Japanese Journal of Medical Technology
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Incident analysis and preventive measures taken in the general laboratory of hospital
Kojiro TSUNEKAWAYoshiyuki ASAIShinobu IKEGAMIYuichiro YAMADATakuya KITAOKANorihiro YUASA
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2019 Volume 68 Issue 2 Pages 333-338

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Abstract

一般検査室で行われる業務は検査結果を手入力する作業が多く,「うっかり」「不注意」といったヒューマンエラーによるインシデントが発生しやすい。本稿では,当院における一般検査室のインシデントを解析し,その対策の具体例を報告する。2009年4月から7年8ヶ月間に当院一般検査室で発生したインシデント14件を対象として,インシデントの内容・影響レベル・原因・発生した時間帯・対策について検討した。インシデントの主原因は錯誤:10件,知識不足:2件,不注意:1件,情報伝達不足:1件であった。インシデントは月曜日・火曜日に多く発生しており,1時間当たりのインシデントの発生頻度は昼食時間帯(11:00–13:30)に高く,ルチン帯と比較して日・当直帯で高かった。インシデントへの対策として,錯誤の起こりにくい環境づくり,簡便でわかりやすいチェック方法が重要である。

Translated Abstract

Incidents caused by human errors such as ‘thoughtlessness’ and ‘carelessness’ are likely to occur in a general laboratory because the nature of work frequently involves manual evaluation and input. In this article, we report the incident analysis of the general laboratory of our hospital and discuss examples of the measures taken to prevent such incidents from occurring. Fourteen incidents that occurred between April 2009 and October 2016 (92 months) were analyzed in terms of their influence level, causes, time of incident occurrence, and preventive measures. The main causes of the incidents were mistakes (10 cases), lack of knowledge (2 cases), carelessness (1 case), and insufficient information transfer (1 case). The incidents frequently occurred on Mondays and Tuesdays, during lunch time (11:00–13:30), and during day and night duties. It is important to develop countermeasures to create an environment that minimizes the occurrence of mistakes and to develop simple and easy verification methods.

I  はじめに

臨床検査は医師が診断・治療を行う上で重要で,近年,医療における検査部門の役割は増している。臨床検査データを正確かつ迅速に臨床医に提供するために,検査室においても積極的に医療安全に取り組む必要がある1)

当院一般検査室では尿定性,尿沈渣,ウイルス・細菌迅速抗原検査(以下,迅速抗原検査),便潜血反応,妊娠反応,human chorionic gonadotoropin,髄液検査,羊水検査,胸水・腹水検査,精液検査,寄生虫検査,赤血球沈降速度検査を臨床検査技師3名で行っている。ここでは検査結果を手入力する作業が多いため,ヒューマンエラーによるインシデントがしばしば発生してきた。そして,こうしたインシデントを再発させないために様々な対策を講じてきた。検査室におけるインシデントの要因,対策を検討した報告は多いが,それを具体的かつ詳細に記したものは少ない1)~4)。本稿では,当院における一般検査室のインシデントを解析し,その対策の具体例を報告する。

II  対象および方法

2009年4月から2016年11月までの7年8ヶ月間に当院一般検査室で発生したインシデント14件を対象とし,インシデントの内容・影響レベル・原因・発生した時間帯・対策について検討した。本検討ではエラー発生のきっかけとなった原因を主原因とし,エラーがチェックできなかった原因を副原因とした。インシデントの原因を不注意(うっかり,わかっているのに間違えた),錯誤(思い込み,勘違い),知識不足(知識が身についていない),情報伝達不足(技師間の情報伝達不足)に分類した。インシデントの影響レベルは,当院のインシデントアクシデント報告基準(レベル0~5・適応外)に準じて,レベル0(エラーや医療薬品・医療機器の不具合がみられたが,患者には実施されなかった)。レベル1(患者への実害はなかった)。レベル2(投薬,検体の再提出などが行われたが,処置や治療は行わなかった)に分類した5)

インシデントが発生した時間帯は,ルチン帯(8:50–17:20),日直帯(土・日・祝日8:50–17:20),当直帯(17:20–8:50),午前(8:50–11:00),昼食時間帯(11:00–13:00),午後(13:30–17:20)に分類した。

また,インシデント件数の多かった1事例に対して対策を施し,その効果を確認した。

カテゴリー変数の統計学的検定はχ2検定を用い,p < 0.05を有意差ありとした。本検討は当院臨床研究審査委員会の承認を受けている(2017-084)。

III  結果

対象期間内における一般検査の総検査件数は901,249件(ルチン帯:820,536件,日・当直帯80,713件)で,検査1万件あたりのインシデント発生数は0.16件であった。一般検査室で発生した年次別のインシデント件数をFigure 1に示す。インシデントは2011年,2012年に急増し,2011年から2013年の3年間に10件発生していた。その後の2014年から2016年の3年間では4件に減少していた。14件のインシデントの内容をTable 1に示す。「迅速抗原検査の結果を誤入力する」というインシデントが最も多く,5件発生していた。

