2019 Volume 68 Issue 4 Pages 806-811
今回,我々はHaemophilus influenzaeの新規スクリーニング培地であるポアメディア®Viヘモフィルス寒天培地(以下Vi)の性能評価を行った。喀痰,咽頭粘液などの呼吸器由来の臨床材料272検体を,チョコレート寒天培地またはバシトラシン添加チョコレート寒天培地とViに接種し,18~24時間,35℃ 5%炭酸ガス培養をした。培養後,各培地からH. influenzaeを疑うコロニーを分離し,MALDI Biotyperにて同定を行い,日常検査にて実施するH. influenzae検出法(以下従来法)と,Viを使用した検出法(以下Vi法)の2法のH. influenzae検出数,一致率について比較検討した。272検体からH. influenzaeを疑ったコロニーで,Haemophilus属菌とその近縁種は従来法では53株,Vi法では55株分離された。そのうちH. influenzaeはそれぞれ26株,31株であり,一致率は49.1%,56.4%であった。本検討ではViの使用によりH. influenzaeの検出数,一致率が従来法を上回る結果であった。さらに,Viでは溶血性が初代培養で確認できるため,確認試験の簡略化もでき,H. influenzaeの分離に非常に有用であると考えられた。
Haemophilus influenzae causes respiratory tract infections and other invasive infections, and requires appreciable technical skill for isolation from chocolate agar (CHO). In this study, we evaluated the performance of Pourmedia® Vi Haemophilus agar (Vi), a new screening agar for H. influenzae. Clinical respiratory specimens, such as sputum and pharyngeal mucus, were inoculated onto either CHO (conventional method) or chocolate agar with bacitracin (Baci) and Vi (Vi method), followed by incubation at 35°C for 18 to 24 h in a 5% CO2-enriched atmosphere. After incubation, colonies suspected to be H. influenzae were isolated from each agar plate and identified using MALDI Biotyper. Counts of H. influenzae colonies detected and agreements between the two methods were compared, i.e., comparison between the usual test to detect H. influenzae (conventional method) and the new test using Vi (Vi method). From the 272 samples, 53 strains of Haemophilus spp. and Haemophilus-like organisms were isolated by the conventional method, compared with 55 strains isolated by the Vi method. Twenty-six strains (49.1%) and 31 strains (56.4%) of H. influenzae were confirmed by the conventional method and the Vi method, respectively. In this study, the Vi method was found to be more efficient than the conventional method, both in terms of the count of H. influenzae detected and agreement between the two methods. Furthermore, because the Vi method permits the examination of hemolytic properties after primary culture, the verification test is simplified, leading to enhanced utility for the isolation of H. influenzae from clinical specimens.
Haemophilus influenzae は,Haemophilus属に属する菌種であり,この属の中でヒトに感染を起こす主要な起因菌である。0.2~0.5 μmの非運動性,無芽胞性のグラム陰性小桿菌で,チョコレート寒天培地上では,露滴状の円形で光沢のあるコロニーを形成する。臨床的に重要とされるHaemophilus属の内,H. influenzae以外のHaemophilus属菌は,ウマ血液寒天培地での溶血性,X,V因子要求性でほぼ概ね鑑別可能である1)が,初代分離のチョコレート寒天培地のみでは,これらの鑑別性状を確認することは不可能であるため,H. influenzaeの同定には複数の鑑別試験を行っている施設が多い。
H. influenzaeは,呼吸器感染症や侵襲性感染症の起因菌として重要である2)ため,臨床材料より的確に分離することが重要である。臨床材料の培養検査において,喀痰や咽頭粘液などの呼吸器系材料では,口腔内常在菌が複数発育する場合が多く,そのためチョコレート寒天培地からH. influenzaeを分離するにはある程度の技量を要し,また個人の技量に委ねるところが多い。
2018年1月,H. influenzaeの新規スクリーニング培地(以下Vi:ポアメディア®Viヘモフィルス寒天培地,栄研化学)が使用可能となった。Viは,ウマ血液寒天培地を基礎としており,分離時に溶血性状の確認が可能である。さらに白糖とマンノースの分解能の違いにより,分解菌は青色,非分解菌は灰白色を呈する。選択剤による夾雑菌の抑制と併せ,コロニー色,溶血の有無により,H. influenzaeを効率的に分離することを目的に開発された培地である。ViにおけるHaemophilus属の発育コロニー所見をFigure 1に示す。
After incubation for 24 hours on Vi Haemophilus agar at 35°C in a 5% CO2-enriched atmosphere, H. influenzae exhibits none hemolysis and gray colonies, H. parainfluenzae exhibits none hemolysis and blue colonies, and H. haemolyticus exhibits hemolysis and gray colonies.
