Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
Information obtained from continuous urinalysis of patients with chyluria
Haruyo YOSHINAGAYuuki YAMAGUCHIAkiko MIZUMOTOMunehisa OKUGUCHIKiyonori TAKENAKA
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2019 Volume 68 Issue 4 Pages 769-775

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Abstract

乳び尿は,尿路とリンパ管の交通を疑う主な所見である。しかし,乳び尿を呈さない場合には,尿路とリンパ管の交通を疑うことは難しい。今回,尿路とリンパ管の交通が確認された患者の継続的な検尿から,いくつかの知見を得たので報告する。症例は,腎生検のため入院となった70代男性。入院時の尿検査では,尿蛋白(3+),尿中白血球数10–19個/HPFのうちリンパ球を約9割認めた。尿の外観は,遠心前後共に淡黄色混濁を呈し,エタノール・エーテル添加により混濁が透明化したため,乳び尿と判断した。その後の膀胱鏡検査においても乳び尿の流出を認め,乳び血尿症と診断された。入院中の早朝空腹時尿は淡黄色透明を呈していたが,食後尿では乳び尿となり,この乳び尿は食事の影響を受けることを確認した。また,尿蛋白/Cr比は,尿中リンパ球数が1–4個/HPF以下では0.41 g/gCr~0.82 g/gCrに,尿中リンパ球数が5–9個/HPF以上では1.63 g/gCr~5.25 g/gCrとなり,尿中リンパ球数に連動した尿蛋白/Cr比の増減がみられ,リンパ液の混入量による影響を推測した。乳び尿は,食事の影響を受けその外観が変化する。そのため,尿の外観に左右されない尿中リンパ球の増多や尿中リンパ球数と尿蛋白/Cr比の連動も,尿路とリンパ管の交通を疑う重要な所見になると考える。

Translated Abstract

Chyluria is the principal sign that suggests a fistula between the urinary tract and a lymphatic vessel. The present report is based on information obtained from the continuous urinalysis of a male patient in his 70s with a confirmed fistula between the urinary tract and a lymphatic vessel. Urinary sediments from all urine samples obtained during hospitalization contained approximately 90% lymphocytes, suggesting the long-term persistence of a fistula between the urinary tract and the lymphatic vessel. All first morning fasting urine samples had a transparent pale-yellow appearance, with chyluria appearing after meals. Thus, we confirmed that chyluria was affected by food consumption. Regarding the correlation between the protein urine/Cr ratio and the urinary lymphocyte count, the protein urine/Cr ratio was in the range of 0.41–0.82 g/gCr when the urinary lymphocyte count was ≤ 1–4 per HPF (high power field; HPF), and the ratio was in the range of 1.63–5.25 g/gCr when the urinary lymphocyte count was ≥ 5–9 per HPF. Thus, we hypothesized that the protein urine/Cr ratio was affected by the quantity of the mixture of lymphatic liquid because the ratio was linked to the increases and decreases in the urine lymphocyte count. Therefore, we infer that it is important to suspect a fistula between the urinary tract and a lymphatic vessel on the basis of an increased urine lymphocyte count and the correlation between the protein urine/Cr ratio and the urine lymphocyte count, which is not affected by the appearance of the urine.

I  はじめに

尿路とリンパ管の交通を疑う主な所見である乳び尿は,特徴的な乳白色の混濁を呈する。その他の所見として,蛋白尿1)~6)や尿中リンパ球の増多1)~3),7),尿白血球定性検査と尿沈渣検査の尿中白血球数の乖離1),3)があるが,いずれも乳びを伴う報告であり,乳び以外の所見だけでは,尿路とリンパ管の交通を疑うことは困難である。今回,乳び尿を呈さない場合に本病態を疑う所見となりうる知見を得たので報告する。

II  症例

患者:70代男性

主訴:肉眼的血尿

既往歴:胃癌(3年前全摘),糖尿病,高尿酸血症,HCV陽性(インターフェロン療法実施済)で通院治療中であった。

現病歴:1ヶ月前より肉眼的血尿を自覚したため,かかりつけ医を受診し,尿蛋白(3+),尿潜血(3+)を指摘された。紹介受診となった近医では原因不明のため,膜性増殖性腎炎またはC型肝炎ウイルス(hepatitis C virus; HCV)腎症疑いで当院(前 近畿大学医学部堺病院)腎臓内科に紹介受診となり,腎生検病理診断を含めた精査目的で入院となった。

