2019 Volume 68 Issue 3 Pages 463-469
今回新たに自社開発した,ラテックス凝集比濁法を測定原理としたシアル化糖鎖抗原(Krebs von den Lungen-6; KL-6)測定試薬「オートKL-6・BML」の基礎検討を実施した。精度(併行精度および再現精度)は変動係数3.7%以内,検出限界は25.2 U/mL,共存物質の影響はなく,希釈直線性も良好な結果であった。本試薬は,同様の測定原理である比較対照製品(ナノピアKL-6エーザイ)に対して良好な相関性を示した(y = 0.917x − 9.5, r = 0.949, n = 194)。化学発光酵素免疫測定法を測定原理とした比較対照製品(HISCL KL-6試薬)に対しても良好な相関性を示した(y = 1.010x + 20.0, r = 0.914, n = 194)。「オートKL-6・BML」は,日常の臨床検査に十分適応可能な試薬性能を有していた。
We performed basic evaluation studies of the reagent ‘Auto KL-6・BML’ for Krebs von den Lungen-6 (KL-6) measurement based on the latex turbidimetric immunoassay. This reagent showed within-run and between-run coefficients of variation (CVs) of less than 3.7%, a detection limit of 25.2 U/mL, and also good dilution linearity. No effects from interfering substances were detected. In addition, the correlation with ‘Nanopia KL-6 Eisai’ as the comparison product whose principle of measurement is similar to that of this reagent was good (y = 0.917x − 9.5, r = 0.949, n = 194). Moreover, the correlation with the ‘HISCL KL-6 Reagent’ as the comparison product whose principle of measurement is chemiluminescent enzyme immunoassay was also good (y = 1.010x + 20.0, r = 0.914, n = 194). ‘Auto KL-6・BML’ showed sufficient reagent performance in routine tests.
シアル化糖鎖抗原(Krebs von den Lungen; KL-6)は,II型肺胞上皮細胞などに発現する分子量100万以上の巨大分子で,肺細胞抗原のクラスター9に分類されているMUC-1に属するムチンである1)。特に間質性肺炎では増生したII型肺胞上皮細胞にKL-6が強く発現しているため,間質性肺炎患者の血清中のKL-6濃度は健常者や他の呼吸器疾患患者に比較して有意に上昇することが知られている2),3)。そのため,KL-6の測定は間質性肺炎の診断補助や活動性のモニタリングに有用なマーカーとして広く用いられている3)。
現在,KL-6の測定には,化学発光免疫測定法(chemiluminescent enzyme immunoassay; CLEIA)やラテックス凝集比濁法(latex turbidimetric immunoassay; LTIA)などを測定原理とした試薬が使用されている4),5)。
今回新たに自社開発したLTIA法を測定原理とするKL-6測定試薬「オートKL-6・BML」(以下,本試薬)の基礎的検討を実施した。本試薬の基礎的検討を行ったところ,すべての検討項目において良好な結果を得たので報告する。
なお,本検討はビー・エム・エル倫理委員会に準拠した稟議承認(6020322)を得ており,使用した試料は匿名化または連結不可プール化して使用した。
①試薬-1(R1):グッド緩衝液(50 mM)
②試薬-2(R2):抗ヒトKL-6マウスモノクローナル抗体感作ラテックス液
③標準品:自社1次標準物質(精製KL-6)は比較対照試薬を用いて作製した。この精製KL-6用いて値付けした試料を標準品とした。
2) ナノピアKL-6エーザイ(積水メディカル社)測定原理:LTIA法(以下,同法比較対照試薬)
3) HISCL KL-6試薬(シスメックス社)測定原理:CLEIA法(以下,他法比較対照試薬)
2. 測定機器 1) JCA-BM 6050型自動分析装置(日本電子社) 2) 全自動免疫測定装置HISCL-5000(シスメックス社) 3. 測定原理本試薬の測定原理は,LTIA法である。試料中のKL-6 はマウス抗ヒトKL-6 抗体感作ラテックスと抗原抗体反応を起こし,凝集を形成する。反応液中の凝集の度合を吸光度変化としてとらえ,吸光度変化量を測定することにより試料中のKL-6 濃度を求める。なお,本検討に用いたJCA-BM 6050型自動分析装置における分析条件(分析パラメータ)をTable 1に示す。
Items | KL-6 |
---|---|
Main wave length (nm) | 694 |
Analysis method | Immunoassay rate method (IMA) |
Speciment volume (μL) | 5.0 |
Reagent 1 (R1) volume (μL) | 60.0 |
Reagent 2 (R2) volume (μL) | 20.0 |
Calibration method | Spline |
