2019 Volume 68 Issue 1 Pages 92-98
救急搬送された患者に急性期脳梗塞が疑われる場合,心原性脳塞栓症(cardio-embolic stroke; CE)と非心原性脳梗塞(non-cardio-embolic stroke; non-CE)の鑑別は,治療計画決定のため重要である。今回我々は2016年7月~2018年2月に当院救命救急センターに搬送され急性期脳梗塞が疑われた101例(CE群33例,non-CE群68例)を対象とし,可溶性フィブリン(soluble fibrin monomer-fibrinogen complex; SF),D-dimer測定がCEとnon-CEとの鑑別に有用かどうかについて検討した。発症から入院時までの時間(ΔT(Hr))によって,この急性期群患者を次の2群,超急性期群(ΔT ≤ 4.5)および準急性期群(ΔT > 4.5)に分けて解析した。超急性期CE群において,搬送時SF,D-dimer値はNIHSSまたは退院時のmRSとの間に相関は認められず,SF,D-dimer値は搬入時重症度や予後をあらわす因子とは言えなかった。SF,D-dimer測定値はΔTによる群別に拘わらずCE群がnon-CE群に比べて有意に高かった。CE群とnon-CE群を鑑別するためROC解析を行った結果,超急性期群においてSFを測定項目とすることにより,AUCの最大値が得られた(カットオフ値11.8 μg/mL,特異度97%,感度87%)。このことよりSFの測定が超急性期脳梗塞患者のCEとnon-CEの鑑別の補助診断マーカーとなり得ると考えた。
脳梗塞は心原性脳塞栓症(cardio-embolic stroke; CE),アテローム血栓性脳梗塞,ラクナ梗塞,その他の脳梗塞の4種類に分類される。急性期治療として,リコンビナント組織型プラスミノゲン活性化因子(recombinant tissue-type plasminogen activator; rt-PA)投与以外は臨床病型によって治療法が異なるため,早期診断のもと臨床病型に応じた治療を行う必要がある。特に,CEは死亡率が高く,重い後遺症が残る場合があるため,発症から出来るだけ短時間での治療介入が必要となる。当院救命救急センターでは,急性期脳梗塞疑いの患者が搬送されるという情報をもとに「t-PAモード」が発令され,関係各部署が連携をとり,救命救急センターでの受け入れから診断・検査・治療開始まで短時間で対応できるような体制を整えている。今回,急性期脳梗塞患者において,CEと非心原性脳梗塞(アテローム血栓性脳梗塞,ラクナ梗塞,その他 non-cardio-embolic stroke;non-CE)の鑑別における可溶性フィブリン(soluble fibrin monomer-fibrinogen complex; SF)およびD-dimerの有用性と超急性期(発症から4.5時間以内)における重症度と予後について検討したので報告する。
2016年7月~2018年2月に当院救命救急センターに搬送され急性期脳梗塞が疑われた101例を対象として,①超急性期(内訳:CE群15例,non-CE群35例)②準急性期(発症から4.5時間超)(内訳:CE群18例,non-CE群33例)③急性期全体(内訳:CE群33例,non-CE群68例)におけるCE群とnon-CE群のSF,D-dimer測定値を比較検討した。測定試薬はSF(イアトロSF II:LSIメディエンス),D-dimer(リアスオートDダイマーネオ:シスメックス),測定機器はCS-2500(シスメックス)を使用した。統計学的有意差検定として年齢,来院までの時間,NIH脳卒中スケール(National Institutes of Health Stroke Scale; NIHSS),機能自立度を評価する指標(modified Rankin Scale; mRS)はWelchのt検定,性別はカイ二乗検定を用い,p < 0.05を有意差ありと判定した。また,ROC解析にてカットオフ値を求め,CEとnon-CEの鑑別における有用性の検討を行った。超急性期における重症度と予後については,搬送時のNIHSSを脳卒中神経学的重症度の評価として,退院時のmRSを障害の程度の評価として,比較検討を行った。
なお,本研究は高知赤十字病院倫理委員会の承認を得ている(受付番号246)。
今回対象となった101例の背景として,男性53名,女性48名,平均年齢75.7 ± 12.0歳(内訳:CE群80.1 ± 11.2歳,non-CE群73.5 ± 11.9歳)であり,年齢においてCE群とnon-CE群に有意差を認め,性別において有意差を認めなかった。発症から来院(採血)までの平均時間は,急性期全体,超急性期および準急性期でCE群とnon-CE群に有意差はなかった。(Table 1)。超急性期におけるNIHSS(搬送時)は,CE群15.0 ± 9.4,non-CE群5.4 ± 7.3であり,CE群が有意に高値であった。mRS(退院時)は,CE群2.7 ± 2.2,non-CE群2.2 ± 1.6であり,両群に有意差はなかった(Table 2)。超急性期CE群における搬送時SF,D-dimer値とNIHSSおよび退院時のmRSとの相関はなかった(Figure 1)。
CE group (n = 33) |
non-CE group (n = 68) |
p value | |
---|---|---|---|
Age* | 80.1 ± 11.2 (50–95) |
73.5 ± 11.9 (49–92) |
p = 0.009 |
Male:Female | 15:18 | 38:30 | p = 0.325 |
Time from onset to hospitalization (ΔT(hr))* | |||
