Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Examination of the discrepancy of the results of FCXM and anti-HLA antibodies in ABO-incompatible kidney transplantation
Ryuji FUJITATsutomu ISHIZUKAMineko YASUOYuri KOBAYASHIHitomi MIURA
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2019 Volume 68 Issue 2 Pages 261-268

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Abstract

[目的]本研究では,flow cytometry lymphocyte crossmatch(FCXM)とFlowPRA(One Lambda Inc., Canoga Park, CA, USA)による抗HLA抗体検査の結果に乖離を認めた症例について,その原因を究明するために基礎的検討を行った。[方法]ABO血液型不適合生体腎移植症例のうち,FCXMとFlowPRAの結果に乖離を生じた症例について,FCXMを用いてレシピエント血清中に存在する抗A,抗Bのリンパ球に対する反応性を調べた。尚,レシピエント血清は未処理のものと抗A,抗Bを吸収除去したものを用いた。また,リンパ球上のA型,B型抗原の確認には抗A,抗Bモノクローナル抗体とanti-Mouse IgMを使用した。[結果]レシピエント血清から抗A,抗Bを吸収することにより,FCXMにおいて陰性化した。また,抗A,抗Bモノクローナル抗体を使用したFCXMによりリンパ球上のA型・B型抗原の存在が確認された。[考察]ABO血液型不適合生体腎移植において,ドナー特異的抗HLA抗体(donor specific anti-HLA antibodies; DSA)が陰性であるのにFCXMが陽性となる原因の1つとして,抗Aおよび抗Bの関与が推測された。

Translated Abstract

[Objective] In this study, we performed a fundamental investigation of the discrepancy of the results of flow cytometry lymphocyte crossmatch (FCXM) and FlowPRA (One Lambda Inc., Canoga Park, CA, USA) in ABO-incompatible kidney transplantation. [Method] We examined ABO-incompatible kidney transplantation cases with different results between FCXM and FlowPRA. We performed FCXM using untreated serum and absorbed anti-A or anti-B serum. Monoclonal anti-A and anti-B antibodies and anti-mouse IgM were used to confirm the existence of A and B blood group antigens. [Results] The false-positive reaction in FCXM disappeared with the absorbed anti-A or anti-B from recipient serum. Moreover, we detected the blood group A and B antigens on lymphocytes by binding anti-A and anti-B monoclonal antibodies to the lymphocytes. [Conclusion] Anti-A or anti-B antibodies affected the results of FCXM. We consider that we can accurately determine donor-specific anti-HLA antibodies (DSA) or anti-blood group antibodies by this method.

I  はじめに

臓器移植後の血流再開時に生じる拒絶反応は,移植予後不良または臓器廃絶に繋がる要因のひとつである。これは,ドナー由来の「ヒト白血球抗原(human leukocyte antigen; HLA)」またはABO赤血球抗原が移植臓器と共に移入され,レシピエントが「ドナー由来抗原と特異的に反応する抗体(donor specific alloantibody; DSA)」を保有していた時に生じる「抗体関連型拒絶(antibody-mediated rejection; ABMR)」である。

リンパ球クロスマッチは,本来HLAに対するABMRを予測または確認する上で重要な検査法のひとつになっている。

近年,リンパ球クロスマッチは,古典的な「リンパ球細胞傷害試験(lymphocyte cytotoxicity test-crossmatch; LCT-XM)」1),2)から高感度な分析機器を使用した「フローサイトメトリーを用いたリンパ球クロスマッチ(flow cytometry lymphocyte crossmatch; FCXM)」を導入する施設が増えてきている3)~5)。そのため,LCT-XMが陰性でもFCXMが陽性になる症例を確認できるようになってきた6)。しかし,稀にABO血液型不適合症例によるFCXMにおいて抗HLA抗体のDSAを保有していない場合でも陽性反応を示す症例を経験する。

筆者らは,健常者のリンパ球上に存在するABO血液型抗原によるものと推測した。そこで,本研究ではABO血液型不適合のFCXMにおいて結果の乖離を認めた症例について基礎的検討を行ったので報告する。

