Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
Characteristics of Tosufloxacin crystals and crystal casts observed in urine sediment of infants
Katsuhiro NAGATAYoshi TANAKAMasami MATSUMOTOAya HASHIMOTOFumina YAMAGUCHIShizuyo NAKAGAWAYoshitame YANAIDAYoshitsugu IINUMA
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2019 Volume 68 Issue 4 Pages 751-757

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Abstract

トスフロキサシン(Tosufloxacin; TFLX)は,小児への適用を取得しているニューキノロン系抗菌薬である。我々は形態的にTFLX結晶と考えられた針状結晶について,その特徴を検討した。研究期間中,10例の小児例を経験し,その尿沈渣像は,褐色の細い針状結晶がウニ様または束状であった。また,針状結晶が入り込んだ結晶円柱を8例に認め,結晶円柱の多くは上皮円柱でもあった。円柱の多くは基質が緩く,平行部分が少ないという特徴があり,ネフロン再疎通までの時間が短かったものと考えられた。推算糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate; eGFR)はほぼ基準範囲内であり,顆粒円柱の数も少なかった。しかし,過去に腎機能低下を伴う小児例も報告されており,TFLX投与中は慎重な経過観察が必要と考えられる。また,金沢医科大学病院で過去に針状結晶が検出された小児のうち81%(52/64件)がTFLXを内服していたことから,小児針状結晶形成とTFLX投与との関連が疑われた。

Translated Abstract

Tosufloxacin (TFLX) is a fluoroquinolone antibiotic that was approved for use in children in Japan. In this study, we aimed to investigate the characteristics of TFLX crystals in the urine sediment of infants. Ten infants were included in this study. All of them took TFLX, and many fine brown needle-shaped crystals appeared in their urine sediments, which appeared to be sea urchins or bundles. In eight patients, urinalysis showed crystal casts, which usually showed that needle-shaped crystals penetrated into the epithelial casts. The cast matrix was generally loose with short parallel portions, which may indicate temporal renal tubular occlusion. In all the patients, the estimated glomerular filtration rates (eGFRs) were approximately normal, and the granular cast count did not increase significantly. However, cases of infant with nephropathy were reported previously, which required a careful follow-up of renal function during TFLX treatment. Previously, needle-shaped crystals in urine sediments were found in 64 infants in our hospital, and 52 (81%) of them were treated with TFLX, which suggests the relationship between needle-shaped crystals and TFLX.

I  はじめに

トスフロキサシン(Tosufloxacin; TFLX)は,錠剤として1990年から成人に使用されているニューキノロン系経口抗菌薬である。2009年に肺炎,中耳炎に対して小児適用となり,小児用細粒として近年処方が増加している。2007年に稲垣ら1)は,TFLX結晶および円柱のみられた1症例を報告し,結石分析によりTFLXを同定し,結晶の形態的特徴を述べている。それ以前にOkadaら2)は,TFLXの長期使用例における,結晶形成を伴う慢性間質性腎炎の報告をしており,TFLXとの関連が疑われている。また近年Matsubaraら3)により,結晶円柱を伴う腎症の小児例が報告され,さらに菅原ら4)は,TFLX投与中に腎機能低下を認めた小児7例について,全ての症例でTFLX結晶と考えられる尿中結晶の析出を認めたと報告している。

今回我々は,TFLX結晶を認めた小児10症例を検討し,その形態的な特徴と尿所見との関連について述べる。併せて金沢医科大学病院の過去の尿沈渣検査で針状の薬剤結晶(以下針状結晶)として報告した検体を抽出し,当時の薬歴を調査することで同結晶出現の経年的な推移について考察する。本研究は金沢医科大学病院倫理審査委員会の承認(整理番号:No. H169)を得て実施した。

II  対象と方法

1. TFLX結晶の定義

TFLX結晶はTFLX内服患者の尿中にみられる細い針状,ウニ様または束状の結晶で,黄褐色~褐色を呈するものとした。

2. 対象

2016年9月から2017年8月の約1年間にTFLXの処方が確認され,尿沈渣でTFLX結晶を検出した小児10症例を対象とした。

3. 方法

患者背景として,患者基本情報,尿定性検査,尿沈渣検査,血液検査結果を調査した。尿定性検査は,US-3100Rplus(栄研化学株式会社)を使用した。尿沈渣検査は,尿沈渣検査用染色液ニューユリステイン(シスメックス社)を使用し,尿沈渣検査法2010(GP1-P4)5)に従った。また,1症例において赤外線吸収スペクトロフォトメトリーによる結石分析を行った。その検体は,尿約300 mLから沈渣を作成し,フラン器で一晩放置後乾燥させたものを使用した。

