2019 Volume 68 Issue 2 Pages 317-322
カルバペネマ-ゼ産生腸内細菌科細菌(carbapenemase-producing Enterobacteriaceae; CPE)が世界中で問題となっている。我々は愛知県下におけるCPEの検出状況を把握するため,愛知県下の4か所の医療施設においてサーベイランスを実施したので報告する。2017年1月から6月の期間に臨床分離された腸内細菌科細菌のうち,CPEスクリーニング基準に該当した菌株を解析対象とし,各種耐性遺伝子保有状況および薬剤感受性について調査を実施した。分離された5,419株のうち67株(1.2%)が解析対象となり,4株(0.07%)のCPEが検出された。内訳はIMP-1産生CPE 3株とOXA-48-like産生CPE 1株であり,IMP-1産生CPE 2株とOXA-48-like産生CPE 1株はCTX-M型extended-spectrum β-lactamaseを併産していた。また,OXA-48-like産生CPE 1株はカルバペネム系抗菌薬に感性を示した。今回のサーベイランスではCPEの濃厚な地域流行は認められなかった。しかし,カルバペネム薬に感性を示した海外型CPEが臨床分離されたことから,継続したCPEの監視とともに統一された基準の導入も必要であると考えられた。
Carbapenemase-producing Enterobacteriaceae (CPE) has become a problem worldwide and it is important to grasp the epidemiology of CPE epidemics in the region. We report on CPE surveillance at four medical facilities with the aim of grasping the situation of CPE epidemics in Aichi Prefecture. CPE detection was based on the criteria used at each institution. Of the 5,419 clinical Enterobacteriaceae isolates obtained during the period, 67 strains (1.2%) were identified, three of which produced carbapenemase, and all of these three CPEs were 3 IMP-1 strains. Of these three strains, two also produced CTX-M-type extended-spectrum β-lactamase (ESBL). An OXA-48-like strain was detected among the strains that showed susceptibility to carbapenems, and this strain also produced CTX-M-type ESBL. In this survey, four CPEs were detected, that is, 0.07% of all isolates (4/5,419). We found that CPEs have not been prevalent among clinical Enterobacteriaceae isolates in Aichi Prefecture. However, since an imported CPE isolate that demonstrates nonsusceptibility to carbapenems was detected in this area, the continuing surveillance and standardized criteria for the detection of CPE are needed to detect CPE isolates.
多剤耐性菌は世界中において公衆衛生上の重大な問題となっている1),2)。カルバペネム系抗菌薬に耐性を示す腸内細菌科細菌(carbapenem-resistant Enterobacteriaceae; CRE)をはじめとする腸内細菌科細菌における耐性菌は,年々増加する傾向にあり,世界中の医療施設において感染対策および治療上の大きな懸案事項となっている3),4)。なかでもカルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(carbapenemase- producing Enterobacteriaceae; CPE)は,カルバペネム系抗菌薬を分解するカルバペネマーゼを産生するだけでなく,プラスミドを介して菌種を越えてカルバペネマーゼ産生能を伝達することからCPEの発生状況を把握することは非常に重要である。2014年9月よりCREが5類感染症全数把握疾患に指定されたことで,全国でのCREの発生状況の把握が可能になった。しかし,CPEの発生状況についてはまだ十分なデータがないのが現状である。今回我々は,愛知県におけるCPEの疫学調査を目的として4施設の医療機関において,サーベイランスを実施したので結果を報告する。