今回我々は通常の日常検査にて実施するH. influenzae検出法(以下従来法)と,Viを使用した検出法(以下Vi法)の2法を比較検討し,Viの性能評価を行ったので報告する。
2017年5月~10月に提出されたH. influenzaeの検出が疑われる臨床材料272件を対象とした。検体種別の内訳をTable 1に示す。培養検査は,原則検体提出当日に実施した。当日の培養開始が不可能であった場合には,検体を冷蔵(4℃)保存し,1日以内に検査を実施した。なお日常検査では,喀痰検体の品質評価を実施しているが,今回検討に用いた喀痰,気管内採痰検体は,検討培地の性能確認であるため品質評価は実施せず,臨床から依頼のあった全てを対象とした。
Specimen | Number |
---|---|
Sputum | 212 |
Aspiration sputum | 16 |
Throat (Swab) | 44 (adults: 11 and children: 33) |
Total | 272 |
従来法で使用した培地は,喀痰,気管内採痰検体にはチョコレート寒天培地(以下CHO:ニッスイプレートチョコレート寒天培地EX II,日水製薬)を,小児の咽頭粘液検体には,バシトラシン添加チョコレート寒天培地(以下Baci:バシトラシン添加チョコレートII寒天培地,日本ベクトン・ディッキンソン)を使用した。
2. 臨床検体の培地接種と培養1)喀痰,気管内採痰は,喀痰溶解剤(スプタザイム,極東製薬)で溶解処理後,10 μL白金耳にてそれぞれの培地に塗布した。分離平板は35℃ 5%炭酸ガス条件下で18~24時間培養した。
2)スワブ採取検体は,従来法使用培地に接種後,残余検体を用いてViに接種し,10 μL白金耳を用いて塗布した。分離平板は35℃ 5%炭酸ガス条件下で18~24時間培養した。
3. H. influenzae判定方法各培地を規定時間培養後,判定者による誤差の無いよう,同一検査者により判定を実施した。培地判定の順序は,従来法使用培地を判定後,Viの判定を実施した。発育したH. influenzaeの菌量が,培地全体の1/3以下なら1+,1/3なら2+,1/3から2/3なら3+,それ以上は4+とした。CHO,Baciは,コロニー所見よりH. influenzaeを疑った場合に同定検査を行い,Viは,溶血環の無い灰白色のコロニーに対して同定検査を実施した。統計学的検討にはχ2検定を行い,p < 0.05を有意差ありとした。
4. 同定検査方法MALDI Biotyper(ブルカージャパン株式会社)(ライブラリー一般細菌ver. 4.0.0.0)を用いて,セルスメア法にて同定検査を実施し,Score Value 2.000以上の場合,同定菌種名として確定した。
5. 釣菌株数と一致率の評価方法MALDI Biotyperによる同定検査によりH. influenzae,H. haemolyticus,H. parainfluenzae,およびHaemophilus spp.そしてAggregatibacter segnisと同定されたこれらの菌種をHaemophilus属類縁菌と定義し,従来法,Vi法それぞれのHaemophilus属類縁菌釣菌株数を算定した。H. influenzae同定株数を,Haemophilus属類縁菌釣菌株数で割った値をH. influenzae一致率(検査効率)と定義し,それぞれ算定した。また,今回検討した272検体について,従来法にて分離培養し同定検査で溶血性とX,V要求性を用いた場合と,Vi法にて分離培養し同定検査でX,V要求性のみを用いた場合で,H. influenzae 1株を分離するのに必要なコストを試算した。
Table 2に検体種別ごとのH. influenzae検出数を示す。272検体中,H. influenzaeは従来法では26検体(喀痰23検体,咽頭粘液3検体),Vi法では31検体(喀痰27検体,咽頭粘液4検体)から分離された。Vi法では 従来法に比べ5株多くH. influenzaeが分離されたが,χ2検定を行い,p > 0.05であった。
The conventional method | The Vi method | |
---|---|---|
Sputum | 23 | 27 |
Aspiration sputum | 0 | 0 |
Throat (Swab) | 3 | 4 |
Total | 26 | 31 |
従来法とVi法のH. influenzae検出結果に乖離が認められた検体の内訳をTable 3に示す。結果が乖離した検体は9検体あった。乖離する例が9検体中6検体と最も多かったのは喀痰であった。Type 1~7の7検体は,従来法ではH. influenzae陰性と判定されたが,Vi法では発育を認めた。Type 8,9の2検体は,従来法ではH. influenzaeの発育を認めたが,Vi法では陰性と判定された。Type 1~7のうち,Vi法では発育菌量が2+以上認められたが,従来法で陰性と判定された検体が6検体あった。
