2019 Volume 68 Issue 3 Pages 450-454
尿培養検査は尿路感染症の診断に重要な検査であり,細菌培養検査の材料内訳でも多くを占めるが,培養陰性検体も多いのが現状である。今回,尿培養検査の効率化を目的として,全自動尿中有形成分分析装置UF-1000i(シスメックス株式会社,以下UF)の結果と検体性状に基づく尿培養検査の省略提案条件を設定し,経費削減効果も確認した。尿培養検査の省略提案は「透明尿かつUFで細菌陰性かつ白血球陰性」と設定した。尿培養検査の省略提案開始後の2016年10月から2018年7月の間に243件の尿培養が省略された。経費削減効果として,培地費用だけで合計55,161円の経費削減の効果が得られ,関連する物品経費や労働力の削減などの波及効果も得られたと考えられた。一方,患者背景を考慮せずにUF結果や検体性状のみで自動的に培養を省略すると,臨床的な尿路感染症を見逃す可能性がある。そのため,医師に確認し,尿培養が必要であると判断された場合は実施するべきであると考える。今回の検討で,UF結果と検体性状を考慮することにより不要な尿培養検体の選別が可能であることが示された。UF結果で尿路感染を示す所見が認められなかった場合,尿培養検査を省略することは労働力および経済面で利点がある。
Urine culture is an important test for the diagnosis of urinary tract infection, and it accounts for a large proportion of culture specimens. However, many urine culture specimens show a negative result. To improve the efficiency of urine culture tests, conditions for exclusion of urine cultures were examined on the basis of a specimen’s properties and the automated urinary flow cytometer UF-1000i (Sysmex) results. We also investigated the cost-saving effects of the establishment of exclusion criteria. The conditions for exclusion of a urine culture were set as “transparent urine with leukocyte-negative and bacteria-negative by UF-1000i results”. A total of 243 urine cultures were excluded during the period from October 2016 to July 2018. The cost benefit due to the reduced amount of medium used reached 55,112 JPY. It was speculated that there were additional cost benefits from the reductions in the amounts of related materials and labor. However, the automatic exclusion of urine cultures without consideration of patient background carries a risk of overlooking clinical urinary tract infection. Therefore, a urine culture should only be excluded with a doctor’s permission. In this study, it was shown that urine culture specimens that can be excluded can be identified by considering the UF-1000i results and specimen properties. In the absence of urinary tract infection indicated by UF-1000i results, excluding urine cultures has advantages in terms of labor and cost reductions.
尿路感染症(urinary tract infection; UTI)は日常診療で頻度の高い感染症の一つである1)。また,その診断と治療に役立つために,臨床微生物検査担当者は,医師に費用対効果が高く有用な情報を提供する責任がある1)。
尿路感染症の指標となる検査法としては,尿培養検査と尿一般検査が挙げられる。
尿培養検査は繰り返す尿路感染症や抗菌薬治療で失敗した患者において重要である2)。そのため細菌検査の材料内訳でも多くを占めるが,培養陰性検体も多いのが現状であり,労働力および経済面での効率化が望まれる。