4. 針状結晶とTFLX処方との関連

2009年1月から2017年12月の9年間に当院の尿沈渣検査で針状結晶を報告した101件(76症例)を対象とし,年齢,性別,薬剤投与歴を調査した。

III  結果

1. TFLX結晶を認めた小児10症例

10症例の患者基本情報をTable 1に示す。

Table 1  小児10症例の患者基本情報
症例No. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
年齢(歳) 6 13 5 1 8 4 4 3 1 6
性別
基礎疾患 IgA血管炎 IgA血管炎
TFLX処方施設 当院 前医 当院 当院 前医 当院 前医 前医 当院 当院
投与開始後の日数* 1 1 3 8 3 6 1 7 1 3

*10症例ともにTFLX投与後の最初の尿沈渣で結晶を検出した。

年齢は1歳から13歳であり,男児4名,女児6名であった。TFLX処方施設は当院6例,前医4例であった。いずれも処方後最初の尿沈渣検査で結晶を認めており,早いものでは処方翌日に認めていた。症例No.10の結石分析の結果をFigure 1に示す。TFLXの成分比率が98%以上の結果が得られた。

Figure 1 結石分析の結果(症例No. 10)

Table 2に10症例の検査結果を示す。尿のpHは5.5~7.5(平均6.5)の範囲内であり,酸性やアルカリ性の偏りは認めなかった。比重は1.004~1.026(平均1.015)であり濃縮尿の所見ではなかった。そのほか,一部の症例でケトン体および潜血陽性を認めたものの多くの尿定性所見に異常は認めなかった。尿沈渣検査では,TFLX結晶のみられた10症例のうち8症例で同結晶円柱を認めており,その多くは尿細管上皮細胞を3個以上含む上皮円柱でもあった。またその8症例は,背景にも散在性に尿細管上皮細胞を1~4/HPF(high power field)から5~9/HPF認めた。顆粒円柱は10症例中7症例で認めたものの,その数はいずれも1~4/WF(whole field)とわずかであった。また,推算糸球体濾過量(estimated glomerular filtration rate; eGFR, mL/min/1.73 m3,改訂Schwartzの式6))は79.7~142.9であり症例8,10において90を下回ったものの多くの症例は腎機能低下を認めなかった。

Table 2  小児10症例の検査所見
症例No. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
尿定性
 pH 5.5 6.5 7.0 6.0 5.5 5.5 6.0 6.0 7.5 6.5
 比重 1.012 1.007 1.014 1.026 1.010 1.011 1.018 1.009 1.004 1.009
 蛋白 ± ± ± ± ±
 潜血 ± 1+ ± ± 2+ 1+
 糖
 ケトン体 1+ 2+
尿沈渣(目視)
 赤血球(/HPF) 1~4 1~4 20~19 5~9
 白血球(/HPF) 1~4 10~19 1~4 1~4
 細菌
 尿細管上皮(/HPF) 5~9 1~4 1~4 5~9 1~4 5~9 5~9 5~9
 硝子円柱(/WF) 10~19 20~29 1~4
 顆粒円柱(/WF) 1~4 1~4 1~4 1~4 1~4 1~4 1~4
 上皮円柱(/WF) 10~19 5~9 5~9 1~4 5~9 5~9 10~19 5~9
 TFLX結晶1) ウニ,
マフラー
ウニ,束 ウニ,
マフラー
ウニ(短針) ウニ(長針) ウニ ウニ(長針),束 ウニ(長針),束 ウニ(短針),束 ウニ
 TFLX結晶円柱 + + + + + + + +
臨床化学
 BUN(mg/dL) 11 14 9 15 9 10 9 10 4 10
 クレアチニン(mg/dL) 0.33 0.56 0.40 0.29 0.58 0.29 0.36 0.44 0.26 0.57
 eGFR(mL/min/1.73 m32) 142.0 116.5 105.6 111.0 96.1 142.4 121.6 84.4 142.9 79.7

