Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Examination of irregular antibody screening reagent 0.8% Cell Screen J -alba-
Ippei NOBORUOTakeshi YOSHIDAEishirou SUETA
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2019 Volume 68 Issue 1 Pages 61-67

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Abstract

不規則抗体スクリーニングは臨床的意義のある抗体を検出し,同時に臨床的意義のない抗体を可能な限り検出しない検査法が理想とされる。今回我々は,ポリエチレングリコールを用いた間接抗グロブリン試験(poly-ethylene glycol indirect antiglobulin test; PEG-IAT)を指標とし,0.8%セルスクリーンJ -Alba-を赤血球試薬とした間接抗グロブリン試験(以下,0.8%RCD法)と,従来試薬であるバイオビュースクリーンJを赤血球試薬とし,低イオン強度溶液(low-ionic-strength solution; LISS)を用いた間接抗グロブリン試験(以下,LISS-IAT)+ Ficin二段法(以下,Ficin法)の2法について比較検討した。対象は臨床検査科に提出された1,254検体とした。LISS-IAT + Ficin法および0.8%RCD法の抗体陽性率はそれぞれ10.8%と3.4%であった。方法別のPEG-IATとの一致度はLISS-IAT + Ficin法が完全一致率33.2%,κ係数0.086であり,0.8%RCD法が完全一致率82.1%,κ係数0.705であった。また,感度・特異度・尤度比はLISS-IAT + Ficin法が感度82.6%,特異度90.5%,尤度比8.69であり,0.8%RCD法では感度82.6%,特異度98.1%,尤度比42.37であった。このことからLISS-IAT + Ficin法と比較し0.8%RCD法において,一致度,特異度および尤度比が良好であった。さらに,0.8%RCD法の検出感度はPEG-IATと同等の検出感度であり,1検体あたりのコストは0.8%RCD法が717円,LISS-IAT + Ficin法では1,234円であった。以上のことから,0.8%RCD法はPEG-IATとの一致度が高く,PEG-IATと同等の検出感度を持ち,臨床的意義のある抗体を検出する一方,臨床的意義のない抗体を検出しない方法であることから,スクリーニング試薬として有用であると考えられた。

I  はじめに

不規則抗体スクリーニング(以下,抗体スクリーニング)は臨床的意義のある不規則抗体を検出し,同時に臨床的意義のない不規則抗体を可能な限り検出しない検査法が理想とされている。抗体スクリーニングの測定原理には,ポリエチレングリコール(poly-ethylene glycol; PEG)を反応増強剤に用いた間接抗グロブリン試験(indirect antiglobulin test; IAT)1)や自動輸血検査機器によるカラム凝集法(column agglutination technology; CAT)など様々な測定原理がある。平成26年度に改訂した「赤血球型検査(赤血球系検査)ガイドライン」では,抗体スクリーニングにはIATを必須とし,他の方法は補助的に行うべきとされている2)。しかし,各施設によってIATと酵素法が併用されている状況がある。当院ではオーソ社の全自動輸血検査機器Auto Vue Innovaを用いてCATを原理とし,低イオン強度溶液(low-ionic-strength solution; LISS)を用いた間接抗グロブリン試験(以下,LISS-IAT)とFicinを用いた酵素二段法(以下,Ficin法)を採用している。抗体スクリーニングにおいて,Ficin法はRh系の初期抗体などを感度良く検出する特徴がある。一方で,非特異的な反応に起因して検査に時間を要すること,問題解決における検査者の負担が増加することなどの問題点も指摘されている。今回我々は,PEG-IATを指標とし,従来のLISS-IATより感度が向上しているとされている0.8%セルスクリーンJ -Alba-(以下,0.8%CSJ)を赤血球試薬とした間接抗グロブリン試験(以下,0.8%RCD法)3)と,従来試薬であるバイオビュースクリーンJ(以下,BVSJ)を赤血球試薬としたLISS-IAT + Ficin法の2法について比較検討し,抗体スクリーニング試薬としての有用性を検討したので報告する。

II  対象および使用試薬・機器

1. 対象検体

2014年9月から2015年3月の間に出水郡医師会広域医療センター臨床検査科に不規則抗体スクリーニングの依頼があったEDTA-2Na加血漿検体1,254検体を使用した。

試験管法は日本輸血・細胞治療学会「輸血のための検査マニュアルVer. 1.3」4)に準じて認定輸血検査技師が行った。

また,臨床的意義のある抗体は「赤血球型検査(赤血球系検査)ガイドライン」に従って判定した。

2. 測定試薬・測定条件・測定装置

1) 従来試薬(LISS-IAT + Ficin法)