Type | Number of samples | Classification of specimen | Quantity of growth bacteria | |
---|---|---|---|---|
The conventional method | The Vi method | |||
1 | No. 11 | Sputum | − | 3+ |
2 | No. 40 | Sputum | − | 3+ |
3 | No. 72 | Sputum | − | 3+ |
4 | No. 77 | Sputum | − | 3+ |
5 | No. 26 | Sputum | − | 1+ |
6 | No. 174 | Throat (Swab) | − | 4+ |
7 | No. 87 | Throat (Swab) | − | 2+ |
8 | No. 33 | Sputum | 1+ | − |
9 | No. 154 | Throat (Swab) | 1+ | − |
<Quantity of growth bacteria for agar plate>
−: no detection, 1+: < growth on 1/3 area, 2+: growth on 1/3 area, 3+: growth on 1/3 to 2/3 area, 4+: > growth on 2/3 area
結果をTable 4に示す。H. influenzaeを疑い釣菌した株のうち,Haemophilus属類縁菌と同定されたのは,従来法では53株,Vi法では55株認められた。その中でH. influenzaeと同定された菌は,従来法では26株,Vi法では31株認め,陽性的中率は,従来法49.1%(26/53株),Vi法56.4%(31/55株)であった。
The number of the picking colonies | H. influenzae | H. haemolyticus | H. parainfluenzae | Haemophilus spp. | Aggregatibacter segunis | |
---|---|---|---|---|---|---|
The conventional method | 53 Testing efficiency (%) |
26 49.1% (26/53) |
16 30.2% (16/53) |
9 17.0% (9/53) |
1 1.9% (1/53) |
1 1.9% (1/53) |
The Vi method | 55 Testing efficiency (%) |
31 56.4% (31/55) |
8 14.5% (8/55) |
4 7.3% (4/55) |
1 1.8% (1/55) |
11 20.0% (11/55) |
H. influenzae 以外の菌種においては,H. haemolyticus,H. parainfluenzae,それ以外のHaemophilus spp.の釣菌株数は,従来法では26株,Vi法では13株と,Vi法で半減した。一方でA. segnisの釣菌株数は,従来法では1株であったのに対し,Vi法では11株と多く認める結果であった。
また,H. influenzae 1株を分離するのに必要なコストは従来法の3,029.9円に対し,Vi法は2,496.9円であった(Table 5)。
Method | Isolation | Identification | Cost for strain | |||
---|---|---|---|---|---|---|
Sputum | Aspiration | Throat (adult) | Throat (children) | |||
The conventional method | Chocolate agar EX II | Chocolate agar EX II + Chocolate II Agar with Bacitracin | Haemophilus ID Quad with Growth Factors | 3,029.9 yen (78,777.7 yen/26 strains) | ||
180 yen/specimen | 505.5 yen/specimen | 472 yen/picking colony | ||||
The Vi method | Vi Haemophilus agar | XV MULTI-DISK + XV TEST AGAR |
