Japanese Journal of Medical Technology
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Difference in diagnosis of slowly progressive type 1 diabetes by changing the measurement method of anti-GAD antibodies from RIA method to ELISA method
Masaki TANABEShota MOYAMAYoshihiro NISHIMURADaiki SAKURAIAkira KUROEMasahiro HISHIZAWAHideki YANO
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2019 Volume 68 Issue 2 Pages 347-352

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Abstract

グルタミン酸脱炭酸酵素(glutamic acid decarboxylase; GAD)抗体の測定法が2015年12月より放射免疫測定(radioimmuoassay; RIA)法から酵素免疫測定(enzyme-linked immunosorbent assay; ELISA)法へ変更となった。本研究では,測定法の違いが緩徐進行1型糖尿病(slowly progressive type 1 diabetes; SPIDDM)の診断へ及ぼす影響について検討した。対象は本院に2型糖尿病として通院中の患者で2013年1月から2015年12月までにRIA法による測定をした405例。全例で2016年中に再検査を行い,両測定法から得られたGAD抗体の陽性率を比較検討した。RIA法では28例が陽性であり,SPIDDMと診断された。そのうち,ELISA法では9例が陽性であり,陽性一致率は35.7%であった。陰性一致率は99.5%と高かったが,陽性一致率に乖離がみられた。次に,相関関係を調べたところ,RIA法で8.0 U/mL以上の場合において,正の相関となったが,8.0 U/mL未満の場合に相関関係は認められず,多くの症例はELISA法で陰性となった。以上より,RIA法とELISA法から得られるGAD抗体の判定には乖離があり,ELISA法による緩徐進行1型糖尿病の診断には注意が必要である。

Translated Abstract

The method of measuring serum anti-GAD antibodies has been changed from the RIA method to the ELISA method since December 2015. Along with this change, it is necessary to reconsider the interpretation of the values measured using the ELISA method in comparison with those measured using the RIA method. In this study, the effect of the method used on the diagnosis of SPIDDM was examined. The subjects were 405 patients with type 2 diabetes who underwent anti-GAD antibody measurements using the RIA method from January 2013 to December 2015 and were currently visiting our hospital. All patients were reexamined for the GAD antibody titer using the ELISA method in 2016, and the positive rates of GAD antibodies obtained from both measurement methods were compared. With the RIA method, 28 patients (6.9%) tested positive (1.5 U/mL or more) and were diagnosed as having SPIDDM. Among them, 9 patients tested positive (5.0 U/mL or more) when using the ELISA method, and the positive concordance rate was only 35.7%. However, the negative concordance rate was as high as 99.5%. There was a strong correlation between the values measured using the ELISA and RIA methods. Furthermore, the tendency became significant in patients with titers of 8.0 U/mL or more determined using the RIA method. However, 17 of the 22 patients with titers of less than 8.0 U/mL determined using the RIA method tested negative when using the ELISA method. In summary, there is a divergence between the titers of serum GAD antibodies determined using the RIA and ELISA methods, and the diagnosis of SPIDDM based on the results of the ELISA method needs attention.

I  はじめに

グルタミン酸脱炭酸酵素(glutamic acid decarboxylase; GAD)は,抑制性神経伝達物質であるγ-アミノ酪酸(γ-aminobutyric acid; GABA)を合成する酵素であり,生体内では膵島細胞や脳などの中枢神経系や甲状腺に存在している。GADにはGAD65(分子量65 kDa)とGAD67(分子量67 kDa)という分子量の異なった2つのアイソフォームが存在している。脳・神経組織では両方が存在しているが,膵β細胞ではGAD65がほとんどを占めている。このGAD65に対する自己抗体がGAD抗体であり,①自己免疫性1型糖尿病の診断のマーカーとして,②自己免疫性1型糖尿病の発症予知の指標として,③インスリン非依存状態として発症している緩徐進行1型糖尿病(slowly progressive type 1 diabetes; SPIDDM)患者を早期に発見する診断マーカーとして,④stiff-person症候群やautoimmune polyglandular syndromeで1型糖尿病を発症しない例の診断指標として,測定される1)

