Japanese Journal of Medical Technology
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
Technical Articles
FMC, D-dimer and BNP in patients with acute ischemic stroke
Atsuko KUNIIMayumi ABEMakiko UENOMiyuki ADACHIKazuhiko IZURUMasahiko IGARASHIRei KONDOShinjiro SAITO
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2019 Volume 68 Issue 2 Pages 269-275

Details
Abstract

脳梗塞は臨床病型により治療法が異なるため,発症早期に臨床病型診断を行うことが重要である。今回我々は,脳梗塞急性期におけるフィブリンモノマー複合体(fibrin monomer complex; FMC),D-dimer,脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide; BNP)測定値が脳梗塞の臨床病型診断に有用かを検討した。対象は,2015年7月から2016年6月に当院に入院した脳梗塞急性期患者190例で,臨床病型内訳は,アテローム血栓性脳梗塞(atherothrombotic; AT)81例,心原性脳塞栓症(cardioembolic; CE)41例,ラクナ梗塞(lacunar infarct; LI)46例,その他の梗塞22例であった。入院時にFMC,D-dimer,BNPを測定し各病型の測定値の分布を比較検討した。またcut off値を定め各病型の陽性率を検討した。その結果,FMC,D-dimer測定値の分布においてはAT・CE・LIの病型間に有意差は認められなかったが,ROC曲線から得られた最適cut off値による陽性率の病型間比較では,FMCにおいてCEはATやLI(非CE)に比べ有意に高い陽性率を示した。D-dimerにおいては,CEはATに比べ有意に高い陽性率を示したが,LIでは有意差は認められなかった。BNPにおいては,測定値および陽性率ともにCEは非CEより有意に高値を示した。以上より,脳梗塞急性期におけるFMC,D-dimer,BNP測定は,脳梗塞急性期の臨床病型診断に有用であり,特に,BNPはCEと非CEの鑑別診断に有用であった。

Translated Abstract

Treatments for cerebral infarction vary depending on the type of infarction. Thus, it is important to classify it at an early stage. We investigated whether the levels of fibrin monomer complex (FMC), D-dimer, and brain natriuretic peptide (BNP) are useful for the clinical diagnosis of cerebral infarction in patients in the acute phase. We included 190 patients admitted to our hospital with acute-phase cerebral infarction between July 2015 and June 2016. The study patients had the following infarction types: atherothrombotic embolism (AT, n = 81), cardiogenic embolism (CE, n = 41), lacunar infarction (LI, n = 46), and others (n = 22). The levels of FMC, D-dimer, and BNP were measured on admission and compared among the infarction types. Furthermore, the cut-off levels were determined for each marker to calculate % positivity. There were no significant differences in the levels of FMC or D-dimer among AT, CE, and LI patients. On the basis of the cut-off values determined by constructing ROC curves, the rate of FMC-positive patients was significantly higher in CE patients than in AT and LI (non-CE) patients. The rate of D-dimer-positive patients was significantly higher in CE patients than in AT patients but not in LI patients. The level of BNP and the rate of BNP-positive patients were significantly higher in CE patients than in non-CE patients. Our findings demonstrate that the levels of FMC, D-dimer, and BNP are useful indicators for classifying the cerebral infarction type in patients in the acute phase. BNP level was particularly useful in distinguishing CE from non-CE.

I  はじめに

本邦では2050年に高齢者人口が37.7%の超高齢社会を迎え1),脳梗塞,心筋梗塞などの脳心血管イベントの発症が今後さらに激増することが予想されている。脳梗塞は臨床病型により治療法が異なるため,早期に発症機序を推定し臨床病型診断を行うことが適切な治療を選択するためには極めて重要である2)

今回我々は,脳梗塞急性期におけるフィブリンモノマー複合体(fibrin monomer complex; FMC)とD-dimerおよび脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide; BNP)測定値が脳梗塞の臨床病型診断に有用か否かを検討した。

II  対象と患者背景

2015年7月から2016年6月までに当院に入院した脳梗塞急性期患者で,入院時にFMC,D-dimer,BNPを測定した190例(男性124例,女性66例,平均年齢72.0歳)を対象とした。臨床病型は,NINDS(National Institute of Neurological Disorders and Stroke, 1990)によるNINDS-III分類3)を用い,その内訳はアテローム血栓性脳梗塞(atherothrombotic; AT)81例(42.6%),心原性脳塞栓症(cardioembolic; CE)41例(21.6%),ラクナ梗塞(lacunar infarct; LI)46例(24.2%),その他の梗塞(other; OT)22例(11.6%)であった(Table 1)。なお,OTは様々な原疾患が混在した集団であるため臨床病型間の比較検討の対象から除外した。

