Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Biomarker evaluation for improving accuracy of early diagnosis of acute coronary syndrome: Using human-heart-type fatty acid-binding protein and cardiac troponin
Yasuharu OEShingo ARITAKANoriko KAJIOKASayuri NAKAGAWAYoshihiro HIRATATatsuya TSURUSAKIToshiharu TAMAKIMinako OHARA
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2019 Volume 68 Issue 4 Pages 656-662

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Abstract

近年,心筋トロポニン(cardiac troponin; cTn)試薬は高感度化し,急性冠症候群(acute coronary syndrome; ACS)における発症早期の診断感度は向上した。しかし,それに伴いACS以外の心筋傷害による偽陽性も増加した。心臓由来脂肪酸結合蛋白(heart type fatty acid-binding protein; H-FABP)はACS発症超早期の感度に優れている。しかし,cTnに比べ腎機能等の影響を受けやすくACSに対する特異度は低いとされている。今回,H-FABPの臨床的有用性を明らかにすることを目的とし,2社の試薬間の相関性や診断精度の比較検討を行うとともに,cTnIとのACSに対する感度・特異度についても比較検討した。さらに,腎機能低下群において,H-FABPの診断精度の向上を目的とした腎マーカーおよび脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide; BNP)による補正効果について検討した。H-FABPは試薬間で診断精度に差がみられたが,診断感度の高い試薬では,非ST上昇型心筋梗塞患者でH-FABPのみ陽性を示した症例が認められ,cTnIに比べても診断感度が優れていた。また,腎機能低下症例においては,H-FABP/BNP比を用いることにより,H-FABP単独より診断精度が改善される可能性が示唆された。

Translated Abstract

In recent years, the sensitivity of cardiac troponin (cTn) as a marker has been increasing, and the diagnostic accuracy of this marker in the early stages of acute coronary syndrome (ACS) has improved. However, accordingly, false-positive results due to myocardial micro injury have been obtained. The heart-type fatty acid-binding protein (H-FABP) is an early, highly sensitive marker of myocardial injury. However, H-FABP is more sensitive as a marker for kidney function than cTn. To clarify the clinical usefulness of H-FABP, we compared the correlation and diagnostic accuracy between the reagents produced by two companies. In addition, the sensitivity and specificity of the two reagents, H-FABP and cTn, for ACS were compared and examined. Furthermore, in the renal dysfunction group, the correction effects of renal markers and brain natriuretic peptide (BNP) for improving the diagnostic accuracy of H-FABP were examined. Results revealed that H-FABP showed differences in diagnostic accuracy among the reagents. There were cases in which only the H-FABP reagent with high diagnostic sensitivity showed a positive result in patients with non-ST-segment elevation myocardial infarction. Furthermore, the high diagnostic sensitivity of the H-FABP reagent further increased compared with that of the cTn reagent. In cases of decreased renal function, it is suggested that using both H-FABP and BNP at a certain ratio may improve the diagnostic accuracy than using H-FABP alone.

I  はじめに

急性冠症候群(acute coronary syndrome; ACS)の診断には心筋マーカーが活用されており,2000年に改訂された急性心筋梗塞(acute myocardial infarction; AMI)の国際定義では心筋トロポニン(cardiac troponin; cTn)が第一選択肢となった1)。その後,高感度cTn(hs-cTn)の登場により低濃度域の正確な測定が可能となり,健常人の上限99%値をカットオフ値とすることで,ACS発症早期の診断感度と陰性予測値が大幅に改善された2)

しかしながら,hs-cTnを用いた診断において,初回検査値では,心不全や心筋炎などのACS以外の心筋傷害や腎機能低下の影響により,軽度にhs-cTnが上昇する偽陽性の報告3)がある。また,2015年に提示された非ST上昇型心筋梗塞(non ST-segment elevation myocardial infarction; NSTEMI)に関する欧州心臓病学会ガイドライン4)では,hs-cTnを用いた0–1時間アルゴリズムが推奨されるようになり,必ずしも迅速な診断ができないことが問題と考えられる。

一方,心臓由来脂肪酸結合蛋白(heart type fatty acid-binding protein; H-FABP)は胸痛発症後2時間以内の超急性期から鋭敏に反応する心筋マーカーとして,発症早期の感度に優れていることが知られている5)。しかし,cTnに比べ心不全等の心筋傷害や腎機能の影響を受けやすいという報告もあり6),7),ACSに対する特異度は低いとされている。