オーソ®バイオビューTMスクリーンJ

オーソ®バイオビューTMクームス/ニュートラルカセット,オーソ®オートビュー用BLISS,(以上,オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社)

2) 比較試薬(0.8%RCD法)

0.8%セルスクリーンJ -Alba-

オーソ®バイオビューTM抗IgGカセット

(以上,オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社)

3) 測定条件

LISS-IATはクームス/ニュートラルカセットにBLISS 50 μL,血漿40 μL,4%保存液浮遊赤血球10 μLを分注後,5分遠心(55 g 2分,199 g 3分)し,判定した。Ficin法ではクームス/ニュートラルカセットに血漿40 μL,4% Ficin処理赤血球10 μLを分注,37℃10分加温後,LISS-IATと同様の条件で遠心し,判定した。

0.8%RCD法は抗IgGカセットに0.8%RCD浮遊赤血球を50 μL,血漿40 μLを分注,37℃15分加温後,LISS-IATと同様の条件で遠心し,判定した(Table 1)。

Table 1  測定条件
試薬 BVSJ 0.8%CSJ
方法 LISS添加法
(LISS-IAT)
酵素法
(Ficin法)
LISS浮遊法
(0.8%RCD法)
LISS分注量 50 μL
最終イオン強度 0.093 0.088
血球量 10 μL
(4%保存液浮遊血球)
10 μL
(4%Ficin処理血球)
50 μL
(0.8%RCD浮遊血球)
血漿量 40 μL 40 μL 40 μL
血漿比率 40% 80% 44%
加温時間 10分 10分 15分
遠心条件 55~199 g/5分 55~199 g/5分 55~199 g/5分
血漿希釈率 2.5 1.25 2.25

4) 不規則抗体同定検査用試薬

リゾルブ®パネルC

オーソ®PEG

オーソ®抗ヒトIgG血清(ウサギ)

オーソ®クームスコントロール

(以上,オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社)

5) 測定装置

ORTHO AUTOVUE® Innova(以下,AutoVue)

(以上,オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社)

III  検討方法

1. 方法別のPEG-IATとの一致度の比較

LISS-IAT + Ficin法で陽性と判定された134件と陰性と判定された50件を用いて,0.8%RCD法,PEG-IATで測定し,PEG-IATとの一致率を求めた。LISS-IAT + Ficin法の判定方法は,2法のどちらか,もしくは2法とも凝集が見られた検体を陽性とし,2法とも凝集が見られない検体を陰性とした。一致度はKappa係数(以下,κ係数)で評価を行った。統計解析は「EZR(Ver. 1.33)」5)を使用した。検体は保存が必要な場合は遠心分離した血漿を−80℃で凍結保存し,使用時に37℃で解凍後,1,200 g,5分で遠心して用いた。

2. 方法別の感度・特異度の比較

対象期間の検体1,254件をLISS-IAT + Ficin法と0.8%RCD法で測定し,不規則抗体同定検査(PEG-IAT)を行った。方法別の検出結果から,陽性率,感度,特異度,尤度比を算出した。感度,特異度,尤度比の算出では,不規則抗体同定検査の結果より判定された臨床的意義のある抗体を真陽性とし,臨床的意義のない抗体,陰性検体を真陰性とした。陽性率の比較にはχ2検定を行い,統計解析はEZRを使用した。有意水準はp < 0.05とした。

3. 方法別の検出感度の比較

対象期間の検体で,臨床的意義のある抗体(抗D,抗c,抗Jka,抗Fyb)を用いて抗体価を測定した。各抗体に対する抗原(ホモ接合体)赤血球を用いて以下の方法で比較した。

① LISS-IAT(カラム凝集法)

② Ficin法(カラム凝集法)

③ 0.8%RCD法(カラム凝集法)

④ PEG-IAT(試験管法)

4. コストの比較

BVSJと0.8%CSJを使用した場合での1件あたりのコストを算出し比較した。試薬は全量からデッドボリュームを差し引き,過剰吸引量を差し引いた量を1検体あたりの使用量で除して算出した。過剰吸引量は検体1件ずつ測定した条件で算出した。

なお,本研究は当院倫理審査委員会の承認を得て行った(20180301-1)。

IV  結果

1. 方法別のPEG-IATとの一致度の比較

Figure 1及びFigure 2には0.8%RCD法とPEG-IAT,LISS-IAT + Ficin法とPEG-IATの相関を示す。

Figure 1 

PEG-IATと0.8%RCD法の相関

LISS-IAT + Ficin法で陽性134件と陰性50件(N = 184)

Figure 2 

PEG-IATとLISS-IAT + Ficin法の相関

LISS-IAT + Ficin法で陽性134件と陰性50件(N = 184)