入院時血液検査所見:LD,AST,ALTの軽度上昇と,赤血球,ヘマトクリットの軽度低下,C3の低下がみられた(Table 1)。

Table 1  入院時血液検査所見
生化学検査 血液検査 凝固検査
TP 7.5 g/dL WBC 6.7 × 103/μL PT(%) 96.0%
ALB 4.5 g/dL RBC 3.94 × 106/μL PT-INR 1.04
LD 253 U/L Hb 13.3 g/dL APTT 28.7 sec
AST 90 U/L Ht 38.6% Fibrinogen 275 mg/dL
ALT 40 U/L PLT 18.6 × 104/μL 免疫学的検査
BUN 17 mg/dL Neutrophil 70.1% C3 58 mg/dL
CRE 0.83 mg/dL Lymphocyte 22.5% C4 17 mg/dL
eGFR 68 mL/min/1.73 m2 Monocyte 6.7% CH50 31.1 CH50/mL
Na 144 mEq/L Eosinophil 0.6% C1q 1.5以下μg/mL
Cl 106 mEq/L Basophil 0.1% HCV抗体 陽性
K 4.0 mEq/L HCV RNA定量 ケンシュツセズ
CRP 0.0 mg/dL

臨床経過:入院時尿検査の乳び尿と尿中リンパ球の増多により,尿路とリンパ管の交通の疑いを報告し,その後の膀胱鏡検査においても左尿管口から乳び尿の流出が確認され,乳び血尿症と診断された。乳び血尿症の原因検索が実施されたが明らかな原因となるものはなく,15日後退院,外来にて経過観察となった。3ヶ月後の検尿では,尿蛋白(−)尿潜血(−)になり尿中リンパ球も認められず略治した。

III  入院時尿検査所見

1. 尿定性検査

入院時尿検体の外観は淡黄色で,遠心前と遠心後共に混濁を認めた(Figure 1)。尿試験紙ウロペーパーα III7(栄研化学)による尿定性検査は,尿蛋白(3+),尿潜血(3+)であった。乳び尿を疑い測定した尿中トリグリセライド(triglyceride; TG)は142 mg/dLであった(Table 2)。

Figure 1 入院時尿検体外観

A:遠心前 B:遠心後

Table 2  入院時尿検査所見
尿定性検査 尿沈渣検査
遠心前色調・混濁 淡黄色混濁(2+) 赤血球 100個以上/HPF
遠心後色調・混濁 淡黄色混濁(2+) 赤血球形態 非糸球体型赤血球
比重 1.025 白血球 10–19個/HPF
蛋白 (3+) リンパ球:約9割
(−) 他の尿沈渣成分 認めず
ケトン体 (−) 尿化学検査
潜血 (3+) 尿蛋白/Cr比 5.25 g/gCr
ウロビリノーゲン normal 尿中TG 142 mg/dL
ビリルビン (−)

2. 尿沈渣検査

無染色において100個以上/HPFの非糸球体型赤血球と10–19個/HPFの白血球を認め,ほかに円柱などの尿沈渣成分は認めなかった(Table 2)。白血球は赤血球大サイズでN/C比が高く単核であった。ステルンハイマー(Sternheimer)染色の染色性はやや不良なものが多かった(Figure 2)。

Figure 2 入院時尿沈渣所見(×400)

A:無染色像 B:Sternheimer染色像

赤血球大サイズでN/C比の高い単核の白血球を認める(矢印)。

尿沈渣にて塗抹標本を作製し,メイ・グリュンワルド・ギムザ染色(May-Grünwald Giemsa;MG染色)を実施した。MG 染色像は,丸で囲った好中球以外の細胞すべてがリンパ球であった。この結果より,尿沈渣中に認められた赤血球大サイズでN/Cが高い単核の白血球は,リンパ球と判断した(Figure 3)。

Figure 3 入院時尿沈渣塗抹標本

May-Grünwald Giemsa染色像(×1,000)

視野内の丸で囲った好中球以外の白血球は,すべてリンパ球であった。

3. 混濁尿確認試験8)

遠心後尿を1容(約2 mL)に対しエタノール1/5容(約0.4 mL)を加え振盪し,直ちにエーテル約1 mLを追加し速やかな振盪により混濁が透明化した(Figure 4)。

Figure 4 混濁尿確認試験

A:エタノール・エーテル添加前

B:エタノール・エーテル添加後

4. 尿検査結果の報告

尿沈渣検査の赤血球形態は非糸球体型赤血球を呈するため泌尿器系からの出血の可能性が高いこと,尿中白血球の約9割がリンパ球であること,遠心後尿の混濁がエタノール・エーテル添加により透明化し乳び尿が確認されたことにより,尿路とリンパ管の交通が疑われることを担当医に報告した。

