2019 Volume 68 Issue 2 Pages 296-301
抗酸菌を迅速に同定することは,治療方針の決定と院内感染対策において重要であり,迅速検査法として遺伝子検査が利用されている。今回,TRCReady(TRC,東ソー)のEXTRAGEN ZR(EX)とTRCR抗酸菌溶菌試薬(TRCR)を用いた結核菌群,Mycobacterium avium(MAV)およびM. intracellulare(MIN)の検出性能を検討した。前処理後の臨床検体(結核菌群:71検体,MAV/MIN:76検体)をTRCで測定し,EXとTRCRの一致率を算出した。M. bovis BCG,MAVおよびMINの標準菌株を用いて希釈系列を作製し,希釈液をTRCによる測定と定量培養した結果から検出感度を算出した。EXとTRCRの陽性/陰性一致率は,結核菌は33%(2/6),100%(65/65),MAVは57%(8/14),100%(62/62)であった。EXとTRCRの結果が乖離した10検体は,全てEX陽性/TRCR陰性かつ塗抹陰性であった。EXとTRCRの検出感度は,M. bovis BCGは60 CFU/mLと3,000 CFU/mL,MAVは30 CFU/mLと360 CFU/mL,MINは30 CFU/mLと690 CFU/mLであった。EXはTRCRより高感度であり,少量の菌を含む検体中の結核菌群,MAV,MINの検出に有用と考えられた。
The rapid identification of acid-fast bacteria for determining a treatment plan and preventing nosocomial infections is critical. The nucleic acid amplification test is used for the rapid identification of acid-fast bacteria. We evaluated the performances of TRCReady with EXTRAGEN (EX) and TRCR MB-Lysis Reagent (TRCR) to detect Mycobacterium tuberculosis complex (TB), Mycobacterium avium (MAV), and Mycobacterium intracellurare (MIN). For the detection of 71 clinical samples targeting TB, the positive and negative concordance rates between EX and TRCR were 33% (2/6) and 100% (65/65), respectively. For the detection of 76 clinical samples targeting MAV and MIN, the positive and negative concordance rates between EX and TRCR were 57% (8/14) and 100% (62/62), respectively. The 10 samples that confirmed a discrepancy between EX and TRCR showed EX-positive/TRCR-negative and smearing test negative. For measuring the dilution series of type strain (Mycobacterium bovis BCG, MAV, and MIN) with TRCReady and for measuring the number of colonies, the detection limits of EX for M. bovis BCG, MAV, and MIN were 30, 60, and 30 CFU/mL, respectively. On the other hand, the detection limits of TRCR for M. bovis BCG, MAV, and MIN were 3,000, 360, and 690 CFU/mL, respectively. Compared with TRCR, EX showed higher performance to detect TB, MAV, and MIN. EX is presumed to be useful for the detection of TB, MAV, and MIN from samples containing a small amount of bacteria.