最近では,H-FABP測定試薬が数社から販売されるようになり,それぞれ臨床使用において良好な基本性能を有しているものの,測定値に差があることが報告されており8),診断精度の同等性は明らかにされていない。また,心不全等,ACS以外の微小心筋傷害を伴う循環器疾患や腎機能低下による偽陽性の発生率が高くACSの診断を困難にしている。

本検討ではH-FABPの臨床的有用性を明らかにすることを目的とし,2社のH-FABP測定試薬の相関性の検討と,cTnIとH-FABP(2社)のACSに対する感度・特異度について比較検討した。さらに,H-FABPは偽陽性を示す症例が多いとされるため,その診断精度の向上を目的とし,腎マーカーおよび脳性ナトリウム利尿ペプチド(brain natriuretic peptide; BNP)による補正効果について検討した。

II  方法

1. 対象

本検討は,社会医療法人社団十全会 心臓病センター榊原病院の倫理委員会の承認を得て(承認番号;20160902),2016年10月から2017年3月にかけて当院の救急外来に来院したACSが疑われる患者で,cTnIの検査依頼のあった559例のうち透析症例(42例)を除いた517例を対象とした。なお,対象患者の内訳(平均年齢 ± SD)は,男性294例(69.8 ± 30.0歳),女性223例(72.3 ± 30.7歳)であった。

2. 試薬と機器

H-FABPの測定にはDSファーマバイオメディカル株式会社(現SBバイオサイエンス株式会社)の「リブリアH-FABP(以下D社H-FABP)」,ヤマサ醤油株式会社の「ラテックスH-FABPキット ヤマサ(以下Y社H-FABP)」を用い,ベックマン・コールター社の生化学自動分析機AU680にて測定した。cTnIの測定にはベックマン・コールター社の「アクセスAccuTnI」試薬を用い,同社のUnicel DxI800にて測定した。同試薬は高感度試薬ではないが,最小検出感度は0.01 ng/mLとなっている。BNPの測定にはアボットジャパン社の「BNP-JP・アボット」試薬を用い,同社のARCHITECT i1000SRにて測定した。

3. 検討方法

ACS疑いで救急外来を受診した517例について,cTnIを含む日常検査項目に加え,D社およびY社のH-FABPを追加測定し,以下の検討を行った。

1) H-FABP測定試薬間の相関性

2社のH-FABP測定値について,全濃度および10 ng/mL以下の濃度域について相関性を検討し,単回帰分析により回帰式と相関係数を求めた。

2) H-FABPとcTnIのACSに対する感度と特異度

胸痛発症後の経過時間が6時間以内の対象群(ACS 17例,非ACS 50例)におけるACSに対する各心筋マーカーの診断精度を検討した。

2社のH-FABPおよびcTnIについて,受信者操作特性(receiver operating characteristic curve; ROC)解析から求めたROC曲線下の面積(area under the curve; AUC)値による診断精度の比較と,各試薬で設定されているカットオフ値による感度,特異度による診断精度の比較を行った。

3) ACS発症からの経過時間と各心筋マーカーの診断精度

ACSと診断された患者群において,各心筋マーカーの陽性,陰性の組合せによる群分けで,心臓超音波検査による心室壁運動異常の有無および心電図検査におけるST変化の有無とACS発症から採血までの時間との関係を調べた。

4) 各心筋マーカーのACS診断精度の向上を目的とした腎マーカーおよびBNPの補正効果

胸痛発症6時間以内の対象群において,cTnIとD社H-FABPをそれぞれクレアチニン(creatinine; CRE)・尿素窒素(urea nitrogen; UN)・推定糸球体濾過量(estimate glomerular filtration rate; eGFR)で除し,ROC解析により評価した。また,胸痛発症6時間以内の対象群においてcTnIとD社H-FABPをそれぞれBNPで除し,さらにeGFR を指標に腎機能正常群(eGFR ≥ 60 mL/min/1.73 m2)と低下群(eGFR < 60 mL/min/1.73 m2)の2群に分け,ROC解析を行った。

