Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
Xanthine crystals in urine sediment of a patient who received chemotherapy for adult T-cell leukemia
Kenichiro OHNUMASaori KOBAYASHITakumi JIKIMOTOMiyuki YANOMika YAMASAKIKana HIGASHIGUCHIYuji NAKAMACHIJun SAEGUSA
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2019 Volume 68 Issue 4 Pages 763-768

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Abstract

腫瘍崩壊症候群(tumor lysis syndrome; TLS)は,化学療法により大量の腫瘍細胞が崩壊した結果起こる代謝異常で,高カリウム血症,高尿酸血症,高リン酸血症などを呈する。特に,尿酸塩やリン酸塩の腎尿細管腔での析出・沈着は閉塞性腎障害から急性腎不全を引き起こすため早急な対応を要する。我々は,化学療法開始後に尿中にキサンチン結晶の析出をおこし,尿沈渣検査による結晶の形態と溶解性の報告により閉塞性腎障害を防ぎ得た症例を経験した。症例は63歳,男性。頸部リンパ節腫脹を主訴に当院受診し,成人T細胞白血病/リンパ腫と診断された。TLS対策としてラスブリカーゼおよびアロプリノール投与下でCHOP療法を開始し,3日後に尿中に析出物を認めた。尿pH 8.0,尿沈渣で褐色の板状結晶と顆粒を多量に認めた。結晶は水酸化カリウムに溶解,酢酸及び塩酸に不溶であった。補液増量,利尿剤投与,さらにアロプリノール中止により結晶は陰性化した。結石成分分析で98%がキサンチン結晶と同定され,アロプリノール投与が原因となり尿酸の前駆体であるキサンチンが蓄積したと考えられた。すなわち,キサンチン結晶はアロプリノール投与を中止すべきことを示唆する重要な尿沈渣成分であると考えられる。キサンチン結石の症例報告はなされているものの,尿沈渣中のキサンチン結晶を形態学的に報告した例はなく,本症例が初めての報告である。

Translated Abstract

In this report, we describe a rare case of xanthine crystals found in the urine sediment of a 63-year-old man who was receiving CHOP therapy for adult T-cell leukemia with allopurinol and rasburicase treatments to prevent the onset of tumor lysis syndrome (TLS). On day 3, a reduction in urine output and deposits in the urine were recognized. A urinary examination was performed, and we found brownish yellow crystals that had a rough surface resembling phosphate crystals in the patient’s urine sediment. Also, we found that these crystals were soluble in potassium hydrate but not in acetic acid and hydrochloric acid. Later, the crystals were identified as xanthine by infrared spectrum analysis. Allopurinol treatment was stopped and forced diuresis was performed, and then the crystals disappeared. In this patient, although the levels of serum uric acid were maintained below the detection limit, xanthine crystals were found with the increased production of xanthine owing to the inhibition of xanthine oxidase. The patient was able to continue cancer treatment without developing TLS. This is the first report describing the morphological identification of xanthine crystals in urinary sediment.

I  はじめに

腫瘍崩壊症候群(tumor lysis syndrome; TLS)は,化学療法により大量の腫瘍細胞が崩壊した結果起こる代謝異常で,高カリウム血症,高尿酸血症,高リン酸血症などを呈する1)。TLSは,尿酸塩やリン酸塩が腎尿細管腔で析出および沈着することにより閉塞性腎障害から急性腎不全を引き起こすため,早急な対応を要する。我々は,化学療法開始後に尿中にキサンチン結晶の析出をおこした症例において,尿沈渣検査による迅速な形態評価および溶解性の解析を行うことによりキサンチンの析出を疑い,アロプリノールの投与中止により腎障害を防ぎ得た症例を経験したので報告する。

II  症例

症例:63歳,男性。

既往歴:虫垂炎,高血圧,胃潰瘍,不整脈。

現病歴:受診1ヶ月前より頸部リンパ節腫脹を自覚し,その後食欲低下,嘔吐,盗汗,下肢のだるさと痛み,水様性下痢が出現した。当院受診6日前に近医受診し,白血球増多,AST/ALT上昇,高カルシウム血症を指摘され,当院総合内科を受診した。入院後,骨髄検査およびHTLV-1抗体価検査より成人T細胞白血病/リンパ腫(adult T-cell leukemia; ATL)と診断された。入院4日目よりCHOP療法が開始されたが,開始前の検査にて白血球量が54.6 × 109/Lと多く,さらにその79%が腫瘍細胞であることから高腫瘍量が示唆され,かつ高尿酸血症を認めたことから,TLSの発症予防目的としてアロプリノールおよびラスブリカーゼ投与が併用された。

III  検査所見

1. 血液検査

入院時の末梢血検査所見をTable 1に示す。末梢血白血球数は54.6 × 109/Lと高値で,うち79%がATL cellであった。LD,可溶性IL-2レセプター,および血清尿酸値は高値であった。