2012年に1型糖尿病調査研究委員会から,SPIDDMの診断基準が示された2)。当診断基準では,①経過のどこかの時点でGAD抗体もしくは膵島細胞抗体(pancreatic islet cell antibodies; ICA)が陽性である。②糖尿病の発症(もしくは診断)時,ケトーシスもしくはケトアシドーシスはなく,ただちには血糖是正のためインスリン治療が必要とならないとされている。しかしながら,ICA抗体は保険未収載であるため,GAD抗体の陽性が診断の鍵となっている。

我が国では旧来,放射免疫測定(radioimmuoassay; RIA)法によるコスミック社GADキットのみが使用され,放射標識されたN末端(2~47)を含まないrecombinant GAD65を免疫沈降する方法で測定され,その陽性基準は1.5 U/mL以上と規定されている。しかし,RIA法では測定値の単位が国際基準と異なっていたため,海外データと比較する際は単位の変換が必要であった。近年,酵素免疫測定(enzyme-linked immunosorbent assay; ELISA)法による測定キットが同じくコスミック社より開発され,完全鎖長のGAD65タンパクを抗原として用いている3)。放射性物質を取り扱わない測定法であること,RIA法と比較して感度や特異度が良好であること,さらに国際標準単位に準拠しているため国際比較が容易になったことなどを理由に我が国では2015年12月より,RIA法からELISA法へ測定法が変更となった。しかしながら,SPIDDMの診断や治療の方針決定にあたり一部混乱が生じる事態となった。それに伴い,2016年3月に日本糖尿病学会より「GAD抗体測定法の変更への対処法に関するRecommendation」が提言され,両測定法から得られる判定が一致しないケースが少なくないため,ELISA法における1型糖尿病の診断や将来のインスリン依存への予測に有用となるかなどの課題が挙げられている4)

以上の背景に加えて,2型糖尿病の診断を受け治療中である患者の中には,緩徐進行1型糖尿病である患者が潜在していることも報告されている5)。今回,ELISA法によるGAD抗体の測定が緩徐進行1型糖尿病の判定に及ぼす影響を調べ,若干の知見を得たので報告する。

II  方法

1. 対象者と検体

対象は当院に2型糖尿病として通院している患者のうちSPIDDM患者を抽出する目的で2013年から2015年12月までにRIA法による測定を実施していた405例(男性241例,女性164例,平均年齢68.5 ± 13.4歳)であり,HbA1cは7.3 ± 1.0(%)であった。また405例中183例がインスリン治療を導入されていた。同一患者で測定法変更後,約1年の間隔を置いてELISA法によるGAD抗体検査を実施した。

2. GAD抗体価の測定およびGAD抗体陽性の定義

コスミック社の測定キットに準拠して,RIA法では1.5 U/mL以上,ELISA法では5.0 U/mL以上を陽性と定義した。それぞれの測定法から得られたGAD抗体の陽性率および陰性率を調査し,RIA法においてGAD抗体陽性であると判定された症例に関して,ELISA法による測定結果との関連性について検討した。

3. 統計解析

統計解析には,解析ソフト〔エクセル統計(株式会社 社会情報サービス)〕を用い,数値は平均値±標準偏差で示した。RIA法およびELISA法それぞれの測定から得られた血中GAD抗体価全体の陽性一致率と陰性一致率の比較にはフィッシャーの直接確率検定を用いた。また,それぞれの測定法から得られた抗体価の相関分析には,ピアソンの積率相関係数を用いた。さらに,RIA法において抗体価が8.0 U/mLを基準として,基準値以上群と基準値未満群において異なる傾向がみられたため,それぞれの群別にELISA法による測定値との相関分析も行った。なお,統計学的有意水準は危険率5%未満とした。

III  結果

血中GAD抗体の陽性例は,RIA法では405例中28例(6.9%),ELISA法では405例中13例(3.2%)であった。両測定法における全体の陽性一致率は35.7%と低かったのに対し,陰性一致率は99.5%と高く,両測定法から得られる陽性検出率には乖離がみられた(p < 0.001)。