4. 統計

統計解析ソフトにはStatFlex(Ver. 6)を用いた。また,各マーカーのカットオフ値は,D社H-FABPは6.2 ng/mL,Y社H-FABPは5.0 ng/mL,cTnIは0.03 ng/mL(97.5パーセンタイル値)とした。

III  結果

1) H-FABP測定試薬間の相関性

全濃度域における回帰式の傾きは0.732,相関係数(スピアマン順位)は0.977で,相関性は良好であるものの回帰式の傾きは低く(Figure 1),回帰直線から外れた検体を5例認めた(Figure 1に〇マークで示した)。次に10 ng/mL以下の濃度域での相関性は,回帰式の傾き0.593,相関係数0.717とさらに傾きが低く相関性も弱くなった(Figure 2)。

Figure 1 Correlation in H-FABP reagent of two companies

The slope of the correlation formula was low and a weak correlation was observed.

Figure 2 Correlation in H-FABP reagent of two companies (H-FABP concentration: ≤ 10 ng/mL)

In the low concentration region, the slope was low and the correlation was weak.

2) H-FABPとcTnIのACSに対する感度と特異度

各試薬のカットオフ値から求めた感度はD社H-FABP:82.4%が最も高く,次いでcTnI:76.5%,Y社H-FABP:70.6%であった。特異度はcTnI:74.0%が最も高く,次いでY社H-FABP:64.0%,D社H-FABP:42.0%であった(Table 1)。ROC解析によるAUC値の比較では,cTnI:0.781,D社H-FABP:0.752,Y社H-FABP:0.665の順で大きかった(Figure 3)。

Table 1  Comparison of the diagnostic performance from the onset to 6 hrs
H-FABP (D company)
≥ 6.2 < 6.2
​ACS (n = 17) 14 3
​non-ACS (n = 50) 29 21

Sensitivity 82.4%

Specificity 42.0%

H-FABP (Y company)
≥ 5.0 < 5.0
​ACS (n = 17) 12 5
​non-ACS (n = 50) 18 32

Sensitivity 70.6%

Specificity 64.0%

cTnI
≥ 0.04 < 0.04
​ACS (n = 17) 13 4
​non-ACS (n = 50) 13 37

Sensitivity 76.5%

Specificity 74.0%

Figure 3 ROC curves of each biomarker from onset to 6 hrs

AUC: cTnI > H-FABP (D company) > H-FABP (Y company)

H-FABPで有用とされている発症2時間以内についても同様に解析したが,発症6時間以内の対象群と同様の傾向を示した(Table 2, Figure 4)。

Table 2 Comparison of the diagnostic performance from the onset to 2 hrs
H-FABP (D company)
≥ 6.2 < 6.2
​ACS (n = 8)62
​non-ACS (n = 29)1811

Sensitivity 75.0%

Specificity 37.9%

H-FABP (Y company)
≥ 5.0 < 5.0
​ACS (n = 8)53
​non-ACS (n = 29)1217

Sensitivity 62.5%

Specificity 58.6%

cTnI
≥ 0.04 < 0.04
​ACS (n = 8)53
​non-ACS (n = 29)920

Sensitivity 62.5%

Specificity 69.0%

Figure 4 ROC curves of each biomarker from onset to 2 hrs

AUC: cTnI > H-FABP (D company) > H-FABP (Y company)

3) ACS発症からの経過時間と各心筋マーカーの診断精度

ACS症例は72例で,そのうち55例でD社H-FABPとcTnIの結果が一致した(76.4%)。両項目陽性が45例(62.5%),両項目陰性が10例(13.9%)であった。また,結果が不一致となった症例は17例(23.6%)で,D社H-FABP陽性・cTnI陰性が8例(11.1%),D社H-FABP陰性・cTnI陽性が9例(12.5%)であった。

D社H-FABP・cTnI共に陽性であった45例の発症からの平均経過時間は5時間54分であった。心肺停止等,救急搬送時の患者状態などで心電図および心臓超音波の実施例数は異なるが,そのうち心電図上ST変化を認めた症例は38/42例(90.5%),心臓超音波検査で心室壁運動異常を認めた症例は25/32例(78.1%)であった。

