Japanese Journal of Medical Technology
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MMSE and scoring of clock drawing test increase the accuracy of diagnosis of dementia
Masami NISHINOMasahiro NAKAMORIEiji IMAMURAKanami OGAWAMasako KUROSEAkiko HIRATAYasuyo MIMORIShinnichi WAKABAYASHI
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2019 Volume 68 Issue 3 Pages 424-429

Details
Abstract

時計描画テスト(Clock Drawing Test; CDT)は,検査に対する抵抗が少ないため認知症スクリーニングとして頻用されている。今回,CDTのスコアリングを行いその有用性を検討した。2016年10月~2017年4月に当院外来にてCDT,ミニメンタルステート検査(Mini-Mental State Examination; MMSE)ともに実施した,連続156名で検討した。スコアリングはFreedman法(15点満点)を用い2名で判定した。年齢78.2 ± 8.7歳,女性87名,診断はアルツハイマー型認知症(Alzheimer’s disease; AD)54名,レビー小体型認知症(dementia with Lewy body; DLB)6名,血管性認知症12名,混合型認知症15名,その他の認知症16名,軽度認知障害16名,認知機能正常者37名であった。CDT総得点とMMSEは有意な相関がみられた(r = 0.58, p < 0.001)。ROC解析では,CDT総得点に関して認知症とのカットオフ値11/10(感度50.5%,特異度96.2%,AUC 0.78,p < 0.001)であった。CDT下位項目で検討すると,ADでは針の記入で,DLBでは数字の記入で失点する傾向がみられた。CDTのスコアリングはMMSEを併用して行うことで感度を上げることができ,MMSEと有意な相関がみられ評価の妥当性が示された。また,疾患によって失点パターンに差異がみられることから診断の一助になりうる可能性が示唆された。

Translated Abstract

The clock drawing test (CDT) is frequently used in dementia screening because it is simple and acceptable to patients. We investigated the usefulness of scoring the CDT. We enrolled 156 patients (aged 78.2 ± 8.7 years; 87 females) who were administered both the CDT and the Mini-Mental State Examination (MMSE) between October 2016 and April 2017. The scores were evaluated using the Freedman method by two clinical technologists. The CDT scores showed a significant correlation with the MMSE scores. With respect to CDT subscores, there was a tendency to perform poorly in the placement of the clock hands by Alzheimer’s patients and a tendency to perform poorly in the placement of the numbers by patients with vascular dementia and dementia with Lewy bodies. It was suggested that CDT scoring supports the diagnosis of dementia as well as helps in determining the type of dementia.

I  目的

神経心理学的検査は,脳の損傷や認知症などによって生じた高次脳機能障害を数値化し評価していく検査である。これは認知症を医師が診断する上で必須となる検査であり,中でもミニメンタルステート検査(Mini-Mental State Examination; MMSE)や改訂長谷川式簡易知能評価スケール(Hasegawa Dementia Rating Scale-Revised; HDS-R)は10分程度の短時間で行うことができるスクリーニング検査であるため日常診療で広く用いられている。しかしながら,MMSEやHDS-Rを含む多くの神経心理学的検査は,検査者と患者が1対1で質問を行いながら進めるため,患者の心理状態や身体の麻痺の程度,疲労状態,環境的刺激など様々な要因に配慮する必要がある。そのため検査時間が長時間になると集中力が低下したり,検査を拒否する場合も考えられ,患者の表情や言動に注意を払いながら検査を進めていくことが求められる1)

時計描画テスト(Clock Drawing Test; CDT)は,“時計の絵を描画する”という年齢や教育歴の影響を受けにくい教示であるため,検査に対する抵抗が比較的少なくMMSEやHDS-Rと同様に認知症スクリーニングとして周知されており,高齢者の自動車運転免許更新時の認知機能テストにも組み込まれている。CDTは視空間認知と構成能力を評価できる簡易な検査方法であり,多くの研究者からその有用性が報告されているが,施行法や採点方法が統一されていないのが現状である1),2)

当院では外来患者にMMSEと併せてCDTの検査を行っている。今回,CDTのスコアリングを行いその有用性や,疾患ごとに特徴的な失点パターンがみられるか検討を行った。

