2019 Volume 68 Issue 3 Pages 470-475
AIA-CLシステム用として新たに開発された化学発光酵素免疫測定法を原理とするintact PTH測定試薬の基礎的検討を行った。専用コントロールおよび患者プール血漿を測定したときの同時再現性はC.V. 1.9~3.7%,日差再現性はC.V. 3.8~5.1%であった。希釈直線性は約5,000 pg/mLまで良好で,検出限界はLoB:0.19 pg/mL,LoD:0.36 pg/mL,LoQ:1.92 pg/mLであった。共存物質の影響は認められず,他法との相関はAIA-1800およびcobas 6000ともに良好であった。検体の安定性の検討では4℃保存下の血清において測定値の減少が認められた。また,患者血漿を別の容器に移し替え測定したところ,測定値の低下現象がみられた。さらに,7種のPTHフラグメント(7–84, 1–34, 13–34, 44–68, 39–68, 39–84, 53–84)を測定した結果,7–84 PTHのみと反応し,他のフラグメントとの反応性は0.1%未満であった。以上の結果より,本試薬は基礎的性能に優れているため,日常検査法として有用であると考えられた。ただし,検体の安定性と容器の移し替えには留意する必要がある。
We evaluated the basic performance of chemiluminescent immunoassay-based intact PTH assay, which was newly developed as part of the AIA-CL systems. The coefficients of variation (C.V.) of within-run and between-day precisions of the assay using quality control samples or pooled plasma from patients were 1.9 to 3.7% and 3.8 to 5.1%, respectively. Good linearity was observed from 0 to 5,000 pg/mL. The LoB, LoD, and LoQ were 0.19, 0.36, and 1.92 pg/mL, respectively. No interference by endogenous substances was noted. The relationship between AIA-1800 or cobas® 6000 and this method was good. The stability of serum in storage was poor at 4°C. Intact PTH concentrations were reduced by sample transfer to another container. This assay was only reactive against the 7–84 PTH fragment, and reactivity against the other PTH fragments (1–34, 13–34, 44–68, 39–68, 39–84, and 53–84) was below 0.1%. These results suggest that this method is useful for routine examinations, but caution is needed regarding sample stability and transfer.
副甲状腺ホルモン(parathyroid hormon; PTH)は,84個のアミノ酸から構成されるペプチドホルモンで1),血中のカルシウム濃度の調節に重要な役割を有している2)。PTHの生理活性にはN末端側のへリックス構造が重要であるとされているが3),PTHは生理活性を有する完全長の1–84 PTHの他,様々なフラグメントとして血中に存在している。PTH測定法の1つであるintact PTH測定法では,フラグメントである7–84 PTHも測定してしまうことが明らかとなっている4),5)。そこで近年,1–84 PTHのみを測定するwhole PTH測定法が開発されたが,現在は普及段階であり,臨床においてintact PTH測定法が今も広く利用されている。
今回,我々は新しく開発された東ソー株式会社のAIA-CLシステム用intact PTH測定試薬について,基礎的性能評価を行った。また,PTH測定において現在問題とされている検体の保存安定性および検体の容器移し替えに起因する測定値の低下についても再検討を行ったので報告する。
検査終了後の残余検体を調査研究に使用することに同意した当院患者検体を用いた。なお,本研究は虎の門病院研究倫理審査委員会の承認を得て実施した(受理番号1120)。
2. 測定機器・試薬測定機器は東ソー株式会社のAIA-CL2400,測定試薬はAIA-CLシステム専用のintact PTH試薬を使用した。本試薬は化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescent enzyme immunoassay; CLEIA)を測定原理としている。対照法には同社のEテスト「TOSOH」II(インタクトPTH)(測定機器:AIA-1800)およびロシュ・ダイアグノスティックス株式会社のエクルーシス試薬PTH(測定機器:cobas 6000,以下cobas)を用いた(Table 1, Figure 1)。
