Japanese Journal of Medical Technology
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
Materials
What contributions can Japanese medical technologists make in developing countries?: A look back on my JICA volunteer activities in Samoa
Yasuhito NAKAJIMA
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2019 Volume 68 Issue 1 Pages 156-163

Details
Abstract

私は独立行政法人国際協力機構(Japan International Cooperation Agency; JICA)シニアボランティア(senior volunteers; SV)として2年間,サモア独立国の国立病院の臨床検査室に機能向上を目的として派遣された。この派遣は私にとって開発途上国の実情を学ぶのに有用であっただけでなく,日本では知りえることのない様々な経験をすることにつながった。この経験をもとにして日本の臨床検査技師が開発途上国の臨床検査室の発展のために,どのような貢献が出来るのかを考えた。一人でも多くの臨床検査技師が開発途上国の臨床検査状況を知り,その経験を基に日本だけでなく世界の臨床検査の発展に寄与していくことを望む。また(一社)日本臨床衛生検査技師会としても国際的に活動を希望する臨床検査技師の育成・支援を期待する。

I  はじめに

私は2015年10月より2017年10月までの2年間,独立行政法人国際協力機構(Japan International Cooperation Agency; JICA)のシニアボランティア(senior volunteers; SV)としてサモア独立国(以下,サモアと略)の国立病院の臨床検査室に機能向上を目的として派遣された。サモアの臨床検査技師には国家資格がなく,臨床検査技術に関する基本的な教科書となるものもない。そこで卒後教育の一環としてニュージーランドに拠点をおくNPO(not-for-profit organisation)であるPPTCプログラム(Pacific Paramedical Training Centre:WHOから支援を受け大洋州に拠点をおく臨床検査技師育成機関1))や,日本における公益財団法人国際医療技術財団(Japan International Medical TEchnology Foundation; JIMTEF)2)が行う研修に参加し臨床検査技術を学んでいる。また日本は臨床検査室だけでなく病院においても多岐にわたる無償資金協力,技術協力を行い,サモアの医療の発展に寄与している。しかし依然としてサモアの臨床検査室には様々な課題がある。

この2年間の経験から日本の臨床検査技師や日本臨床衛生検査技師会は開発途上国の臨床検査室の発展のために,どのような活動や貢献が必要かを考えてみたい。

II  派遣対象国の概要と臨床検査技師の教育制度

1. サモア独立国の概要

サモア独立国は南太平洋にある広さ2,935 km2の島国で,人口18万2,000人,公用語はサモア語と英語,宗教は人口のほぼ100%がキリスト教を信仰している。人口の80.4%が肥満で,生活習慣病対策が課題となっている。経済は消費財の多くを輸入に頼るため慢性的な貿易赤字を抱え,ニュージーランドやアメリカ合衆国(ハワイ州・カリフォルニア州)には国内人口をはるかに上回るサモア人が移住労働しており,彼らからの送金が経常収支の莫大な赤字を埋めている3),4)

2. サモアの臨床検査技師の卒前,卒後教育制度

サモアの臨床検査技師には国家資格がなく,サモア国外の大学の関連する学部で教育を受けた後に入職している。新入職員は各部門を2~3ヶ月ごとにローテーションし,全部門を研修した後に担当する部門に配置される。各部門には基本的な臨床検査技術に関する教科書となるものはほとんどないが業務マニュアルが配備されており,そのマニュアルを理解することで知識や技術を習得している。Figure 1は臨床化学検査部門に配置されているマニュアルを示す。

Figure 1 

臨床化学検査部門のマニュアル

各部門には業務マニュアルが整備されている。

卒後教育の一環として,年間に数名の技師がニュージーランドに拠点をおく臨床検査の技術レベル向上を目的としたNPOであるPPTCプログラムに参加している。Figure 2はPPTCプログラムで用いられている臨床化学検査の研修資料の表紙を示す。

Figure 2 

PPTCプログラムにおける臨床化学検査の研修資料

サモアの臨床検査技師はWHOから支援を受け大洋州に拠点をおく臨床検査技師育成機関であるPacific Paramedical Training Centreから様々な研修を受けている。

また,日本においても現在までに数名の臨床検査技師がJICAから委託を受けたJIMTEFが行っている「感染症の適切な診断のための微生物検査」5)に参加している。

III  サモア国立病院の概要と臨床検査室の実態

1. サモア国立病院の概要

Tupua Tamasese Meaole Hospital(以下,サモア国立病院と略)は首都アピアにある200床の総合病院で,2013年に中華人民共和国資本で新築された。

