Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
A case of Lemierre syndrome with right internal jugular vein thrombus, indicating septic pulmonary embolism
Sawako TABUCHIKenji IRIMURANatumi KAWAHARAKazuya URA
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2019 Volume 68 Issue 4 Pages 776-780

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Abstract

20歳代,男性。40℃の発熱と咽頭痛があり,当院救急外来を受診。胸部CT(computed tomography)検査で両肺に浸潤影,斑状影があり,また一部には敗血症性肺塞栓を疑う所見が認められた。血液培養からはFusobacterium necrophorumが分離された。患者は若年健常者で基礎疾患はなく,当院受診の2日前から38.6℃の発熱と咽頭痛の症状,続いて数回の嘔吐があった。頸部血管エコー検査で右内頸静脈内に血栓が認められ,総合的にLemierre症候群と診断された。

Translated Abstract

A man in his twenties suffered from sore throat, high fever and vomiting. He came to our emergency department with a two-day history of worsening of his condition. Chest computed tomography analysis revealed bilateral infiltrative and nodular shadows with small cavities, suggesting septic pulmonary embolism. Ultrasound imaging showed thrombosis in the right interval jugular vein. Fusobacterium necrophorum was isolated from a blood culture. These findings support the diagnosis of Lemierre syndrome.

I  はじめに

Lemierre症候群は,口腔咽頭の感染を契機に,敗血症,内頸静脈の血栓性静脈炎,全身に塞栓症,膿瘍形成をきたす症候群である1)。主に若年健常者に好発し,Fusobacterium necrophorum(80%以上)2)による扁桃炎・咽頭炎から頸部筋膜を介しての内頸静脈炎,または扁桃静脈,内頸リンパ系を介して内頚静脈炎を起こし感染性血栓を形成し血行性にmetastic abscessを起こす。肺への発生頻度は95%以上と報告されている3)

II  症例

1)症例:20歳代,男性。

2)既往歴:なし。

3)現病歴:当院受診する2日前から咽頭痛と38.6℃の発熱があった。また翌日には3~4回の嘔吐があった。当日には40℃の発熱があり当院救急外来を受診し入院となった。

4)入院時血液検査(Table 1)。

Table 1  Hospital blood test data
CBC Serum chemistry
​WBC 9,200/μL ​TP 6.4 g/dL
​ Neut. 92.3% ​Alb 3.3 g/dL
​ Lymph. 2.8% ​BUN 39.0 mg/dL
​RBC 427 × 104/μL ​CRE 1.76 mg/dL
​Hb 12.9 g/dL ​T-Bil 4.2 mg/dL
​Hct 38.1% ​AST 52 U/L
​Plt 7.0 × 104/dL ​ALT 25 U/L
​ALP 437 U/L
​LDH 287 U/L
Coagulation ​Na ​127 mmol/L
​PT-time 14.8 sec ​K 4.8 mmol/L
​PT-activity 82.5% ​Cl 85 mmol/L
​PT-INR 1.13 ​CRP 28.01 mg/dL
​APTT 44.6 sec ​PCT 42.78 ng/mL
​D-dimer 14.69 μg/mL

5)胸部CT検査:両肺に浸潤影,斑状影が見られた。微小な陰影の一部には空洞を伴っており敗血症性肺塞栓が疑われた(Figure 1)。

Figure 1 Chest computed tomography

Left: There are mottled shadows. The arrow is a hollow. Septic pulmonary embolism is suspected from the image.

Right: The arrow is the invasion shadow.

6)頸部血管エコー検査:右内頸静脈内に9.0 × 5.0 mmの局在した血栓を認めた(Figure 2)。

Figure 2 Cervical vascular echo (at hospitalization)

Thrombus is seen in the right internal jugular vein (arrow).

7)臨床経過:入院時よりMeropenem + Vancomycinで治療が開始された。血液培養から分離したF. necrophorumの薬剤感受性結果によってAmpicillin-sulbactamにde-escalationされたが,CRP 10.04 mg/dLと下がりが悪いためその5日後にはClindamycin内服追加で治療強化となる。退院日からはAmoxicillin-clavulanic + Clindamycinとなった。

退院時の血液検査では,CRPは(28.01→1.20 mg/dL),Plt(7.0 × 104/dL→67.4 × 104/dL),T-Bil(4.2→0.7 mg/dL),AST(52→24 U/L),BUN(39.0→8.1 mg/dL)と改善が見られ,右内頸静脈内血栓は,短軸:3.8 × 3.8 mm,長軸:12.7 × 3.0 mmと,やや縮小傾向と伸長傾向が見られた(Figure 3)。

Figure 3 Cervical vascular echo (at discharge)

A long thrombus is seen in the right internal jugular vein (arrow).

経口抗凝固薬リクシアナ(エドキサバントシル酸塩水和物)は,退院後も継続投与となった。

III  微生物検査

1. 喀痰の塗抹・培養検査

入院時に採取された喀痰の細菌検査が提出された。喀痰のMiller & Jones分類はP2であった。フェイバーG「ニッスイ」(日水製薬)を用いての,喀痰のGram染色は,Geckler 5で,多形性を呈するGram陰性桿菌が多数認められた(Figure 4)。

Figure 4 Gram stain of sputum (×1,000)

Polymorphic Gram negative bacillus.

しかし,培養では口腔内常在菌である,α-StreptococcusNeisseria sp.の発育のみ認める結果となった。

2. 血液培養検査

入院時にSA好気用ボトル,SN嫌気用ボトル(いずれもビオメリュー・ジャパン)を1セットとし,BacT/ALERT 3D全自動微生物培養検出装置(ビオメリュー・ジャパン)で2セット実施した。入院第1病日にはSN嫌気ボトル2本が陽性となった。ボトル培養液のGram染色所見は2本ともGram陰性桿菌で多形性を呈していた(Figure 5)。

Figure 5 Gram stain from blood culture (×1,000)

Polymorphic Gram negative bacillus.