0.8%RCD法の一致率は82.1%,κ係数0.705,LISS-IAT + Ficin法が一致率33.2%,κ係数0.086であった(Table 2)。

Table 2  PEG-IAT との一致度の評価
一致率(%) κ係数 信頼区間
LISS-IAT + Ficin法 33.2 0.086 −0.023~0.194
0.8%RCD法 82.1 0.705 0.571~0.839

2. 方法別の感度・特異度の比較

対象期間の検体1,254件におけるLISS-IAT + Ficin法の陽性率は10.8%,0.8%RCD法の陽性率は3.4%となった(Table 3)。男女間での有意差は認められなかった(p > 0.05)。0.8%RCD法で臨床的意義のある抗体は,陽性検体43件のうち19件(43%)であり,半数以上がRh系の抗体であった(Figure 3)。

Table 3  陽性率の比較
検査実施患者(1,254人) 男性(674人) 女性(580人) p-value
LISS-IAT + Ficin法陽性患者(人) 136 73 63
抗体陽性率(%) 10.8 10.8 10.9 0.986
0.8%RCD法陽性患者(人) 43 22 21
抗体陽性率(%) 3.4 3.3 3.6 0.729
Figure 3 

0.8%RCD法の陽性検体内訳

陽性43件(N = 1,254)

LISS-IAT + Ficin法で臨床的意義のある抗体は陽性検体136件のうち19件(14%)であり,半数以上がRh系の抗体で占められていた(Figure 4)。PEG-IATで臨床的意義のある抗体は23件,陰性または臨床的意義のない抗体は1,231件であった。LISS-IAT + Ficin法の感度82.6%,特異度90.5%,尤度比8.69であった。0.8%RCD法では感度82.6%,特異度98.1%,尤度比42.37であった(Table 4)。方法別で検出に差がみられた抗体は8件あり,LISS-IAT + Ficin法(Ficin法)でのみ検出した抗体は抗Eが4件(同一患者2名),0.8%RCD法でのみ検出した抗体は,抗Fybが3件,抗Jkbが1件であった(Table 5)。

Figure 4 

LISS-IAT + Ficin法の陽性検体内訳

陽性136件(N = 1,254)

Table 4  感度・特異度・尤度比の比較
感度
(%)
特異度
(%)
尤度比
(95%信頼区間)
LISS-IAT + Ficin法 82.6 90.5 8.69(6.74~11.21)
0.8%RCD法 82.6 98.1 42.37(27.34~65.68)
Table 5  検出結果に差が見られた抗体
検体番号 抗体 0.8%RCD 法 LISS-IAT Ficin 法 PEG-IAT
1 E 0 0 w+ 1+
2 E 0 0 w+ 1+
3 E 0 0 w+ 1+
4 E 0 0 w+ 1+
5 Fyb w+ 0 0 1+
6 Fyb w+ 0 0 w+
7 Fyb w+ 0 0 w+
8 Jka w+ 0 0 1+

3. 方法別の検出感度の比較

0.8%RCD法の抗体価は抗D;32倍,抗c;32倍,抗Jka;128倍,抗Fyb;128倍であり,PEG-IATと同等の検出感度であった(Table 6)。LISS-IATの検出感度は,他法と比較して全てにおいて低く,酵素法ではRh系はPEG-IATと同等の検出感度であったが,抗Fybは検出できず,抗Jkbも検出感度は16倍であった。

Table 6  検出感度の比較
LISS-IAT Ficin法 0.8%RCD法 PEG-IAT
抗D ×16 ×32 ×32 ×32
抗c ×16 ×32 ×32 ×32
抗Jka ×32 ×16 ×128 ×128
抗Fyb ×64 < 1 ×128 ×128

4. コストの比較

1検体あたりのコストは0.8%RCD法が717円,LISS-IAT + Ficin法では1,234円であり,LISS-IAT + Ficin法と比較して41.9%減であった(Table 7)。

Table 7  コストの比較
従来法(円) 比較法(円)
試薬 BVSJ 107 0
0.8%CSJ 0 117
カセット クームス/ニュートラル 1,100 0
抗IgG 0 600
BLISS 27 0
合計 1,234 717