Table 1  Laboratory data on admission
results units results units
WBC H 54.6 × 109/L CRP H 1.35 mg/dL
 neutrophil 17 % AST H 134 U/L
 ATL cell 79 % ALT H 69 U/L
 monocyte 4 % γ-GT H 90 U/L
RBC 44.7 × 1012/L ALP H 333 U/L
Hb 144 g/L LD H 959 U/L
PLT L 12.6 × 109/L GLU 70 mg/dL
APTT 32 sec BUN H 32 mg/dL
PT 12.3 sec Cre 1.16 mg/dL
PT-INR 1 UA H 10.6 mg/dL
Fibrinogen 137 mg/dL Na 137 mmol/L
IL-2R H 362,139 U/L K 3.8 mmol/L
HBV DNA H 3.93 log copy/mL Cl 102 mmol/L
Ca H 11.6 mg/dL
P 3.5 mg/dL
Mg 1.7 mg/dL

2. 尿検査

CHOP療法開始4日目に尿中に黄橙色の析出物が認められ,さらに5日目に顕著となったため,尿検査が実施された(Table 2)。pH 8. 0とアルカリ尿で尿糖1+であった。尿沈渣物は黄橙色調(Figure 1a)を示し,顕微鏡下では尿細管上皮細胞と上皮円柱を少数認めた。また,褐色の板状結晶および顆粒を多量に認めた(Figure 1b, c)。形態は尿酸塩に類似していたが,pH 8.0とアルカリ尿での析出であることから尿酸塩以外の結晶を疑い,結晶の溶解性を解析した。すると,水酸化カリウム(potassium hydroxide; KOH)に溶解,酢酸及び塩酸(hydrochloric acid; HCl)には不溶であった。この時点で結晶成分は同定できず不明結晶と報告した。後日,尿沈渣の残余検体にて赤外線吸収スペクトロフォトメトリー法を原理とした結石分析(外部委託検査)を行い,結晶成分の98%がキサンチンであることが判明した。

Table 2  Results of urinalysis
results
Urinalysis
 S.G. 1.010
 pH 8.0
 Protein (−)
 Glucose (1+)
 Keton body (−)
 Bilirubin (−)
 Urobilinogen (NR)
 Occult blood (±)
 Nitrite (−)
 Leucocyte esterase (−)
Urinary sediment
 RBC 1–4/HPF
 WBC < 1/HPF
 Bacteria (−)
 Hyaline cast 1+
 Epitherial cell cast 1+
 Renal tubular epitherial cell 1–4/HPF
 Crystal 3+
Figure 1 Xanthine crystals observed in the urine sediment

(a) Clear urine with abundant brownish yellow sediment. (b, c) Microscopic images of patient’s urine sediment. (b) No staining (c) Sternheimer staining (Original magnification, ×400)

IV  臨床経過

CHOP療法開始後の臨床検査値の推移および経過をFigure 2に示す。CHOP療法開始前の血液検査により高腫瘍量が示唆されたため,TLS対策としてラスブリカーゼ0.2 mg/kg(点滴)およびアロプリノール100 mg × 3回/日(内服)が併用された。尿酸値はラスブリカーゼ投与直後から感度以下まで低下し,低値のまま推移した。また,炭酸水素ナトリウムを含む補液を行い,体重,尿量を見ながら強制利尿が行われた。尿沈渣の色調,結晶の形態および溶解性の解析からキサンチン結晶の存在が疑われたため,補液の増量と利尿剤の投与に加えてアロプリノールを中止したところ,結晶は陰性化した。経過中,リン,カリウムおよびクレアチニンは上昇せず,Laboratory TLSの診断基準は満たさなかった。尿量は1日あたり5,000 mL以上を維持でき,CHOP療法を継続することができたが,患者は原疾患の悪化により,死亡退院した。

Figure 2 Clinical course during the CHOP therapy

Horizontal axis shows urine volume (UV) per day, and vertical axis shows serum levels of potassium (K), uric acid (UA), inorganic phosphorus (P) and creatinine (CRE).

V  考察

TLSにおける尿細管閉塞は,腫瘍細胞から放出された大量の核酸成分から大量の尿酸が合成され,結晶化して尿細管に析出・沈着した結果生じる。結晶沈着は炎症性サイトカインによる炎症を惹起するほか,尿酸自体もレニン-アンギオテンシン系活性化,血管内皮細胞の一酸化窒素レベルを低下させ,腎血管収縮,腎血流量低下が誘導され,腎障害の一因となる2)。また,細胞崩壊に伴い高カリウム血症,高リン血症さらには低カルシウム血症がおこると,それぞれ,不整脈や心停止,リン酸カルシウム結晶の腎臓への沈着による腎障害,あるいは心筋収縮能低下の一因となる。そのため,TLSの防止や治療は良好な患者予後のために重要である。高尿酸血症の予防にはキサンチンオキシダーゼ阻害薬および尿酸分解酵素製剤が使用される。石澤1)あるいはCairoら3)の論文で示されているように,TLS予防法として,低リスク群では尿酸生成抑制薬は通常は使用せず,中間リスク群ではキサンチンオキシダーゼ阻害薬,高リスク群ではラスブリカーゼの使用が推奨されている。

