2019 Volume 68 Issue 1 Pages 132-137
皮膚灌流圧検査(skin perfusion pressure measurement;SPP検査)は,重症虚血肢(critical limb ischemia; CLI)の治療法選択並びに治療効果判定に頻用される。体動などによる測定不良に対して,再測定を行うことがあるが,連続測定による測定値への影響が報告されている。今回SPP検査において,連続測定が検査評価に及ぼす影響について23~67歳の健常者(平均40.8 ± 13.5歳,男性11名,女性13名)を対象に検討した。前脛骨動脈及び内側足底動脈を支配領域とする足背部及び足底部を測定部位に選定し,連続法並びに間隔法にてSPP検査を5回行った。連続法の足背部・足底部,間隔法の足背部・足底部の一元配置分散分析のp値はそれぞれ0.951・0.960・0.838・0.938であり,有意差は認めなかった。変動係数(coefficient of variation; CV)値は足背部群7.4%,足底部群8.5%であり,一部15%を超えるCV高値例も認めたが,CV高値例と各測定法との間に関連性は見いだせなかった。以上により,SPP値の再測定による結果判定への影響は少ないと考えられたが,SPP値の変動要因について更なる検討が必要と考えられる。
重症虚血肢(critical limb ischemia; CLI)は下肢における皮膚の微小循環障害に起因する病態であり,慢性下肢虚血疾患のうち安静時疼痛や趾の潰瘍・壊死等の症状を呈する状態を指す1),2)。CLI患者の予後改善並びに救肢のために重症度評価は重要であり,CLI診断ための種々の検査法が存在する1)~3)。
このうち皮膚灌流圧検査(skin perfusion pressure measurement;SPP検査)は,CLI患者において血行再建術や切断術等の治療法選択及び治療効果の指標として頻用されている4),5)。
SPP測定方法は,測定部位に対してカフ帯により駆血した後,徐々に減圧を行い,それと同時に皮膚血流の再灌流をモニタすることにより行われる。この再灌流開始時のカフ圧が皮膚灌流圧値(SPP値)である。SPP検査はレーザドップラ血流計を用いた検査法であり,体動により測定値の変動(測定不良)をきたす6)。測定時の体動は再測定を要するが,SPP再測定(連続測定)による測定値の変動も報告されている。大平ら7)は,足背部10例および足底部10例の計20例の連続測定を行った結果,10例においてSPP再測定値が初回測定値より10 mmHg以上上昇したため測定間隔に留意が必要であり,15分間間隔をおいた後再測定する方法(間隔法)を推奨している。一方,再測定までに一定時間空ける間隔法は時間もかかり,検査技師及び患者の負担も大きく,SPP検査実施の障害の一つとなっている。今回我々はSPP検査において連続測定が測定値に及ぼす影響について健常人を対象に検討を行ったので報告する。
2014年9月から2015年9月までに本検討の趣旨に同意を得た23~67歳(平均40.8 ± 13.5歳,男性11名,女性13名,計24名)の健常者を対象とした(Table 1)。本検討は金沢医科大学倫理審査委員会(承認番号H0085)の承認を得て行った。
単位 | n | 範囲 | 平均±SD | |
---|---|---|---|---|
年齢 | year | 24 | 23~67 | 40.8 ± 13.2 |
身長 | cm | 24 | 152~178 | 165.8 ± 7.7 |
体重 | Kg | 24 | 36~98 | 61.1 ± 13.6 |
BMI | 24 | 14.7~34.7 | 22.0 ± 3.8 | |
右CAVI | 24 | 5.1~8.6 | 7.2 ± 1.0 | |
左CAVI | 24 | 4.9~8.8 | 7.2 ± 1.0 | |
右ABI | 24 | 0.98~1.26 | 1.1 ± 0.1 | |
左ABI | 24 | 1.02~1.26 | 1.1 ± 0.1 | |
収縮期血圧 | mmHg | 24 | 98~133 | 116.7 ± 9.2 |
拡張期血圧 | mmHg | 24 | 59~94 | 74.7 ± 8.7 |
