Japanese Journal of Medical Technology
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Evaluation of the usefulness of the mixing test performed in our hospital: Comparison of the waveform pattern method and the index of circulating anticoagulant
Ryosuke MORIAIAkemi ENDOHSatoru YAMADATakashi KONDOKoichi ASANUMANozomi YANAGIHARASatoshi TAKAHASHI
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2019 Volume 68 Issue 2 Pages 328-332

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Abstract

プロトロンビン時間(prothrombin time; PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time; APTT)などの凝固時間の延長原因として,凝固因子欠乏や凝固因子インヒビター,さらにループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant; LA)などの抗リン脂質抗体がある。クロスミキシングテストは,これらの延長原因を迅速に鑑別するために行われる。今回,当院で実施したクロスミキシングテストの有用性を評価した。判定法は,波形パターン法とindex of circulating anticoagulant(ICA)を用いた。凝固因子欠乏例(3例)は,全例で両判定法ともに凝固因子欠乏型(coagulation deficient pattern; DEF)と正しく判定された。LA陽性例では,6例中4例が両判定法ともにインヒビター型(inhibitor pattern; INH)と正しく判定された。しかし,波形パターン法でDEF,ICAでINHと判定された症例が1例(症例8),両判定法ともにDEFと判定された症例が1例(症例9)認められた。症例8,9のLA活性は,両判定法ともにINHと判定された4例と比べて低値を示す傾向がみられた。本検討では,9例中8例の凝固時間延長原因を推測することが可能であり,クロスミキシングテストは迅速な凝固時間の延長原因の鑑別に有用であった。しかし,LA活性の低い症例では,DEFと誤判定される可能性があるので,必要に応じて追加検査を実施することが望ましいと思われた。

Translated Abstract

The prolongation of clotting time such as prothrombin time (PT) and activated partial thromboplastin time (APTT) can be caused by coagulation factor deficiency, coagulation factor inhibitor and antiphospholipid antibody such as lupus anticoagulant (LA). The mixing test is performed to rapidly differentiate these causes of the prolongation of clotting time. We evaluated the usefulness of the mixing test performed in our hospital. The mixing test results were judged using the visual waveform pattern method and the index of circulating anticoagulant (ICA). In all three coagulation-factor-deficient cases, both judgment methods showed a coagulation-factor-deficient pattern. On the other hand, in four out of six LA cases, both judgment methods showed an inhibitor pattern. However, in one LA case (case 8), only ICA showed an inhibitor pattern. Moreover, in another LA case (case 9), both judgment methods showed a coagulation-factor-deficient pattern. The LA activities in cases 8 and 9 tended to be lower than those in the four cases that showed an inhibitor pattern in both judgment methods. In this study, we were able to estimate the causes of the prolongation of clotting time in eight out of nine cases. The mixing test was useful for rapidly differentiating the causes of the prolongation of clotting time. However, the cases with the low LA activity may show a coagulation-factor-deficient pattern in the judgment of the mixing test results, so it seems preferable to conduct an additional test if necessary.

I  はじめに

プロトロンビン時間(prothrombin time; PT),活性化部分トロンボプラスチン時間(activated partial thromboplastin time; APTT)などの凝固時間の延長原因として,凝固因子の欠乏のほか,凝固因子インヒビターやループスアンチコアグラント(lupus anticoagulant; LA)などの抗リン脂質抗体の存在があり,それぞれ治療方針が異なる。そのため,迅速な延長原因の鑑別が重要であり,その方法の一つにクロスミキシングテストがある1)。クロスミキシングテストは,患者血漿と正常血漿を種々の割合で混和後,PT,APTTなどの凝固時間を測定し,各ポイントの補正程度をみることにより延長原因を鑑別する検査法で,院内で凝固検査を行っている施設であれば実施可能である。今回,当院で実施したクロスミキシングテストの有用性を評価したので報告する。

II  対象および方法

1. 対象

2013年12月から2017年1月までに当院でクロスミキシングテストを実施した9例。内訳は凝固因子欠乏が3例(ビタミンK欠乏,第V因子欠乏,ワルファリン服用患者各1例)とLA陽性が6例であった。また,依頼理由としては,出血・止血困難症例および入院時・術前検査におけるAPTT延長の原因検索(各3例)が最も多く,次いで,抗リン脂質抗体症候群疑い症例のLAスクリーニング(2例),凝固因子低下症例の原因検索(1例)であった。