日本における平成29年の結核罹患率(人口10万対)は13.3と減少傾向にある1)が,結核低蔓延の水準である罹患率10を下回る多くの欧米諸外国と比較して,罹患率は高い状況にある。一方,世界的に非結核性抗酸菌(nontuberculousis mycobacteria; NTM)による肺NTM症の患者数は増加傾向にある。日本における肺NTM症の罹患率も,1997年に3.52であったのに対して,2007年は5.7,2014年では14.7と増加している2)。肺NTM症で分離頻度が高いMycobacterium avium(MAV)とM. intracellulare(MIN)はMycobacterium avium complex(MAC)と呼ばれ,肺NTM症の主要な原因菌となっている。
結核の感染様式は空気感染であり,結核患者から排出された飛沫核の吸入によりヒトからヒトへと感染するが,NTMはヒトからヒトへ感染しないと考えられている。また,結核とNTM症では治療方針が異なることから,結核とNTM症の鑑別を迅速に行うことは,院内感染対策と治療方針を決定する上で重要である。古くから実施されている抗酸菌検査法として,塗抹検査と培養検査がある。塗抹検査は排菌量の把握,治療経過の評価,退院時期の判断などの患者管理に不可欠な検査法である。しかし,陽性となるためには検体1 mL当たり約5,000~10,000個以上の抗酸菌が必要であり3),結核菌とNTMを鑑別できない。培養検査は,塗抹検査と比較して感度に優れており,分離菌株を用いて薬剤感受性試験を行うことができるため,抗酸菌症の診断と治療を行う上で欠かすことのできない検査である。しかし,検査結果の報告までに数日~数週間の長時間を必要とするため,迅速診断には不向きである。
現在は,PCR法をはじめとした核酸増幅検査が開発されたことにより,結核症とNTM症を迅速に鑑別できるようになった。核酸増幅検査は,生菌と死菌を区別なく検出するため,治療経過のフォローアップには原則的に使用できないが,塗抹検査と比較して高感度であり,培養検査より迅速に菌名を報告することが可能である。今回,我々が検討したTRCReady(東ソー)は,インターカレーター蛍光標識されたDNAプローブと一定温度RNA核酸増幅法を組み合わせて,RNAを1ステップで核酸増幅・リアルタイム検出する転写-逆転写協奏反応(transcription reverese transcription concerted reaction;TRC法)を原理とした核酸増幅検査法である4)。TRCReadyでは検体を装置に架設する前に溶菌処理キットが必要であり,従来はTRCR抗酸菌溶菌試薬(TRCR,東ソー)が用いられてきた。この度,ジルコニアビーズによる振とう破砕とインキュベーションを組み合わせて溶菌するEXTRAGEN ZR(EX,東ソー)が新たに開発された。今回,EXを用いたTRCReadyの結核菌群(結核菌)およびMAC検出能力の評価を目的として検討したので報告する。
2018年3月から2018年6月までに当院診療科から提出された検体のうち,担当医師の依頼に基づいて結核菌またはMACの抗酸菌培養検査および核酸増幅検査を実施した検体を対象とした。結核菌の検査材料は71検体であり,内訳は喀痰40検体,気管支・肺胞洗浄液12検体,その他(胃液,胸水,尿,便,髄液,膿,組織)19検体であった。MACの検査材料は76検体であり,内訳は喀痰44検体,気管支・肺胞洗浄液12検体,その他(胃液,胸水,尿,便,髄液,膿,組織)20検体であった。検出感度の検証では,M. bovis BCG(ATCC35737, BCG),MAV(ATCC25291),MIN(ATCC13950)の標準菌株を用いた。本検討は,旭川医科大学倫理委員会の承認(承認番号:16042)を得て実施した。
2. 臨床検体の前処理喀痰は,タンパク質分解酵素セミアルカリプロテアーゼのスプタザイム(極東製薬工業)を用いて均質化した後,3,000 gで20分間冷却遠心し,上清を除去した沈査を検体とした。液状検体は,3,000 gで20分間冷却遠心し,上清を除去した沈査を検体とした。血液成分が大量に混入した検体は,核酸増幅反応の阻害を防止するために溶血処理(滅菌精製水を添加して赤血球を溶血させる)を実施し,3,000 gで20分間冷却遠心し,上清を除去した沈査を検体とした。検体の前処理はN-Acetyl-L-Cysteine (NALC)-NaOH法により行い,NALC-NaOH処理済検体を用いて塗抹検査,培養検査(固形培養,液体培養),核酸増幅検査を実施した。固形培養は工藤PD培地(プラ)(日本ビーシージー製造),液体培養はミジットPANTA(日本ベクトン・ディッキンソン)を添加したミジット分離培養剤(日本ベクトン・ディッキンソン)を用いた。NALC-NaOH処理済検体の培地への接種量は,固形培養は100 μL,液体培養は500 μLとした。培養検査で菌の発育を認めた場合には,チール・ネールゼン染色で発育菌の抗酸性を確認し,発育コロニーまたは培養液を検体としてTRCRを用いたTRC法により同定検査を実施した。核酸増幅検査は,EXとTRCRの各溶菌試薬の処理済検体をTRC法で測定した。EXはそのまま使用し,TRCRはクリーンベンチ内でPCRチューブ(2.0 mL)に200 μLずつ分注したものを使用した。スピンダウンした各試薬に対してNALC-NaOH処理済検体200 μLを分注し,ボルテックスしたものをTRC測定検体とした。TRC測定検体は,検査実施まで−20℃以下で凍結保存し,1ヶ月以内に測定を実施した。