愛知県内においてそれぞれ別の市にある病床数500床以上の4施設の医療機関(以下,a,b,c,d)が本調査に参加した。調査期間は2017年1月から6月までの6か月間とした。また,調査期間中に当該医療施設において検出された腸内細菌科細菌の検出数,収集対象菌株の同定菌名,薬剤感受性結果および当該菌株が検出された検査材料名を参加施設から得た。なお,本検討は菌株を用いた検討であり,患者情報を含まないため,本研究参加の各施設において倫理委員会における承認は不要とされている。
2. 収集対象菌株について収集対象菌株は,サーベイランス参加施設において運用されているCPEスクリーニング基準に該当する菌株とした。各施設のスクリーニング基準をTable 1に示す。これらを解析対象とし,各種耐性遺伝子保有状況および薬剤感受性について調査を実施した。なお,同定および薬剤感受性検査は各医療施設において日常検査で使用している分析装置を用い,遺伝子解析については愛知医科大学病院感染制御部において実施した。modified carbapenem inactivation method(mCIM)については,Clinical & Laboratory Standards InstituteのM100-S28の記載5)に従い参加した各施設で実施した。Enterobacter asburiaeおよびEnterobacter kobeiについては,本サーベイにおいてはEnterobacter cloacae complexに含めて解析を行った。
Hospital | CPE screening criteria |
---|---|
a | MEPM MIC > 0.125 μg/mL |
b | MEPM MIC > 0.25 μg/mL and/or TAZ/PIPC MIC > 4/16 μg/mL |
c | MEPM and/or IPM MIC > 1 μg/mL, and/or TAZ/PIPC MIC > 4/16 μg/mL *The species producing chromosomal AmpC β-lactamase were excluded from screening of TAZ/PIPC. |
d | MEPM and/or IPM MIC > 1 μg/mL, and/or TAZ/PIPC MIC > 4/16 μg/mL |
CPE: carbapenemase-producing Enterobacteriaceae, MIC: minimum inhibitory concentration, MEPM: meropenem, TAZ/PIPC: tazobactam/piperacillin, IPM: imipenem
各医療施設より送付された菌株は,煮沸法を用いて遺伝子解析用のDNAを抽出した。抽出したDNAをテンプレートとしてpolymerase chain reaction(PCR)法による遺伝子解析を行った。extended-spectrum β-lactamase(ESBL)遺伝子6),AmpC遺伝子7),およびカルバペネマーゼ遺伝子8)の検出については,既報論文を参考とした。また,カルバペネマーゼ遺伝子についてはPCRによってIMP型と同定された場合には,シークエンス解析によって型別を実施した。
期間中臨床分離された5,419株のうち 67株(1.2%)が解析対象となった。各施設における検出状況をTable 2に示す。全ての施設から解析対象となる菌株が検出されたが,施設aおよびcはそれぞれ36株および27株であったのに対し,施設bおよびdはそれぞれ1株および3株であった。解析対象となった菌株の菌種内訳をTable 3に示す。E. cloacae complexが25株,次いでKlebsiella (Enterobacter) aerogenesが19株で,これら2菌種で全体の65.7%(44/67)を占めていた。その他の菌種としてはKlebsiella pneumoniae 6株,Morganella morganii 5株,Citrobacter freundii complex 4株,Escherichia coli 3株,Serratia marcescens 2株,Proteus mirabilis,Proteus vulgaris,およびKlebsiella oxytocaがそれぞれ1株であった。
Hospital | Number of beds | Number of Enterobacteriaceae isolates | Number of isolates that met criteria for CPE (%) |
---|---|---|---|
a | 900 | 1,229 | 36 (2.9) |
b | 812 | 998 | 1 (0.1) |
c | 558 | 1,492 | 27 (1.8) |
d | 678 | 1,396 | 3 (0.2) |