当社で受託した検体のうち連結不可能な血清検体をプール化して作製した自社管理検体(低濃度L,中濃度M,高濃度H)をそれぞれ10回測定し,変動係数(coefficient of variation; CV%)を算出した。
2. 再現精度併行精度で用いた自社管理検体(低濃度L,中濃度M,高濃度H)を,各測定日(1,2,5,7,9日目)にそれぞれ1回測定し,9日間のCV%を算出した。なお,キャリブレーションは初回のみ実施した。
3. 希釈直線性KL-6濃度が約500 U/mL(検体A),約2,000 U/mL(検体B),約7,000 U/mL(検体C)の3レベルのプール血清を生理食塩水にて10段階希釈して試料を調製し,測定した。
4. 共存物質の影響2レベルのプール血清(検体D,検体E)9容に干渉チェックAプラスおよび干渉チェック・RFプラス(シスメックス社)1容を添加し,ビリルビンF(遊離型)およびビリルビンC(抱合型),溶血ヘモグロビン,乳ビ,リウマチ因子(rheumatoid factor; RF)の測定値に及ぼす影響を検討した。添加0濃度(5重測定)の測定値の平均値と標準偏差(standard deviation; SD)を算出し,各添加濃度での測定値が添加0濃度の平均値 ± 2SD以内であるとき,測定値に影響がないと判断した。
5. 検出限界KL-6濃度約250 U/mLのプール血清(検体F)を生理食塩水にて希釈し,試料を調製した。調製した試料を各10回測定し,測定値の平均値と標準偏差(SD)を算出した。生理食塩水の測定値の平均値 + 2SDより試料の測定値の平均値-2SDが大きくなる最小濃度を検出限界とした。
6. プロゾーンの確認KL-6濃度20,000 U/mLの高値試料(検体G)を用いてプロゾーンを検討した。
7. 相関性試験 1) 同法との相関性当社で受託した検体のうち連結不可能な血清検体194例について,本試薬と同様のLTIA法が測定原理である同法比較対照製品との相関性を検討した。
2) 他法との相関性同法との相関性試験で用いた血清検体194例について,本試薬とCLEIA法を測定原理とした他法比較対照製品との相関性を検討した。
8. 機種間差試験当社で受託した検体のうち連結不可能な血清検体61例について,JCA-BM 6050型自動分析装置(日本電子社)と7180形自動分析装置(日立社)との相関性を検討した。
管理検体L,M,HともにCV 2.0~3.5%と良好な結果が得られた(Table 2)。
KL-6 | L | M | H |
---|---|---|---|
Mean (U/mL) | 199.5 | 495.8 | 911.2 |
SD (U/mL) | 7.0 | 12.4 | 18.0 |
CV (%) | 3.5 | 2.5 | 2.0 |
管理検体L,M,HともにCV 1.2~3.7%と良好な結果が得られた(Table 3)。
KL-6 | L | M | H |
---|---|---|---|
Mean (U/mL) | 193.5 | 501.9 | 907.8 |
SD (U/mL) | 7.2 | 6.9 | 11.1 |
CV (%) | 3.7 | 1.4 | 1.2 |
3レベルのプール血清ともに概ね良好な希釈直線性が得られた。一方,約7,000 U/mL(検体C)の10/10において僅かに測定値が低下する傾向が認められたが,約6,500 U/mL(9/10)までは良好な希釈直線性が得られた(Figure 1)。
Three levels of serum (sample A, B, C) were diluted 10 times with physiological saline to prepare samples and confirmed. As a result, good linearity was confirmed.
2レベルのプール血清ともにビリルビンF(遊離型)は20.0 mg/dL,ビリルビンC(抱合型)は20.0 mg/dL,溶血ヘモグロビンは500.0 mg/dL,乳ビは2,000 FTU,RF因子は500 IU/mLまで影響は認められなかった(Figure 2)。
Dotted line: untreated mean value ± 2SD.
●: Sample D, ○: Sample E
Two levels of serum (sample D, E) were used to confirm the effects of free bilirubin, conjugated bilirubin, chyle, hemoglobin and rheumatoid factor. As a result, no influence was observed up to the concentration shown in the figure.
検出限界はKL-6濃度25.2 U/mLであった(Figure 3)。
Dotted line: mean value of physiological saline + 2SD.
Serum (sample F) were diluted 10 times with physiological saline to prepare samples and confirmed. As a result, the detection limit was KL-6 concentration 25.2 U/mL.
KL-6濃度20,000 U/mLまで測定範囲内に落ち込むことはなかった(Figure 4)。従って,KL-6濃度20,000 U/mLまではプロゾーン現象による高値検体の見逃しは生じないものと考えられた。
Dotted line: measurement upper limit, KL-6 concentration 6,000 U/mL
As a result of confirming the prozone using KL-6 high concentration serum (sample G), no drop into the measurement range (50–6,000 U/mL) was observed.