V  考察

0.8%CSJを用いた0.8%RCD法とBVSJを用いたLISS-IAT + Ficin法について,PEG-IATとの比較検討を行ったところ,0.8%RCD法の一致率は高く,一致度も良好であった。一方,LISS-IAT + Ficin法の一致率は低く,一致度も低い結果となった。要因としてLISS-IAT + Ficin法はPEG-IATと比較して陽性率が高くPEG-IATで陰性となり,LISS-IAT + Ficin法でのみ陽性となった107件が影響していると考えられる。これらは全てFicin法でのみ陽性となった検体であり,内訳は酵素非特異反応や低温反応性の抗体であった。臨床的意義のない抗体を多く検出していたことがLISS-IAT + Ficin法での一致率,一致度が低くなった要因と考えられる。同一検体での試薬別の測定結果では,0.8%RCD法の陽性率が3.4%であり,感度,特異度,尤度比において良好であった。この結果より0.8%RCD法は臨床的意義のある抗体を感度よく検出し,臨床的意義のない抗体を検出しない方法であることが示唆される。しかし,0.8%RCD法で検出できずにLISS-IAT + Ficin法でのみ検出した抗Eが4件(0.32%)あり,いずれもFicin法でのみ検出され,反応強度はw+であった。4件は2名の同一患者であり,過去の輸血情報から新たに産生されたIgM性の抗体の可能性は低く,過去に産生された抗体が抗体価の低下によって0.8%RCD法での検出感度以下となっていたと推察される。この結果よりFicin法は低力価のRh系の抗体に関しては0.8%RCD法よりも検出感度が高いことが示唆された。一方,LISS-IAT + Ficin法で検出できず,0.8%RCD法でのみ検出した抗Jka,抗Fybの4件(0.32%)は,いずれもw+の反応強度であった。抗Jkaは酵素法に比べLISS-IATで検出しやすいこと,抗Fybは酵素法では検出できないためLISS-IATより検出感度が高い0.8%RCD法でのみ検出できたと考えられる。LISS-IATと0.8%RCD法はいずれも反応増強剤にLISSを用いたIATである。しかしながら,検出感度に差がみられた要因として0.8%RCD法ではLISS-IATと比較して最終イオン強度が低く,加温時間も15分と長くなっており,これらの違いが検出感度に影響していると考えられる。今回の検討では,各方法で検出できる抗体や検出できない抗体がみられ,臨床的意義のある抗体を全て検出できる抗体スクリーニング試薬は見いだせなかった。しかし,0.8%RCD法は,LISS-IATよりも高感度であり,PEG-IATと同等の検出感度が得られたこと,感度,特異度,尤度比が良好であり,コスト面も42%の削減が見込めることから,酵素法を省略し,0.8%RCD法単独で行うことが可能な方法であると考えられる。

平成29年度の日臨技臨床検査精度管理調査報告では,全国の酵素法の実施率は68.9%となっており6),抗体スクリーニングにおける酵素法の可否については,各施設で意見が分かれている。抗体スクリーニングにおける酵素法は産生初期のRh系の抗体などを感度良く検出する特徴があるといわれているが,単球貪食能試験等による抗体の性状解析から,高感度なIATを実施していれば酵素法を廃止できる可能性も示されている7)。大橋らは,酵素法123例を用いた検討を行い,酵素法のみ陽性で,かつIAT陰性の群では,臨床的意義は低いことを報告した。また彼らは,酵素法のみ陽性の場合は,臨床的意義はないと結論できないものの,問題解決にかかる労力をIATの高感度化や,精度管理に向けることを推奨している8),9)

当院は二次救急病院であり夜間や休日は当直者が一人で検査業務と緊急輸血を対応している。超緊急輸血の場合を除いて抗体スクリーニングを実施後に輸血を施行することを診療側も要望している。しかし,酵素非特異反応や臨床的意義のない冷式抗体を検出することで不規則抗体同定検査に時間を要し,輸血開始が遅れるといった問題もあった。さらに不規則抗体同定検査における輸血担当者の負担も業務上の問題となっていた。今回検討した0.8%CSJにスクリーニング試薬を変更することで,低力価のRh系の抗体を検出できなくなるリスクには十分注意が必要であるが,不要な不規則抗体同定検査が減り,輸血遅延の問題が解消されることが期待される。さらに,これまでの検査業務が軽減されることで,ベットサイドでの輸血認証業務や,輸血効果の確認,輸血後感染症検査の実施,輸血後副作用のチェックなど,輸血施行後の業務を充実させることができると考える。

VI  結語

0.8%CSJを用いた0.8%RCD法は,低力価のRh系の抗体を検出できないリスクがあるが,臨床的意義のある抗体を感度よく検出し,臨床的意義のない抗体を検出しにくい方法であることから,抗体スクリーニング試薬として有用であると考えられる。

謝辞

本研究においてご指導ご助言を頂きました出水郡医師会広域医療センター診療技術部薬剤科 薗田晃弘先生,熊本保健科学大学保健科学部医学検査学科 楢原真二教授,熊本保健科学大学保健科学部医学検査学科 上妻行則准教授に深謝致します。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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