RIA法にてGAD抗体陽性となった28例に関して,それぞれの年齢,性別,GAD抗体価(RIA法,ELISA法),HbA1c値,甲状腺疾患の有無およびインスリン治療の有無を示した(Table 1)。RIA法にて陽性であった28例中19例においてELISA法では陰性となり,両測定法間で陽性一致率に相違がみられた。RIA法の抗体価1.5 U/mLから8.0 U/mLの低値陽性例は28例中22例であったが,このうちELISA法でもGAD抗体陽性となったものはわずかに3例であり,陽性一致率は13.6%と低かった。一方で,RIA法の抗体価が8.0 U/mL以上であった6例ではELISA法でもすべてGAD抗体陽性となり,陽性一致率は100%であった。

Table 1  RIA法にてGAD抗体陽性となった28例の臨床背景
年齢 性別 RIA法(U/mL) ELISA法(U/mL) HbA1c(%) 甲状腺疾患 インスリン治療
57 M 1.5 11.4 6.4 あり なし
65 F 1.5 < 5.0 6.7 なし なし
80 F 1.6 < 5.0 7.2 なし あり
77 F 1.6 < 5.0 7.4 なし なし
65 M 1.7 < 5.0 6.6 なし なし
70 F 1.7 15.5 6.7 あり あり
58 M 1.8 < 5.0 8.2 なし なし
76 F 1.9 < 5.0 7.3 なし あり
57 F 2.1 < 5.0 8.0 なし あり
62 F 2.1 < 5.0 6.2 なし なし
60 F 2.3 < 5.0 6.3 なし あり
56 M 2.3 < 5.0 7.9 なし あり
59 F 2.6 < 5.0 6.8 なし なし
62 M 2.6 < 5.0 7.1 なし あり
86 M 3.0 < 5.0 10.2 なし なし
80 F 3.2 < 5.0 7.2 なし なし
75 M 3.4 < 5.0 8.5 なし なし
65 M 3.6 55.9 9.3 なし あり
81 F 3.8 < 5.0 6.7 なし なし
71 M 4.5 < 5.0 7.0 なし なし
85 M 4.5 < 5.0 10.1 なし なし
89 F 7.5 < 5.0 8.6 なし あり
80 F 9.3 6.1 8.1 なし なし
66 F 13.4 127 6.5 あり なし
45 M 14.1 197 5.8 なし あり⇒なし
74 F 14.3 133 8.0 あり あり
93 F 23.3 589 7.3 あり あり
45 F 18,200 > 2,000.0 7.1 あり なし

RIA法にてGAD抗体陽性となった28例に関して,それぞれの測定法から得られた血中GAD抗体価の相関関係をみたところ,両者の間には有意な正の相関関係が認められたが,特にRIA法で8.0 U/mL以上の場合において,その傾向は顕著となった(r = 0.99, p < 0.001)。しかしながら,RIA法で8.0 U/mL未満の場合に相関関係は認められず,ほとんどの症例はELISA法で陰性の判定となった(Figure 1)。

Figure 1 RIA法で陽性であった28例におけるELISA法との相関関係(RIA法におけるGAD抗体価8.0 U/mLで分けた相関)

▲:RIA法で8.0 U/mL未満(N = 22)での相関関係(a)

●:RIA法で8.0 U/mL以上(N = 6)での相関関係(b)

IV  考察

GAD抗体価がRIA法で8.0 U/mL未満の低値陽性のSPIDDMの大半(22例中19例:86%)がELISA法では陰性となった。このような症例では,ELISA法では検出下限値が5.0 U/mLであるため,真の値がELISA法検出下限域未満であることによる偽陰性化の可能性や,その他の未だ明らかでない原因による影響が考えられる。日本糖尿病学会による「GAD抗体測定法の変更への対処法に関するRecommendation」では,RIA法で陽性だった例が陰性化した場合は,この可能性を考慮し,RIA法によるこれまでの豊富なエビデンスを優先し診療を行うことを推奨している。従来,RIA法で10.0 U/mL未満のSPIDDM例では,インスリン依存状態への進展リスクが低いとされ,その中の一部にはELISA法で真の陰性,すなわちもともとSPIDDMではなく2型糖尿病として扱うべき症例が本研究にも含まれていた可能性がある。そこで,外来通院中に再度血中Cペプチドの測定を行い,血糖コントロールの状態やその他の合併症などを十分に考慮した結果,RIA法にてSPIDDMと診断された28例でELISA法にて陰性となった19例のなかで,11例が2型糖尿病の診断となった。