Table 1  臨床病型別件数(%)と年齢(平均,Range)
臨床病型 件数
(%)
平均
(歳)
Range
(歳)
アテローム血栓性脳梗塞(AT) 81(42.6) 71 43–91
心原性脳塞栓症(CE) 41(21.6) 75.3 55–94
ラクナ梗塞(LI) 46(24.2) 72.8 55–95
その他の脳梗塞(OT) 22(11.6) 70.5 37–85
全対象者 190(100) 72 37–95

本研究の実施に当たっては,山形市立病院済生館の倫理委員会の承認を得た(承認番号430-001)。

III  方法

1.脳梗塞急性期患者において,入院時にFMC,D-dimer,BNPを定量測定し,各臨床病型における測定値および陽性率を比較検討した。

1)Tukey-Kramer testを用い,各項目におけるAT,CE,LI各臨床病型間の測定値を比較検討した。

2)FMC,D-dimer,BNPをそれぞれcut off値2.7 μg/mL,1.0 μg/mL,71.4 pg/mLと定め,cut off値以上を陽性,cut off値未満を陰性とし,各臨床病型の陽性率を求めた。さらに,Fisher’s Exact testを用い各臨床病型間の陽性率を比較検討した。FMC,D-dimer,BNPのcut off値は,ROC曲線から最適となる値を算出した。

統計解析ソフトは「R」のversion「3.0.1」を使用し,有意水準はp < 0.05とした。

2.各臨床病型別に,退院までに判明した心房細動検出率を求め,入院時のBNP値との関連性を検討した。また,各臨床病型において,心房細動検出の有無とBNP値を比較検討した。

3.OT 22例の症例内訳と各疾患のFMC,D-dimer,BNP平均値を求め,疾患と各項目平均値の傾向を解析した。

IV  測定試薬と機器

FMCはオートLIA® FM,D-dimerはリアスオート‍®・Dダイマーネオ,ともにラテックス免疫比濁法を用い,血液凝固測定装置CS-5100(シスメックス社)で測定した。BNPはアーキテクト®・BNP-JP(CLIA法)を用い,化学発光免疫測定装置ARCHITECT® i2000SR(アボットジャパン社)で測定した。

V  結果

1. 各臨床病型における測定値および陽性率の比較検討

1)項目別,各臨床病型における測定値の分布を示す(Figure 1)。FMCの中央値は,AT 2.4 μg/mL,CE 2.8 μg/mL,LI 2.3 μg/mL,D-dimerの中央値は,AT 0.6 μg/mL,CE 1.1 μg/mL,LI 0.7 μg/mL,BNPの中央値は,AT 20.9 pg/mL,CE 151.4 pg/mL,LI 36.5 pg/mLであった。

Figure 1 各臨床病型における測定値の分布

Tukey-Kramer test(p < 0.05)

BNP:CEはATやLI(非CE)に比べ有意に高値を示した。

FMC,D-dimer測定値においては,AT・CE・LIの病型間に有意差は認められなかった。BNP測定値においては,CEはATやLIに比べ有意に高値を示した(p < 0.0001,p = 0.0014)。

2)項目別,各臨床病型の陽性率と病型間の比較を示す(Figure 2)。FMC陽性率はAT 33.3%,CE 56.1%,LI 23.9%,D-dimer陽性率はAT 27.2%,CE 53.7%,LI 34.8%,BNP陽性率はAT 11.1%,CE 78.0%,LI 17.4%であった。FMCにおいては,CEがATやLIに比べ有意に高い陽性率を示した(p = 0.0198,p = 0.0039)。D-dimerにおいては,CEはATに比べ有意に高い陽性率を示した(p = 0.0053)が,LIとは有意差が認められなかった。また,FMC,D-dimerにおいては,ATとLIの間には有意差が認められなかった。BNPに関しては,CEはATやLIに比べ最も差を認め,有意に高い陽性率を示した(p < 0.0001,p < 0.0001)。