検討試薬 | Eテスト「TOSOH」II (インタクトPTH) |
エクルーシス試薬PTH | |
---|---|---|---|
機器 | AIA-CL2400 | AIA-1800 | Cobas 6000 |
測定原理 | CLEIA(化学発光酵素免疫測定法) | EIA(酵素免疫測定法) | ECLIA(電気化学発光免疫測定法) |
測定時間 | 15分 | 18分 | 18分 |
検体種 | 血清,EDTA血漿 | 血清,EDTA血漿 | 血清,血漿 |
測定範囲 | 1.0–5,000 pg/mL | 1.0–2,000 pg/mL | 1.20–5,000 pg/mL |
検体量 | 20 μL | 75 μL | 50 μL |
抗体①(抗原認識部位) | ヤギポリクローナル抗体(1–34) | マウスモノクローナル抗体(26–32) | |
抗体②(抗原認識部位) | ヤギポリクローナル抗体(39–84) | マウスモノクローナル抗体(37–42) |
2濃度の東ソーコントロール(インタクトPTH)(東ソー株式会社,以下専用コントロール)および2濃度の患者プール血漿を20日間2重測定し,一元配置分散分析法にて同時再現性(併行精度)および日差再現性(室内精度)を調べた。
4. 希釈直線性高濃度試料を専用希釈液で10段階に希釈し,それぞれ2重測定した。
5. 検出限界臨床化学会から勧告されている「定量分析法における検出限界および定量限界の評価法」6)に従い,ブランク上限(limit of blank; LoB),検出限界(limit of detection; LoD),定量限界(limit of quantitation; LoQ)をそれぞれ求めた。LoBはブランクキャリブレータを5日間12回測定,LoQは低値試料12検体を12回測定し,算出した。LoQはprecision profileにおいてC.V. 10%となる濃度から求めた。
6. 共存物質の影響患者プール血漿を対象に,干渉チェックAプラスおよびRFプラス(シスメックス株式会社),自家製溶血赤血球溶液を用い,乳び,溶血,遊離型ビリルビン,抱合型ビリルビンおよびリウマトイド因子についてそれぞれ検討した。
7. 相関患者EDTA血漿を対象に,本法と対照法の相関性を検討した。
8. 検体保存安定性患者EDTA血漿および血清をそれぞれ5例ずつ用い,−20℃保存は10日間,4℃保存は54時間までの安定性を検討した。−20℃保存は0,1,3,7,10日目に,4℃保存は0,1,2,4,6,24,54時間後に各検体を2重測定した。
9. 検体の容器移し替えの影響はじめに患者EDTA血漿を採血管より直接サンプリングし,intact PTHの測定を行った。その後500 μLずつサンプルチューブ(株式会社日立製作所),サンプルカップ(アジア器材株式会社),マイクロチューブ(ワトソン株式会社)に分注し,10秒間ミキサーを用いて混和し,移し替え1回目の測定を行った。続いてデカンテーションにて新しい容器に移し替えを行い,同様に測定し,移し替え4回目までの測定値の変化を調べた。すべて2重測定で,3種類の容器で5例ずつ行った。
10. 各種PTHフラグメントとの交差反応性濃度1,000,000 pg/mLの7種類のPTHフラグメント(7–84, 1–34, 13–34, 44–68, 39–68, 39–84, 53–84)を用意し,7–84 PTHは1,000 pg/mL,その他は10,000 pg/mLとなるよう調製した。本法および対照法でそれぞれ2重測定し,測定平均値/添加濃度 × 100(%)で交差率を求めた。
専用コントロールの同時再現性はLevel 1がC.V. 3.7%,Level 2が3.3%,日差再現性はLevel 1がC.V. 5.1%,Level 2が3.8%であった。患者プール血漿の同時再現性はLowがC.V. 2.9%,Highが1.9%,日差再現性はLowがC.V. 4.4%,Highが4.6%であった(Table 2)。
Within-run | Between-day | ||||
---|---|---|---|---|---|
Mean (pg/mL) |
S.D. (pg/mL) |
C.V. (%) |
S.D. (pg/mL) |
C.V. (%) |
|
Control Lv.1 | 41.6 | 1.5 | 3.7 | 2.1 | 5.1 |
Control Lv.2 | 755.1 | 24.9 | 3.3 | 28.6 | 3.8 |
Pooled plasma Low | 51.9 | 1.5 | 2.9 | 2.3 | 4.4 |
Pooled plasma High | 392.4 | 7.8 | 1.9 | 18.0 | 4.6 |
約5,000 pg/mLまで直線性が認められた(Figure 2)。
LoBは0.19 pg/mL,LoDは0.36 pg/mL,LoQ(C.V. 10%)は1.92 pg/mLであった(Figure 3)。
乳びは1,480ホルマジン濁度まで,溶血は490 mg/dLまで,抱合型ビリルビンは20.9 mg/dLまで,遊離型ビリルビンは20.1 mg/dLまで,リウマトイド因子は550 IU/mLまで測定結果に影響は認められなかった(Figure 4)。