回帰式y = 0.917x − 9.5,相関係数r = 0.949と良好な結果であった。KL-6濃度1,000 U/mL未満の場合は,回帰式y = 0.855x + 6.0,相関係数r = 0.975,KL-6濃度500 U/mL未満の場合は,回帰式y = 0.939x − 15.6,相関係数r = 0.947と良好な結果であった。一方,KL-6濃度が1,000 U/mLを超えた付近から測定値が30%以上乖離する検体が5例認められた(Figure 5)。
Correlation of measured values between ‘auto KL-6・BML’ and ‘Nanopia KL-6 Eisai’ by latex turbidmetric immunoassay using serum samples. As a result, correlation with the same measurement principle is good (All measurement range: y = 0.917x − 9.5, r = 0.949, n = 194; KL-6 concentration < 1,000 U/mL: y = 0.855x + 6.0, r = 0.975, n = 188; KL-6 concentration < 500 U/mL: y = 0.939x − 15.6, r = 0.947, n = 139).
回帰式y = 1.010x + 20.0,相関係数r = 0.914と良好な結果であった。KL-6濃度1,000 U/mL未満の場合は,回帰式y = 0.955x + 19.7,相関係数r = 0.957,KL-6濃度500 U/mL未満の場合は,回帰式y = 1.019x + 2.3,相関係数r = 0.941と良好な結果であった。又,同法との相関性と同様,KL-6濃度が1,000 U/mLを超えた付近から測定値が30%以上乖離する検体が8例認められた(Figure 6)。
Correlation of measured values between ‘auto KL-6・BML’ and ‘HISCL KL-6 Reagent’ by chemiluminescent enzyme immunoassay using serum samples. As a result, correlation with other measurement principle is good (All measurement range: y = 1.010x + 20.0, r = 0.914, n = 194; KL-6 concentration <1,000 U/mL: y = 0.955x + 19.7, r = 0.957, n = 168; KL-6 concentration <500 U/mL: y = 1.019x + 2.3, r = 0.941, n = 139).
回帰式y = 0.970x + 15.1,相関係数r = 0.999と良好な結果であった(Figure 7)。
Correlation of measured values between ‘BioMajesty BM6050’ and ‘Hitachi 7180’ using serum samples. As a result, correlation with automatic analyzer between the difference is good (y = 0.970x + 15.1, r = 0.999, n = 61).
本試薬「オートKL-6・BML」の基礎的検討を行ったところ,精度(併行精度および再現精度)はCV 3.7%以内,検出限界は25.2 U/mL,共存物質の影響はなく,希釈直線性も良好な結果であった。比較対照製品(同法および他法)との相関性も良好であり,測定機種間差も認められないことから,本試薬は日常検査に十分利用可能な試薬性能を示した。
本試薬の測定範囲は50~6,000 U/mLであるが,プロゾーンによる影響で20,000 U/mLの検体を偽低値と示すことはなかった。日常検査では20,000 U/mLを超える検体は稀であり5),6),日常検査に十分対応可能である。又,本検討に用いた比較対照試薬の測定範囲は同法比較対照試薬50~5,000 U/mL,他法比較対照試薬10~6,000 U/mLである。すなわち,本試薬は少なくとも同法比較対照試薬の測定上限値である5,000 U/mLより1,000 U/mL高くなったことから,希釈再検査が必要な検体件数の減少が期待できる。
河野7)の報告では,KL-6濃度の参考基準範囲は105~401 U/mLである。本試薬の検出限界は25.2 U/mLであり,正常参考値を判別可能な性能を有するものと考える。又,KL-6のカットオフ値は500 U/mLとされ7),8),初回KL-6濃度が1,000 U/mL以上では予後不良であること9)が報告されている。比較対照製品との相関性は,KL-6濃度が500 U/mL未満および1,000 U/mL未満においても良好な結果を示したことから,臨床的に必要とされる判断値に試薬間の差はないものと考える。
一方,KL-6濃度が1,000 U/mLを超えた付近より測定値が30%以上乖離した検体が同法比較対照製品と5例,他法比較対照製品と8例,比較対照試薬間においても7例認められた。最近,本試薬と同様にLTIA法を測定原理としたKL-6測定試薬がいくつか開発され評価されているが,本検討結果と同様,高濃度域において試薬間の測定値に乖離が認められている10)。肺がん,膵がんおよび乳がんなどの悪性腫瘍患者ではKL-6値は上昇することが報告されている1),3)。悪性腫瘍では糖鎖構造に変化が生じ,多様な抗原性を示すことが知られている11)。KL-6は糖鎖抗原であり,微細な抗原性の違いが,抗体のエピトープ認識部位との反応性に影響していると考える。そのため,試薬間での高濃度域での測定値の乖離には,腫瘍性疾患が起因している可能性を考えている。実際にKL-6濃度1,000 U/mL以上で悪性腫瘍マーカーが高値となる検体では,本試薬と比較対照試薬との測定値に乖離が生じる傾向があることを確認している。今回,乖離した検体に関して,検体量を確保できず十分な検討を実施できなかったが,今後,抗体の特性を解析したい。
以上の結果から,本試薬「オートKL-6・BML」は,日常的な臨床検査に用いることができる十分な試薬性能を有する試薬であると考える。今後,本試薬を用いて,臨床的評価を実施する予定である。
本試薬「オートKL-6・BML」は今回の基礎的検討において良好な成績が得られたことから,日常検査に問題なく対応できる試薬であると考える。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。