Japanese Journal of Medical Technology
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Evaluation of the introduction of ORTHO VISION®
Atsuko NAKAJIMAKonomi SUGITASayaka KUDOUTakanori ISHIKAWANatsue HONDAMasako TOUKousuke HARUKITakakazu HIGUCHI
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2019 Volume 68 Issue 1 Pages 105-109

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Abstract

現在,輸血検査の24時間体制は必須であり,また,標準化および精度の向上や業務の効率化などから,自動輸血検査装置や輸血管理システムの開発が進んでいる。自動機器の導入には,機器の処理能力や費用など施設の適応性を検討する必要性がある。当院では,1984年の開院当初から臨床検査技師が輸血業務を24時間体制で行い,その後,輸血管理システムとオートビューを導入し宿日直も自動化とし,電子カルテを導入した。今回,2016年に機器更新に伴い,オートビューイノーバからオーソビジョンに更新した。ビジョンを2台導入することによりバックアップ体制が可能となり,アンケート結果から輸血業務が軽減されたことが確認された。また,イノーバとの統計的比較からIgGカセットおよび血球試薬が8~10%節減となった。これらの結果から,ビジョンの性能は当院に適した性能と評価した。

I  はじめに

輸血過誤防止のために輸血検査の24時間体制は,必須の状況となっている。そして,検査の標準化および精度の向上や業務の効率化などから,自動輸血検査装置や輸血管理システムが開発され,今では,全自動輸血検査装置が全国の約800施設で稼動している1)~3)。自動輸血検査装置の導入には機器の処理能力や費用など施設の適応性を検討する必要がある4)。また,自動化の普及に伴い,機器依存が高くなっており,自動機器の異常反応やトラブルへの対応も重要となっている5)。当院は,1984年の開院当初から輸血検査業務は臨床検査技師が24時間体制で行っている。2004年には全自動輸血検査装置オートビューおよび輸血管理システムBTD(オーソ・クリニカルダイアグノステックス株式会社)を導入し,これを契機に宿日直も自動化とした6)。2008年には電子カルテが導入され,輸血管理システムをA&T社に変更し,オートビューイノーバ(以下イノーバ)に更新した。更に2016年,検査部全体の機器更新に伴い,従来のイノーバからオーソビジョン(以下ビジョン)に更新した。今回,導入1年後におけるビジョンの使用経験を宿日直技師対象のアンケートを含めて報告する。

II  対象および方法

1. ビジョン導入後の運用と技師トレーニング

1日の平均検査数は,血液型が約60件,不規則抗体スクリーニング約35件であり,交差適合試験については,検体は約25件,赤血球製剤は約35単位を実施している。日常業務において,通常の検体は,到着から結果報告までを原則30分以内と定めていることを考慮し,ビジョンは,従来機器イノーバに比べ処理能力が低いため,2台導入した。宿日直時は1台で運用し,もう1台をバックアップとしてトラブル時に備えた。現在の宿日直時の1か月件数は,血液型約90件,交差適合試験が約100件である。また,ビジョンは試薬保冷機能を有するため,試薬は24時間ローター内に設置とした。そこで,イノーバで検査時に行っていた試薬架設を省略し,検体架設のみとした。

導入時の宿日直業務のトレーニングは,約5名を1グループとし主に画面操作および検体架設について,実技を中心とした宿日直トレーニングプログラムに従い行った。所要時間は約1時間1回で終了した。

2. 運用面および機器操作性についてのアンケート調査による評価

輸血業務専任技師を除き,宿日直業務を担当する技師28名(男性12名,女性16名,平均年齢38.4歳)を対象としたアンケートにて評価した。内容は,従来イノーバと比較した運用性および操作性についてとした。運用性は,ビジョン2台のバックアップ体制について,従来イノーバと比較して“安心”か,“変わらず不安”の選択回答とした。操作性については,試薬架設の省略について,従来よりも“業務軽減された”か,“変わらない”の選択回答とした。また,当アンケートは,ビジョンを導入して約1年後に実施し,回収率は100%であった。

3. ビジョン導入前後の使用状況についての評価

ビジョン導入前後の使用状況を比較するためにイノーバとビジョンそれぞれの運用時について,IgGカセットおよび血球試薬の消費数を月平均の検査件数と使用数から消費状況を算出した。それぞれの結果の有意差をt検定にて行った。また,1年間の機器トラブル時における修理要請回数も比較した。

III  結果

1. ビジョン2台のバックアップ体制の運用方法について(Figure 1
Figure 1 

ビジョン2台のバックアップ体制の運用性について:イノーバとの比較アンケート結果

宿日直業務担当技師28名を対象にビジョン導入1年後に実施した。ビジョン2台のバックアップ体制について,従来イノーバと比較して“安心”か,“変わらず不安”の選択回答の結果。

アンケートの結果は,安心が93%(26/28),不安が7%(2/28)であった。安心の回答には「2台体制は安心だが,トラブル対応として機器の再起動操作を知りたい」との要望がほぼ全員にあった。不安と回答した理由は,自動化とは直接関係しない輸血業務に対する不安であった。

2. 操作性について(Figure 2
Figure 2 

試薬架設省略したビジョン操作性について:イノーバとの比較アンケート結果

宿日直業務担当技師28名を対象にビジョン導入1年後に実施した操作性についてのアンケート結果。

試薬架設の省略について,従来よりも“業務軽減された”か,“変わらない”の選択回答の結果。

試薬架設を省略したことで業務が以前より軽減したとの回答が96%(27/28)であった。また,従来機器イノーバにおいて試薬架設の際,蓋の取り忘れが原因で分注プローブの破損が年平均4回発生していた。ビジョン導入1年間では,当破損は採血管フィルム取り忘れによる1回であった。