また,尿一般検査でも尿培養検査と同様に,尿路感染の指標となる膿尿や細菌の存在を確認することが可能である。全自動尿中有形成分分析装置UF-1000i(シスメックス株式会社)を用いた尿中有形成分分析検査(以下UF)では,細菌専用の反応チャンネルを採用して専用の試薬を用いることで,細菌の検出感度を向上させている3)。UFでは,測定にかかる時間が1検体あたり約80秒であり,尿培養検査の最短培養時間である16時間2),4),5)と比較して短時間で細菌の存在を確認することが可能である。
そこで,UFの結果で尿路感染を示す所見が認められなかった場合に尿培養検査の省略が可能であれば,尿路感染症の診断と治療に対する労働力および経済面での効率化が期待できると予測した。
これまでもUFを用いた尿培養検査のスクリーニングに関する検討6)~8)は報告されているが,臨床的診断を確認してその妥当性まで検討した報告はない。今回,UF結果と検体性状に基づく尿培養検査の省略提案条件について検討を行い,さらに条件に該当する症例の尿路感染症の有無をカルテ調査して妥当性も確認した。また,実際に尿培養の省略提案を行い,労働力および経費削減効果も確認した。
2015年10月から2016年9月の1年間に実施した尿培養検査3,318件のうち,検体性状の記録があり,同一日にUFが実施されていた1,387件を対象とした。尿一般検査を目視法で実施していた検体については,技師間差による影響を考慮して除外した。
UFで細菌陰性(< 50/μL),白血球陰性(< 5/HPF)であった検体と,検体性状を透明,やや混濁,混濁の3段階に分類したうちの検体性状透明およびやや混濁であった検体のそれぞれについて,尿培養検査での104 CFU/mL以上の細菌の検出率を比較した。検体性状は目視判定で行った。尿培養検査での菌量は,10 μLの定量白金耳を用いて尿検体をヒツジ血液寒天培地(T)(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社;日本BD)に塗布し,培養後に発育したコロニー数をカウントして算出した。有意差検定はFisher’s exact probability testを用いた。
また,103 CFU/mLも含めた培養陽性症例について,尿路感染症の有無をカルテ調査し,尿培養省略提案条件設定の妥当性について評価を行った。
2. 尿培養の省略実施とその効果について尿培養の省略提案は,事前に医局会議で承認を得た後,2016年10月から実施した。省略の提案条件は「透明尿かつUFで細菌陰性かつ白血球陰性」とし,検体毎に依頼医師に提案し了承を得ることとした。経費削減効果は,透明尿の場合に使用しているTSA II 5%ヒツジ血液寒天培地/BTB乳糖加寒天培地(日本BD)1枚の価格に尿培養省略件数を乗じて算出した。
対象1,387件のうち,「UF細菌陰性(< 50/μL)」,「UF白血球陰性(< 5/HPF)」,「検体性状透明」,「検体性状透明およびやや混濁」などの各条件における依頼件数および菌検出結果はTable 1のとおりで,培養104 CFU/mL以上の検出率は「UF細菌陰性」が他の項目と比較して有意に低かった(p < 0.01)。また,「検体性状:透明」と「検体性状:透明 + やや混濁」では,前者が有意に104 CFU/mL以上の分離率が低かった(Table 1)。
条件 | 依頼件数 | 培養陰性件数 (%) |
103 CFU/mLの件数 (%) |
104 CFU/mL以上の件数 (%) |
---|---|---|---|---|
UF細菌陰性 | 477 | 316(70.7) | 94(21.0) | 37(8.3) |
UF白血球陰性 | 621 | 413(66.5) | 111(17.9) | 97(15.6) |
検体性状:透明 | 440 | 303(68.9) | 74(16.8) | 63(14.3) |
検体性状:透明 + やや混濁 | 922 | 463(50.2) | 129(14.0) | 330(35.8) |
「UF細菌陰性」であるが培養で104 CFU/mL以上の菌量が検出されたのは37件(8.3%)認められた。それぞれの検体で最も菌量の多かった菌種についての内訳は,酵母様真菌が8件,グラム陰性桿菌が6件,グラム陽性菌が23件であった。
さらに各条件の組み合わせで菌検出結果を比較した(Table 2)。104 CFU/mL以上の検出率が低かったのは「UF細菌陰性かつ検体性状透明」3.0%,「UF細菌陰性かつUF白血球陰性かつ検体性状透明」1.9%であった(Table 2)。これら2つの条件では検出率に有意な差は認められなかった(p = 0.552)。そこで両条件について,103 CFU/mLも含めた培養陽性症例の尿路感染症の有無をカルテ調査した結果,前者では57症例中2症例で臨床的に尿路感染症と診断されていたのに対し,UF白血球陰性(< 5/HPF)の条件を加えた後者の47症例では皆無であった。臨床的に尿路感染症と診断されていた2症例について,それぞれの詳細をTable 3に示す。症例1は尿路感染症と診断され,抗菌薬の変更が行われた。症例2は,E. coli起炎菌の右腎盂腎炎と診断されていた。2症例ともに,UF白血球が(≥ 5/HPF)であり,UF白血球を条件に加えれば検出可能であった。
条件 | 依頼件数 | 培養陰性件数 (%) |
103 CFU/mLの件数 (%) |
104 CFU/mL以上の件数 (%) |
---|---|---|---|---|
UF細菌陰性かつUF白血球陰性 | 350 | 259(74.0) | 73(20.9) | 18(5.1) |