II  対象

対象は,東京女子医科大学病院にABO血液型不適合生体腎移植を希望し来院された患者のうち,FCXMと「フローサイトメトリーを用いた抗HLA抗体検出法(FlowPRA)7)の結果に乖離を生じた2症例である。

症例1は,レシピエントO型でドナーA型の組み合わせ(A型不適合生体腎移植)症例である。

症例2は,レシピエントO型でドナーB型の組み合わせ(B型不適合生体腎移植)症例である。

基礎的検討を行うにあたり,ドナーを含む健常者A型およびB型それぞれ5名に対してもFCXMを実施した。

III  方法

1. FlowPRA Screening(FlowPRA)による抗HLA抗体検査

FlowPRA Class IおよびClass II Screening Beads(One Lambda Inc., Canoga Park, CA, USA)を各チューブに分注し,Negative control serum(One Lambda Inc.),HLA Class IまたはClass II Positive control serum(One Lambda Inc.),レシピエント血清を加え,室温反応した。

洗浄操作後,FITC conjugated goat, anti-human IgG(One Lambda Inc.)を加え,遮光反応した。

洗浄操作後,フローサイトメーターFACS Canto II(BD Biosciences, San Jose, CA, USA)にて測定した。

判定は,Negative control serumからPositive領域に2峰性または多峰性シフトを示したものを陽性とした。

2. 被検血清中からの抗A,抗B除去

AまたはB赤血球浮遊液(DiaMed AG, Cressier sur Morat, Switzerland)をそれぞれ遠心し上澄みを除去後,レシピエント血清をそれぞれ加え30分室温反応させた。

室温反応後,遠心し上清をそれぞれ分取した(抗A除去血清・抗B除去血清)。

3. flow cytometry lymphocyte crossmatch(FCXM)

健常者のリンパ球は,ヘパリン加末梢血液からRosetteSep HLA Human Total Lymphocyte(StemCell Technologies Inc, Vancouver, BC, Canada)を併用したFicoll比重遠心法により分離し,プロテアーゼprotease type XIV(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO, USA)処理を行った。

Negative controlとしてAB型血清(Sigma-Aldrich),抗HLA抗体陽性血清(One Lambda Inc.),レシピエント血清(未処理血清・抗A除去血清・抗B除去血清)をそれぞれAまたはB型健常者のリンパ球に加え,室温30分静置反応した。

4℃生理食塩水でリンパ球を洗浄後,FITC-conjugated anti-human IgG(Jackson Immunoresearch Laboratories, West Grove, PA, USA),Per-CP-conjugated anti-CD3およびPE- conjugated anti-CD19(BD Biosciences, San Jose, CA, USA)を加え4℃遮光20分静置反応した。

4℃生理食塩水でリンパ球を3回洗浄後BD FACSCant II(BD Biosciences)にて解析した。

判定は,ヒストグラムにおいてAB型血清より右に反応を示したものを陽性とした。

4. レシピエント血清中の抗A,抗Bの検出

レシピエント血清をpH 7.4リン酸緩衝生理食塩水phosphate buffered saline,2%ウシ血清アルブミンbovine serum albumin,0.1%アジ化ナトリウムsodium azideにて512倍まで2倍連続希釈した。negative controlとしてAB型血清,O型血清,希釈したレシピエント血清をそれぞれAまたはB赤血球浮遊液を加え37℃,30分静置反応した。

4℃生理食塩水で赤血球を洗浄後,FITC-conjugated anti-human IgG(Jackson Immunoresearch Laboratories)を加え,4℃遮光20分静置反応した。

4℃生理食塩水で赤血球を洗浄後BD FACSCant IIにて解析した。

判定は,ヒストグラムにおいてAB型血清を基準とし%Gatedで5%以上を陽性とした8)

5. リンパ球上のABO血液型抗原検出

A型またはB型健常者のリンパ球は,ヘパリン加末梢血液からRosetteSep HLA Human Total Lymphocyteを併用したFicoll比重遠心法により分離しプロテアーゼ処理を行った。

プロテアーゼ処理リンパ球にPer-CP-conjugated anti-CD3を遮光反応させた。

生理食塩水でリンパ球を洗浄後,抗Aまたは抗Bモノクローナル抗体(オーソ バイオクローン抗A,抗B:Ortho Clinical Diagnosis, Raritan, NJ, USA),negative controlとして(pH 7.4リン酸緩衝生理食塩水phosphate buffered saline,2%ウシ血清アルブミンbovine serum albumin,0.1%アジ化ナトリウムsodium azide)を加え,4℃遮光30分静置反応した。