II  対象および方法

1. 対象

2016年10月~2017年4月に当院外来にてCDT,MMSEともに施行した連続156名(年齢78.2 ± 8.7歳,女性87名)を対象に後ろ向きに検討を行った。疾患の内訳は,アルツハイマー型認知症(Alzheimer’s disease; AD)54名,レビー小体型認知症(dementia with Lewy body; DLB)6名,血管性認知症(vascular dementia; VaD)12名,混合型認知症(mixed dementia; Mix)15名,軽度認知障害(mild cognitive impairment; MCI)16名,その他の認知症16名(脳腫瘍4例,特定不能のもの12例),認知機能正常者(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders-5; DSM-5におけるneurocognitive disorderの診断基準を満たさず,認知機能障害が無いと診断された者)37名であった。

本研究は1964年ヘルシンキ宣言に基づき施行し,当院倫理委員会の承認(承認番号;2017-01)を得て行った。

2. 方法

CDTの教示方法として,白紙に時計の絵を描画する白紙法を選択した。時計を設置していない部屋で検査を行うことを前提とし,A4サイズの白紙と鉛筆を患者の前に置き,「この紙に,紙の大きさに見合った大きさの時計の絵を描いて下さい。数字も全部書き10時10分の時刻を指すように描いて下さい。」と,口頭で教示を行った。

スコアリングはFreedman法(15点満点)3)を用い神経心理学的検査経験5年以上の臨床検査技師2名(認定認知症領域検査技師認定者1名を含む)で判定した(Table 1)。MMSEは,神経心理学的検査経験4年以上の臨床検査技師が評価・判定を行った。

Table 1  Freedman法評価項目
項目 配点
全体像 ①整った周円が描ける 各1点
(15点満点)
②外周円の大きさが用紙に対して適切
数字 ③1~12のみを書く
④算用数字を用いる
⑤数字の順序が正しい
⑥用紙を回転させないで書く
⑦数字の位置が正しい
⑧外周円の中に位置する
⑨2本の針を有する
⑩適切に時を指す
⑪適切に分を指す
⑫分針の方が長い
⑬余計な印がない
⑭2本の針が結合する
中心 ⑮中心が設定されている

また,認知症の疾患ごとの違いをFreedman法下位項目で検討した。診断はAD,MCIはNational Institute on Aging-Alzheimer’s Association(NIA-AA)4),5),DLBは第3回DLB国際ワークショップ6),VaDは米国国立神経疾患・脳卒中研究所(National Institute of Neurological Disorders and Stroke; NINDS)とAssociation Internationale pour la Recherché et l’Enseignement en Neurosciences(AIREN)による診断基準(NINDS-AIREN)7),混合型認知症は,DSM-5下位分類における「複数の病因」,その他の認知症は,DSM-5下位分類における「他の医学的疾患」「特定不能」のものとし,2名の日本神経学会専門医によって行われた。

得られたデータは平均標準偏差で示し,統計解析はCDT総得点とMMSEの単回帰分析を行った。また,ROC解析を行い,認知症を規定するCDT総得点とMMSEのカットオフ値を検討した。なお,統計処理は,統計解析ソフトJMP 13 statistical software(SAS Institute Inc, Cary, NC, USA)を用い,有意確率は5%未満とした。

3. 結果

各疾患のMMSE,CDTの平均総得点を次に示す(Table 2)。

Table 2  各疾患におけるMMSEとCDTの平均総得点
AD(n = 54) VaD(n = 12) DLB(n = 6) Mix(n = 15) Other(n = 16) MCI(n = 16) Normal(n = 37)
Age(yr) 81.3 ± 7.2 83.0 ± 6.12 80.7 ± 3.6 79.5 ± 4.7 78.8 ± 8.9 79.1 ± 5.0 71.8 ± 10.1
Gender(F/M) 35/19 5/7 1/5 7/8 8/8 10/6 23/14
MMSE Mean ± 2SD 19.5 ± 10.8 22.3 ± 10.9 20.5 ± 8.4 19.0 ± 13.4 19.9 ± 13.0 24.4 ± 4.6 27.3 ± 7.6
CDT Mean ± 2SD 10.3 ± 7.1 10.7 ± 8.1 10.0 ± 7.2 8.1 ± 8.2 10.6 ± 8.3 13.9 ± 3.1 13.0 ± 5.5

各疾患のMMSEとCDTの平均総得点を示す。

AD; Alzheimer’s disease,DLB; dementia with Lewy body,VaD; vascular dementia,Mix; mixed dementia,OTH; other dementia,MCI; mild cognitive impairment