Figure 2 各臨床病型の陽性率と病型間の比較

Fisher’s Exact test(p < 0.05)

FMC:CEは非CE に比べ有意に高い陽性率を示した。

D-dimer:CEはATに比べ有意に高い陽性率を示した。

BNP:CEは非CE に比べ有意に高い陽性率を示した。

2. BNP値と心房細動の関連性

1)各臨床病型のBNP中央値(pg/mL)と心房細動検出率(%)を示す(Figure 3)。入院時のBNP中央値は,AT 20.9 pg/mL,CE 151.4 pg/mL,LI 36.5 pg/mLであった。退院までに判明した心房細動検出率は,AT 3.7%,CE 90.2%,LI 10.9%であった。

Figure 3 各臨床病型のBNP中央値と心房細動検出率

入院時のBNP値が高い程,退院時の心房細動検出率が高い。

2)各臨床病型の心房細動検出の有無によるBNP中央値を示す(Table 2)。心房細動検出群のBNP中央値は,AT 102.2 pg/mL,CE 151.4 pg/mL,LI 128.6 pg/mLであった。心房細動未検出群のBNP中央値は,AT 18.5 pg/mL,CE 156.5 pg/mL,LI 29.3 pg/mLであった。

Table 2  各臨床病型の心房細動検出の有無によるBNP中央値
臨床病型 心房細動
検出の有無
件数 BNP中央
(pg/mL)
アテローム血栓性脳梗塞(AT) 3 102.2
78 18.5
心原性脳塞栓症(CE) 37 151.4
4 156.5
ラクナ梗塞(LI) 5 128.6
41 29.3

3. OT症例内訳とFMC,D-dimer,BNP平均値の解析

OT 22例の内訳と各項目の平均値を示す(Table ‍3)。塞栓源不明脳塞栓症(embolic stroke of undetermined source; ESUS)が13例,Trousseau症候群が5例,動脈解離2例,血小板増多症,奇異性脳塞栓症がそれぞれ1例ずつであった。ESUSにおける平均値は,FMC 7.4 μg/mL,D-dimer 1.5 μg/mL,BNP 37.6 pg/mLで,Trousseau症候群では,FMC 120.7 μg/mL,D-dimer 19.8 μg/mL,BNP 51.0 pg/mLであった。

Table 3  その他の梗塞(OT)22例の内訳と各項目の平均値
疾患名 OT内訳22例 FMC(μg/mL) D-dimer(μg/mL) BNP(pg/mL)
ESUS 13 7.4 1.5 37.6
Trousseau 症候群 5 120.7 19.8 51
動脈解離 2 1.3 0.8 7.7
血小板増多症 1 1.9 1.5 96.1
奇異性脳塞栓症 1 1.8 1.1 42.9

VI  考察

脳梗塞は,NINDS-IIIの分類3)によれば,発症機序と臨床病型によりそれぞれ分類される。発症機序に関しては,血栓性,塞栓性,血行力学性の3項目に,臨床病型に関しては,AT,CE,LI,OTの4項目に分類される。臨床病型分類では,CEは心臓内で形成された血栓による脳動脈の塞栓で,発作性心房細動を原因とするものが最も多い2)。また,ATは頭蓋内外の血管の動脈硬化性病変に起因する脳梗塞で,動脈の狭窄や閉塞において生じる。LIは高血圧によ‍るリポヒアリノーシスや動脈壁に生じるmicroatheromaが主な原因と考えられており,大きさが15 mm未満の小梗塞である。OTは,原因不明の脳梗塞,特殊な原因による脳梗塞(凝固異常,脳動脈解離,血管炎など)など様々な疾患が含まれる2)。脳梗塞の内科的治療法として,CEでは主に抗凝固療法が,ATやLIでは抗血小板療法やオザグレルナトリウムの投与が行われる4)Table 4)。

Table 4  各臨床病型の主な病態と治療法
臨床病型 主な病態 原因 治療法
心原性脳塞栓症(CE) 心臓内血栓による脳動脈の塞栓 心房細動,心筋梗塞など 抗凝固療法
アテローム血栓性脳梗塞(AT) 主幹脳動脈のアテローム硬化による狭窄・閉塞 動脈硬化性病変 抗血小板療法オザグレルNa
ラクナ梗塞(LI) リポヒアリノーシス,microatheromaによる細い穿通枝の閉塞 高血圧,動脈硬化
その他の脳梗塞(OT) 原因不明,特殊な原因による脳梗塞 原因不明,凝固異常,動脈解離など