同様に,発症からの平均時間,心電図上ST変化を認めた症例数,心臓超音波検査で心室壁運動異常を認めた症例数の各集計値は,D社H-FABP・cTnI共に陰性の10例では順に15時間12分,5/10例(50.0%),5/8例(62.5%),D社H-FABP陽性・cTnI陰性の8症例では1時間30分,7/8例(87.5%),5/5例(100.0%),D社H-FABP陰性・cTnI陽性の9例では38時間30分,5/9例(55.6%),6/9例(66.7%)であった。ただし,心室壁運動異常評価に関してはACSによるものか,陳旧性心筋梗塞などの以前の病因によるものかは区別できなかった。

4) 各心筋マーカーのACS診断精度の向上を目的とした腎マーカーおよびBNPの補正効果

cTnIは腎マーカーで補正しても,単独よりAUC値が上回る組合せはなかった。一方,D社H-FABPはCREとUNで補正することでAUC値は大きくなったが,eGFRでは小さくなった(Table 3)。cTnI,D社H-FABPいずれにおいても,単独よりBNPで除した場合のAUC値の方が大きくなった。さらに,腎機能正常群ではcTnI/BNP比が最も大きいAUC値0.844となり,同様に腎機能低下群ではD社H-FABP/BNP比が最も大きいAUC値0.853となった(Table 4)。

Table 3  AUC when the myocardial marker is divided by CRE, UN and eGFR
cTnI (n = 106) H-FABP (D company) (n = 106)
​Cardiac marker 0.754 0.741
​Cardiac marker/CRE 0.752 0.751
​Cardiac marker/UN 0.754 0.768
​Cardiac marker/eGFR 0.724 0.709
Table 4  AUC when the myocardial marker is divided by BNP
ALL (n = 101) eGFR ≥ 60 (n = 45) eGFR < 60 (n = 56)
​cTnI 0.747 0.803 0.708
​cTnI/BNP 0.830 0.844 0.808
​H-FABP (D company) 0.731 0.759 0.721
​H-FABP (D company)/BNP 0.812 0.752 0.853

IV  考察

H-FABPは低分子の心筋細胞質可溶性蛋白で,心筋傷害時に速やかに血中に逸脱することから,ACS発症早期の感度に優れた心筋マーカーとして知られている。しかし,H-FABPの試薬間で測定値が異なるという報告8)があり,臨床的有用性が同等であるかは明らかではなかった。

本検討において,全濃度および10 ng/mL以下の濃度域での相関性を検討したところ,既報9)と同様にD社に比べY社H-FABPが低値を示す傾向が認められ,かつ低濃度域でのばらつきは大きく相関係数は低いものであった。回帰直線から解離した検体は5例あり,Y社H-FABP高値が4例,D社H-FABP高値が1例であった。解離した検体のうち,Y社H-FABP高値の4例に関しては全例重症なACS症例で,D社H-FABP高値の1例は左室が破裂した非ACS症例であった。今回の検討では解離の明確な原因は解明出来ていないが,2試薬間の低濃度域の低相関性から,使用している抗体の特異性,すなわち抗体の認識部位や立体構造の認識能の相違が関連している可能性が示唆された。また,D社H-FABPはY社H-FABPに比べ,リウマトイド因子の影響を受けやすいという報告10)があり,D社高値乖離例は非特異反応の影響を受けている可能性がある。しかしながら,Y社高値乖離例についても同様にその可能性は否定できないと考える。

次に,2社のH-FABP測定試薬の臨床的有用性の検討では,発症6時間以内のACS疑い群において感度,特異度を求め,さらにROC解析を行った。その結果,感度はD社H-FABP(82.4%)> cTnI(76.5%)> Y社H-FABP(70.6%)であり,特異度はcTn(74.0%)> Y社H-FABP(64.0%)> D社H-FABP(42.0%)であった。さらにAUC値の比較ではcTnI(0.781)> D社H-FABP(0.752)> Y社H-FABP(0.665)であった。例数は少ないものの,発症2時間以内の症例においても同様の傾向を示した。発症2時間以内であれば,hs-cTnよりH-FABPのAUC値が優れているとする報告もある11)。今回の検討において,D社H-FABPの感度はcTnIに比べ高いものの特異度が低かった。このことがH-FABPのAUC値が低くなった要因として考えられ,その理由として,当院は循環器専門救急病院であるため,心不全等,H-FABPが陽性化するACS以外の心筋傷害患者が多く含まれていた影響が考えられる。本検討において,発症6時間以内の非ACS群のうち81.8%でH-FABPの陽性化例を認めている。また,同様に発症2時間以内では81.2%であった。先述したようにH-FABPはcTnに比べACS以外の心筋傷害を伴う循環器疾患や腎機能の影響を受けやすい6),7)ことからも母集団の特徴が大きくAUC値に影響したと考えられる。