足背部SPP値 | mmHg | 240 | 47~133 | 94.4 ± 16.1 |
足底部SPP値 | mmHg | 240 | 56~144 | 93.3 ± 17.2 |
SPP検査は,皮下3~4 mmの楕円半球における皮膚血流を測定し,かつプローブの先端に送受光装置が集積する事により8)体動やプローブのずれによるノイズの影響が比較的軽減させているとされるNahri MV monitor SRPP((株)ネクシス)を使用した。
また対象の動脈硬化症等の動脈疾患を除外する目的でABI・CAVI検査を用いて血管機能評価を行った。ABI・CAVI検査にはVasera VS1000(フクダ電子(株)を使用した。
② 測定部位SPP測定部位は,angiosome conceptに則り前脛骨動脈領域及び内側足底動脈領域を標的とし,これ等に該当する右側中足骨レベルにおける第I趾と第II趾との中間点における足背部及び足底部の2か所を選定した。これら2か所は同時測定した9)(Figure 1)。
SPP測定部位
足背部・足底部ともに中足骨レベルにおける第I趾と第II趾との中間点を測定部位に選定した。
測定環境は,エアコンを調整し,検査時の室温を25℃前後に維持した。被検者が寒さを訴えた場合は毛布による保温を行った。測定時間帯は,SPP値における日内変動の可能性を考慮し,午前7時から午前10時に限定した。SPP測定時の駆血圧は,十分な阻血状態を得るために収縮期血圧の50 mmHg以上を目安とし,本検討では200~220 mmHgと設定した。
2) 検討方法測定回数及び測定間隔が測定値に影響を及ぼす可能性を考慮し,同一測定部位に対して測定間隔の異なる連続法と間隔法のプロトコルを策定した(Figure 2)。連続法と間隔法を同時に行う事による測定への影響を回避するために各測定法は別日に実施した。SPP検査は両プロトコルともに15分間仰臥位安静後に施行した。
SPP測定プロトコル
測定間隔の無い測定法(1.連続法)と測定間隔を設けた測定法(2.間隔法)を策定し,測定間隔及び測定回数の違いによるSPP値への影響について検討した。
Nahri MV monitor SRPPにおいて駆血区間血流値(OP値)及びSPP値の設定モードが機器によるオート設定と目視によるマニュアル設定の2通りの方法がある。今回我々はOP値をオート設定により算出した。SPP値はOP値の1.5倍まで再灌流した駆血圧とし,SPP値の定義に従った。SPP値の設定はマニュアル設定で算出した(Figure 3)。
SPP値の定義
SPP値とは駆血により血流が最も低下した時の血流値(駆血区間血流値)の1.5倍の血流値にまで回復した時点での駆血圧を言う。
SPP値の変動は,従属変数をSPP値,独立変数を連続法の足背部・足底部及び間隔法の足背部・足底部,水準を1~5回目として一元配置分散分析により評価した。有意水準はp < 0.05とし,有意差を認めた場合は,どの水準間に差を認めるか評価するため,Tukey-Kramerの多重検定を行った。
SPP値の再現性を評価するため,個々の測定例のSPP値の変動係数(coefficient of variation;CV値)を算出した。さらに,各測定群の再現性について評価するために,各測定群のCV値を算出した。統計学的解析にはBell Curveエクセル統計を使用した。
連続法における足背部・足底部,間隔法における足背部・足底部各測定群のp値は順に0.951・0.960・0.838・0.938であり,有意な変動は認めなかった(Figure 4)。
SPP値の変動
足背部及び足底部のSPP値は,ともに連続測定において有意な変化は認めなかった。
全96件のCV値は,0.9~24.4%の範囲内に分布した。どの測定群においても約60%程度がCV3%以上9%未満の範囲内に分布した。各測定群のCV値の平均は,足背部群7.4%,足底部群8.5%であった(Figure 5)。
各測定群におけるCV値の分布
全ての測定群においてCV値が3%以上9%未満の例が多い。