3. 溶菌処理凍結保存したTRC測定検体を室温下で融解させた後,次の手順で溶菌を実施した。
1) EXTRAGEN ZR検体を振とう破砕機DISRUPTOR GENIE(Scientific Industries)で5分間振とう後,75℃のブロック恒温槽で5分間加温した。その後,検体を10,000 gで1分間遠心し,上清300 μLをTRCR核酸精製キット(東ソー)の変性試薬に添加し,ボルテックス後にスピンダウンした。
2) TRCR抗酸菌溶菌試薬検体をボルテックス後にスピンダウンし,80℃のブロック恒温槽で10分間加温した。その後,検体を13,000 gで1分間遠心し,上清350 μLをTRCR核酸精製キットの変性試薬に添加し,ボルテックス後にスピンダウンした。
4. 核酸精製,核酸増幅および検出自動遺伝子検査装置TRCReady-80(東ソー),TRCR核酸精製キット,TRCReady MTB およびMACを用いて,キット添付の取扱説明書に記載された方法に準じて核酸精製,核酸増幅および検出を行った。
5. 検出感度の検証 1) 検体調製BCG,MAV,MINの各標準菌株を工藤PD培地(プラ)に接種し,37℃で2週間好気培養を行った後,発育コロニーをマイコビーズ(極東製薬工業)に懸濁し,培養液の濁度がMcFarland No. 1.0程度になるまで37℃で好気培養を行った。McFarland No. 1.0の培養菌液を冷却したマイコブロス(極東製薬工業)を用いてMcFarland No. 0.5となるように希釈し,McFarland No. 0.5培養液をマイコブロスで104倍希釈したものを測定原液とした。測定原液を冷却したマイコブロスを用いてTable 1に示した内容で段階希釈を行った。これを検体として,次の手順で核酸増幅検査と希釈培養液中の菌量測定を行った。
希釈液No. | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 |
---|---|---|---|---|---|
希釈倍数(N倍) | 10 | 2 | 2 | 2 | 2 |
希釈培養液(mL) | 0.4 | 2.0 | 2.0 | 2.0 | 2.0 |
マイコブロス(mL) | 3.6 | 2.0 | 2.0 | 2.0 | 2.0 |
検体調整で作製した各希釈培養液200 μLを検体として,EXとTRCRを用いて,臨床検体と同様に溶菌処理,核酸精製,核酸増幅および検出を行った。各培養液について3重測定を行い,3回全ての測定で検出可能な最も菌量の少ない希釈培養液中の菌量を検出感度とした。
3) 希釈培養液中の菌量測定各希釈培養液100 μLを7H11寒天培地(日本ベクトン・ディッキンソン)に接種し,コンラージ棒を用いて培養液を培地全面に塗布した後,37℃で炭酸ガス培養を行った。7H11寒天培地にコロニーの発育が十分に観察された時点で,測定数の上限を300として,コロニー数を測定した。各希釈培養液について3重測定を行い,3重測定の平均値を各希釈培養液の発育コロニー数とした。
EX,TRCRの両溶菌試薬を用いたTRC法による結核菌検出試験の結果をTable 2に示す。EXとTRCRの全一致率は94%(67/71),陽性一致率は33%(2/6),陰性一致率は100%(65/65)であった。TRC法で結核菌陽性を認めた検体をTable 3に示す。EXとTRCRの結果が乖離を認めた検体はEX陽性/TRCR陰性となった4検体であり,いずれも塗抹陰性であった。EX陽性/TRCR陰性となった4検体中3検体は培養陽性,1検体は培養陰性であった。培養陽性/TRC法陰性の検体は認められなかった。
結核菌群 | TRCR抗酸菌溶菌試薬 | |||
---|---|---|---|---|
陽性 | 陰性 | 計 | ||
EXTRAGEN ZR | 陽性 | 2 | 4 | 6 |
陰性 | 0 | 65 | 65 | |
計 | 2 | 69 | 71 | |
一致率(%) | 全体94(67/71) | |||
陽性33(2/6) | ||||
陰性100(65/65) |
検体 | EX | TRCR | 塗抹検査 | 培養検査 | |
---|---|---|---|---|---|
固形培養 | 液体培養 | ||||
1 | + | + | − | + | + |
2 | + | + | − | − | + |
3 | + | − | − | + | + |
4 | + | − | − | + | + |
5 | + | − | − | − | + |
6 | + | − | − | − | − |