Figure 1 Annual number of incidents (n = 14)
Table 1  Causes and influence levels of 14 incidents
No 発生年月 インシデントの内容 主原因 副原因 発見者 影響レベル
1 2011.01 迅速検査項目の間違い 錯誤 技師 2
2 2011.01 検体採取方法の患者への説明不足 知識不足 技師 2
3 2012.03 迅速抗原検査の結果の誤入力 錯誤 不注意 技師 1
4 2012.04 検査の未実施 錯誤 伝達不足,知識不足 技師 1
5 2012.04 尿検体の分注ミス 知識不足 伝達不足 技師 0
6 2012.05 迅速抗原検査の結果の誤入力 錯誤 技師 2
7 2012.10 別患者の検体を測定 錯誤 医師 1
8 2012.12 迅速抗原検査の結果の誤入力 錯誤 不注意 技師 1
9 2013.02 迅速抗原検査の結果の誤入力 不注意 錯誤 技師 2
10 2013.10 自動希釈再検前の結果を報告 伝達不足 技師 0
11 2015.04 希釈方法の間違い 錯誤 医師 1
12 2015.12 迅速抗原検査の結果の誤入力 錯誤 錯誤 技師 1
13 2016.08 検査の未実施 錯誤 錯誤,不注意 病棟 2
14 2016.12 検査を行っていない検体を廃棄 錯誤 錯誤 医師 2

インシデントの主原因は錯誤:10件,知識不足:2件,不注意:1件,情報伝達不足:1件であった。副原因を含めると,インシデントの原因は錯誤15件,不注意:5件,知識不足3件,情報伝達不足:3件であった。インシデントの影響レベルは0:2件,1:6件,2:6件であった。レベル2の内容は「検体の取り直し」3件,「不要な薬剤の投与」2件,「検査の中止」1件であった。

インシデントが発生した曜日は,日曜日2件,月曜日4件,火曜日3件,水曜日2件,木曜日2件,金曜日2件,土曜日0件と,インシデントは月曜日,火曜日に多かった。

インシデントの発生した時間帯は午前(8:50–11:00):1件,昼食時間帯(11:00–13:30):5件,午後(13:30–17:20):4件,当直帯(17:20–8:50):4件であった。1時間当たりの発生件数は午前0.46件,昼食時間帯2.00件,午後1.04件,当直帯0.26件で,昼食時間帯が最も多かった。また,検査技師の業務の交代前後に5件のインシデントが発生していた。ルチン帯(8:50–17:20)でのインシデントは9件,日・当直帯でのインシデントは5件(36%)で,検査1万件あたりの発生頻度はルチン帯0.11件,日・当直帯0.62件と,日・当直帯で有意に高かった(p = 0.0058)。

迅速抗原検査結果の誤報告に対し,2012年3月から2013年5月に以下の対策を立てた。(1)検体検査システムに(+)が入力されると結果値が赤くなるようにして,陽性結果をわかりやすくした(Figure 2)。(2)知識不足を補うため,迅速抗原検査のための専用チェンバー内に迅速抗原検査実施手順マニュアルを掲示した。(3)検体ラベルに記載された判定結果と検体検査システムに入力された検査結果を,結果を入力する技師と結果を確認する技師が,それぞれ別に照合するようにした。(4)当直帯では0:00頃,8:50(業務終了時)に,それまでに報告された結果をもう一度チェックするようにした。

Figure 2 Positive results were colored red in the laboratory system

その後22ヶ月間,迅速抗原検査結果の誤報告は発生しなかったが,2015年12月に再発したため,以下の対策を追加した:(1)検体容器に検査結果を記入する位置を統一した(Figure 3)。(2)結果を入力する技師は検体検査システム・モニター画面をコピーし,陽性の場合は(+)に赤丸を付け(Figure 4),入力結果を再確認する別の技師に,陽性であったことを口頭で伝える。(3)入力結果を再確認する技師は,検体に記入された結果と検体検査システム・モニター画面のコピーの結果を照合する。(4)検査結果が陽性・陰性の検体をそれぞれ別の試験管立てに立てる(Figure 5)。(5)検体検査システム・モニター画面のコピーを,陽性と陰性で別のトレーに入れる(Figure 6)。この結果,2015年12月以降,迅速抗原検査の誤報告は24ヶ月間発生しなかったが,2017年12月に再発した。そのため,結果を入力する際に指差し確認を行うこととし,また,結果入力をする検体検査システム端末とプリンターの配置位置を近づけ,入力結果の確認をしやすくした。

Figure 3 Result-recording methods were unified
Figure 4 A positive result on a hard copy was marked with a red circle
Figure 5 Specimens with positive results were differentiated from those with negative results
Figure 6 Hard copies with positive results were differentiated from those with negative results