Hyper-acute phase | 1.6 ± 0.9 | 2.1 ± 1.0 | p = 0.126 |
Semi-acute phase | 18.1 ± 18.1 | 20.4 ± 26.6 | p = 0.749 |
Overall phase | 9.3 ± 14.7 | 10.1 ± 19.7 | p = 0.832 |
*: mean ± SD
CE group (n = 15) | non-CE group (n = 35) | p value | |
---|---|---|---|
NIHSS* | 15.0 ± 9.4 | 5.4 ± 7.3 | p = 0.002 |
mRS* | 2.7 ± 2.2 | 2.2 ± 1.6 | p = 0.437 |
*: mean ± SD
Correlation between SF, D-dimer and NIHSS and mRS in CE group (Hyper-acute phase)
SF測定値は,①超急性期:CE群21.9 ± 15.27 μg/mL,non-CE群2.4 ± 3.36 μg/mL(p < 0.001)②準急性期:CE群8.6 ± 8.84 μg/mL,non-CE群2.1 ± 1.93 μg/mL(p = 0.006)③急性期全体:CE群14.6 ± 13.73 μg/mL,non-CE群2.3 ± 2.75 μg/mL(p < 0.001)であった。SF値は,発症時間に関わらず,CE群がnon-CE群に比較して有意に高値であり,超急性期が最も高値を示していた(Figure 2)。しかし,超急性期CE群でもSFが基準値以下(< 7.0 μg/mL)の症例が認められた(Table 3)。
Comparison of SF, D-dimer in CE and non-CE
SF and D-dimer value each group: mean ± SD
Case | Age | Gender | Time from onset to hospitalization (ΔT(hr)) | Treatment | SF (μg/mL) | D-dimer (μg/mL) | NIHSS | mRS |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 87 | F | 1.3 | rt-PA, No reopening | 18.9 | 5.1 | 23 | 6 |
2 | 62 | M | 2.8 | rt-PA, IVR | 36.6 | 9.0 | 21 | 3(3)* |
3 | 83 | F | 1.1 | rt-PA, IVR | 14.9 | 2.5 | 17 | 2(0)* |
4 | 86 | F | 1.0 | Not applicable | 20.9 | 3.0 | 26 | 5(5)* |
5 | 62 | M | 3.7 | rt-PA | 21.4 | 1.3 | 11 | 0 |
6 | 87 | M | 1.5 | rt-PA, IVR, Hemorrhagic infarction | 11.8 | 2.4 | 31 | 5 |
7 | 70 | M | 1.7 | rt-PA | 12.7 | 0.9 | 2 | 0 |
8 | 88 | F | 1.5 | rt-PA, IVR, No reopening | 32.4 | 1.2 | 19 | 6(0)* |
9 | 86 | M | 1.3 | Not applicable | 53.9 | 1.5 | 10 | 3(2)* |
10 | 86 | F | 2.3 | Not applicable | 15.7 | 4.0 | 4 | 4 |
11 | 91 | F | 2.3 | —* | 17.3 | 3.3 | 2 | 1 |
12 | 88 | F | 2.4 | rt-PA | 19.2 | 14.5 | 17 | 2 |
13 | 57 | M | 0.3 | rt-PA, IVR | 1.1 | 0.4 | 22 | 0 |
14 | 91 | F | 0.5 | rt-PA, IVR | 1.7 | 1.2 | 18 | 3(3)* |
15 | 80 | F | 1.0 | —* | 49.5 | 4.0 | 2 | 0 |
rt-PA: recombinant tissue-type plasminogen activator, IVR: Interventional Radiology
Not applicable: Considering age, complications therapy giving up
—*: Not treatment required because it is mild (NIHSS ≤ 4)
*: Past failures
D-dimer測定値は,①超急性期:CE群3.6 ± 3.71 μg/mL,non-CE群1.1 ± 1.16 μg/mL(p = 0.019)②準急性期:CE群2.2 ± 2.33 μg/mL,non-CE群0.8 ± 0.78 μg/mL(p = 0.018)③急性期全体:CE群2.9 ± 3.07 μg/mL,non-CE群0.9 ± 1.00 μg/mL(p = 0.001)であった。CE群がnon-CE群に比較して有意に高値であり,超急性期が最も高値を示していた(Figure 2)。
CEとnon-CEの鑑別におけるSFのカットオフ値は,①超急性期:11.8 μg/mL(特異度97%,感度87%,AUC 0.920)②準急性期:5.4 μg/mL(特異度94%,感度56%,AUC 0.844)③急性期全体:5.4 μg/mL(特異度93%,感度70%,AUC 0.876)であった。