EX:EXTRAGEN ZR,TRCR:TRCR抗酸菌溶菌試薬
EX,TRCRの両溶菌試薬を用いたTRC法によるMAV検出試験の結果をTable 4に示す。EXとTRCRの全一致率は92%(70/76),MAVの陽性一致率は57%(8/14),陰性一致率は100%(62/62)であり,MIN陽性となった検体は認められなかった。TRC法でMAV陽性を認めた検体をTable 5に示す。EXとTRCRの結果が乖離を認めた検体は,EX陽性/TRCR陰性となった6検体であり,いずれも塗抹陰性であった。EX陽性/TRCR陰性となった6検体中4検体は培養陽性,2検体は培養陰性であった。培養陽性/TRC法陰性となった検体は1検体であり,塗抹陰性かつ液体培養のみ陽性となった。
M. avium | TRCR抗酸菌溶菌試薬 | |||
---|---|---|---|---|
陽性 | 陰性 | 計 | ||
EXTRAGEN ZR | 陽性 | 8 | 6 | 14 |
陰性 | 0 | 62 | 62 | |
計 | 8 | 68 | 76 | |
一致率(%) | 全体92(70/76) | |||
陽性57(8/14) | ||||
陰性100(62/62) |
検体 | EX | TRCR | 塗抹検査 | 培養検査 | |
---|---|---|---|---|---|
固形培養 | 液体培養 | ||||
1 | + | + | 2+ | + | + |
2 | + | + | 1+ | + | + |
3 | + | + | 1+ | + | + |
4 | + | + | 1+ | + | + |
5 | + | + | 1+ | − | + |
6 | + | + | − | + | + |
7 | + | + | − | + | + |
8a | + | + | − | − | − |
9 | + | − | − | − | + |
10 | + | − | − | − | + |
11 | + | − | − | − | + |
12 | + | − | − | + | − |
13a | + | − | − | − | − |
14 | + | − | − | − | − |
EX:EXTRAGEN ZR,TRCR:TRCR抗酸菌溶菌試薬
a:MAC治療症例
今回の検討中に,結核菌とMAC以外の抗酸菌が4検体で検出され,内訳はM. abscessus 1検体(MAV陽性検体),M. lentiflavum 3検体(2検体は同一患者から採取された検体)であった。結核菌とMAC以外の抗酸菌が検出された4検体について,TRC法における交差反応は認められなかった。
2. 検出感度試験標準菌株を用いた検出感度試験の結果をTable 6に示す。結核菌の検出感度は,EXでは60 CFU/mL,TRCRで3,000 CFU/mLであった。MAVの検出感度は,EXでは30 CFU/mL,TRCRで360 CFU/mLであった。MINの検出感度は,EXでは30 CFU/mL,TRCRで690 CFU/mLであった。
M. bovis BCG | M. avium | M. intracellulare | |||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
培養液 | CFU/mL | 陽性数(N/3) | 培養液 | CFU/mL | 陽性数(N/3) | 培養液 | CFU/mL | 陽性数(N/3) | |||
EX | TRCR | EX | TRCR | EX | TRCR | ||||||
原液 | 3,000 | 3/3 | 3/3 | 原液 | 3,000 | 3/3 | 3/3 | 原液 | 3,000 | 3/3 | 3/3 |
1 | 610 | 3/3 | 2/3 | 1 | 860 | 3/3 | 3/3 | 1 | 690 | 3/3 | 3/3 |
2 | 190 | 3/3 | 0/3 | 2 | 360 | 3/3 | 3/3 | 2 | 310 | 3/3 | 2/3 |
3 | 70 | 3/3 | 2/3 | 3 | 170 | 3/3 | 0/3 | 3 | 130 | 3/3 | 1/3 |
4 | 60 | 3/3 | 1/3 | 4 | 100 | 3/3 | 1/3 | 4 | 50 | 3/3 | 1/3 |
5 | 20 | 2/3 | 0/3 | 5 | 30 | 3/3 | 1/3 | 5 | 30 | 3/3 | 0/3 |
検出感度(CFU/mL) | 60 | 3,000 | 検出感度(CFU/mL) | 30 | 360 | 検出感度(CFU/mL) | 30 | 690 |
EX:EXTRAGEN ZR,TRCR:TRCR抗酸菌溶菌試薬