病院は北側から南側に向けて4つのBlock(棟)(Figure 3)で構成されており,Block Aは1階が内科病棟,2階が外科病棟,Block Bは1階が小児科病棟,2階が産科病棟,Block Cは1階が臨床検査室・薬局・放射線科,2階が手術室・ICU・分娩室・中央材料室,Block Dは1階が救急処置室・医事課,2階は各診療科の外来診察室,3階は管理事務所,会議室が配置されている。

Figure 3 

サモア国立病院の各棟

北側から南側に向けて4つのBlock(棟)で構成されており,Block Aは1階が内科病棟,2階が外科病棟,Block Bは1階が小児科病棟,2階が産科病棟,Block Cは1階が臨床検査室・薬局・放射線科,2階が手術室・ICU・分娩室・中央材料室,Block Dは1階が救急処置室・医事課,2階は各診療科の外来診察室,3階は管理事務所,会議室が配置されている。

臨床検査室はBlock Cの1階に細菌,血清,生化学,血液,輸血,病理の各部門がある。検体検査部門がワンフロアー化され,廊下を隔てて病理検査室がある(Figure 4)。

Figure 4 

臨床検査室のレイアウト

検体検査の各部門が臨床検査室にワンフロアー化されて配置されている。

2. 検査部門の区分と検査概要

日本の臨床検査技師との業務範囲が異なる点は,生理検査は検査技師の業務範囲に含まれないこと,輸血検査は献血に関わる業務を含むことである。また臨床検査室においても尿一般検査室がなく尿検査は細菌検査で行い,定量検査は臨床化学検査で実施している。検査部門は受付から分析,管理部門担当者を含めてスタッフは38名であり,変則的な2交替勤務で24時間稼働している。検体数は国立病院の入院・外来および地域の医療機関から依頼された1日平均100余人分を処理している。したがって検査受付には受付時間に制限はなく,随時,採血から検査へと業務が行われている。

検査部門の管理者は1名のmanager(技師長)と4名のprincipal(係長)で構成され,各々のprincipalは免疫・細菌検査,血液・生化学,輸血検査,品質保証の各業務を統括している。

3. 主要な分析装置と測定項目

1) 臨床化学検査

臨床化学検査にはMedica Corporation EasyRA6)Figure 5)を,腫瘍マーカーや心筋マーカー,ホルモン検査の測定にはロシュ・ダイアグノスティックス株式会社cobas e 4117)Figure 6),HbA1cや微量アルブミン検査にはSiemens Healthcare社 DCA Vantage8)Figure 7)を用いている。

Figure 5 

Medica easy ra

一般的な臨床化学検査を分析している。

Figure 6 

cobas e 411

腫瘍マーカーや心筋マーカー,ホルモン検査を分析している。

Figure 7 

DCA Vantage

HbA1cや微量アルブミン検査を分析している。

2) 血清検査

HIV-1/2,HBs抗原,HCV等の感染症の検査にはイムノクロマト法を測定原理とした試薬キットを用いている。Figure 8にAlere Medical社のHIV-1/2検査9)キットを示す。

Figure 8 

HIV-1/2: Alere Medical Co., Ltd

イムノクロマト法を測定原理としたHIV-1/2検査キット

3) 血液検査

血球計測にはSysmex KX2110)Figure 9),EBOS Quintus11)Figure 10)の多項目自動血球分析装置を用いている。PT,INR,APTTの凝固系の検査には,Huma Clot Duo Plus12)Figure 11)を用いている。

Figure 9 

Sysmex KX21

多項目自動血球分析装置

Figure 10 

EBOS Quintus

Sysmex KX21と同じく多項目自動血球分析装置

Figure 11 

Huma Clot Duo Plus

凝固系検査を分析している。

4) 細菌検査

尿一般検査は細菌検査スタッフが担当しARKRAY AE-402113)Figure 12)を用いて定性検査を行っている。血液培養はBACT/ALERT 3D14)Figure 13)を用いている。

Figure 12 

ARKRAY AE-4021

尿定性検査を分析している。

Figure 13 

BACT/ALERT 3D

血液培養の分析装置として使用している。

4. 検査の依頼から報告までの流れ

サモアの臨床検査にはコンピュータシステムを導入するに至っていない。外来患者は医師から渡された各依頼用紙を検査受付に提出し臨床検査室内で採血する。一方,病棟や他の医療機関からは検体と対応する依頼用紙を臨床検査室に提出する。医療機関により依頼用紙は院内の様式と異なるものを使用しているため,入力工程は煩雑となっている。Figure 14に示すフローチャートのように,検査受付に提出された依頼用紙と検体を照合した後に,依頼情報を検査受付のパソコン(PC)のExcelに入力して受付記録とし,依頼用紙と検体をセットにして各検査部門に仕分ける。仕分けられた検体は,それぞれの部門にあるPCのExcelに依頼情報を入力し,分析装置に検査項目を入力した後に分析を開始する。臨床検査室で使われているPCはネットワーク化されていないため,患者基本情報(氏名,年齢,依頼部署・医師名,臨床診断等)を各検査部門で入力しなければならない。分析終了後は,装置から打ち出された結果を依頼書にホッチキスで止める,もしくは転記しExcelに結果を入力した後に,その依頼書と入力結果を合わせたものが報告書となる。

