Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Lecture
Basic and application of system reference derivation in electroencephalography
Yuya ONOZAWAJunko SUZUKIShinichi MUNEKATAYuhsaku KANOH
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2019 Volume 68 Issue 4 Pages 800-805

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Abstract

デジタル脳波計を使用して脳波を記録するためには,システムリファレンスについての正確な知識を有することが必要である。システムリファレンスはデジタル脳波計のみに存在し,システムリファレンスに採用された電極は必ず装着しなければならない。システムリファレンスと各電極との電位差を保存することで,各電極単位のオリジナルデータが得られる。オリジナルデータを使用し演算することで,各モンタージュの脳波は描画され,記録後のリモンタージュ操作も可能となる。リモンタージュ操作を活用し,様々な誘導で波形を判読することで判読精度は向上する。また,通常の基準導出法では差動増幅器の故障を検出するのは困難であるため,患者毎に差動増幅器の故障を検出するためにシステムリファレンス誘導を記録することが必要となる。システムリファレンス誘導の原理を理解することは,耳朶電極活性化の影響を考慮した脳波判読における異常脳波の焦点決定にも有用と考えられる。

Translated Abstract

Accurate knowledge of the “system reference” is required to record the electrical activity of the brain by digital electroencephalography. The system reference exists in only digital electroencephalography and must be used. The original data of each electrode unit are obtained by preserving the potential difference between the system reference and each electrode. By using the original data to calculate, one can draw the electroencephalogram of each montage. In addition, it is difficult to detect the failure of the differential amplifier by the monopolar reference derivation; therefore, it is necessary to record the system reference derivation in each patient.

I  はじめに

1990年代に初めて日本製のデジタル脳波計が登場した。その後,急速に普及して現在ではアナログ脳波計を使用している施設は稀であり,デジタル脳波計が主流となった。

デジタル脳波計ではアナログ脳波計で不可能であったリモンタージュ操作が可能となり,脳波検査の判読精度を向上させた1)~6)。また,デジタル化された脳波データを活用することにより,遠隔医療における遠隔脳波診断を可能とした7)

デジタル脳波計の特徴の一つに,システムリファレンスの存在がある1)~4)。デジタル脳波計を使用して脳波検査を施行するためには,システムリファレンスの必要性やその役割について理解する必要がある。デジタル脳波計の特徴を理解することで,システムリファレンス誘導が判読時の一助となり得ると考えられる。

II  デジタル脳波計の原理

脳波をはじめとする生体の電気現象を記録する場合は,差動増幅器を使用するため2つ以上の電極を必要としG1,G2に入力する4)~6)。脳波検査においては,探査電極と基準電極と呼ばれる電極を使用する。探査電極は活性電極や関電極とも呼ばれ,脳波そのものを記録するための電極である。他方,基準電極は不活性電極や不関電極とも呼ばれ,脳の電位に対してゼロに近い電極を意味する。基準導出法ではG1を探査電極,G2を基準電極とし,双極導出法ではG1,G2に探査電極を使用する4)~6)

アナログ脳波計では,上記の様に差動増幅器へ電位差を記録する2つの電極を入力していた(Figure 1)。よって,アナログ脳波計ではチャンネルの数だけ差動増幅器が必要であった2)

Figure 1 アナログ脳波計(例A2-T6導出)

アナログ脳波計では2つの電極を直接差動増幅器に接続している。

しかし,デジタル脳波計では全ての電極に共通のシステムリファレンス(Vref)を差動増幅器のG1に,生体に接続したすべての各電極を差動増幅器のG2に入力してA/D変換している(Figure 24)。そして,得られた各電極単位のオリジナルデータを保存し,電子演算により画面に描画するか,記録紙に記録する波形を生成する3),4)。通常の脳波検査では陰性の信号を上向きで表示する(negative up)ために,差動増幅器のG1に探査電極をG2に基準電極を入力する反転増幅器を使用している。通常,ディスプレイ上のモンタージュ表示は,左側に探査電極,右側に基準電極,その間を「-」でつなぐ,G1-G2の形式で行われている。一方,差動増幅器が行っている処理は,[G2に入力されたデータ]-[G1に入力されたデータ]の減算処理で表現される。

Figure 2 システムリファレンス誘導(例T6,A2)