一方,急性発症1型糖尿病については,ELISA法への変更によって有意差は認めないが陽性率が若干増加した(RIA法:80.6%,ELISA法:84.2%)との報告がある3),6)

2型糖尿病と考えられてきた患者がGAD抗体陽性でSPIDDMの診断に至った場合,治療としてインスリンの導入を積極的に勧めるかどうかが問題となる。この点に関して,Tokyo Studyの結果を踏まえて1型糖尿病調査研究委員会で検討され7),RIA法でGAD抗体価が10.0 U/mL以上の場合はインスリン依存状態へ進行しやすいが,10.0 U/mL未満ではインスリン依存状態へ進行することは少ないことが報告されている。そのため,前者では膵β細胞を疲弊させるSU薬やグリニド薬を中止し,少量のインスリン療法に切り替えるように推奨されている8)。RIA法10.0 U/mLに相当するELISA法のカットオフ値が約100 U/mLとする及川らの報告3)があるが,RIA法10.0 U/mLに相当するELISA法のカットオフ値の妥当性についてはエビデンスが不足しており,今後の症例の蓄積による結果が待たれる。

しかし,RIA法でGAD抗体低値陽性例でも早期にインスリン依存状態に陥った例も認められており,一概には規定できないことは十分に認識すべきである。

インスリン依存状態となるのは,膵β細胞の破壊によるものである。このメカニズムについては,様々な基礎研究がなされており,自己免疫応答の発生から,膵島炎の形成に至り,最終的に膵β細胞のアポトーシスを誘導し細胞死に至ることが原因であると考えられている9)~11)。GAD抗体が陽性であることは,この自己免疫応答が発生するまたは既に発生しているため,SPIDDMにおいて将来,膵β細胞機能が極度に低下する可能性があることを意味している。橋本病やバセドウ病のような甲状腺自己免疫疾患や脳疾患の一部を伴った場合しばしばGAD抗体は高値を示すことが報告されているが12)~14),本研究においても甲状腺疾患を合併した場合に高値となることが示された(Table 1)。しかし,GAD抗体が高値であることとSPIDDMを含む1型糖尿病の病勢とは無関係であり,単に免疫反応の強弱を示しているだけと考えられている。また一方で,SPIDDMでもインスリン依存状態に陥った場合は,GAD抗体価が低下し,一部の症例では経年的に陰性化することが知られている。本研究において,約1年の間隔を置いた同一症例であっても別検体での比較のため,経時的にELISA法での測定値が低値となり陰性化した可能性を否定できないが,UKPDS77において初期にGAD抗体が陽性であった242例のうち,6年後に17例が陰性となったことが報告されており15),本研究における1年間での経時的陰性化の可能性は確率的に低いと考えられる。

以上のことから,2型糖尿病と考えられてもELISA法でGAD抗体陽性例はSPIDDMとして,最終的にインスリン依存状態になるのか,インスリンが必要になるまでの期間はどのくらいか等を長期にわたって経過を追っていく必要があり,特にELISA法によるGAD抗体の高値陽性例では,インスリン療法の早期導入も視野に治療方針の見直しが必要である。また,GAD抗体陰性例の場合でも,定期的に血中Cペプチド測定を行うなど内因性インスリン分泌能の経過観察が重要であり,IA-2抗体など他の膵島自己抗体も併せて測定し16),介入もしくは経過観察をすべきである。

V  結語

SPIDDMを診断するにあたり,GAD抗体は新しいELISA法と従来のRIA法による判定に乖離が認められる。その結果の解釈においては他の検査とあわせて総合的に判断すべきと考える。

 

本研究は彦根市立病院の研究倫理委員会で承認されたものである(承認番号:28-14)。

本稿の一部のデータは平成29年度日本糖尿病学会(第60回,名古屋)にて発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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