2,496.9 yen (77,405 yen/31 strains) | |||
250 yen/specimen | 171 yen/picking colony |
<Estimation conditions>
Chocolate agar EX II (Nissui Pharmaceutical Co., Ltd.): 180 yen/plate
Chocolate II Agar with Bacitracin (Nippon Becton Dickinson Company, Ltd.): 325.5 yen/plate
Haemophilus ID Quad with Growth Factors (Nippon Becton Dickinson Company, Ltd.): 472 yen/plate
Vi Haemophilus agar (EIKEN CHEMICAL CO., LTD.): 250 yen/plate
XV MULTI-DISK (EIKEN CHEMICAL CO., LTD.): 120 yen/test
XV TEST AGAR (EIKEN CHEMICAL CO., LTD.): 51 yen/plate (medium/plate: 26 yen, petri dish: 25 yen)
今回我々は,日常の検査にて実施するH. influenzae検出法(従来法)と,新規に開発されたH. influenzae選択培地であるViを使用した検出法(Vi法)の2法を比較検討し,Viの有用性評価を行った。
臨床検体272検体中,Vi法では 従来法に比べ5株多くのH. influenzaeを分離可能であった。Viは,選択剤が含まれているため,Staphylococcus属菌やStreptococcus属菌などのグラム陽性球菌の発育が抑制される。また,アニリンブルー,白糖,マンノースが含まれているため,糖分解によりアニリンブルーが反応し,白糖,マンノースのいずれかを分解する菌は,コロニー全体またはコロニーの中心部が青色を呈する。さらに発育因子とウマ脱繊維素血液が添加されているため,溶血の有無を確認することも可能である。これらの作用により,発育した夾雑菌に関しても,H. influenzaeとの鑑別が可能な場合が多い。今回の我々の成績は,これらViの性能により,従来法より多くのH. influenzaeを検出することが出来た。しかし,H. influenzae検出乖離データの解析結果でも示した通り,従来法ではH. influenzaeの発育を認めたが,Vi法では陰性と判定された検体も2検体認めている。この2検体の検体種は,喀痰1件,咽頭粘液(小児検体)1件であり,菌量は2検体とも1+であった。咽頭粘液に関しては,スワブ検体を従来法の使用培地であるBaciに塗布した後にViに塗布しているため,Baciに比べViではサンプリングされた菌量が少なく,また喀痰に関しては,サンプリングした検体に偏りがあったことが結果の乖離に繋がった可能性が考えられた。
一方,従来法では陰性と判定されたが,Vi法では発育を認めた7検体の検体種は,喀痰5件,咽頭粘液(小児検体)2件であった。Viでは発育菌量2+以上認められるが,従来法で陰性と判定された検体が6検体にも上っている。喀痰で結果が乖離した理由は,CHOでは夾雑菌や,H. influenzae以外の細菌の発育が多いためと考えられた。従来法でBaciを使用する小児の咽頭粘液で結果が乖離した理由は,培地中に含まれる選択剤に起因する可能性が考えられた。バシトラシンはグラム陽性球菌やNeisseria属菌などの夾雑菌の発育を抑制するため,バシトラシンを添加したチョコレート寒天培地は,夾雑菌の多い検体からのH. influenzaeの分離に有用である。しかしながら,バシトラシンに感受性を示すH. influenzaeも存在し3),今回乖離のあった咽頭の2検体ではViでの発育菌量が4+と2+と多いことから,BaciではバシトラシンによってH. influenzaeが抑制されたと推察された。一方で,Viに添加されている選択剤の詳細は公表されていないが,Baciでは発育が抑制されるバシトラシン感受性のH. influenzaeに対してもViでは発育支持力が確保されていた。ViではBaciと比べ,夾雑菌の発育は多く認められるが,発育してきた夾雑菌に対して,溶血の有無や糖分解能の違いにより,コロニーが着色することで鑑別が容易にできるため,結果としてH. influenzaeの検出数は上回ったと考えられた。