各電極とシステムリファレンスの電位差を記録する。

基準導出法と双極導出法で例をあげる。基準導出法で探査電極(G1)をT6,基準電極(G2)をA2として両者の電位差を求める際には,いずれの脳波計においてもモンタージュはT6-A2と設定する。アナログ脳波計では,探査電極のデータが差動増幅器のG1,基準電極のデータが差動増幅器のG2に直接入力されるので,差動増幅器は,算出式[G2に入力されたデータ]-[G1に入力されたデータ]=A2-T6で得られたデータが記録される。一方デジタル脳波計では,各電極のデータを差動増幅器のG2に,システムリファレンス(Vref)のデータを差動増幅器のG1に入力し,各電極に対応するデータを得ている。T6とVrefのデータはT6-Vrefの減算処理で,A2とVrefのデータはA2-Vrefの減算処理で,それぞれ得られたものになる。デジタル脳波計のモンタージュ処理は,差動増幅器が行っていた[G2に入力されたデータ]-[G1に入力されたデータ]の減算処理で得られたデータを表示している。

今回のモンタージュの設定例でモンタージュ処理を行うと,[G2に入力されたデータ]-[G1に入力されたデータ]=(A2-Vref)-(T6-Vref)=A2-T6となり,アナログ脳波計と同じになる(Figure 3)。双極誘導において探査電極(G1)をT6,探査電極(G2)をT4として両者の電位差を求める際には,いずれの脳波計においてもモンタージュはT6-T4と設定するが,アナログ脳波計における算出式は[G2に入力されたデータ]-[G1に入力されたデータ]=T4-T6となり,デジタル脳波計における算出式は[G2に入力されたデータ]-[G1に入力されたデータ]=(T4-Vref)-(T6-Vref)=T4-T6となる。本原理を利用することで,デジタル脳波計では保存された各電極単位のオリジナルデータを使用し,記録後のリモンタージュ操作が可能となる。通常システムリファレンスは,C3とC4の平均電位またはF3とF4の平均電位であるが,機種によってはシステムリファレンス専用の電極を別に装着するシステムもある4)。よって,各施設の脳波計がどのようなシステムを採用しているかを確認する必要があり,いずれのシステムにおいてもシステムリファレンスに利用される電極は必ず装着する。なお,デジタル脳波計では電極接続箱の入力端子と同じ数の差動増幅器が必要となる4)

Figure 3 デジタル脳波計(例A2-T6導出)

デジタル脳波計では各電極とシステムリファレンスの電位差をファイリングし,その電位を使ってA2とT6の電位差を演算し波形として記録する(システムリファレンスの電位は相殺されるため,A2とT6の電位差が記録される)。

III  脳波計の性能評価

日本臨床神経生理学会の検査指針では,検査毎に10秒以上システムリファレンスと各電極の電位差を記録すること(以下,システムリファレンス誘導)が推奨されている1)。アナログ脳波計においては,差動増幅器が故障している場合は誘導脳波が著しく低振幅を示し,故障を発見することが可能であった4),5),8)。しかし,デジタル脳波計における通常の基準導出や双極導出では,システムリファレンスと各電極を増幅する差動増幅器の故障を検出することは困難となる。Figure 4は,システムリファレンスとT6の差動増幅器が故障している例を示す。G1:T6-G2:A2の電位差は(A2-Vref)-(T6-Vref)=A2-T6を示すはずであるが,T6-Vrefを増幅する差増増幅器が故障しておりT6-Vref=0となる。よって,G1:T6-G2:A2誘導では,(A2-Vref)-0=(A2-Vref)が出力されることになる。つまり,T6とA2の電位差を記録した場合,記録波形はA2とシステムリファレンスの電位差が出力されており,差動増幅器の故障を発見するのが困難となる。

Figure 4 オリジナルデータを得るための差動増幅器の故障

T6とシステムリファレンスの電位差を記録するための差動増幅器が故障しても,A2とシステムリファレンスの電位差が記録されてしまう。

Figure 5に,実際にT6とシステムリファレンスの差動増幅器が故障している場合の基準導出法の波形を示す。若干T5との差を認めるが,本波形からT6とシステムリファレンスの差動増幅器の故障を疑うことは困難である。しかし,Figure 6に示すシステムリファレンス誘導波形でオリジナルデータを確認すると,T6とシステムリファレンス電位差を記録した誘導のみ著しく低振幅を示し故障が明らかとなった。したがって,脳波計の差動増幅器が全て正しく機能していることを証明するために,システムリファレンス誘導を患者毎に10秒以上記録することが推奨されている。

Figure 5 差動増幅器の故障(基準導出波形)

T6とシステムリファレンスの電位差を記録するための差動増幅器が故障しているが,基準導出波形ではシステムリファレンスの電位とA2の電位差が記録されるため,故障を発見することは困難である。

Figure 6 差動増幅器の故障(システムリファレンス誘導波形)

T6の波形のみ極めて低振幅となり故障を発見することが可能である。

IV  システムリファレンス誘導の応用

システムリファレンス誘導は,脳波計の性能評価を目的とする誘導法である。しかし,システムリファレンス誘導は,Czを基準電極としたVx誘導に似た特殊基準導出法であり,患者の異常脳波の局在性の確認に有用となる場合がある。