IV  考察

本検討では当院一般検査室において7年8ヶ月間に発生した14件のインシデントを検討した。

当検査室では,現在インシデントの見落としを防ぐ目的で,検査結果を手入力で行う迅速抗原検査の検体を廃棄する際に再度検体バーコードラベルに記載された検査結果と,検体検査システム・モニター画面に入力された検査結果が一致しているかを確認している。また,医師が患者の臨床症状および検査結果の時系列の乖離を確認していることから,発生したインシデントの報告は十分なされていると考える。

また,インシデントの発見者は10件が検査技師,4件が医師および病棟看護師であった。インシデントは発生しても,検査技師には発見しにくいことがあり,再発防止対策が重要と考えられる(Table 1)。

一般検査室でのインシデントの発生が2011年以降に急増したのは,細菌検査室で行われていた迅速抗原検査を2011年11月から一般検査室に移行したこと,当検査室における医療安全向上の取り組みにより,それまで報告されてこなかったインシデントが報告されるようになったことなどが理由と考えられる。

一般検査室におけるインシデントの原因は錯誤,不注意が多かった。加賀山ら6)は,自身で行っている作業工程中,他者から作業が中断されたり,集中力がそがれる状態はインシデントが発生しやすい,と述べている。加えて,業務の立ち止まり,振り返り,作業に時間をかけることの重要性を指摘している。これらは錯誤,不注意を引き起こさないために有効であろう。

高橋ら7)は臨床検査室において3年間に報告された292件のインシデントを解析し,金曜日にインシデントが多く発生していたことを報告しているが,本検討ではインシデントは月曜日・火曜日に多く発生していた。これは当院検査部では月曜日に土曜日・日曜日の日・当直者からの引継ぎがあること,火曜日に検体数が多いことが原因と考えられる。しかしサンプル数が少なく誤差範囲である可能性も否定できない。

インシデントの発生頻度はルチン帯に比べて日・当直帯で高かった。これは日・当直者が一般検査スタッフに比べて一般検査業務に不慣れなこと,当院の日・当直は2人で行っているが,夜間は1人で業務を行うことが多いことが原因と考えられる。同様の結果は,高橋ら7)も報告している。

時間帯別では,インシデントは昼食時間帯に最も多く発生していた。当院一般検査室ではこの時間帯にスタッフ数が減ること,業務の引継ぎが多いことなどが原因と考えられる。前田ら8)は検査室と病棟・外来・透析室における検査と関連したインシデントを分析し,一日のうちで最も検体数が集中する10:00から11:00にインシデントが多く発生していた,と報告している。検体数が多く,技師数が少ない時間帯にインシデントが発生しやすいと考えられる。検体量,技師数を考慮した休憩時間の取り方,技師の配置,他部署との連携などを今後は検討する必要がある。

また,本検討では業務の交代前後にもインシデントが多く発生していた。これは技師が次の業務場所へ移動するにあたって,現在の業務を早く終えようとする気持ちの焦りや,他部署から一般検査へ移動後の不安定な気持ち,滞っていた業務を早く終えようとする気持ちの焦りなどが原因と考えられる。

迅速抗原検査を判定する際に陽性であった場合,検体検査システム・モニター画面をコピーし,陽性の場合は(+)に赤丸を付けること,再確認をする別の技師に結果を口頭で伝えること,陽性と陰性の検体を別の試験官立てに立てること,検体検査システム・モニター画面のコピーを陽性と陰性で別のトレーに入れることなどによって,検査結果が意識づけられ,錯誤が起きにくく,分かりやすく,また誤りに気付きやすくなった。また,検体容器のバーコード部分への検査結果の記載方法を統一することにより,バーコードラベルにおいて,検体番号→患者氏名→判定結果→検査項目の順に,同一目線で追いやすくした(Figure 3)。しかし,こうした対策にもかかわらず,迅速抗原検査の誤入力,誤報告が再発したため,指差し確認を行うことにした。野口ら9)は,指差し確認によって確認対象に視線が向きやすくなり,見間違いが防止できる,としている。笠原ら10)は看護師の内服与薬業務における誤薬発生要因を検討し,声出し確認,指差し確認が誤薬投与防止に効果的であったと報告している。

近年,迅速抗原検査の自動判定機器と検体検査システムをオンラインして結果を送信できるシステムが開発されているが,1つの機器で検査可能な迅速検査は限定されている11)。このため迅速抗原検査オンラインシステムの導入は普及しておらず,結果を手入力する必要は無くなっていない。したがって結果の判定入力には,検査技師の注意力に頼らざるを得ない現状がある。今回,インシデントの原因と対策を検討した結果,錯誤の起きにくい環境作り,ダブルチェックの徹底は一定の効果があった。

本研究では,7年8ヶ月間に発生したインシデントを対象としたが,対象件数は14件と少ない。当院検査部ではインシデントに対して1件ずつ詳細に原因を検討し,その対策を立て,レポートとして蓄積してきた。本検討においては,そのデータを元に詳細に検討を加えた。今後は,更にデータを蓄積し,多方面からインシデントの原因・対策について検討する必要がある。

V  結語

一般検査室におけるインシデントの防止のために,簡便でわかりやすいチェック方法と,錯誤の起こりにくい環境づくりが重要である。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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