また,CDT総得点とMMSE総得点は有意な相関がみられた(r = 0.58, p < 0.001)(Figure 1)。

Figure 1 Clock Drawing Test(CDT)とMini-Mental State Examination(MMSE)の関連

CDTスコアとMMSEスコアの間には有意な相関を認めた。

ROC解析では,CDT総得点に関して認知症とのカットオフ値11/10(感度50.5%,特異度96.2%,AUC 0.78,p < 0.001)であった。MMSE総得点に関しては認知症とのカットオフ値24/25(感度80.6%,特異度86.8%,AUC 0.89,p < 0.001)であり,MMSEとCDTを組み合わせると感度88.4%,特異度83.0%まで上昇した。

患者が描画した時計を2名以上で「数字に間違いがあるもの」「針に間違いがあるもの」の2つに主観評価を行ったところ,ADでは「針に間違いがあるもの」が多い結果となった。実際に患者が描画した時計(Figure 2)から示される通り,数字は比較的適切に配置できているが,針に関しては教示した「10時10分」を指していなかったり,短針と長針の見分けがつかないもの,針自体の記載がないものが多くみられた。

Figure 2 アルツハイマー型認知症患者の時計描画

「針に間違いがあるもの」が多い結果となった。

MMSE; Mini-Mental State Examination,CDT; Clock Drawing Test

DLBについては6症例数と少ないながらも,「数字に間違いがあるもの」が多く,それらに加え外円の大きさが極端に小さかったものや,偏った針の記入が目立つ傾向となった(Figure 3)。

Figure 3 レビー小体型認知症患者の時計描画

「数字に間違いがあるもの」が多い結果となった。

MMSE; Mini-Mental State Examination,CDT; Clock Drawing Test

また,疾患の特徴でもある思考遅延の影響もあり,図が完成するまでに他の疾患より長い時間がかかった。

VaDについてはMMSEの点数が比較的高いにも関わらず,DLBと同様に「数字に間違いがあるもの」が多くみられた(Figure 4)。実際の検査中には集中力が低下し注意散漫になっている患者も多くみられた。

Figure 4 血管性認知症患者の時計描画

「数字に間違いがあるもの」が多い結果となった。

MMSE; Mini-Mental State Examination,CDT; Clock Drawing Test

次にCDT下位項目「全体像(計2点)」「数字(計6点)」「針(計6点)」「中心(計1点)」を疾患ごとに正答率を求め検討した(Figure 5)。

Figure 5 Freedman法下位項目での検討

疾患ごとにおける「数字」の得点(左)と「針」の得点(右)をグラフに示す。

AD; Alzheimer’s disease,DLB; dementia with Lewy body,VaD; vascular dementia,Mix; mixed dementia,OTH; other dementia,MCI; mild cognitive impairment

ADでは針の記入が58.0%の正答率となり数字の正答率63.1%よりも低く,特に「分針の方が長い」が28.8%と極めて低い正答率となった。全体像や中心については,高い正答率となった。

DLB,VaDはいずれも数字の記入で失点する傾向となった。DLBでは数字が52.8%,針が75.0%の正答率で,「数字が外周円の中に存在する」が16.7%と極めて低い結果となった。

VaDでは数字が58.3%,針が87.5%の正答率で,「1~12のみを書く」が25.0%,「数字の位置が正しい」が41.7%と低い正答率となり,双方ともに数字の記入で失点傾向だが,下位項目のどこを間違ったのかを検討すると明らかな違いがあった。全体像と中心に着目すると,他の疾患に比べ失点する傾向になった。

Mixでは複数の病態が合併することにより様々な認知機能障害が考えられる。そのため,針が複数描画されていたり,数字が全く記載されていなかったり,余計な線が多く描かれていたりと,他の疾患に比べ数字の記入で43.6%,針の記入では51.3%の正答率となり,針・数字ともに失点が目立つ結果となった。

MCIでは,数字の記入で90.6%,針では91.7%と若干数字の記入で失点する傾向となったが,明らかな差はみられず,全体像や中心については100%の正答率となった。

4. 考察

CDT総得点は,MMSEと有意な相関がみられ,評価の妥当性が示された。一方でCDT単独では認知症診断感度が十分に高いものとは言えなかったため,MMSEと併せて評価を行うことがより望ましい。また,本検討の結果から示されるように疾患によって失点パターンに差異がみられることから認知症診断の一助になりうる可能性が示唆された。