D-dimerのカットオフ値は,①超急性期:1.2 μg/mL(特異度71%,感度87%,AUC 0.834)②準急性期:0.9 μg/mL(特異度70%,感度89%,AUC 0.833)③急性期全体:1.2 μg/mL(特異度76%,感度73%,AUC 0.827)であった。
超急性期におけるSFのカットオフ値を11.8 μg/mLとすることで,最もCEとnon-CEの鑑別能が高かった(Figure 3, Table 4)。
Receiver-operating characteristics (ROC) curve of optimal cut off value of SF (Hyper-acute phase)
Cut off value | Specificity | Sensitivity | Accuracy | AUC | |
---|---|---|---|---|---|
SF | |||||
Hyper-acute phase | 11.8 μg/mL | 97% | 87% | 94% | 0.920 |
Semi-acute phase | 5.4 μg/mL | 94% | 56% | 80% | 0.844 |
Overall phase | 5.4 μg/mL | 93% | 70% | 85% | 0.876 |
D-dimer | |||||
Hyper-acute phase | 1.2 μg/mL | 71% | 87% | 76% | 0.834 |
Semi-acute phase | 0.9 μg/mL | 70% | 89% | 76% | 0.833 |
Overall phase | 1.2 μg/mL | 76% | 73% | 75% | 0.827 |
発症から来院(採血)までの平均時間は,CE群とnon-CE群の間に有意差がなかったのは,今回の検討対象がt-PAモード対応症例(急性期脳梗塞患者)であったため,全症例において短時間の症例が多かったためと思われる。
CEは搬送時のNIHSSでみた重症例が他の病型に比べて多く,死亡率が高く,退院後も寝たきりなど重症な後遺症が残ることが多く予後不良と言われている。超急性期における搬送時NIHSSでみた重症度は,CE群では軽症から重症まで幅広く,全体的には重症例が多かった。non-CE群ではアテローム血栓性脳梗塞にて重症例がみられたが,ラクナ梗塞を含めて軽症のものが多かった(data not shown)。予後との関係は発症から早期に再開通が得られること,出血性梗塞が出現しないことが大きく関係している。NIHSSにおける重症度およびSF,D-dimer値に関わらず,急性期治療の適応外症例や治療により再開通が得られたが出血性梗塞が出現した症例は予後不良であり,治療が奏功した症例では予後は良好であった(Table 3)。超急性期CE群において,搬送時SF,D-dimer値はNIHSSおよび退院時のmRSに相関は認められず,SF,D-dimer値は搬入時重症度や予後をあらわす因子とは言えなかった。
血中にSFが存在するということは,トロンビンが生成され,フィブリノゲンに働きかけた証拠である1)~3)。さらにSFはその分子内のフィブリノゲン部分がトロンビンの作用を受けると安定化フィブリンの構成要素となるため,SFは血栓の基材となり得る1)~3)。CEにおけるSF高値は,左房内に新たな血栓が生じている病態を反映していることを示唆する4)。また,CEの心腔内血栓形成において凝固系の活性化が重要と考えられており,脳梗塞発症後の破壊脳組織が血管内に混入し,外因系の凝固活性も起こる5),6)と言われている。超急性期におけるCE群のSF高値例は,左房内や脳血管内における新たな血栓形成を反映しているのではないかと考えられた。超急性期におけるCE群のうちSF低値を示した2例は,抗凝固薬の内服があり,発症から採血までの時間が30分以内の症例で,CEを発症する程度の血栓はあったが,新たに血栓が形成されている可能性は低いと考えられた。超急性期におけるnon-CE群のSF高値例(17.9 μg/mL)は,大動脈CT血管造影(CT Angiography; CTA)で多数のプラークを認めた(大動脈原性脳塞栓症)。大動脈原性脳塞栓症は,大動脈のプラークが破綻し,コレステリン結晶や,二次的に形成された血栓により発症する7)。特に,大動脈弓部の4 mm以上の複合粥腫病変は,脳梗塞のリスクとなることが報告されている7)。脳梗塞において形成される血栓は,ずり応力の高い環境で形成される白色血栓と,低い環境で形成される赤色血栓のさまざまな度合いで混合されたものであり,各種凝血学的検査にてその差異は分析可能である8)。超急性期におけるnon-CE群のSF高値例は,血栓組成として血小板主体の白色血栓に加え,フィブリンを多く含んだ赤色血栓で形成されていると予測された。
今回の検討は,一社メーカーの測定試薬での検討であり,他社メーカーの測定試薬では同様の結果が得られない場合があること,またSF,D-dimerは,採血手技の影響により偽高値となり得ることも考慮し,結果解釈する必要がある。
SF,D-dimer測定値は発症から入院(採血)までの時間(ΔT)による群別に拘わらずCE群がnon-CE群に比べて有意に高値であった。また,CE群とnon-CE群を鑑別するためROC解析を行った結果,超急性期群においてSFを測定項目とすることにより,AUCの最大値が得られた(カットオフ値11.8 μg/mL,特異度97%,感度87%)。
今回の検討において,超急性期脳梗塞患者のCEとnon-CEの鑑別に,SFの有用性が示唆され,SFがCEとnon-CEの鑑別の補助診断マーカーとなり得ると考えられた。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。