2019 Volume 68 Issue 1 Pages 150-155
血液疾患では正常血球の減少や抗がん剤を中心とした化学療法などから免疫機能が低下し易感染宿主となりうる。その他の科における分離菌では,59.6%がグラム陰性桿菌であった。血液内科における分離菌では,46.0%がグラム陽性球菌であり,中でも皮膚常在菌であるStaphylococcus属やCoryneform bacteria,口腔内常在菌であるStreptococcus mitis groupが多い結果となった。薬剤感受性による比較では,Escherichia coliにおけるLevofloxacin(LVFX)やPseudomonas aeruginosaにおけるCefepime(CFPM),Meropenem(MEPM),LVFXの非感受性カテゴリに位置するminimum inhibitory concentration(MIC)値は血液内科のほうが20.8%~33.3%高い結果であった。また,E. coli,Klebsiella pneumoniaeにおけるextended spectrum β lactamase(ESBL)産生菌の割合は血液内科で15%~20%高い値を示していた。今回の調査結果を考慮すると今後の血液内科からの検出菌の薬剤感受性はより注視すべきであり,耐性菌の動向を知る上でも血液培養の調査を継続していく必要があると結論付けた。
白血病など血液疾患を有する患者は,病態による正常血球の減少や抗がん剤等免疫抑制剤を中心とした化学療法による白血球細胞破壊のため,多くの例で自然免疫及び獲得免疫が十分に機能しない状態を示す。自然免疫は病原体及び異物が体内に侵入した際に最初に応答し,貪食,殺菌を行い主に好中球,マクロファージそして樹状細胞が重要な役割を果たす。獲得免疫は主にリンパ球が担い,自然免疫と初回応答から作られた免疫記憶により同じ病原体へ増強された応答を行う。免疫系において重要な役割を果たす白血球は骨髄で作られるが,白血病細胞の増殖により正常血球の造血が困難となり,結果,易感染性状態となる。易感染性の患者にとって感染症は重大な合併症であるが,特に菌血症は患者の予後に関わる疾患である。今回我々は,易感染性の患者における,免疫学的健常者では発症しないような日和見菌での発症を考慮し,ここに調査結果を報告する。
2012年1月から2016年11月の期間に提出された血液培養9,540検体において,検出された641株を対象とした。
この株数は感染対策チームの症例ラウンドにおいて,汚染菌と判断された株は除外した数である。また,複数セットから同一の菌が検出された場合は,1株として集計した。
2. 方法血液培養はBacT/ALERT 3D(ビオメリュー・ジャパン株式会社)を使用し,好気用ボトル(FA Plus),嫌気用ボトル(FN Plus)で5日間培養した。分離された菌の同定検査はVITEK2コンパクト(ビオメリュー・ジャパン株式会社),薬剤感受性検査はVITEK2コンパクト及びドライプレート‘栄研’(栄研化学株式会社)で行い,判定基準はClinical And Laboratory Standards Institute(CLSI)のM100-S22を用いた。分離された菌は,血液内科とその他の科(内科,外科,耳鼻咽喉科,整形外科,泌尿器科)に分け後方視的に検討した。
分離された641株を血液内科とその他の科に分け比較した(Table 1)。その中で最も分離菌の多かったのは,血液内科では91株(46.0%)がグラム陽性球菌であったのに対し,その他の科では分離菌の264株(59.6%)がグラム陰性桿菌であった。また,株数としては多くないが真菌の割合もその他の科が9株(2.0%),血液内科が15株(7.5%)と僅かではあるが多かった。
血液内科分離菌 | その他の科分離菌 | |
---|---|---|
総数 | 198 | 443 |
Gram-positive cocci | 91 (46.0%) | 127 (28.7%) |
Staphylococcus aureus (MSSA) | 7 | 26 |
Staphylococcus aureus (MRSA) | 5 | 14 |
Staphylococcus epidermidis | 20 | 14 |
Streptococcus mitis group | 8 | 0 |
Enterococcus faecalis | 6 | 8 |
Enterococcus faecium | 15 | 3 |
other | 30 | 62 |
Gram-positive bacilli | 7 (3.5%) | 6 (1.4%) |
Coryneform bacteria | 7 | 3 |
other | 0 | 3 |
Gram-negative bacilli | 67 (33.8%) | 264 (59.6%) |
Escherichia coli | 25 | 162 |
Klebsiella pneumoniae | 13 | 39 |
Klebsiella oxytoca | 0 | 7 |
Proteus mirabilis | 1 | 7 |
Pseudomonas aeruginosa | 9 | 8 |
Acinetobacter baumannii complex | 1 | 6 |
other | 18 | 35 |
Anaerobes | 6 (3.0%) | 16 (3.6%) |
Fungi | 15 (7.6%) | 9 (2.0%) |
Candida albicans | 11 | 4 |
other | 4 | 5 |
Other | 12 (6.1%) | 21 (4.7%) |
分離株198株における上位3菌種はE. coli(25株,12.6%),Staphylococcus epidermidis(20株,10.1%),Enterococcus faecium(15株,7.5%)であった。日和見病原菌であるCandida属や口腔内常在菌であるStreptococcus mitis group,皮膚常在菌であるCoryneform bacteriaが上位10菌種に位置していた。また,同じ Enterococcus属でも耐性の強いE. faeciumのほうがEnterococcus faecalisよりも多く分離されていた。