1)ウニ:ウニ様,マフラー:毛皮のマフラー様,束:束状

2)改定されたSchwartzの推算式:日本腎臓病学会:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013

TFLX結晶の顕微鏡像をFigure 2に示す。TFLX結晶はFigure 2Aに示すように褐色の細い針状結晶でありウニ様に出現しているものが多かった。なかには一定方向に流れる毛足の長いマフラー様の形状1)を示す針状結晶(Figure 2B)や,束状に見える結晶も確認できた(Figure 2C)。また,結晶と尿細管上皮細胞が絡まっている像が頻度高く認められた(Figure 2D)。

Figure 2 TFLX結晶

A:ステンハイマー(Sternheimer; S)染色(40×)褐色の細い針状結晶がウニ様に多数出現(症例No. 2)

B:Sternheimer染色(40×)マフラーの様に一定方向に流れて見える(症例No. 3)

C:Sternheimer染色(40×)束状の結晶(症例No. 7)

D:Sternheimer染色(40×)結晶と尿細管上皮細胞が絡まっている(症例No. 10)

TFLX結晶円柱をFigure 3に示す。多くは円柱の基質部分が緩く,平行部分が少ないという形態的特徴がみられた(Figure 3A, B, D)。また結晶と同時に尿細管上皮細胞を3個以上封入した結晶円柱かつ上皮円柱も多くみられた(Figure 3A, B, C, D)。

Figure 3 TFLX結晶円柱

A:Sternheimer染色(40×)円柱の基質が緩く平行部分が少ない(症例No. 3)

B:無染色(40×)円柱の基質が緩く平行部分が少ない(症例No. 7)

C:Sternheimer染色(40×)円柱の内部に入った尿細管上皮細胞と結晶(症例No. 8)

D:Sternheimer染色(40×)平行部分が少ないが結晶円柱かつ上皮円柱と思われる(症例No. 2)

2. 針状結晶とTFLX処方との関連

9年間の針状結晶検出数の総計は,15歳以下の小児64件,成人37件と小児に多くみられた。そのうちTFLXの処方を確認できたのは,小児では52/64件(81.2%),成人では,5/37件(13.5%)であった。Table 3で示すように,小児では,針状結晶の検出数が増加しているが,同時にTFLX処方件数も増加していた。

Table 3  小児針状結晶検出件数と当院の小児TFLX処方件数の推移
TFLX内服数/針状結晶検出数(%) TFLX処方件数
2009 0/3(0%) 1
2010 0/1(0%) 45
2011 0/1(0%) 86
2012 2/3(66%) 148
2013 7/7(100%) 298
2014 12/13(92%) 401
2015 6/10(60%) 374
2016 13/14(93%) 461
2017 12/12(100%) 281
1) 52/64(81.2%) 2,095

1)成人:5/37(13.5%)

TFLX処方件数1,583

IV  考察

尿沈渣のTFLX結晶の特徴は,稲垣ら1)が述べているように,「淡黄褐色・針状で集合して束状又はウニ様の球状」で見られるものが多かった。加えて今回の検討では,針が細いことが特徴的と思われ,中には針というよりむしろ毛の様に見える結晶もみられた。色調に関しては,我々の検討した10症例をみる限り,淡黄褐色より褐色に近いと思われた。今回10症例を提示したが,いずれもその特徴的な形態からTFLX結晶を疑い,その全てでTFLXの内服を確認したものである。結石分析で同定したものは1例のみだが,その特徴的な形態からTFLX結晶を推定することは十分可能と思われた。ただし今回は化学的な性状確認は行っておらず,薬剤結晶は針状あるいは束針状を示すものが多いとされる7),8)。中でも同じニューキノロン系抗菌薬のパズフロキサシン(pazufloxacin; PZFX)投与後観察された針状結晶9)は比較的形状が似ており,注意すべきである。

またTFLX結晶は同結晶円柱を頻度高く伴うことも特徴的であった。その多くは同時に尿細管上皮細胞を含んだ上皮円柱でもあり,円柱の特徴としては基質が緩く平行部分が不明瞭なものが多いことがあげられる。おそらく尿細管腔における原尿の停滞と濃縮によってTFLXが結晶化し,何らかのダメージを与えることで尿細管上皮細胞が脱落すると考えられるが,円柱の基質が緩いという特徴から,ネフロンの再疎通までの時間が短く一時的な閉塞であったことが推察された。今回の10症例においてはeGFRの多くが90 mL/min/1.73 m3以上であり,顆粒円柱もわずかしか認めていないことから腎機能低下所見は少ないものと考えられた。しかしながら,わずかの潜血や蛋白の他,尿細管上皮細胞や各種円柱を頻度高く認めており,何らかの腎障害の存在は示唆される。