UF細菌陰性かつ検体性状:透明 | 235 | 178(75.7) | 50(21.3) | 7(3.0) |
UF細菌陰性かつ検体性状:透明 + やや混濁 | 371 | 266(71.7) | 80(21.6) | 25(6.7) |
UF細菌陰性かつUF白血球陰性かつ検体性状:透明 | 208 | 161(77.4) | 43(20.7) | 4(1.9) |
UF細菌陰性かつUF白血球陰性かつ検体性状:透明 + やや混濁 | 306 | 228(74.5) | 64(20.9) | 14(4.6) |
症例 | 年齢 | 性別 | 診療科 | UF白血球(/HPF) | 培養結果 | |
---|---|---|---|---|---|---|
菌種 | 菌量(CFU/mL) | |||||
1 | 60代 | 女性 | 泌尿器科 | 20.1 | Enterococcus faecalis | 104 |
2 | 40代 | 男性 | 内科 | 11 | Escherichia coli | 103 |
以上の結果から,尿培養省略の提案条件を「透明尿かつUFで細菌陰性かつ白血球陰性」と設定した。
2. 尿培養の省略実施とその効果について尿培養検査の省略提案開始後の2016年10月から2018年7月の期間中,尿培養依頼件数5,328件中243件が省略され,その割合は4.6%であった。当院では透明尿の培養時にTSA II 5%ヒツジ血液寒天培地/BTB乳糖加寒天培地(日本BD)を使用しているため,1枚あたりの価格(227円)に培養省略件数243件を乗じて,合計55,161円の費用削減効果が得られた。
外来診療で遭遇する多くの単純性下部尿路感染症は,尿培養検査を実施しないでも診断が可能とされている1)。しかし,膀胱炎または尿道炎の症状を呈する患者の場合は,既往歴の聴取と一般的な診察と尿検査を受ける必要があり1),患者情報と尿検査の結果を総合的に判断して,尿路感染症の診断および治療が行われている。
現状,日常診療における発熱精査では通例的に尿培養が実施されることが多い。そのため,尿一般検査や,他の鑑別疾患のための検査結果などによって尿路感染症の疑いが大幅に減少した場合,尿培養省略提案は有効になると推測される。そこで今回,早期診断と効率化に貢献する情報として,尿培養104 CFU/mL以上の検出の見込みが低いと判断できる基準を検討した。
今回用いた尿培養検査省略基準設定のための単独指標は,「UF細菌陰性」,「UF白血球陰性」,「検体性状透明」,「検体性状透明およびやや混濁」の4つであった。「UF細菌陰性」であるが培養で104 CFU/mL以上の菌量が検出された37件については,検体保管状況による菌量の変化が要因として考えられる。また,尿培養検査と検尿の相関については同日採取であることを比較の条件としたため,同日の異なる時間に採取された検体である可能性も考えられる。
さらに尿培養で104 CFU/mL以上検出される検体の見落としをなくすため,UF細菌陰性の指標に他の指標を組み合わせて培養結果の比較を行った。その結果,UF細菌陰性かつ検体性状透明であるとき,白血球数での有意差は認められなかった。しかし臨床的診断を確認したところ,白血球を考慮しなかった場合は2件で尿路感染症と診断されていた。白血球は炎症反応の指標であり,その検出は検出菌が起炎菌である可能性を高めると考えられる。よって白血球の存在は尿培養省略提案基準に考慮すべきであると判断した。UF細菌陰性の指標のみを用いた場合に比べ,UF白血球や検体性状を考慮した場合に培養での細菌検出率が有意に低下し,尿培養省略提案が実施可能であることが示された。
尿培養省略提案を実施するにあたり,患者背景を考慮せず,UFや検体性状の結果のみで自動的に培養を省略すると尿路感染症を見逃す可能性がある。たとえば,泌尿器科処置で粘膜出血を伴う手技は菌血症や敗血症と関連している9)。また,経尿道的前立腺切除術を施行する際,無症候性細菌尿を考慮しない場合は60%が菌血症になる10)とされており,泌尿器科処置前には細菌尿のスクリーニングと治療を行う10)。移植患者や泌尿器科患者,または妊娠可能年齢の女性の尿検体では102 CFU/mLでも有意と判定される場合がある1)。このような場合を含めた有意義な検査は省略せず確実に実施するため,尿培養省略実施の最終判断は医師が行い,検査が必要であると判断された場合は実施することとした。
「検体性状透明」を含むか否かで有意差はなかったが,検体を選別する第一条件とすることで作業が効率化すると考えられ,尿培養検査の省略提案実施基準に追加した。以上から,尿培養検査の省略提案条件を「透明尿かつUFで細菌陰性かつ白血球陰性」と設定し,当該検体はその都度医師に培養省略の提案を行い,その承諾を得ることとした。
経費削減の効果については,2016年10月から2018年7月の期間で243件の尿培養が省略されたことから,培地費用のみで55,161円の経費削減が認められた。また,関連する物品経費や労働力の削減などの波及効果も得られたと考えられた。臨床との交流が密になったことにより,不要な培養依頼の抑止力となり,省略提案の実施対象となる検体自体が減少することも期待される。
今回の検討で,尿一般検査の結果と検体性状を考慮することにより不要な尿培養検体の選別が可能であることが示された。不要な検査を省略することは,労働力削減のみならず,医療費削減にも有効と考えられた。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。