Kornerらの報告8)では,72名の認知症患者と29名の健常ボランティアに対しCDTを5パターンの評点方法で検討を行い,いずれの評点方法でも80%以上の高い感度・特異度を示している。本研究ではFreedman法1パターンのみの検討ではあるが,CDT単独では感度は十分に高いものとは言えなかった。この要因として,まず母集団の相違が考えられる。また,Freedman法では,外円を自由に描画させる白紙法を選択している点も考えられる。実際に日々検査を行っている中でも,しばしば外円が歪んでいたり,大きさにばらつきがあったり,また外円を描画すること自体ができない患者もみられ,外円描画は多くの情報を得ることができる。吉村ら9)によるとFreedman法による評価方法は評価点が細分化されているため,他の評価方法と比較検討した際に信頼度係数や一致度係数を得られなかったとの報告もある。これらのことから,結果に乖離が生じた要因として“母集団の違い”“白紙法”“細分化された評価方法”が考えられる。

当院ではスコアリングを行う検査者は,検査者間で差が出ないよう,神経心理学的検査経験5年以上の臨床検査技師複数人で行っている。今後はこれに加え定期的なスコアリングの症例検討を行う必要もあるのではないかと考える。また,稀にデジタル時計を描画する患者がみられ,生活環境の変化に伴い今後このような患者が増える可能性も考えられる。予め円の描かれた用紙を用いて評価する外円法を選択する場合は,それ程注意する必要はないと考えるが,白紙法を行う上では教示方法や評価方法への対応を検討する必要もあるのかもしれない。

小長谷らの報告2)では,AD患者156名に対し,Freedman法で検討したところ針に関する項目の正答率が低いのはADの特徴という結果になっているが,本研究でも同様の結果となった。ADの症状の特徴として空間認知機能障害が挙げられる。健常人は視覚から得た情報を頭頂葉で統合することで空間の全体的なイメージを捉えることができる。しかしAD患者は頭頂葉が障害されることで,この「統合」する能力が低下しているため「数字を書く」項目よりも,“時を指す短針は10時より少し11時寄りに描かなければいけない”というようなより複雑な過程を必要とする「針を描く」項目で失点傾向になっていると考えられる。また,一般的にMCI患者は年間10~15%でADまたは認知症へ移行すると言われており,Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initivation(ADNI)においてもMCIからADへの移行率は年間16%であったとの報告がある10),11)。そのため今回の検討でもMCIにはADの予備軍が含まれていると考え,針に関する項目のほうが失点するのではないかと予想していたが,若干数字の記入で失点する傾向となり,明らかな差はみられなかった。

DLBに関しては数字に関する項目で正答率が低い傾向が見られた。これは後頭葉の機能低下のため,視覚認知機能障害が原因の一つとして考えられる。そのため,数字が記入できないことに加え,外円の大きさが極端に小さかったものや,偏った針の記入が目立つ傾向となったと考えられ,ADとは明らかな相違がみられた。

VaDは脳卒中や脳循環低下によって発症する認知症であり,脳の損傷部位によって症状が多様であるが,概して前頭葉の機能低下がみられる。実際の検査中にも集中力が低下し注意散漫になっている患者も多くみられ,このことからも前頭葉機能低下がうかがわれる。そのため遂行機能障害により数字の記入で失点したものと推測される。

5. 結語

日本臨床衛生検査技師会では,平成26年度より“認定認知症領域検査技師制度”を創設した。この制度の創設によって臨床検査技師も認知症に関する専門的な知識を有し,高い精度の臨床検査を行うことが求められるようになった。特に神経心理学的検査のスクリーニング検査については今まで検査を行ったことのない臨床検査技師も新規参入しやすい分野であると同時に,平成30年度診療報酬改訂によりHDS-RやMMSE,Montreal Cognitive Assessment(MoCA)12)などのスクリーニング検査に80点の保険点数が新たに付加されることになった点でも新規参入しやすいのではないかと考える。残念ながらCDTは対象外だが,今まで述べてきたように患者が拒否しにくい検査であり,楽しみながら短時間で検査を行える利点がある。感度の高い検査ではないが,MMSEを併用して行うことで感度を上げることができ,MMSEと有意な相関がみられ評価の妥当性が示された。また疾患別にみても失点パターンに差異が見られるため診断の一助となる可能性が示唆された。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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