IV  その他の検査所見

当該患者はインターフェロン治療を実施しており,HCV抗体陽性,HCV RNA定量ケンシュツセズの結果より既往感染と推測する。膜性増殖性腎炎またはHCV腎症疑いで実施された腎生検では,光顕所見として明らかな糸球体障害を認めなかった。電顕所見では微小変化型であったが,尿中蛋白分画はアルブミン主体ではなかったため,糸球体の微小変化に伴う尿蛋白は否定的であった。ほかに蛋白尿と血尿の明らかな原因となるものはなく,膀胱鏡検査にて乳び尿の流出が認められ,乳び血尿症と診断された。

その他の検査はすべて陰性であった(Table 3)。

Table 3  その他の検査所見
追加検査
電子顕微鏡検査 Minor glomerular abnormalities
沈着物なし
尿中蛋白分画 Alb(67.3%),α1-G(2.5%),α2-G(6.2%),β-G(9.5%),γ-G(14.5%)
尿細胞診 悪性所見認めず
PSA 0.919 ng/mL
膀胱鏡検査 左尿管口から乳び尿の流出を認める
造影CT検査 悪性所見認めず
フィラリア抗体 陰性
ELISPOT 陰性

V  時系列尿検査所見

入院中の尿沈渣検査,尿蛋白/Cr比,および尿外観をまとめた時系列尿検査所見の表を示す(Figure 5)。2日目,3日目,7日目の尿の外観の撮像はないが淡黄色透明であった。この間,すべての検尿に1–4個/HPF以上の白血球が認められ,その白血球の約9割がリンパ球であった。尿沈渣中には非糸球体型赤血球と白血球以外の尿沈渣成分は,認められなかった。

Figure 5 時系列尿検査所見

尿蛋白/Cr比の最高値は入院時の5.25 g/gCr,最低値は2日目の0.41 g/gCr,その差は4.84 g/gCrであった。尿中白血球数が最低数の1–4個/HPFであった3回の尿蛋白/Cr比は,2日目0.41 g/gCr,3日目0.82 g/gCr,7日目0.58 g/gCrであった。尿中白血球数が5–9個/HPF以上であった4回の尿蛋白/Cr比は,1日目入院時5.25 g/gCr,1日目生検6時間後2.96 g/gCr,10日目2.41 g/gCr,13日目1.63 g/gCrであった。

早朝空腹時尿の外観は,尿中白血球数が1–4個/HPFであった2日目,3日目,7日目でも,尿中白血球数が10–19個/HPFであった10日目でも同様に淡黄色透明を呈していた。採取時間を食後に指定した13日目の検尿は乳び尿を呈し,尿中白血球数は5–9個/HPFであった。

VI  考察

1. 尿の外観に対する食事の影響

乳び尿は,腸管で吸収された脂肪が乳化してリンパ液に取り込まれることにより生じた乳びリンパ液が,腸管の毛細リンパ管から腸リンパ本管を経て胸管に注ぐ本来とは異なる経路から尿路に漏れ出てくる状態とされている5),6)。その主成分は蛋白と脂肪,特にカイロミクロンである1),2),5)。そのため,尿路とリンパ管の交通の疑いがあるが,乳び尿を呈さない場合には,バターなどを摂取させる脂肪負荷を実施し,乳び尿になることを確認する方法がある5)。本症例では,食後採尿により簡易的に脂肪負荷を実施した。ただし,低脂肪食の場合には乳び尿にならない場合があるので注意する。

当該患者の入院中に実施したすべての検尿に1–4個/HPF以上の白血球を認め,その白血球の約9割がリンパ球であった。これより,尿中白血球数は尿中リンパ球数として捉えることができ,尿路とリンパ管の交通が継続していたと推測した。

早朝空腹時尿の外観は,1–4個/HPF,10–19個/HPFと尿中白血球数(リンパ球数)に関係なく同様に淡黄色透明を呈し,食後尿では尿中白血球数(リンパ球数)が5–9個/HPFにもかかわらず乳びを呈したことにより,乳び尿は尿中白血球数(リンパ球数)に関係なく食事の影響を受けることを確認した。

本症例以外にも食事後および脂肪摂取後に乳び尿を認める報告があり2)~4),6),本症例は入院の管理下において空腹時および食後に採尿されており,乳び尿は食事の影響を受けると推測する。しかし,早朝尿において白濁が認められ体位と乳び尿の関係を推測する報告がある2)。体位と乳び尿の関係は,今後の報告により検証されることを期待する。また,入院時の採尿において測定した尿中TGは,142 mg/dLであった。尿中のTGは健常人には認められず9),乳び尿を呈した場合に高値となる報告がある2),6),9)。現在,尿検体はTGの測定材料として推奨されていないが,乳び尿の指標として測定の意義があると考える。