2. 方法

1) 検体処理方法

患者血漿および正常血漿(ともに3.2%クエン酸ナトリウム加血漿)は,2,000 g,15分遠心後の上清をさらに2,500 g,10分遠心して得た(2重遠心法)。正常血漿は,7名の健常者から得たプール血漿を用いた。

2) クロスミキシングテスト実施方法

即時反応は,各混合比率のサンプル(患者血漿:正常血漿=0:10,1:9,2:8,5:5,10:0の5ポイント)を用手法にて調整後,直ちにAPTTを測定した。また,遅延反応は,即時反応と同様のサンプルを37℃,2時間加温後にAPTTを測定した。APTTは,試薬にAPTT-SLAを用い,全自動血液凝固測定装置CS-5100(ともにシスメックス株式会社)で測定した。

3) クロスミキシングテスト判定法(Table 1, Figure 1
Table 1  クロスミキシングテスト判定法
波形パターン法 ICA*
凝固因子欠乏型(DEF) 下に凸 < 12.4
インヒビター型(INH) 下に凸以外 ≥ 12.4

* Index of circulating anticoagulant

Figure 1 ICA値算出法

a:患者血漿比率0%のAPTT値,b:患者血漿比率50%のAPTT値,c:患者血漿比率100%のAPTT値

視覚的な波形パターン法と数値判定法であるindex of circulating anticoagulant(ICA)2)を用いた。波形パターン法は,Excelにて作図したグラフ(波形)が,患者血漿比率0%と100%のプロットを結んだ直線に対し,視覚的に下に凸を示す場合は凝固因子欠乏型(coagulation deficient pattern; DEF),下に凸以外(上に凸,直線状,S字状)はインヒビター型(inhibitor pattern; INH)と判定した。ICAはKumanoら3)のカットオフ値を用い,12.4未満はDEF,12.4以上はINHと判定した。なお本検討では全症例で即時反応と遅延反応で判定結果は同じであったため,クロスミキシングテストの判定結果は即時反応のみを示す。

4) LA確認試験

LA確認試験には,測定原理に希釈ラッセル蛇毒時間(diluted Russell’s viper venom time; dRVVT)法を用いたLAテスト「グラディポア」(株式会社医学生物学研究所),またはAPTT法を用いたスタクロット LA(富士レビオ株式会社)を使用し,添付書に従い,それぞれ1.3以上,8.0秒以上を陽性と判定した。

5) 倫理的対応

本研究は札幌医科大学附属病院臨床研究審査委員会の承認を得て実施した(承認番号282-229)。

III  結果

1. クロスミキシングテスト判定結果

凝固因子欠乏例(3例)は,全例で波形パターン法は下に凸を示し,ICA値は1.0~7.1と12.4未満であり,両判定法ともにDEFと正しく判定できた(Table 2, Figure 2)。LA陽性例(6例)では,波形パターン法で4例(症例4,5,6,7)が上に凸を示しINHと判定できた。これら4例はICAでもINH(ICA値:18.8~50.0)と判定された。2例(症例8,9)は波形パターン法で下に凸を示し,DEFの判定となったが,症例8のICA値は17.3とINHの判定であり,ICAでのみLAの存在を推測することができた。一方,症例9のICA値は12.0とDEFの判定となり,両判定法でLAの存在を推測することができなかった(Table 2, Figure 3)。

Table 2  クロスミキシングテスト判定結果
症例 延長原因 波形パターン法 ICA
判定
1 ワルファリン DEF 1.0 DEF
2 ビタミンK欠乏 DEF 3.1 DEF
3 第V因子欠乏 DEF 7.1 DEF
4 LA INH 50.0 INH
5 LA INH 18.8 INH
6 LA INH 25.1 INH
7 LA INH 28.9 INH
8 LA DEF 17.3 INH
9 LA DEF 12.0 DEF

DEF:下に凸(波形パターン法),< 12.4(ICA)

INH:下に凸以外(波形パターン法),≥ 12.4(ICA)