全96件のうち,CV15%を超えるCV高値例を10件認めた。この10件の内訳は,連続法足背部では1件のみ(25歳男性),連続法足底部では4件(58才女性1件・25歳男性1件・40歳男性1件・30歳男性1件),間隔法足背部では3件(54才男性1件・40歳男性1件・27歳女性1件)間隔法足底部では2件(55才女性1件・40歳男性1件)であった。このうち4件は重複例であった(25歳男性:連続法足背部・連続法足底部,40歳男性:連続法足底部・間隔法足底部)。
SPP検査は皮膚表面の微小循環における灌流圧を測定する検査法である。1919年当初はラジオアイソトープを用いた測定法であり10),その後レーザドップラによる測定法が開発され11),非侵襲的な評価が可能となった。近年,ITの発達と共にコンパクトなモニタが開発され,検査室においてより簡便に検査が可能となった。
レーザドップラ血流計を用いて行われるSPP検査は,皮膚・皮下組織における毛細血管・細動脈・細静脈が存在する微小循環領域を連続的にモニタすることに行われ,非侵襲的かつ簡便に検査が可能である。一方,再測定によるSPP値への影響も報告されている7)。これに対し,今回我々が行ったMV monitor SRPPを使用したSPP検査の連続測定において,SPP値は有意な変動を認めなかった。我々の検討結果と既報との結果乖離の原因として,測定例数の違いも一因と考えられるが,SPP値及び駆血区間血流値の設定モードの相違が考えられる。
駆血区間のオート設定が推奨される理由として,オート設定では駆血後の最小血流値を呈した部分を駆血区間血流値として自動計測しており,阻血の定義とも矛盾しないことが考えられる。
SPP値のオート設定では,駆血区間以降最初に血流値が再灌流値に達した部分をSPP値として自動判定する。このため,ノイズで生じた血流値の増加が真の再灌流より早期に出現しかつ再灌流値に達した場合,オート設定ではノイズ部位がSPP値と判定され,偽高値となる。血流値の増加がノイズであるか否かは目視による確認(マニュアル設定)を行わないと鑑別が難しい。SPP値のマニュアル設定が推奨される理由はこのためと考えられる。本検討では,見かけ上体動がほとんど無かった健常人を対象としたが,オート設定とマニュアル設定とのSPP値の乖離例は,足背部群193/240件,足底部群127/240件認めた。SPP測定が良好かどうか判断するためにも測定中におけるモニタの目視確認は重要であり,SPP値の判定にはメーカー推奨の目視による判定(マニュアル設定)を行うべきである。SPP値の測定に当たり,駆血区間血流値の設定モードをオート設定で,SPP値の設定モードをマニュアル設定する事がメーカー推奨となっている。当院ではメーカー推奨通りに測定を行っているが,設定モードの違いにより測定値は変動するため注意が必要である。
各測定群におけるSPP値のCV値は,約60%が3%以上9%未満の範囲内に分布し,再現性良好であった。このようにCV値が低値を示したことからも,連続測定によるSPP値への影響は非常に少ないと考えられた。一方,CV値15%以上のCV高値例は全96件中10件と少数認めたが,CV高値例と年齢・性別・測定法との関連性は見いだせなかった。SPP値が上腕血圧に代表される体血圧に依存するとの報告もあり12)~14),変動要因については更なる検討が必要と考えられた。またSPP検査は,自律神経支配を受ける皮膚血流の灌流圧を測定する繊細な評価方法であり11),13),14),自律神経障害及び皮膚微小循環障害を有する動脈疾患群等における連続測定の影響等については今後更なる検討が必要である15)。
現在臨床現場で使用されているレーザドップラ血流計はそれぞれレーザー波長や測定深度及び機器構造に違いがある。ゆえに各装置により測定範囲の皮膚構造並びに血管構造の違いがあるため,カットオフ値の機種間差には注意が必要と考えられた12),13)。
Nahri MV monitor SRPPを用いたSPP検査は連続測定を行っても,その結果に有意な影響を及ぼさないと考えられる。一方,基礎疾患や使用機器などの変動要因については更なる検討が必要である。
本論文の作成にあたり,ご指導とご助言をいただきました庭山医院 庭山淳先生並びに(株)ネクシス 宮原隆明先生に感謝いたします。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。