CPE: carbapenemase-producing Enterobacteriaceae
Organism | Number of isolates (%) |
---|---|
Enterobacter cloacae complex | 25 (37.3) |
Klebsiella (Enterobacter) aerogenes | 19 (28.4) |
Klebsiella pneumoniae | 6 (8.9) |
Morganella morganii | 5 (7.5) |
Citrobacter freundii complex | 4 (6.0) |
Escherichia coli | 3 (4.5) |
Serratia marcescens | 2 (3.0) |
Proteus vulgaris | 1 (1.5) |
Proteus mirabilis | 1 (1.5) |
Klebsiella oxytoca | 1 (1.5) |
Total | 67 |
CPE: carbapenemase-producing Enterobacteriaceae
67株のうち感染症法で規定されるCREの基準に該当する菌株は44株であった。これら44株のうちCPEは3株で,全てIMP-1型であった。また,これら3株のうち2株は,CTX-M-1group型あるいはCTX-M-9group型ESBLも併産していた(Table 4)。イミペネム(IPM),メロペネム(MEPM)ともに感性を示し,CREの基準に該当しなかった23株のうち1株からOXA-48-like陽性のCPEが検出され,この株はCTX-M-9group型ESBLも併産していた。本サーベイにおいてCPEは合計4株検出され,全体に占める割合は0.07%(4/5,419)であった。
Organism | mCIM | IPM | MEPM | CMZ | TAZ/PIPC | Carbapenemase | CTX-M group | AmpC |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
CPE-CRE (n = 3) | ||||||||
Klebsiella oxytoca | + | > 2 R | > 2 R | > 32 R | > 64 R | IMP-1 | (K1) | n/d |
Klebsiella pneumoniae | + | ≤ 1 S | > 2 R | > 32 R | > 64 R | IMP-1 | CTX-M-1 | n/d |
Citrobacter freundii complex | + | ≤ 1 S | 8 R | > 32 R | ≤ 8 S | IMP-1 | CTX-M-9 | cAmpC |
CPE-non CRE (n = 1) | ||||||||
Escherichia coli | ± | ≤ 1 S | ≤ 1 S | ≤ 8 S | > 64 R | OXA-48-like | CTX-M-9 | n/d |
mCIM: modified carbapenem inactivation method, IPM: imipenem, MEPM: meropenem, CMZ: cefmetazole, TAZ/PIPC: tazobactam/piperacillin, CPE: carbapenemase-producing Enterobacteriaceae, CRE: carbapenem resistant Enterobacteriaceae, n/d: not detect
今回の我々のサーベイランスにおいて腸内細菌科細菌に占めるCPEの割合は0.07%であった。Ohnoらの報告9)によると関西の医療機関におけるCPEの割合は2010年から2013年までの間で平均0.34%であり,我々の報告が若干低い割合となった。ただし,集計期間が短く,参加施設が少ないため十分な検索ができていない点は考慮すべきであると考えられた。
解析対象となった菌株のうち約66%はEnterobacter属の菌が占めていた。国立感染症研究所がまとめたCREとして報告される菌種の約61.9%がEnterobacter属であり10),我々の調査においても同様の結果が得られた。また,その他の菌種についても同様の傾向であり,特定の菌種が多いといった傾向は確認されなかった。Enterobacter属は染色体性にAmpCを産生し,AmpCの過剰産生等によって耐性化しやすい性質がある。そこにポーリン欠損やプラスミドによるカルバペネマーゼ遺伝子獲得などの要因が加わることでCREとなりやすいことが一因であると推察されるが,なぜEnterobacter属にCREが多いかについては十分に解明されていない。現在の日本においてはCREの届出菌種として上位に挙がることから注意すべき菌種の1つであると考えられた。