3. IgGカセット消費数(Figure 3
Figure 3 

IgGカセット消費数(枚/クロスマッチ件数/月)

交差適合試験申込み件数1件に対するIgGカセットの1か月平均使用数について,従来機器イノーバとビジョンと比較した結果。(NS: not significant)

交差適合試験申込み件数1件に対するカセット使用数を1か月の平均数から求め比較した。従来機器イノーバは申込み1件当たり1.29枚(633枚/491件/月),ビジョンは1.16枚(660枚/569件/月)と減少したが有意差は認めなかった(p = 0.34)。

4. 血球試薬消費数(Figure 4, 5
Figure 4 

A,B赤血球試薬消費量

1か月の試薬使用量から算出した検体1件に対する試薬消費量を従来機器イノーバとビジョンと比較した結果。

Figure 5 

不規則抗体スクリーニング赤血球試薬消費量

1か月の試薬使用量から算出した検体1件に対する試薬消費量を従来機器イノーバとビジョンと比較した結果。

検体1件に対する試薬消費量を1か月の血球使用量から算出し比較した。血液型検査用血球試薬は,イノーバが20.6 μL(27 mL/1,312件/月),ビジョンは18.7 μL(25.5 mL/1,367件/月)であった。また,不規則抗体スクリーニング血球試薬は,イノーバが29.4 μL(21.8 mL/739件/月),ビジョンは27.0 μL(21.8 mL/805件/月)であった。それぞれの赤血球試薬が,年間で約2~3本の削減となった。

5. 年間修理要請回数

機器トラブルのため,メーカーに修理を要請した年間回数はイノーバが4回,ビジョンは12回であった。

IV  考察

自動輸血検査装置の導入により,検査技師はより安全で安心な輸血の提供ができるようになった7)。しかし,装置の選定には検査法の利点欠点を理解し,業務および経済的効果などを検討する必要がある8)。今回導入したビジョンは10年以上使い慣れたイノーバの後継機であり,宿日直時におけるトラブル時のバックアップのために2台を導入した。1台運用だったイノーバがトラブルの際は,試験管法で対応していたが,2台体制になり93%が安心であると回答したが,ほぼ全員からトラブルの際の再起動操作を知りたいとの意見があった。この結果から,通常の勤務においては輸血検査を担当しない当直技師の心理的負担が示唆された。この点についてはマニュアルを作成し,トレーニングは宿日直業務前に常に実施することにした。万木ら9)も,当直時にオートビューを導入後,アンケートを実施した際に,われわれと同様に機器トラブル対策の要望があったと報告している。日高10)や友田ら11)が述べるように,自動機器取扱い時には,機器の故障やエラー表示に対して適切な対応手順の整理が重要である。実際にバックアップとして数回使用したこともあり,今後も,機器異常やトラブルの対処方法については,常に整備していく必要があると思われた。

操作上,試薬架設を省略したことについては,ほぼ全員の96%が業務軽減されたとの回答であった。また,以前は試薬架設の際に発生していたプローブ破損が減少し,備品経費減少となった。アンケートなどの結果から,ビジョン2台を導入したことは,従来よりも当直技師の不安および業務の軽減となったことが確認された。

イノーバとビジョンの比較において,IgGカセット消費数は有意差が認められなかったが,ビジョンは約10%の削減となった。ABOおよび不規則抗体スクリーニング血球試薬の消費数については,いずれも有意差が認められ,従来のイノーバよりも約8~9%の削減となった。これは,ビジョンがカセットの再利用や試薬を無駄なく使用するなど,利点として開発した機能を発揮した結果であり,経済的効果が期待できると思われた。

曽根ら12)は,自動化法は用手法に比べ検査費用が約2倍高くなることが問題点ではあるが,輸血検査の標準化や安全性を高めるには自動化の導入を進めていくべきであると述べている。ビジョンはこの経済的な問題点に取組み,従来よりも機能性のみならず経済性が向上した機器と考えられた。

当院では,ビジョン導入後1年の間,メーカーへの修理要請が12回とイノーバの3倍となり,また,ビジョンはイノーバでは観られなかった検査実行中に突然停止し,再起動後に良好となるなどといった業務に大きな支障は生じなかったが,予期せぬエラーも発生していた。検査トラブルおよびエラーの原因は殆どがソフトによるものであった。メーカーは現在も調査中であり,バージョンアップ後の今は,改善され,殆どトラブルは発生していない。全国的に自動機器の普及が進むと共に現在,機器依存が高まっている。寺内13)が指摘するように運用には機器だけでなく,輸血専任者によるバックアップ体制も整備することが重要であると思われる。

今後も,自動機器の改善には,メーカーと協力し,また,当院の輸血業務の整備に継続して取り組んでいくことが重要であることは論を俟たない。

V  まとめ

機器更新に伴い従来機器イノーバの後継機として開発されたビジョンの機能性評価を運用についてのアンケートおよび統計的比較にて行った。ビジョンは2台設置し,試薬は24時間オンボードにした。今回のこの運用は,アンケートにおいて,宿日直担当技師の精神的および業務の負担が以前よりも軽減された回答結果であった。また,カセットおよび血球試薬の消費が約10%削減され,ビジョンの機能性が向上したことが確認された。トラブルも殆ど無くなり,当院の輸血業務には,ビジョンは十分に適応でき,安心安全な輸血業務が期待できる機器と考えられた。

 

本論文の要旨は,第49回日本臨床検査自動化学会で発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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