Figure 2 凝固因子欠乏例の波形パターンとICA値

各混合比率のサンプルを用手法にて調整後,直ちにAPTTを測定した。症例1:ワルファリン服用,症例2:ビタミンK欠乏,症例3:第Ⅴ因子欠乏

Figure 3 LA陽性例の波形パターンとICA値

各混合比率のサンプルを用手法にて調整後,直ちにAPTTを測定した。

2. LA陽性例のクロスミキシングテスト判定結果とLA活性の比較

両判定法ともにINHと判定された4例のLA活性(dRVVT法:1.59~1.64,APTT法:23.5~101.0秒)に比べ,波形パターン法でDEF,ICAでINHと判定された症例8のLA活性はdRVVT法で1.35,APTT法で13.3秒,両判定法ともにDEFと判定された症例9のLA活性はdRVVT法で1.50,APTT法で8.9秒と低値を示す傾向がみられた。また,ICA値はdRVVT法よりもAPTT法のLA活性を比較的反映していた(Table 3

Table 3  LA陽性例のクロスミキシングテスト判定結果とLA活性の比較
症例 波形パターン法 ICA LA活性
判定 dRVVT法
(グラディポア)
APTT法(秒)
(スタクロットLA)
4 INH 50.0 INH NT 101.0
5 INH 18.8 INH 1.64 NT
6 INH 25.1 INH NT 31.1
7 INH 28.9 INH 1.59 23.5
8 DEF 17.3 INH 1.35 13.3
9 DEF 12.0 DEF 1.50 8.9

NT: Not Tested

IV  考察

クロスミキシングテストの依頼理由としては,出血・止血困難症例および入院時・術前検査におけるAPTT延長の原因検索が多かった。今回の検討症例ではなかったが,後天性血友病Aは致死的出血を伴うこともあり,発症早期の死亡率も高いため,早期診断・治療が求められている4)。APTT延長を認める出血症例では後天性血友病Aを念頭におき,迅速に延長原因を検索する必要がある。また,入院時・術前検査では患者情報が乏しい状況が少なくない。このような場合,クロスミキシングテストは,凝固時間延長の原因を迅速に鑑別するためのスクリーニング検査として有用と考えられる。

現在,クロスミキシングテストの判定は視覚的な波形パターン法に加え,種々の数値判定法が考案されており,その有用性が報告されている2),5)~8)。特に,ICAは3ポイントのみで簡便に算出することができる。また,国際血栓止血学会におけるLA検査ガイドラインにおいて,クロスミキシングテストの判定法としてICAが推奨されている9)。そのため,本検討では,波形パターン法とICAの判定結果の比較を行った。ICAのカットオフ値については,APTT試薬間差が大きく3),クロスミキシングテストの方法や測定機器なども施設により様々であるため,各施設で設定することが望ましいが,本検討ではカットオフ値を設定することができなかった。そのため,Kumanoら3)が本検討で使用したAPTT試薬(APTT-SLA試薬)で設定したカットオフ値を用いた。

その結果,凝固因子欠乏例は全例,両判定法でDEFと正しく判定された。LA陽性例では,6例中4例が両判定法ともにINHと正しく判定された。しかし,波形パターン法でDEF,ICAでINHと判定結果が解離した症例が1例(症例8)認められた。徳永ら7)はLA活性の低い症例で,また内藤ら10)は,複数の凝固因子活性が低下している症例では,症例8と同様に判定結果が解離することを報告している。症例8の凝固因子活性は測定していないが,LA活性は両判定法ともにINHと判定された症例に比べ低かった。このような症例においては波形パターン法では誤判定する可能性があり,ICAのほうが精度良くLAを検出することが可能と思われた。また,症例9もLA活性が低く,波形パターン法でDEF判定となったが,ICAも12.0とDEFの判定となった。このことから,ICAのカットオフ値下限を呈する症例については,LA陽性の可能性があるため,必要に応じて追加検査を実施することが望ましいと思われた。

V  結語

本検討では,9例中8例の凝固時間延長原因を推測することが可能であり,クロスミキシングテストは迅速な凝固時間延長原因の鑑別に有用であった。今後は,症例を蓄積するとともに自施設でのICAカットオフ値を設定することで,より信頼性のある検査結果を報告できるように努めたい。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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