾き0.78,切片231.4という結果であったが,相関係数は1.00と良好な結果だった(Figure 3a)。さらに,傾きが0.78と低めであったため,測定の上限を10,000 mAU/mLに狭めてみて解析し直したところ,回帰式の傾き1.04,切片−6.9,相関係数r = 1.00と良好な結果が得られた(Figure 3b)。また,新試薬での血清検体と血漿検体における相関性に使用した症例からワーファリン処方症例を除外して解析したところ,傾き0.78,切片176.2と切片は少しの改善は見られたものの,回帰式全体としては大きな改善は得られなかった。以上の結果から,新試薬の血漿検体における測定は,血清検体と同様ワーファリンの影響をうけることと,加えて高濃度域における相関性が十分でない可能性が考えられた。したがって,血漿検体における測定値が10,000 mAU/mL以上の際は希釈再検も考慮すべきと考える。

PIVKA-IIのカットオフ値は40 mAU/mLであるが,その付近での相関性は良好であった。また,肝細胞癌における肝移植の適応については現在,画像診断を用いたミラノ基準が使用されているが,近年,国内の報告からPIVKAIIを含んだ基準がいくつか提案され,Kyoto基準は400 mAU/mL以下,Kyusyu基準は300 mAU/mL以下としている5)。今回の我々の結果では,10,000 mAU/mLまで血清検体と血漿検体の相関性は良好であり,血漿検体も血清検体で用いられている基準値を適用して差し支えないと考えられ‍た。

V  結語

新試薬における血清検体と血漿検体の相関性に乖離を認めないことから,血漿検体での測定が可能となった。また,血漿検体での測定も可能になったことから診療前検査にも短時間で対応でき,性能も現行試薬に比して劣らないことから日常検査に有用であると考えられる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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