D社H-FABPは,Y社H-FABPに比べ感度が高いが特異度が低く,AUC値は高かった。H-FABPは試薬により臨床的有用性が異なっており,その特徴を理解して使用する必要があると考えられた。同一項目で測定値が異なる試薬が混在することは臨床現場の混乱を来すことにもなり,今後の標準化が望まれるところである。

感度の高かったD社H-FABPについて,ACS患者を対象にcTnIの判定と組合せた時の胸痛発症から来院までの時間,心電図所見,心臓超音波検査所見の比較では,D社H-FABP陽性・cTnI陰性となった症例は8症例あった。胸痛発症から来院までにかかった平均時間は1時間30分で,H-FABPの血中への逸脱の速さを示唆するものであった。そのうち1例はNSTEMI患者で,D社H-FABPのみ陽性であった。本症例は,欧州心臓病学会ガイドラインの0–1時間アルゴリズムによるhs-cTn検査でNSTEMIと診断できる可能性はあるが,初回検査値のみで評価すると見落とされる可能性がある。NSTEMI患者の診断においては,hs-cTnによる0−1時間アルゴリズムを用いると診断までに時間を要することから,初回検査でACSに対する感度が高いD社H-FABPを併用することはACS早期診断の面からも意義が大きいと考える。ただし,D社H-FABPは特異性が低いため,ACSを確実に診断するものではなく,あくまでACS患者の見落としを防ぐためのスクリーニング検査としての位置付けとするのが妥当と思われる。

H-FABPのACSに対する偽陽性は,ACS以外の心筋傷害,腎機能障害,骨格筋傷害が関与していることが知られている。腎機能の影響については,H-FABPは腎排泄型蛋白であることから,腎機能低下時にH-FABPが血中に滞留することに起因している。H-FABPのみならずhs-cTnにおいても,腎機能低下時の偽陽性の増加が指摘されており3),腎機能に左右されない評価方法が確立されれば,広く臨床現場で有用となる。そこで心筋マーカーを腎マーカーで補正することにより特異性が改善されるかを検討したが,何れの腎マーカーで補正しても大きな改善を得ることができなかった。

一方,hs-cTnにおける心不全等による偽陽性については,BNPとhs-cTnの比を指標とするとAUC値が改善するという報告12)や,BNP高値群におけるhs-cTnの最適カットオフ値は健常人の上限99%値とかけ離れているという報告3)から,hs-cTnをBNPで補正し評価することでACSに対する偽陽性が減少し,より診断精度が向上することが示唆されている。本検討においても,心筋マーカー単独よりBNPとの比を指標とした時にAUC値は改善傾向を示した。さらにH-FABPはeGFRが60 mL/min/1.73 m2未満で偽陽性が増加するという報告7)をもとに,腎機能正常群と低下群で比較検討したところ,腎機能正常群ではcTnI/BNP比が,腎機能低下群はD社H-FABP/BNP比が最も大きいAUC値を示し,その時の至適カットオフ値は0.180であった。この結果から,腎機能低下患者のACSの診断補助にD社H-FABP/BNP比が有用と考えられた。その機序は明らかではないが,腎機能低下による心負荷,あるいは心負荷による腎機能障害等,心腎連関による心不全での心筋傷害の程度が虚血によるそれと異なっていることが関与しているのかも知れない。

V  結語

ラテックス免疫比濁法を原理とするH-FABP測定試薬は試薬メーカー間で測定値が異なっており,ACS診断における感度・特異度に違いがあることが明らかとなった。D社H-FABPはcTnIに比べて感度が優れ,NSTEMI患者もスクリーニングできる点で初回検査の組合せ診断として有用と考えられた。また,cTnIおよびH-FABPは腎機能の低下により偽陽性となることが問題となっているが,BNPとの比をとることで特異性が改善できる可能性が示唆された。さらにD社H-FABP/BNP比を指標とすることで,腎機能低下患者においてもACS診断能の向上が期待できる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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