Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Effect of ethylenediaminetetraacetic acid (EDTA) on the determination of tacrolimus concentration in whole blood by the ACMIA method: Comparison between improved and conventional reagents
Tomoaki TSUKUSHIKina INOUEMinami KATSUMATARyota SHINOHARAHiroko NAKAZAKIKazuhiro UCHIDAShinichi MUNEKATAYuhsaku KANOH
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2019 Volume 68 Issue 3 Pages 514-518

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Abstract

Affinity column mediated immune assay(ACMIA)法を原理とするフレックスカートリッジタクロリムスTAC試薬(Siemens)は,抗凝固剤として用いられるEDTAの影響があることを我々は以前報告したが,2018年に改良LOT試薬へ変更された。今回,我々はこの改良試薬と従来試薬を比較検討した。採取試料にEDTA-2Kを添加したところ,従来試薬では採血量が1/2量に相当するEDTA-2K 3.8 mg/mLにおいて,16.6%の低下を認めたが,改良試薬においては,EDTA-2K 3.8 mg/mLでは1.4%の低下であった。またEDTA-2K濃度依存で低下する傾向を示すが,11.4 mg/mLでも15.3%の低下に留まった。改良試薬の同時再現性は,変動係数(coefficient variation; CV)が2.8~4.2%であり,従来試薬と各濃度において同等のバラツキであった。また,実効感度は,CV 10%値で従来試薬では2.2 ng/mL,改良試薬では 1.6 ng/mLであり従来試薬と同等の測定精度が確認できた。以上より,改良されたTAC試薬は,Tacrolimus血中濃度測定において,従来試薬に比較しEDTA濃度の影響を軽減したことが明らかになり,安全で効果的な免疫抑制療法に繋がると期待された。

Translated Abstract

We previously reported that the results of improved dimension tacrolimus (TAC) assay (Siemens), which is based on the affinity column-mediated immune assay (ACMIA), are affected by EDTA used as an anticoagulant. However, EDTA was improved as a reagent to EDTA-2K in 2018. In this study, we evaluated the analytical performance of the improved TAC assay using EDTA-2K in comparison with the conventional assay. In the EDTA interference study, the TAC concentration was decreased by 16.6% with 3.8 mg/mL EDTA-2K, corresponding to a half volume in the conventional assay, and the effect was observed in a concentration-dependent manner. However, the TAC concentration was decreased by only 1.4% with 3.8 mg/mL EDTA-2K in the improved assay. The within-run precisions obtained were 4.2% at a low concentration (mean: 3.9 ng/mL), 3.7% at a medium concentration (mean: 10.9 ng/mL), and 2.8% at a high concentration (mean: 20.9 ng/mL), which were equivalent to those of the conventional assay at each concentration. In addition, the limits of quantitation of the improved and conventional assays were determined to be 0.5 and 0.3 ng/mL, respectively, confirming that the measurement accuracy of the improved assay is higher than that of the conventional assay. In conclusion, it was revealed that in the improved assay, the effect of the EDTA concentration on the blood TAC concentration measurement was reduced in comparison with that in the conventional assay. The improved assay is useful for the routine TDM of TAC.

I  はじめに

カルシニューリン阻害薬であるTacrolimusは強力な免疫抑制作用を有する反面,有効治療域が狭く,過剰な免疫抑制による易感染,腎障害,高カリウム血症,末梢神経障害,中枢毒性などの重篤な副作用があり,治療薬物濃度モニタリング(therapeutic drug monitoring; TDM)管理が重要となっている1)

Tacrolimusは血液中において,95%が赤血球に移行する2)ことから,血中濃度の測定には,全血試料を用い,抗凝固剤としてエチレンジアミン四酢酸(ethylenediaminetetraacetic acid; EDTA)を用いるのが一般的である3)。以前,我々はACMIA法を原理とするSiemens社のフレックスカートリッジタクロリムスTAC試薬(TAC)において,抗凝固剤であるEDTAの濃度上昇に伴い偽低値を呈することを報告した4)。これによりEDTA濃度が一定となるように規定の採血量を採取する必要があった。その後,2018年に前処理試薬の濃度変更がなされ,EDTA濃度の影響が軽減されたLOTへと変更された。今回,我々は改良LOT試薬(改良試薬)と従来LOT試薬(従来試薬)を比較検討したので報告する。