キサンチンはプリン体代謝経路における中間物質で,前駆物質のヒポキサンチンからキサンチンオキシダーゼの作用により生成され,さらにキサンチンオキシダーゼの作用をうけ尿酸へと変化する(Figure 3)。本症例は,CHOP療法開始前の検査所見で高腫瘍量かつ尿酸値高値であったことからTLSの高リスク群と考えられたが,キサンチンオキシダーゼ阻害薬のアロプリノールと,尿酸分解酵素製剤であるラスブリカーゼが投与されていた。その結果,尿酸はラスブリカーゼにより低値を維持していたが(Figure 2),アロプリノールを併用したことにより,腫瘍細胞由来の尿酸の前駆物質であるキサンチンが蓄積して尿中に析出したと考えられた。

Figure 3 Purine metabolic pathway and mechanism of action of Febuxostat, Alloprinol and Rasburicase

TLSの発生頻度は急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia; AML)(3.4~17%)や急性リンパ性白血病(acute lymphocytic leukemia; ALL)(4.4~26.4%,小児では63%),悪性リンパ腫といった血液腫瘍で高いが,固形癌(1~5%)でも発生することが知られている4)。予防には尿酸降下薬の使用や水分負荷あるいは尿のアルカリ化が推奨されている。しかし,原因結石としては,酸性尿で形成されやすい尿酸結石,シュウ酸カルシウム(Ca)結石およびキサンチン結石だけでなく,アルカリ尿で析出するリン酸Ca結石も知られている。Howardら5)は2095例の小児ALL患者のうち0.9%にあたる20例に尿路結石の合併があり,結石分析が可能であった11症例では,すべて尿酸結石ではなくCa結石であったことを報告している。これらの報告のように,様々な種類の結石がTLSの原因となりうるため,尿pHや尿沈渣中の結晶成分の鑑別は結石の種類を推定する上で有用である。今回,患者の尿がpH 8.0とアルカリ尿であったこと,および血清尿酸値が低値に維持できていたことから,臨床医らはリン酸析出の可能性や尿アルカリ化の中止の必要性について検討していた。そのため,我々が行った溶解性の解析結果,すなわち結晶が酸では溶解せず,アルカリで溶解するという結果は,尿のアルカリ化を継続する参考になり得たと考えられた。以上より,結晶の同定が困難であっても溶解性を確認して報告することは有用であると考えられた。

また,キサンチンの酸塩基解離定数(pKa)は7.4と,尿酸のpKa = 5.75に比べて高く,アルカリ尿でも出現しやすいことが知られている6)。今回pH 8.0の尿でキサンチン結晶が析出したのは,尿酸との溶解性の違いが要因であると考えられた。

本症例では早期の対応によりキサンチン結石は生成されなかったが,キサンチン結石はシナモン様の層状構造を持った結石を形成することが知られている。キサンチン結石はキサンチンオキシダーゼ欠損症(常染色体劣性遺伝形式)患者で先天性代謝障害として生じるだけでなく,レッシュ・ナイハン症候群患者や腫瘍の化学療法時にキサンチンオキシダーゼ阻害剤により惹起されて発生することにも注意が必要である7)~9)。尿中キサンチン結晶を検出した症例については,本邦ではこれまでに形態や患者背景について報告されているものはない。今回我々は,赤外線吸収スペクトロフォトメトリー法を原理とした結石分析により98%がキサンチンで他の形状や色調の結晶を認めなかったことから,結晶をキサンチン結晶と同定した。しかし今後,キサンチン結晶に類似した結晶成分の有無や,尿酸生成抑制薬非投与下でキサンチン結晶が出現する症例の有無など,多くのエビデンス蓄積が必要と考えられる。

現在の尿検査において,結晶は色調や形状,出現pHや溶解性など,形態学的に同定されているものがほとんどである。薬剤結晶などアトラスに掲載されていない結晶成分については,必ずしも結石分析がなされるわけではなく,それゆえ結晶成分の意義やエビデンスが確立されにくいのが現状である。不明結晶を認め,さらに腎障害所見を認める際には,迅速に臨床医への報告を行い,可能な限り投与薬剤の確認や結石分析を依頼することが望ましいと考えられた。

VI  結語

化学療法中の患者尿にてキサンチン結晶を検出した症例を経験した。結晶成分の同定が困難な場合でも,溶解性の確認が有用となること,さらには治療薬の作用機序を理解することが結晶成分の推定に役立つことを確認した。キサンチン結晶は化学療法中の患者の尿中に認められる可能性があり,結石が形成されると閉塞性腎障害へ進展する可能性があり,アロプリノール投与中止などの処置を早急に必要とする結晶として認識しておくことが重要である。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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