2. 乳び尿の尿中リンパ球の割合

通常,尿中に出現する白血球の約95%が好中球である10)。尿中リンパ球は,乳び尿,腎結核,腎移植後の細胞拒絶反応,慢性疾患などで排出される10)。尿白血球定性検査は好中球が有するエステラーゼと強く反応し,エステラーゼを有しない好酸球とリンパ球には反応しない特徴がある11)。そのため,尿白血球定性検査と尿沈渣検査の尿中白血球数の乖離からリンパ球を疑うことができる。しかし,当検査室は尿白血球定性検査を実施していない。当検査室と同様に尿白血球定性検査を実施していない施設も多く,そのため,尿中白血球定性検査に左右されない所見から,尿路とリンパ管の交通を疑うことができる指標を確立することが望ましい。

乳び尿中のリンパ球の割合は,すべての白血球がリンパ球であると確認された報告1)や,豊富なリンパ球を認めたとの報告があり2),本症例も,約9割がリンパ球であった。これにより,尿中白血球の大部分がリンパ球であった場合,乳び尿の所見のひとつになり得ると考える。

3. 乳び尿のリンパ球数と尿蛋白/Cr比の関係

本症例の尿蛋白の検討は尿蛋白定性検査ではなく,尿の希釈や濃縮に左右されない尿蛋白/Cr比を選択した。

尿蛋白/Cr比の最高値は入院時の5.25 g/gCr,最低値は翌2日目の0.41 g/gCrとなり,4.84 g/gCrと大きな差を認めた。この間無治療であったため,尿蛋白/Cr比の大きな変動は,腎性以外の蛋白の混入を推測した。また,尿蛋白/Cr比は,尿中白血球数(リンパ球数)が1–4/HPF以下では0.41 g/gCr~0.82 g/gCrに,尿中白血球数(リンパ球数)が5–9/HPF以上では1.63 g/gCr~5.25 g/gCrになり,尿中白血球数(リンパ球数)に連動した尿蛋白/Cr比の増減がみられた。

以上の結果により,尿中白血球数(リンパ球数)と尿蛋白/Cr比の連動は,リンパ液の混入量を反映しているのではないかと推測した。

4. 乳び尿の原因と症状

尿路とリンパ管の交通の原因は,フィラリア症だけでなく非フィラリア症である腫瘍,動脈瘤,外傷,腹部手術などによる胸管自体および周囲の病変や原因不明の特発性乳び尿があり1),5),7),フィラリア症発症地区以外でも遭遇する可能性がある。本症例において,乳び尿の原因検索として実施された尿細胞診検査,前立腺特異抗原(prostate specific antigen; PSA)検査,造影CT検査,フィラリア抗体検査,結核菌特異的 IFN-γ(enzyme-linked immunospot; ELISPOT)検査は,すべて陰性であった。当該患者は胃癌の既往歴があり,これによる胃全摘手術が乳び尿の原因のひとつとして推測されるが,術後3年を経過しての発症であり,リンパ管シンチグラフィー検査も未実施のため,原因の特定には至っていない。

乳び尿症による症状は,機序が不明ながら自然治癒する軽度なものから1),2),低蛋白血症・免疫不全などの原因となる重度なものまで多岐にわたり3),7),低蛋白血症の場合にはネフローゼ症候群に誤診され治療に至る例もある3)。ネフローゼ症候群の病態と尿路とリンパ管の交通の病態では治療が異なるため,検査室から尿路とリンパ管の交通を疑う報告意義は高い。本症例は,膜性増殖性腎炎またはHCV腎症疑いであったが,検査室からの報告により乳び血尿症と診断され,症状が軽度なため経過観察とし,3ヶ月後に略治している。

VII  結語

乳び尿は,食事の影響を受けその外観が変化し,常に乳び尿になるとは限らない。また,尿中白血球数との乖離で疑う発端となる尿白血球定性検査を実施しない施設もある。そのため,尿の外観や尿中白血球定性検査に左右されない所見である尿中リンパ球の増多や,尿中白血球数(リンパ球数)と尿蛋白/Cr比の連動は,尿路とリンパ管の交通を疑う指標になり得ると考える。

今後同様の知見の蓄積により,乳び尿の病態や尿検査での白血球分類の重要性が示されることを期待する。

 

本論文は1症例報告のため倫理委員会の承認を得ていない。

なお,本論文の要旨は,前 近畿大学医学部堺病院当時の症例として第66回日本医学検査学会(2017年6月 千葉)で発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

論文投稿するにあたりご協力いただきました近畿大学医学部奈良病院 竹中清悟技師(前 近畿大学医学部堺病院)に深謝申し上げます。

文献
 
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