II  対象と方法

1. 対象

同時再現性について,3濃度のTaC/CsA Immunosuppressant Control(More Diagnostics, Inc)を使用し,実効感度およびEDTAの影響について,患者残余検体を使用した。なお,本研究で取り扱う試料について,患者の個人情報が特定されないよう全ての検体について連結不可能匿名化して使用した(北里大学医学部・病院倫理委員会:B15-76)。

2. 測定方法

測定試薬はTAC,測定装置は臨床化学自動分析装置Dimension EXL 200(Siemens)を使用した。本法の測定原理を以下に示す。まず前処理液により全血検体を溶血させ,KF506 binding protein(FKBP)からTacrolimusを分離させる。さらに溶血検体中のTacrolimusはβ-galactosidase標識抗Tacrolimusマウスモノクローナル抗体(Ab-β-gal)と反応させる。未反応のAb-β-galは,Tacrolimus結合二酸化クロム磁性粒子(TAC-CrO2)と結合し,磁性分離により除去される。別キュベットへ分取されたTacrolimus結合Ab-β-galはchlorophenol red-β-d-Galactopyranoside(CRPG)と反応し,加水分解により577 nmで吸収されるchlorophenol red(CPR)を生成する。この時の吸光度を測定し,試料中のTacrolimus濃度を算出する(Figure 1)。

Figure 1 The measurement principle

3. 測定精度

同時再現性は,TaC/CsA Immunosuppressant Control(More Diagnostics, Inc)のLevel 1,2,3を用い,従来試薬と改良試薬について,それぞれ連続20回測定を行った。実効感度試験について,異なる10濃度の試料を10回測定して評価した。

4. 一定のTacrolimus濃度EDTA-2K系列の作製

EDTA-2K(Dojindo Molecular Technologies, Inc.)を精製水で溶解し,ベースとなるプール全血(Tacrolimus濃度10.6 ng/mL)でEDTA終濃度1.9,11.4 mg/mLの溶液を調整した。それぞれの比率を調整しEDTA終濃度が1.9,3.8,5.7,7.6,9.5,11.4 mg/mLの溶液を作製した。各試料において,Tacrolimus濃度は従来試薬および改良試薬を用いて3重測定した。

5. 統計学的解析

データは,平均値 ± 標準偏差で示した。多群比較にはone-way ANOVAにより行い,Scheffe法により有意差検定を行った。有意水準は5%とした。

III  結果

1. 同時再現性および実効感度試験

同時再現性において,従来試薬の変動係数(coefficient variation; CV)は2.9~4.6%,改良試薬では2.8~4.2%であった(Table 1)。また,実効感度試験において,10検体の試料を10回測定し,得られたPrecision Profileから再現性がCV 10%値ならびにCV 20%におけるTacrolimus濃度を実効感度として求めたところ,従来試薬では2.2 ng/mL,0.5 ng/mL,改良試薬では 1.6 ng/mL,0.3 ng/mLであった(Figure 2)。

Table 1  Within-run precision (n = 20)
Improved assay Conventional assay
Mean ± SD (ng/mL) Within-run CV (%) Mean ± SD (ng/mL) Within-run CV (%)
MoreQC1 3.9 ± 0.2 4.2 4.5 ± 0.2 4.6
MoreQC2 10.9 ± 0.4 3.7 10.9 ± 0.3 2.9
MoreQC3 20.9 ± 0.6 2.8 20.9 ± 0.7 3.5
Figure 2 The limit of quantitation with between improved assay and conventional assay

The left figure shows tacrolimus concentration in the range of 0–30 ng/mL and the right figure in the range of 0–5 ng/mL.