4℃生理食塩水で洗浄後FITC-conjugated anti-Mouse IgM(BD Pharmingen, San Diego, CA, USA)を加え4℃遮光20分静置反応した。

4℃生理食塩水でリンパ球(Tcell)を洗浄後BD FACSCant IIにて解析した。

判定は,ドットプロットにおいてnegative controlを基準とし右に反応した細胞を示したものを陽性とした。

IV  結果

1. 2症例のFlowPRAを使用した抗HLA抗体保有確認の検討

症例1・2のFlowPRAを行った結果,HLA Class IおよびII共に陰性を示した(Figure 1)。

Figure 1 2症例のFlowPRAを使用した抗HLA抗体保有確認

ヒストグラムの水色はAB血清を示す。

2症例ともHLA Class IおよびII抗体陰性を示した。

2. ドナーを含むA型健常者リンパ球5名を使用したFCXMによるレシピエント血清中抗A・抗B確認の検討(症例1)

ドナーを含むA型健常者5名のリンパ球と症例1(A型不適合)のレシピエント血清(未処理血清・抗A除去血清・抗B除去血清)とのFCXMを行った結果,未処理血清と抗B除去血清によるFCXM TcellおよびBcellが共にAB血清よりも右に反応性を示すリンパ球が存在した。また,反応性を示したリンパ球は未処理血清と抗B除去血清においてほぼ同等の蛍光強度を示す反応であった。しかし,抗A除去血清ではFCXM TcellおよびBcell共に陰性を示した(Figure 2)。

Figure 2 ドナーを含むA型健常者5名のリンパ球を使用したFCXMによるレシピエント血清中抗A・抗Bの検出(症例1)

ヒストグラムの水色はAB血清を示す(A型不適合)。

未処理血清と抗B除去血清は,FCXM TcellおよびBcell共にほぼ同等の蛍光強度を示す反応であった。

抗A除去血清は,FCXM TcellおよびBcell共に陰性を示した。

3. ドナーを含むB型健常者リンパ球5名を使用したFCXMによるレシピエント血清中抗A・抗B確認の検討(症例2)

ドナーを含むB型健常者5名のリンパ球と症例2(B型不適合)のレシピエント血清(未処理血清・抗A除去血清・抗B除去血清)とのFCXMを行った結果,未処理血清と抗A除去血清によるFCXM TcellおよびBcellが共にAB血清よりも右に反応性を示すリンパ球が存在した。また,反応性を示したリンパ球は未処理血清と抗A除去血清においてほぼ同等の蛍光強度を示す反応であった。しかし,抗B除去血清ではFCXM TcellおよびBcell共に陰性を示した(Figure 3)。

Figure 3 ドナーを含むB型健常者5名のリンパ球を使用したFCXMによるレシピエント血清中抗A・抗Bの検出(症例2)

ヒストグラムの水色はAB血清を示す(B型不適合)。

未処理血清と抗A除去血清は,FCXM TcellおよびBcell共にほぼ同等の蛍光強度を示す反応であった。

抗B除去血清は,FCXM TcellおよびBcell共に陰性を示した。

4. FCXMを使用した 2症例の抗A・抗B抗体価の検討

AB型血清を基準とし%Gatedで5%以上を陽性として判定した結果,症例1は抗A抗体価が256倍であった。

症例2は抗B抗体価が256倍であった(Figure 4)。

Figure 4 FCXMを使用した 2症例の抗A・抗B抗体価

ヒストグラムの紫色はAB血清を示す。

2症例とも256倍の抗A・抗B抗体価を示した。

5. ドナーを含むA型またはB型健常者5名のリンパ球(Tcell)上のABO血液型抗原確認の検討

ドナーを含むA型またはB型健常者5名のTcell上のABO血液型抗原を測定した結果,negative controlに比べてヒトによって相違を認めたが弱陽性反応を示すTcellが存在した(Figure 5)。