臨床検体を用いた結核菌の検出について,EXとTRCRの結果が乖離を認めた4検体(EX陽性/TRCR陰性)はいずれも塗抹陰性であったことから,検体中の菌量が少ない検体であったと考えられた。また,乖離検体はいずれもEX陽性/TRCR陰性であったことから,菌量の少ない検体における検出能力はEXの方が高いと考えられた。しかし,TRC法の結果が乖離を認めた検体(EX陽性/TRCR陰性)のうち,1検体は培養陰性であった。培養陰性となった1検体は,抗結核薬投与前の粟粒結核患者から採取された喀痰であり,同一患者から採取された他の検体でTRC法及び培養検査で結核菌陽性を認めた検体であった。EX陽性/培養陰性となった原因は,検体中に存在した少量の菌が偏在していた可能性が考えられた。
臨床検体を用いたMAVの検出について,EXとTRCRの結果が乖離を認めた6検体(EX陽性/TRCR陰性)はいずれも塗抹陰性であったことから,検体中の菌量が少ない検体であったと考えられた。乖離検体はいずれもEX陽性/TRCR陰性であったことから,菌量の少ない検体におけるMAVの検出能力は,結核菌と同様にEXの方が高いと考えられた。TRC法の結果が乖離を認めた検体(EX陽性/TRCR陰性)のうち,2検体は培養陰性であった。培養陰性となった2検体中1検体はMAC症の治療が行われている患者から採取された喀痰であり,検体中に少量の死菌が存在したことにより,TRC法にてEX陽性/TRCR陰性かつ培養陰性になったと考えられる。培養陰性となった残り1検体は,抗好中球細胞質抗体関連血管炎の患者から採取された喀痰であった。同患者に対して抗MAC抗体の検査は未実施であったが,他の日に提出された喀痰からはMAVは検出されず,MACを標的とした治療は実施されなかった。EX陽性/培養陰性となった原因として検体中に存在した少量の菌が偏在していた可能性が考えられたが,原因を明らかにすることはできなかった。MAVは土や水などの環境中に存在していることから,検査結果の解釈は環境からのコンタミネーションの可能性についても考慮する必要がある。肺非結核性抗酸菌症診断に関する指針では,核酸増幅法陽性は菌種同定に有用であるが培養陽性の代わりにはならない5)とされている。今回の培養陰性例のような場合には,核酸増幅検査の結果のみで診断せず,改めて採取した喀痰で培養検査を再実施するなど,検出されたMACが起炎菌であるか否かについて慎重に判断することが重要である。培養陽性/TRC法陰性となった1検体は塗抹陰性であり,培養検査とTRC法の結果が乖離した原因は,検出感度の差や検体中に存在した少量の菌が偏在していたことが考えられた。今回の検討では,臨床検体の陽性検体数が限られていることに加えて,MINの陽性例がなく,臨床検体中のMINの検出能力について評価できなかったことが課題として挙げられた。検討中のルーチン検査において,培養検査でMINの発育が認められた検体が1例認められたが,該当検体は核酸増幅検査の依頼がなく,培養陽性時には検体提出から1週間以上が経過していたことから,本検討の対象からは除外された。2014年に実施された肺非結核性抗酸菌症全国調査の結果では,MACの中で菌種内訳が明らかな範囲での地理的分布は,MINが北海道では11.1%との報告がある6)。今回の検討で検出されたMACの内訳についてMAVが多数を占める結果となったことは,この報告と矛盾しない。EXは検出感度の面において向上が見られたが,溶菌操作における加温中あるいは加温後にチューブの蓋が緩くなっていることを経験した。蓋が完全に開いた例は認められなかったが,加温後の取り出し時に,蓋が開かないように注意しながらチューブを取り出すことが必要であった。より確実な操作のためには,メーカー推奨のキャップロック(SSI,1003-39)を使用するなどの対応を講じることが望ましいと考えられた。
標準菌株を用いた検出感度試験において,検体中の菌量が少ない検体(BCG:610 CFU/mL以下,MAV:170 CFU/mL以下,MIN:310 CFU/mL以下)では,TRCRでは検出できない場合があったのに対して,EXではBCGの希釈培養液5(20 CFU/mL)における3回中1回の測定を除く,全ての測定で検出可能であった。臨床検体を用いて評価できなかったMINについても,EXの方がTRCRより検出感度が高かったことから,臨床検体中のMINの検出感度についても,結核菌やMAVと同様にEXの方がTRCRより検出感度が高い可能性が示唆された。小野原ら7)は,TRCRを用いたTRC法とPCR法の比較試験を行い,TRC法はPCR法と同等の検出性能を有し,簡便に短時間で結果が得られる結核および肺MAC症の迅速診断に有用な検査法であると報告している。今回の検討結果から,従来のTRCRと比較して,EXは結核菌及びMACの検出感度が高くなっており,塗抹陰性検体となる少量の菌が存在する場合の検出率を向上させることができる溶菌試薬であると考えられた。
EXを用いたTRCReadyの結核菌およびMAC検出能力は,TRCRよりも検出感度が高く,塗抹陰性検体となる少量の菌が存在する検体中の結核菌およびMACの検出に有用である。
本検討は東ソー社との共同研究により行われ,検討に関わる必要試薬および消耗品は東ソー社より提供を受けて実施された。