基準導出法で記録した場合,側頭葉付近に異常脳波の局在が存在すると耳朶の活性現象が発生し,正しい局在性を示すことが難しくなる(Figure 7)。よって,通常耳朶の活性が発生した場合は,活性した耳朶を利用しない平均基準導出法(average reference method:AV法)や一側耳朶基準導出法(A1→A2法またはA1←A2法),発生源導出法(source derivation medhod:SD法),双極導出などに記録条件を変更する判断が必要となる5),6),8)~11)。その際には,C3とC4の平均電位を利用したシステムリファレンス誘導も活性した耳朶を利用しない特殊基準導出法として利用することが可能である。

Figure 7 耳朶の活性化

側頭部に鋭波などが存在し,その電位が耳朶に波及すると耳朶は電気的に「ゼロ」ではなくなる。

基準導出法では各電極から記録される電位から,耳朶に波及した電位の差が導出されてしまい,図のように半球性に陽性の鋭波が存在するように導出される。

Figure 8では同一波形を複数の誘導法で示す。左側頭葉(F7,T3優位)に鋭波が出現する所見であるが,基準導出法では耳朶が活性し左側頭部の異常所見を正確に示すことができない。しかし,平均基準導出法,発生源導出法,双極導出法などでは,左側頭部の鋭波が明瞭に示されている。また,システムリファレンス誘導においても同様に左側頭部の異常脳波が表示されている。

Figure 8 誘導法による波形変化

A:基準導出法,B:平均基準導出法,C:システムリファレンス誘導,D:発生源導出法,E:双極導出法

基準導出法では左耳朶が活性化し,正確な波形を導出できていない。

平均基準導出法,システムリファレンス誘導,発生源導出法,双極導出法では左側頭部の鋭波は明瞭である。

基本的に耳朶の活性が発生した場合に記録するべき誘導法は,活性した耳朶を使用しない平均基準導出法,一側耳朶基準誘導,発生源導出法,双極導出などである。しかし,全ての誘導法には利点,欠点が存在するので,相互補完して使用する必要があり,Figure 8のように耳朶の活性が疑われる場合には,システムリファレンス誘導も側頭部の異常所見の判読には有用であると考えられる。

なお,システムリファレンス誘導におけるシステムリファレンスに選択されている電極との電位差を記録するモンタージュでは,その電位が低振幅を示す特性を理解しておく必要がある。Figure 8CではC3とC4の平均電位をシステムリファレンスに採用しているため,C3とC4の電位が低振幅に描画されている。この場合のC3のシステムリファレンス誘導で得られる波形はC3-Vref(;=(C3 + C4)/2)=(C3-C4)/2,C4のシステムリファレンス誘導で得られる波形はC4-Vref(;=(C3 + C4)/2)=-(C3-C4)/2となり,全く同じ波形が逆位相で描画されている4)

よって,脳波判読に用いる場合は,側頭部付近の異常所見の局在性の確認のみに使用することが推奨される。

V  まとめ

デジタル脳波計を利用する場合は,その脳波記録が正しく記録されたものであることを証明する必要がある。したがって,システムリファレンスの存在,ならびにシステムリファレンス誘導を記録する意義を理解しておかなければならない。なお,システムリファレンスおよび各電極が入力された差動増幅器が故障することは極めて稀であるが,実際に故障を発見した場合は迅速な対応が求められる。

また,デジタル脳波計におけるリモンタージュ機能は判読精度を向上させる機能であり,システムリファレンス誘導の臨床脳波の判読における有用性を示したが,その利点,欠点を十分に理解して使用して頂きたい。最後に,デジタル脳波計におけるリモンタージュ機能が普及した現在においても脳波検査は正確な電極装着に始まり,患者の状態を注意深く観察しなければならない点に変わりはなく,記録中にリアルタイムで判読することが最も肝要である。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本論文の執筆にあたり,ご協力及びご助言を頂いた日本光電工業株式会社馬瀬隆造氏,北里大学医学部脳神経内科学飯塚高浩准教授に深謝致します。

文献
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  • 5)  小野澤 裕也:「4基準導出法」,脳波誘導法,14–22,Amazon出版,東京,2018.
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  • 9)  所司 睦文,小野澤 裕也:「第一章 脳波計測」,臨床脳波検査スキルアップ 第2版,2–31,金原出版,東京,2017.
  • 10)   小野澤  裕也:「標準臨床脳波検査法」,神奈川県臨床衛生検査技師会誌,2010; 45: 17–41.
  • 11)   山﨑  麻未,他:「脳波検査における検査精度向上への取り組みとその評価」,神奈川県臨床検査技師会雑誌,2015; 50: 13–16.
 
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