Figure 5 ドナーを含むA型またはB型健常者5名のリンパ球(Tcell)上のABO血液型抗原の検出

A型またはB型健常者リンパ球は,negative controlに比べて弱陽性反応を示した。

V  考察

ABO血液型不適合腎移植は,抗体除去療法である二重濾過血漿交換療法(double filtration plasmapheresis; DFPP)や血漿交換(plasma exchange; PE)などを行うことで移植を可能とし9),10),当院においても1989年からABO血液型不適合腎移植を施行している11),12)

ABO血液型不適合腎移植は,移植後に生じるABMRにおいて大きく抗HLA抗体または抗A,抗BのDSAの関与に分類できる。その中で,リンパ球クロスマッチは,主にHLAに対するABMRを予測または確認する検査法のひとつである。

筆者らは,ABO血液型不適合腎移植を希望された2症例について,抗体除去療法の施行前のレシピエント血清において本来FlowPRA陰性であればFCXMも共に陰性になるべきであるが,本症例では結果の乖離を生じた経験からその原因は健常者のリンパ球上に存在するABO血液型抗原によるものと推測した。

1970年代の先行文献では,ABO血液型抗原をヒト白血球上に確認したという報告が散見されたが,同時にABO血液型抗原が確認できなかったという報告13)~18)も見受けられた。そこで,本研究では,FCXMに抗A,抗Bが関与した可能性を推測し基礎的検討を行った。

2症例は共にO型レシピエントでA型不適合症例では,FCXMにおいてレシピエント血清の未処理と抗B除去血清でほぼ同等の反応性を示し,抗A除去血清ではドナーを含む健常者5名に対してすべて陰性化したことから抗Aの関与が考えられた。また,B型不適合症例でも,未処理と抗A除去血清でほぼ同等の反応性を示し,抗B除去血清ではドナーを含む健常者5名に対してすべて陰性化したことから抗Bの関与が示唆され,健常者のリンパ球上に存在するABO血液型抗原との反応が考えられた。しかしながら,ABO血液型不適合腎移植のすべての症例においてFCXMが陽性反応を示すわけではない。そこで,本研究の2症例が特に高力価な抗A,抗Bではないかと推測し抗体価測定を試みた結果,2症例共に256倍でO型健常者と比べても特に高力価抗体ではないことを確認した19)

次に筆者らは,A型またはB型健常者のリンパ球(Tcell)上でのABO血液型抗原量の相違がヒトによってあるのではないかと推測しABO血液型抗原測定を試みた結果,negative controlに比べてヒトによって反応性が異なるABO抗原の存在を確認した。

Oriolら13)は,循環血液中の血液型物質(A, B, H)がリンパ球に結合していることを報告している。本研究では,リンパ球上のABO血液型抗原測定において,リンパ球をタンパク質分解酵素であるプロテアーゼにて細胞膜上の抗原処理を行ったが,ABO血液型抗原を除去することが出来ず,プロテアーゼ処理では抗A,抗Bの影響を受けることがわかった。

結論として本研究において認められたABO血液型不適合腎移植におけるFCXMとFlowPRAの乖離は,リンパ球上に存在するABO血液型抗原と抗A,抗Bによる反応をFCXMにて検出していることで生じていた。FCXMでは,抗HLA抗体以外にもリンパ球上に存在する抗原と反応する抗体がレシピエント血清中に存在した場合には陽性となることから抗HLA抗体とそれ以外の反応を判別することは困難である。

本研究の結果より,リンパ球上のABO血液型抗原とレシピエント血清中の抗A,抗Bとの反応を考慮し,レシピエント血清中の抗A,抗Bを除去することによりDSAが抗HLA抗体によるものか抗Aまたは抗Bによるものかを判別し,正確なリンパ球クロスマッチの判定が可能になると考えられた。

VI  結語

ABO血液型不適合腎移植におけるFCXMとFlowPRAにおいて結果に乖離が生じた症例では,レシピエント血清中の抗A,抗Bを除去することにより正確なリンパ球クロスマッチを行うことが可能であった。

 

本論文の要旨は,第13回東京都医学検査学会(2018.2.4)にて発表した。また,関連企業との利益相反はなく,倫理委員会の承認を得て報告している(承認番号No. 3731)。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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