Figure 14 

臨床検査室における検体の分析から報告までのフローチャート

医師が臨床検査の結果を確認する場合は,その部署に届けられた報告書を見るか,各臨床検査室に電話で問い合わせる,あるいは自ら各臨床検査室に赴きPC画面から結果を転記している。

IV  考察

この度の派遣経験より日本の臨床検査技師は開発途上国にどのような貢献が出来るのかを考察する。

サモアの臨床検査室の分析工程には様々な課題がある。その課題に対処していくには,やはり分析工程をシステム化していくことが解決策であると考える。現在はインターネットやソーシャルメディアの利用者が世界的規模で普及が拡大しており15),これはサモアでも例外ではない。通信環境が次第に整備され,多くの人がスマートフォン等でインターネットやソーシャルメディアを利用している。今後,このITの普及はサモア国立病院においても進むものと考える。病院内のネットワークが構築されれば,臨床検査室システムの構築が必須の課題となる。検査依頼情報についてもネットワーク化されたシステムに入力,各検査部門では分析装置とシステムをオンライン化することで依頼情報や検査結果を自動的に送受信,分析終了後は報告書を打ち出すとともに,医師がコンピュータで検査結果をいつでも見ることができる仕組みを構築していく必要がある。

一方,日本の臨床検査は開発途上国に対してどのような貢献が出来るのかを考えると,サモア独立国は開発途上国であり,経済的には慢性的な貿易赤字を抱え,日本も多くの有・無償資金協力だけでなく技術協力を行っている3)。サモアの医療の中核をなす国立病院であっても,高額な病院のネットワークを構築し臨床検査システムを導入するには経済的,技術的な様々な課題がある。

日本の臨床検査技師や日本臨床衛生検査技師会は開発途上国の臨床検査の発展に対して,どのような支援が出来るのかを考えるにあたり,サモア国立病院の細菌検査室では日本臨床検査標準協議会(Japan Committee for Clinical Laboratory Standardad; JCCLS)が編集した「JCCLS GP1-P2尿沈渣検査法」の英文版16)Figure 15)が,現在でも日常検査で用いられていることを知らせたい。「JCCLS GP1-P2 尿沈渣検査法」が公開された当時は尿沈渣に関する国際的な標準ガイドラインがなかったこともあり,サモアを含めた広く海外で用いられた17)

Figure 15 

サモアの臨床検査室で使用されているJCCLS GP1-P2尿沈渣検査法(英文版)

日本臨床検査標準協議会(Japan Committee for Clinical Laboratory Standardad; JCCLS)が編集した「JCCLS GP1-P2尿沈渣検査法」の英文版

このことを踏まえるならば,日本には検査室において本当に必要とする知識・技術をまとめた多くの出版物がある。日本臨床衛生検査技師会においても現場で活躍する技師が分担執筆した「新刊・JAMT技術教本シリーズ」18)等を出版している。私はこれらの出版物が英語に翻訳され,国際的に評価されていくなかで各国の検査室に配備されることを望む。

現在の日本における臨床検査はその発展過程において,多くの有能な臨床検査技師,研究者,各産業の技術者等を輩出してきた。現在の臨床検査を担う者は先人が築いた「知識」や「技術」を基に,さらに国際的にも適合出来るように内容を高めていただきたい。

V  まとめ

一人でも多くの臨床検査技師が開発途上国の臨床検査を知り,その経験を基に日本だけでなく世界の臨床検査の発展に寄与していくことが望まれる。その為には,日本から開発途上国に赴く,現地スタッフが来日することで,お互いの現状を知り,課題に対してお互いに知恵を出し合うことで,日本ならではの技術協力ができるように思われる。

2年間のサモア派遣を経験した者として,世界で活動できる臨床検査技師の人材育成,活動の場としてJICAボランティア活動19)を推奨したい。また日本臨床衛生検査技師会としても国際的に活動したいと希望する臨床検査技師を育成・支援を期待する。

謝辞

私の派遣期間中はJICAサモア支所のスタッフの方々に私の活動に対してサポートして頂いた。また私が活動において悩んだ時に,多くのボランティア仲間から様々な助言を頂いた。最後にFigure 16にサモア国立病院の臨床検査室の素敵なスタッフを紹介し全ての人に感謝の意を表する。

Figure 16 

サモアの臨床検査室の素敵なスタッフ

(後列右から5人目が筆者)

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2019 Japanese Association of Medical Technologists
feedback
Top