3. その他の科からの分離菌分離株443株における上位3菌種はE. coli(162株,36.5%),K. pneumoniae(39株,8.8%),Staphylococcus aureus(MSSA)(26株,5.8%)であった。
4. 薬剤感受性結果の比較 1) Extended spectrum β lactamase(ESBL)産生菌の割合血液内科におけるESBL産生菌の割合を比較したところ,E. coliでは36%,K. pneumoniaeでは15%であった(Figure 1)。対して,その他の科におけるESBL産生菌はE. coliが16%,K. pneumoniaeが0%であった。Proteus mirabilis及びKlebsiella oxytocaについては検出数がそれぞれ8株,7株と少数であったため,今回はESBL産生菌の比較対象としていない。
ESBL産生菌割合の比較
血液内科とそれ以外の科においてE. coliとK. pneumoniaeのESBL産生菌の割合を比較したもの。
血液内科及びその他の科の上位10菌種どちらにも示されているE. coli(Figure 2)とP. aeruginosaにおいてCFPM,MEPM,LVFX(Figure 3)の薬剤感受性を比較した。E. coliにおけるCFPM,MEPMの抗菌薬感受性検査結果は図には示していないが差は認められなかった。しかし,LVFXにおいてminimum inhibitory concentration(MIC)値4 μg/mLから8 μg/mL以上を示す株は,血液内科で25株中14株(56.0%),その他の科では162株中45株(27.8%)が非感受性を示した。また,P. aeruginosaにおけるCFPMのMIC値は血液内科では,全て感受性のカテゴリに位置するMIC値であったが,その他の科では75.0%(6株/8株)がMIC値2 μg/mLまでで占められているのに対し,血液内科では2 μg/mLまでのMIC値は44.4%(4株/9株)とMIC値が4 μg/mL以上の株が55.6%認められた。MEPMにおける非感受性株は,血液内科で9株中3株(33.3%),その他の科では8株中1株(12.5%)であり,MIC値0.25 μg/mL以下の値が血液内科には認めなかった。LVFXでは,その他の科は全て感受性のカテゴリに位置していたが,血液内科では33.3%が非感受性株であった。
E. coliにおけるLVFXのMIC値分布
E. coliにおけるLVFXのMIC値分布を血液内科とそれ以外の科で比較したもの。
P. aeruginosaにおけるCFPM,MEPM,LVFXのMIC値分布
P. aeruginosaにおけるCFPM,MEPM,LVFXのMIC値分布を血液内科とそれ以外の科で比較したもの。
白血球の減少や機能が損なわれる血液疾患を有する患者,治療において免疫抑制剤や抗がん剤を使用されている患者は易感染性であり,健常人では問題とならない常在菌による感染症が知られている1)~3)。血液疾患を有する患者からの血液培養分離菌を調査した文献は多くあったが,血液疾患を有する患者と有しない患者の血液培養分離菌を比較した文献は検索し得た範囲では3件であった。当院の血液内科における分離菌では,46.0%がグラム陽性球菌であり,Staphylococcus属やCoryneform bacteria,Streptococcus mitis group等の皮膚や口腔内の常在菌による感染症が認められた。造血器腫瘍患者からの血液培養を解析した他の文献の結果を比較したところ,分離菌の割合はグラム陽性球菌が41.9%~64%,グラム陰性桿菌が26.4%~52.8%,嫌気性菌が0.6%~4.7%,真菌が3.7%~9.2%であった1)~6)。分離菌内訳での上位菌種は,Coagulase-negative Staphylococci(CNS),E. coli,S. aureus,P. aeruginosaであった。Wisplinghoffら2)の分離菌割合ではグラム陽性球菌が61.1%,Trecarichiら3)ではグラム陰性桿菌が52.8%と高い値であったが,他は当院と同様の成績であったことから,血液内科における分離菌の傾向は他の施設でも同様であるのではないかと考える。血液内科では発熱性好中球減少症の場合に用いる抗菌薬がガイドラインで示されている。ガイドラインで示されているCFPM,MEPM,LVFXの薬剤感受性の傾向をE. coliとP. aeruginosaにおいて比較したところ,非感受性カテゴリに属するMIC値は,E. coliにおけるLVFXでは28.2%,P. aeruginosaにおけるLVFXでは33.3%,また,MEPMでは20.8%その他の科より血液内科で高い値を示していた。カルバペネム非感受性腸内細菌科細菌の出現に関して,カルバペネム系のみの曝露歴よりも累積抗菌薬曝露歴が重要である可能性が高いことを示したPatelらの報告7)や,フルオロキノロン及び第3世代セファロスポリンの大量使用とESBL産生菌の発生率には正の相関があるとしたKaierらの報告8)からも,血液内科においてCFPMやMEPM,フルオロキノロンといった広域の抗菌薬を頻繁に使用することは,分離菌の耐性化傾向を示していることと関係しているのではないかと考える。抗菌薬において薬剤感受性の比較に用いた株数は信頼に足る数ではないが,現状,当院の傾向として示す。信頼できるデータを得るために,さらなるデータの収集が必要である。現在まで,血液培養で多剤耐性の菌が検出されたことはないが,血液内科において広域の抗菌薬が使用されていること,また,MIC値やESBL産生菌の割合がその他の科と比べて高いことを考慮すると,今後の血液内科からの検出菌の薬剤感受性はより注視すべきであり,抗菌薬適正使用支援チームの観点からも血液内科のアンチバイオグラムを別に作成することを検討中である。耐性菌の動向を監視する上でも血液培養の調査を継続していく必要がある。
本研究は「ヒトを対象とする医学系研究」ではないため,倫理委員会の審議対象外となった。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。