本法(y)とAIA-1800(x)の相関は,y = 0.947x + 6.68,r = 0.99(n = 129)であった。本法(y)とcobas(x)の相関は,y = 1.000x − 15.60,r = 0.99(n = 133)であった(Figure 5)。
保存開始直前(−20℃保存:0日目,4℃保存:0時間)の測定値を100%とした。−20℃保存では血漿・血清ともに10日目までの低下率は平均10%以内であった。4℃保存では血漿は54時間までの低下率は平均10%以内であったが,血清では54時間後に平均89%に低下した(Figure 6)。
容器移し替え前の測定値を100%とした。3種類の容器ともに移し替え毎に測定値が低下していき,移し替え4回目ではサンプルチューブで68%,サンプルカップで77%,マイクロチューブで68%に低下した(Figure 7)。
7–84 PTHとの本法,AIA-1800,cobasの交差率はそれぞれ125%,125%,121%であった。その他のPTHフラグメントとの交差率は本法およびcobasでは0.1%以下,AIA-1800では0~0.15%であった(Table 3)。
Fragment | Concentration (pg/mL) | Cross-reactivity (%) | ||
---|---|---|---|---|
AIA-CL | AIA-1800 | cobas | ||
7–84 | 1,000 | 125 | 125 | 121 |
1–34 | 10,000 | 0.00 | 0.01 | 0.00 |
13–34 | 0.00 | 0.01 | 0.07 | |
44–68 | 0.00 | 0.00 | 0.02 | |
39–68 | 0.00 | 0.02 | 0.00 | |
39–84 | 0.02 | 0.15 | 0.02 | |
53–84 | 0.00 | 0.03 | 0.00 |
本検討の結果,AIA-CLシステム用intact PTH試薬の基礎的性能(再現性,直線性,検出限界,共存物質の影響)は概ね,良好であった。また,AIA-1800およびcobasとの相関も良好であることから,本法は日常検査に有用であると考えられた。
検体の保存安定性の検討では,血漿および血清検体ともに−20℃保存では10日目まで安定していたが,4℃保存では54時間後に血清で測定値の低下が認められた。工藤ら7)が,血清を対象としたintact PTHの安定性について検討しており,4℃で7日まで安定であったと報告している。当院では血清用の採血管として高速凝固管を使用しており,本検討も高速凝固管で採取した血清を試料として使用した。高速凝固管で得た血清では,採血管中のトロンビンの影響によりintact PTHの測定値が低下することが明らかとなっており8)~10),本検討の結果,高速凝固管はintact PTHの保存安定性にも影響を与えている可能性が考えられた。
以前から容器の移し替えによりPTHの測定値が低下する現象が報告されているため10)~12),我々もその検証を行った。今回検討に使用したサンプルチューブ,サンプルカップ,マイクロチューブの3種類の容器の材質はすべてポリプロピレンであり,マイクロチューブには内側にシリコンコーティングが施されているものであったが,すべての容器で移し替えによる測定値の低下が認められた。この測定値の低下は,容器表面にPTHが吸着することが原因と考えられている12)。当院ではintact PTHの測定を採血管からサンプルチューブあるいはサンプルカップに分注し行っている。1回の移し替えでは低下率は10%以内に収まっているため,2回以上の移し替えは行わないよう,注意喚起が必要であると思われる。一方,検査対象物質の容器表面への吸着は,他にBNPのガラスへの吸着が報告されており,その防止策としてキャリブレータにカゼイン系タンパク質およびベンズアミジン誘導体を混合させている13)。今後,PTH測定においてもこのような対策が行われることが期待される。
各種PTHフラグメントとの交差反応性は,intact PTH法で測定されることが判明している7–84 PTH以外のフラグメントとの交差反応性は本法で0.1%以下であり,測定されないことが明らかとなった。7–84 PTHとの反応性は3法ともに120%を超えていたが,この原因として,1–84 PTHと7–84 PTHの分子量の違いにより高値となったことが考えられた。その他のフラグメントはAIA-1800と比較し本法の反応性は改善されているが,試薬中の抗体は変更されていないことから詳細な原因は不明である。
AIA-CLシステム用のintact PTH測定試薬を検討した結果,良好な基礎的性能を有していることが明らかとなった。他法との相関も良好で,intact PTH以外のPTHフラグメントとの反応性も低かった。また,測定時間が従来法より短縮し,少ない検体量での測定も可能になったことから,日常検査法として有用であると考えられる。検体の保存安定性では血清よりも血漿の方が安定性に優れていた。また,intact PTHは容器の移し替えによる測定値の低下が生ずるため,2回以上の移し替えは行うべきではない。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。