血液凝固線溶カスケードをFigure 45)に示す。凝固系が活性化されると,トロンビンの作用によりフィブリノゲン(fibrinogen; Fbg)からフィブリノペプタイドA(fibrinopeptide A; FPA)とフィブリノペプタイドB(fibrinopeptide B; FPB)が遊離され,フィブリンモノマー(fibrin monomer; FM)となる。FMは,活性型第XIII因子およびCa2+存在下で架橋され,不溶性の安定化フィブリンを形成する。また,FMはFbgや種々のフィブリン/Fbg分解産物(fibrinogen and fibrin degradation products; FDP)やフィブロネクチンと複合体を形成しFMCとして血中を循環する6)。本検討で使用したFMC試薬は保険点数定量区分のキットであり,線溶活性があってもFM上のエピトープ部分が存在する限り測定可能で7),血栓材料とその遺産物を含めて測定している。そのため,FMCは凝固活性を反映する凝固分子マーカーであり,血液凝固亢進の鋭敏な指標となる6),8)。一方D-dimerは安定化フィブリンがプラスミンの線溶活性によって分解される際の分解産物であり,二次線溶亢進により増加する。活性型第XIII因子によって架橋されたDD分画を含む血液分子マーカーで,臨床的には血栓マーカーとして用いられている7),9)。今回我々が用いたD-dimer試薬は血栓のプラスミン分解直後の高分子分画に特異性が高いキットで,脳卒中領域の微小血栓に対してもD-dimer成分の早期検出が期待できた。

Figure 4 血液凝固線溶カスケード5)

凝固系が活性化されると,トロンビンの作用によりフィブリノゲン(fibrinogen; Fbg)からフィブリノペプタイドA(fibrinopeptide A; FPA)とフィブリノペプタイドB(fibrinopeptide B; FPB)が遊離され,フィブリンモノマー(fibrin monomer; FM)となる。FMは,活性型第XIII因子およびCa2+存在下で架橋され,不溶性の安定化フィブリンを形成する。また,FMはFbgや種々のフィブリン/Fbg分解産物(fibrinogen and fibrin degradation products; FDP)やフィブロネクチンと複合体を形成しFMCとして血中を循環する5)。一方線溶が亢進すると,プラスミンはFbg,FMC,安定化フィブリンに作用し,種々の分解産物が生成される。

本検討においてFMCは,ATやLI(非CE)と比較しCEで有意に高い陽性率を示した。この理由としては,FMCが凝固活性を反映しCEにおいて凝固亢進状態を捉えているためと考えられた。

CEの最大の原因は心房細動である10)。心房細動では心房が無秩序に収縮を起こすため,有効な拍出が得られず血流の鬱滞を招き,鬱滞した血液はフィブリンを形成する。脳梗塞急性期は凝固亢進状態にあり,特にCEで顕著である11)。CEは心房細動による凝固能亢進と血栓形成が原因の塞栓性機序が大きいのに対して,非CEでは動脈硬化性病変によるものが多数を占め,その発症起点に血小板機能の関与が大きく,凝固能の関与が相対的に小さいことを反映した結果と考えられた。

D-dimerの上昇は安定化フィブリンが生成したことの間接的な証と考えられている。しかし,今回の検討においてD-dimerはCEがATと比較して高い陽性率を示したが,LIとの比較では有意差が認められなかった。またFMCとD-dimerはいずれも非CEであるATとLIの間において有意差は認められなかった。これは,ATとLIが梗塞巣の大きさに違いがあるものの,両者とも動脈硬化や高血圧に起因するためであり,少なくともFMCとD-dimerは,非CE間の鑑別診断には有用ではないと考えられた。

BNPは,心臓に負荷がかかると主に心室で産生・分泌されるホルモンで,半減期が約20分であることから瞬時に変化する心臓の状態を鋭敏にとらえることができる。そのため,BNPは,日常診療において心疾患のスクリーニングや心不全の治療効果を判定するバイオマーカーとして用いられている。さらに,近年脳梗塞急性期,特に心房細動を有する患者においてBNPが高値を示すと報告された12)。今回の検討においても,入院時のBNPを臨床病型間で比較したところ,測定値および陽性率ともにCEにおいて著明な高値を示した。BNPは左心室の機能を反映しているため,CEにおいては心房細動による心臓内血栓が原因となって脳塞栓を発症し,同時に心臓に対する負荷が重なりBNPの異常高値となったと考えられる。