検査効率について考察する。結果で示した通り,H. influenzae陽性的中率は,従来法49.1%(26/53株),Vi法56.4%(31/55株)であり,Vi法の方が,7.3%良好な結果となった。また,Viでは,H. haemolyticus,H. parainfluenzae,それ以外のHaemophilus spp.の釣菌数が半数に減少している。前述した通り,Viでは,これらの夾雑菌がコロニー所見で判別可能な場合が多く,目視で釣菌対象から除外できるため,Viを用いることで効率よくH. influenzaeを検出することが可能であった。しかし,ViではA. segnisが灰白色のコロニー形態にて発育を示すため,従来法に比べ,多くの株が検出されている。今回の検討では,H. influenzae釣菌基準の設定を,溶血環のない灰白色コロニーとし,同定検査を実施しているためA. segnisが多く検出される結果となった。H. influenzaeとA. segnisはポルフィリンテストなどX・V因子要求性の確認で鑑別が可能であるが,実際には,Vi上に発育したH. influenzaeとA. segnisでは,コロニーの質感や触感などが異なる。Viの使用経験を積み,コロニーの識別精度を上げることにより,H. influenzaeとA. segnisをコロニー所見で鑑別することが可能と考える。またViでは,腸内細菌科細菌やブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌も発育し,中でもAcinetobacter属菌やStenotrophomonas属菌など一部の菌種は株により,H. influenzae様の灰白色コロニーを呈するため,コロニー所見のみではH. influenzaeとの鑑別が困難である場合もある。しかし,ヒツジ血液寒天培地などVi以外の培地で,発育細菌叢を確認することにより,Acinetobacter属菌,Stenotrophomonas属菌は除外が可能であるため,特に問題はないと考える。
ヒツジ血液寒天培地に発育せず,X・V両因子を要求するH. influenzaeとH. haemolyticus は,糖分解能をはじめ他の生化学的性状も類似していることから,両者の鑑別には溶血性状が有効な性状と記載されてきた4),5)。しかし非溶血性のH. haemolyticusの存在は予てから指摘されており6),藏前らは溶血性状以外にX・V因子要求性にも非典型的な性状を示すH. haemolyticus の存在と本菌が有する多様な生化学的性状を報告している。H. haemolyticusと同定された株のうち溶血性を有する株は25.3%に過ぎず74.7%が非溶血,XV因子要求性を示す株は42.7%で57.3%がV因子要求性であったとし,これらの非典型的な性状を示すH. haemolyticusは,H. influenzaeとの鑑別に白糖とマンノースの糖分解能が有効であると述べている7)。
Haemophilus属菌の鑑別には,X・V因子要求性と溶血性状が日常検査として行われており,一部の非典型的性状を示すH. haemolyticusはH. influenzae,H. parainfluenzaeあるいはH. parahaemolyticusと誤って同定されているのが微生物検査室の実情と考えられる8)。Viでは初代分離で典型的性状を示すH. haemolyticusの溶血性状を確認することが可能である上に,白糖,マンノースが培地成分に含まれているため,非典型的性状を示すH. haemolyticusにおいても,これらの分解能を利用したH. influenzaeとの鑑別が初代分離培養の時点で可能である。よってViを使用することにより,非典型的性状を示すH. haemolyticusの鑑別性能の向上,またX・V因子要求性の確認は最終的に必要であるがHaemophilus属菌鑑別用の4分画培地の省略などの検査フローの簡略化,さらにはそれに伴った結果報告の迅速化など,多くの面でのメリットが期待できる。検出率に有意差は認められなかったが,272検体からH. influenzaeを1株分離するために必要としたコストは,従来法の3,029.9円に対し,Vi法は2,496.9円であり,1株当たり533.0円の削減が見込まれる(Table 5)。Viの使用経験が積まれることにより,A. segnisとの識別精度が向上すれば更に経済効果は期待できる。
呼吸器系材料の培養検査にViを使用することは,H. influenzaeの分離率向上,検査効率の向上だけでなく,経験の浅い技師でもH. influenzae を容易に分離可能にするものである9)。また検査フローの簡略化や迅速な推定報告も可能となり,感染症診療において大きな役割を果たすと考える。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。