今回,我々は統一した菌株収集基準を採用せず,各施設で運用されているCPEスクリーニング基準に基づいて菌株収集を行った。統一した基準を導入しなかった理由として,日常業務に負担をかけることなく菌株収集を実施すること,CPEスクリーニング基準について評価を行うことの2つが挙げられる。新たな収集基準を導入した場合,参加施設の負担が増えるだけでなく,使い慣れていない基準のため菌株の収集漏れが発生する可能性も考えられた。そこで,日常業務で使用している基準を採用することで負担をほとんどかけることなく菌株収集の漏れを少なくするようにした。CPEのスクリーニング基準については,European Committee on Antimicrobial Susceptibility Testing(EUCAST)では,カルバペネマーゼのスクリーニング基準をMEPMのMIC値が0.12 μg/mLより大きいものと設定している11)。しかし,0.12 μg/mLという低濃度域からMEPMのMIC値を測定できる検査室はごく限られており,市販の分析装置でこのレンジに対応しているものはほとんどないのが現状である。本サーベイランスにおいても対応しているのは1施設のみであった。こうした背景から,CPEのスクリーニングについては各施設が独自の基準で運用しているケースも少なくない。そこで,本サーベイランスを通じて各施設で運用されている基準について評価し,今後の菌株収集基準の参考にしたいと考えた。
本研究で検出された4株のCPEのうち3株のIMP-1産生株は,MEPMのMIC値が > 2 μg/mLを示し,日常検査で使用する分析装置で検出可能な株であった。一方,残り1株はOXA-48-like産生株であった。本菌株は,IPMおよびMEPMに感性を示していたものの,タゾバクタムピペラシリン(TAZ/PIPC)に高度耐性を示していたことから,mCIMを実施したところカルバペネマーゼ産生が疑われ,遺伝子検査によってOXA-48-like遺伝子の保有が確認された。本菌株についてMEPMのMIC値を精査したところ,0.25 μg/mLであり,EUCASTが推奨するCPEスクリーニング基準に該当する菌株であった。日本化学療法学会,日本感染症学会,日本環境感染学会および日本臨床微生物学会が2017年11月に発表した合同提案でも,メロペネムの0.25–1.0 μg/mLの測定の必要性が示されており,我々のサーベイランスでもCPEを検出できていることから,EUCAST基準を基にした収集対象基準を今後は導入すべきと考えている。また,我々の検討ではTAZ/PIPC高度耐性をスクリーニング基準に入れていたことでCPEが検出できており,低濃度域のMEPMの測定に対応できない施設においては,TAZ/PIPCをスクリーニング基準に入れることでOXA-48-likeなどのCPEの見落としを少なくできる可能性があると考えられた。
今回のサーベイランスで検出されたカルバペネマーゼ遺伝子は,IMP-1が3株,OXA-48-likeが1株であった。IMP型は日本において最も多いカルバペネマーゼ遺伝子であり12),西日本ではIMP-6,東日本ではIMP-1が多いとされている。著者らが実施した調査13)では愛知県内においてはIMP-1型が多いものの,愛知県の一部地域ではIMP-6が検出されている。本検討においては,IMP-6は検出されなかったが,調査地域を拡大することで異なる遺伝子型が検出される可能性も十分にあると考えられた。また,IMP型に加えて,OXA型も検出された。OXA型は海外型CPEと呼ばれ,欧州のギリシャで特に多い型である14)。日本においても2012年に海外からOXA-48-like型の菌株が持ち込まれた報告が初めてなされた15)。本菌株が検出された患者の海外渡航歴については不明であるが,海外で検出の多い型が愛知県内にも持ち込まれている可能性が示唆された。海外型CPEの中には,日本国内で汎用されている検査法では検出が難しい遺伝子型も存在しており,日常検査において見逃されている可能性もあると考えられる。EUCAST基準によるスクリーニングやmCIM法によるカルバペネマーゼの確認に対応できていない施設も多くあり,CPE検査法の標準化が今後の課題であると考えられた。
我々が実施したサーベイランスに関していくつかのリミテーションがあった。本サーベイランスに参加したのは4施設のみであり,愛知県臨床検査技師会の精度管理事業には例年60施設の微生物検査室が参加していることを鑑みると,サーベイランス参加施設数が少なく,今回のデータのみで愛知県下の疫学を十分に反映したとは言い難いと考えられた。また,参加した医療施設は,全て急性期の医療施設であり,患者背景に偏りがあると推察されることから,今後は急性期以外の医療施設も含めた検討が必要であると考えられた。
今回の我々の調査では愛知県下においてCPEの濃厚な流行は確認されなかった。しかし,海外で検出の多いカルバペネマーゼ遺伝子が検出されており,今後も動向に注視していく必要があると考えられた。今後も本サーベイランスを継続して定期的な報告を行っていくことで,県下の医療施設へ有益な情報提供が可能になると考える。
本論文の要旨については第29回日本臨床微生物学会(演題番号P01-23)において発表を行った。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。
本検討において遺伝子解析実施に必要となる試薬,および機器の使用許諾をしていただいた愛知医科大学病院感染制御部の先生方に深謝いたします。