トリプトソイ5%ヒツジ血液寒天培地(Trypticase Soy Agae with 5% Sheep Blood;5%TSAヒツジ血液寒天培地)(日本BD)とチョコレート寒天培地EX II(日水製薬)を用いて,35℃,好気条件下で24時間培養を行った。好気培養には,5%炭酸ガス・インキュベーター(Panasonic)を用いた。また,ブルセラHK寒天培地RS(極東製薬工業)を用いて,35℃,嫌気条件下で48時間培養を行った。嫌気培養には,アネロパックケンキ(三菱ガス化学)を用いた。好気培養は未発育で,嫌気培養では発育した。よって,嫌気性Gram陰性桿菌と判明した。

3. 同定検査

院内ではRapID ANA II(アムコ)を用いた。F. necrophorum(59.98%; Lipase 96%)Fusobacterium nucleatum(40.02%; Lipase 0%)であった。外注検査は,質量分析(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization Time of Flight Mass Spectrometry; MARDI-TOF MS)同定(VITEK-MS)を依頼し,同定結果はF. necrophorum(信頼度:99%)であった。

4. 薬剤感受性検査

Etest(ビオメリュー・ジャパン)5薬剤(Amoxicillin-clavulanate, Ampicillin-sulbactam, Clindamycin, Meropenem, Metronidazole)について,ブルセラHK寒天培地RSを用いて,35℃,48時間,嫌気培養してMIC値を測定した(Table 2)。

Table 2  Antimicrobial susceptibility test results
Etest MIC (μg/mL) 判定
Amoxicillin-clavulanate (CVA/AMPC) 0.125 S
Ampicillin-sulbactam (SBT/ABPC) 0.094 S
Meropenem (MEPM) 0.016 S
Clindamycin (CLDM) 0.032 S
Metronidazole (MNZ) 0.094 S

IV  考察

Lemierre症候群に関する文献2)~7)によると,1918年にScottmullerにより報告され,病名の由来は1936年のAndre Lemierreの報告による。当初は「killer sore throt」と呼ばれていたが,抗菌薬の登場で「forgotten disease」と呼ばれた。しかし近年,症例報告が増えている。死亡率は6~10%と言われ,若年健常者に好発する。

我々が経験したLemierre症候群は,健常者である20歳代の男性が,咽頭痛,40℃の発熱があり,血液検査による炎症所見から敗血症が疑われた。胸部CT検査では敗血症性肺塞栓が疑われ(Figure 1),入院第1病日には嫌気ボトル2本が陽性となりGram陰性桿菌が発育した。この時点ではまだ好気ボトルが陽性になる可能性があり通性嫌気性菌も考えられた。

多形性のGram陰性桿菌(Figure 5)は一見するとHaemophilus sp.に見えたので,5%TSAヒツジ血液寒天培地とチョコレート寒天培地EX II,35℃,24時間,5%炭酸ガス培養と,ブルセラHK寒天培地RSによる35℃,48時間嫌気培養を行った。5%TSAヒツジ血液寒天培地とチョコレート寒天培地EX IIは未発育で,ブルセラHK寒天RSに発育したので,Haemophilus sp.は否定され,嫌気性Gram陰性桿菌と判明した。

発育コロニーからRapID ANA II 4時間判定で検査した結果,F. necrophorum(59.98%)F. nucleatum(40.02%)と分かれた。Indole試験(+)で,発育コロニーに紫外線を照射すると黄緑色の蛍光が見られた(Figure 6 Right)ことからも,F. necrophorum/nucleatumのどちらかであると考えられた。生化学的鑑別は,Lipaseで分けるようだが,当院では検査できない。しかし両者の鑑別同定は,F. nucleatumは紡錘状の細長いGram陰性桿菌で,パンくず状の集落を形成するが,本菌は多形性を示すGram陰性桿菌で,臍のある集落を呈していたので(Figure 6 Left),F. necrophorumと同定し,臨床に中間報告した(入院第3病日)。

Figure 6 F. necrophorum colony and fluorescence reaction

Left: Brucella HK agar medium RS.

A colony with umbilicus grew.

Right: Colonies were irradiated with a UV lamp.

Yellow green fluorescence was seen.

最終同定結果は外注検査VITEK-MS F. necrophorum(99%)で報告した(入院第5病日)。

胸部CT検査で敗血症性肺塞栓が疑われ,血液培養からF. necrophorumが分離されたことからLemierre症候群が疑われ,頸部血管エコー検査が行われた。右内頸静脈内に血栓が見つかり(Figure 2),Lemierre症候群と診断された。

血液培養のGram染色所見(Figure 5)からはFusobacterium sp.ではなくHaemophilus sp.を疑った。紡錘状の細長いGram陰性桿菌であればF. nucleatumを疑い主治医に迅速な情報提供ができた可能性がある。また,喀痰中に多数見られた多形性のGram陰性桿菌(Figure 4)もFusobacterium sp.よりHaemophilus sp.を疑ったので嫌気培養を実施していない。血液培養からのサブカルチャーで好気培養未発育の結果からFusobacterium sp.の可能性も考え,冷蔵保管していた喀痰を嫌気培養したがα-Streptococcus以外の発育は認められなかった。喀痰中に多数見られた多形性のGram陰性桿菌はF. necrophorumであった可能性が高い。F. necrophorumのGram染色形態特徴の再確認が必要である。

V  結語

若年健常者に好発する感染症で,死亡率6~10%は高いと思われる。血液培養からFusobacterium sp.を分離した場合,Lemierre症候群の可能性も考慮する必要があると思われた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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