我々は,各臨床病型の入院時のBNP中央値と退院までに判明した心房細動検出率を求め関連性を検討した(Figure 3)。その結果,入院時のBNP値が高いほど退院時の心房細動検出率も高く,CEではBNP値と心房細動検出率がともに最も高かった。また,CEにおいて心房細動未検出例をみると細菌性心内膜炎や不整脈の症例の他に,経食道エコーでもやもやエコーや左心耳機能低下の所見が確認された症例があり,これらはBNP高値を示し,発作性心房細動が原因となった可能性も否定できないと考えられた。

心房細動は脳梗塞急性期患者における入院時の重症度および早期死亡に独立した関連因子でもある12)。心房細動に対する再発予防は抗凝固療法であり,心房細動を検出するかどうかで治療方針が全く異なる12)が,脳梗塞急性期の来院時においては,短時間あるいは低頻度の発作性心房細動は入院時の12誘導心電図だけでは検出率が低いことが報告されている13)。そのため入院時に洞調律の脳梗塞急性期患者においてBNPが高値を示した場合,心電図モニターや24時間ホルター心電図で発作性心房細動の検索を積極的に行うことが重要である12),14)

OTは,原因不明の脳梗塞,特殊な原因による脳梗塞など様々な疾患が含まれる。2014年にHartらが提唱したESUSの診断基準15)によれば,ESUSは,病変を灌流する頭蓋内外の主幹脳動脈に50%以上の狭窄がないことを確認しATを除外し,次いで高リスク塞栓源となる心疾患の存在がないことを確認しCEを除外,そしてCTまたはMRIでLIを除外し,その他の特殊な原因による脳梗塞を除外した残りの脳梗塞と定義される。全症候性脳梗塞のうち,4分の1前後は潜因性脳梗塞に分類されるのでESUSに該当する脳梗塞はかなりの比率を占めると言われている16),17)。本検討におけるOTの症例内訳をみると,ESUSは約6割と最も多く,次いでTrousseau症候群であった。またFMC,D-dimer,BNP平均値をみると,ESUSにおいては明らかな高値を示さなかったが,Trousseau症候群はFMC,D-dimerが著明な高値を示した。FMC 150 μg/mL以上を示した4例は多発性の脳梗塞であり,強い凝固線溶亢進が示唆された。Trousseau症候群は,悪性腫瘍が関連する凝固線溶系異常による血栓塞栓症で,脳梗塞や静脈血栓塞栓症などを含めた幅広い概念と解釈されている18)。FMC,D-dimerが高値を示した場合には悪性腫瘍が隠れている可能性があることを念頭に置いて検査すべきであると思われた。

脳梗塞は臨床病型により治療法が異なるため,発症早期に臨床病型診断を行うことは,適切な治療を選択するために極めて重要である。脳梗塞の発症から数時間以内に,詰まった脳の血流が再開すれば症状が回復する可能性がある。そのため,脳梗塞病型診断の有用なバイオマーカーが確立されれば重要な役割を果たすと考える。

今回の検討結果より,脳梗塞急性期患者のFMC,D-dimer,BNP測定は臨床病型診断に有用で,特にBNPは,CEと非CEとの鑑別診断に有用であることが明らかとなった。しかし,OT以外の非CE間ではFMC,D-dimerともに有意差を認めなかった。

昨今,脳梗塞の予防・治療における関連マーカーとしてもFMCやD-dimerが注目されており,特に直接経口抗凝固薬の有効性評価にFMCの有用性が示唆されている19)

一般的には血栓関連項目としてD-dimerが普及しているが,今回の検討を通じてFMCもフィブリン関連由来血栓の検出能においてはD-dimerとともに有用であることが示唆された。

VII  結語

今回の我々の検討により,脳梗塞急性期におけるFMC,D-dimer,BNPの測定は臨床病型診断に有用で,特に,BNPはCEと非CEの鑑別診断に有用であった。

 

本論文の要旨は,第66回日本医学検査学会(2017,千葉)にて発表した内容に症例数を追加し,第56回全国自治体病院学会にて発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
© 2019 Japanese Association of Medical Technologists
feedback
Top