2. EDTA-2K濃度による影響

従来試薬において,EDTA-2Kの終濃度が3.8 mg/mLでは測定値が16.6%の低下を認め,EDTA-2Kの濃度依存的に測定値が低下し,11.4 mg/mLで36.9%の低下を示した。一方,改良試薬において,EDTA-2Kの終濃度が3.8 mg/mLでは測定値が1.4%の低下であり,従来試薬と同様にEDTA-2Kの濃度依存的に測定値が低下する傾向を示し,11.4 mg/mLで15.3%の低下を示した(Figure 3)。

Figure 3 Influence of EDTA on the measurement of tacrolimus in whole blood

One-way ANOVA, Scheffe-test *p < 0.05, ** p < 0.01

IV  考察

Tacrolimus血中濃度測定法は,現在国内にはACMIA法,化学発光免疫測定法(chemiluminescence immunoassay; CLIA),酵素免疫測定法(enzyme-linked immunosorbent assay; ELISA),EMIT(enzyme multiplied immunoassay)法および電気化学発光免疫測定法(electro chemiluminescence immunoassay; ECLIA)などがあり,測定法毎に抗体の特異性や交差反応性が異なり測定値に誤差を生じることが知られている5)~7)。また,Tacrolimusは血液中において,95%が赤血球に移行することから,赤血球からの抽出や除蛋白処理が必要である。本検討で用いたACMIA法ではこの前処理が不要であるため,他方より簡便で迅速に測定可能であることから現在広く普及している8)

TacrolimusおよびCyclosporine血中濃度測定における全血試料は,一般的にEDTA加血液を用いる9)。これは,ヘパリン処理した血液では凍結融解の繰り返しにより血液中に微小なフィブリン塊を生じ,均一性が失われることで検体の正確なサンプリングが妨げられ,測定値にバラツキが生じると報告がなされたことによる10)。しかし,ACMIA法を原理とするTAC試薬では,本来,抗凝固作用として必要なEDTAによって偽低値となることが報告され,メーカーはEDTA濃度の影響を軽減させるため前処理試薬の濃度変更を行った。そこで今回,我々は,従来試薬と改良試薬における比較検討を行った。

当院でタクロリムス検査用として採用しているベノジェクトII真空採血管(Terumo, 2 mL)はEDTA-2Kが1.9 mg/mL含有されている。これを基準として,終濃度が3.8,5.7,7.6,9.5,11.4 mg/mLになるよう採血管にEDTA-2Kを添加した。改良試薬において,3.8 mg/mLで1.4%の低下であり添付文書に記載されている「EDTA濃度3.0 mg/mLで10%未満の誤差」と相違なかった。また,改良によりEDTAの影響が抑制されたものの採血量が1/3量に相当する5.7 mg/mLを超えると10%以上の低下になり無視できない。従って,改良試薬においても引き続き規定採取量に注意する必要がある。

臓器移植後の維持期においては,Tacrolimusのトラフ濃度を5.0 ng/mL付近にしていることが多く,また近年,mTOR(mammalian target of rapamycin)阻害剤であるEverolimusの登場によってTacrolimusの目標トラフ濃度を5.0 ng/mLよりさらに低い濃度に設定し,Tacrolimusによる腎機能障害を抑えようとするレジメンも散見しており11),Tacrolimus血中濃度測定にはより高感度で正確性の高い測定が求められている。そこで今回改良された試薬について,測定精度の評価を行った。同時再現性ならびに実効感度は,従来試薬と同等の性能であることを確認できた。他法のCV 20%値と比較すると,CLIA法では0.5~0.8 ng/mL,ECLIA法では0.3 ng/mLであり12)~15),遜色なく高い精度であることが示された。

以上より,改良されたTAC試薬は,Tacrolimus血中濃度測定において,従来試薬に比較しEDTA濃度の影響を軽減したことが明らかになり,より正確な報告が可能となった。

V  結論

ACMIA法における血中Tacrolimus測定は,高い測定精度を維持したまま試薬の改良がなされた。本検討でEDTAによる偽低値となる影響が軽減され,安全で効果的な免疫抑制療法に繋がると期待された。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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