また,針状結晶報告のレトロスペクティブな検討において,針状結晶が検出された小児のうち81%がTFLXを内服していたことから,針状結晶形成の原因として,TFLX投与との強い関連が示唆された。近年小児の尿沈渣中にTFLX結晶の出現頻度が増えている背景には,小児のTFLX処方件数の増加がある。事実,当院の小児の処方が急激に増加しており,おそらく,2010年よりTFLXが小児のニューキノロン系抗菌薬として初めて保険適用された唯一の抗菌薬であること,および2017年よりマイコプラズマ肺炎に適応拡大されたことが大きな要因と思われる。一方成人では,TFLX以外のニューキノロン系抗菌薬が数種類処方可能であり,近年TFLXの処方件数が減少していることが成人で少ない一因と推察される。ただし,当院の9年間のTFLX総処方件数に対するTFLX疑いの針状結晶検出数の割合は,成人は0.3%(5/1,583)であったのに対して小児は2.5%(52/2,095)と成人より約8倍高かった。これはすなわち処方件数の差以外にも小児において同結晶が出現しやすい何らかの要因があると推察される。その一つとして,小児は感染による発熱や嘔吐による脱水を起こしやすいため,尿の濃縮により結晶が析出しやすいことは十分考えられる。また小児と成人の剤形の違いや尿検査の測定頻度の差なども要因となり得ると思われる。

近年本結晶は当院だけでなく多くの施設でみられていると思われる。2003年に坂牛ら10),2016年に山下ら11)がTFLXを疑う結晶または不明結晶として報告している。また尿沈渣検査法2010に不明の薬物結晶として掲載されている写真(図D955),図3.38912))も形態的特徴がTFLX結晶に酷似しており,TFLX結晶である可能性は十分考えられる。その臨床的な意義については,これまでも結晶円柱を伴う腎症の小児例3)や,TFLX結晶と考えられる尿中結晶の析出を伴う腎機能低下小児例4)が報告されている。腎機能低下を伴わない尿中結晶出現例も多いが,投薬継続の必要性の評価も含め,腎機能の慎重な経過観察が必要と考えられる。一方,今回の10症例の中では,基礎疾患にIgA血管炎のある症例1,3においてTFLX結晶とTFLX結晶円柱の検出を複数回繰り返していたことから,基礎疾患や素因も影響するものと考えられる。IgA血管炎(紫斑病性腎炎)は,病理組織学的には免疫複合体血管炎に分類され,その発症には細菌,ウィルスによる上気道感染や,食物,薬物,ワクチン接種に伴うアレルギーの関与が想定されている13)。また,TFLXによる腎障害は尿細管内の結晶形成による閉塞性腎障害の他,薬剤アレルギーによる尿細管間質性腎炎などの機序が想定されており14),15),これらのことを考え合わせると,IgA血管炎患者におけるアレルギー素因が関連している可能性が考えられた。

今後病態把握のための症例の蓄積や,薬物投与に伴う腎機能障害の早期把握のためにも,尿沈渣検査担当者がTFLX結晶及び同結晶円柱の形態的特徴を把握し,臨床と情報共有することが現段階では有用と思われる。さらに,持続するTFLX結晶円柱あるいは腎機能低下をともなうTFLX結晶を認めた場合は,検査室から臨床に注意喚起すべきと考える。

V  結語

近年,小児のTFLX処方が増加しており,小児の尿沈渣における針状結晶の多くはTFLX結晶が考えられた。TFLX結晶の特徴は褐色の細い針状で,ウニ様,束状であり,結晶円柱や上皮円柱,尿細管上皮細胞を同時に認めることが多かった。結晶円柱の特徴は尿細管上皮細胞を内包することが多く,円柱の基質部分が緩く,平行部分が少ないことであった。これらの成分は当該ネフロンの病態を反映していると考えられ,今後更なる症例を積み重ねて臨床的意義を明確にすべきと考える。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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