Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
A case of histiocytoid lobular carcinoma of the breast presenting as inflammatory breast cancer
Tomonori KOZAKAIHiroyuki TAKAGIMikiko HARATakuro IWAMOTOMichiko SHIMODAIRARika OTSUKINobuko SAKURAIHiroyoshi OTA
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2019 Volume 68 Issue 4 Pages 786-793

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Abstract

背景:炎症性乳癌(inflammatory breast cancer; IBC)は稀で予後不良な疾患である。浸潤性小葉癌組織球様細胞亜型(histiocytoid lobular carcinoma; HLC)は腫瘍細胞が組織球に類似した形態を示す稀な浸潤性小葉癌の亜型である。IBCの臨床像を示したHLCの1例を報告する。症例:70歳代女性。一カ月前から左乳房の発赤を自覚し当院を受診。左乳房超音波では皮膚の肥厚と低エコー域を認め,左腋窩部では腫大したリンパ節が観察された。血液検査では炎症反応を認めず,IBCが疑われた。左乳腺穿刺吸引細胞診(fine needle aspiration cytology; FNAC)では,偏在性核と豊富な泡沫状~顆粒状胞体を有し,組織球に類似した円形~類円形の異型細胞が孤在性出現~結合の低下した小集塊を形成しており,HLCと診断された。左乳腺針生検ではFNAC同様の異型細胞を認め,E-cadherinが陰性,GCDFP15が陽性であり,HLCと診断された。以上の経過よりIBCと診断された。2年後に左乳房全摘除術が施行され,組織診ではHLCと診断され,皮膚と大胸筋への浸潤に加え,真皮に高度のリンパ管侵襲像が観察された。結論:IBCの推定には臨床所見や画像所見を加味した総合判断を要する。また,本例ではFNACがIBCの診断と組織型の推定に有用であった。

Translated Abstract

Background: Inflammatory breast cancer (IBC) is a rare and aggressive breast cancer. Histiocytoid lobular carcinoma (HLC) is a rare type of invasive lobular carcinoma with morphologic characteristics resembling those of histiocytes. Herein, we report a case of an HLC patient presenting with the clinical features of IBC. Case: A 70-year-old woman presented with skin erythema of the left breast for a month. Ultrasonography of the left breast showed skin thickening, an anechoic area, and axillary lymphadenopathy. No elevated inflammatory markers were observed during laboratory examination. Fine needle aspiration cytology (FNAC) of the left breast was performed. In the cytology specimens, dyscohesive neoplastic cells showed histiocytoid features characterized by eccentrically located nuclei and abundant foamy or granular cytoplasm, consistent with HLC. Core needle biopsy specimens showed neoplastic cells with the same morphology as those in FNAC specimens. The cells were negative for E-cadherin and positive for GCDFP15, confirming the diagnosis of HLC. On the basis of clinical features and histocytological findings, the diagnosis of IBC was made. Two years later, left total mastectomy was performed. Histopathological findings showed neoplastic cells of HLC infiltrating the skin and pectoralis major muscle, and permeating dermal lymphatic vessels. Conclusion: An evaluation based on a combination of various results including clinical information and radiologic findings is necessary for the diagnosis of IBC. In the present case, cytology was important for the diagnosis of IBC and useful for estimating the histological type.

I  緒言

炎症性乳癌(inflammatory breast cancer; IBC)は,発生頻度が2.5%以下で予後不良な乳癌の1臨床型であり,臨床T因子ではT4dに分類される1)。IBCは,臨床的には通常腫瘤は認めず,皮膚のびまん性発赤,浮腫,硬結を示す1),2)

浸潤性小葉癌(invasive lobular carcinoma; ILC)の発生頻度は乳癌の5%未満であり,細胞形態から古典的小葉癌(classical invasive lobular carcinoma; CILC)と多形型小葉癌(pleomorphic invasive lobular carcinoma; PILC)に分類される1),2)。PILCの発生頻度はILCの14%で,全浸潤性乳癌の1%未満と報告されている稀な組織型である3)。PILCはCILCと比較して細胞異型が亢進し,細胞多形性を示し,多数の核分裂像を認める1),2)。さらに,ILCには組織球様の細胞形態を示しアポクリン分化を伴う稀な組織型があり,この亜型は浸潤性小葉癌組織球様細胞亜型(histiocytoid lobular carcinoma; HLC)と呼ばれ,PILCに包括されている4)~7)

IBCの臨床像を示したHLCの1例を経験したので報告する。

II  症例

患者:70歳代,女性。

既往歴:小児麻痺。子宮筋腫で手術歴あり。

臨床経過:約1カ月前から左乳房全体の皮膚の発赤を自覚し,当院外科を受診した。視触診では左乳房は硬結を伴って腫脹し,乳房全体に広がる皮膚の紅斑(Figure 1)と熱感を認めた。乳腺超音波検査(ultrasonography; US)では乳腺炎が疑われたが,血液検査ではWBC 8.01 × 103/μL,CRP 0.09 mg/dLと炎症反応の亢進を認めなかった点から,左乳房のIBCが疑われ,穿刺吸引細胞診(fine needle aspiration cytology; FNAC)が実施された。FNACでは判定:悪性,推定組織型:HLCと診断された。次いで左乳腺針生検(core needle biopsy; CNB)が実施され,FNAC同様に,判定区分:悪性,推定組織型:HLC,分子subtype:Her2-enriched typeと診断された。以上の経過より,臨床的にIBCと診断された。マンモグラフィーでは,右乳房:カテゴリー1,左乳房:カテゴリー5と判定され,positron emission tomography/computed tomography(PET/CT)では左乳癌T4dN3aM0,stage IIIcと診断された。治療は診断より1カ月後からdocetaxelに加え,分子標的治療薬であるtrastuzumabとpertuzumabの併用療法,4カ月後からはeribulin,trastuzumab,pertuzumabの併用療法,10カ月後にはtrastuzumab emtansine単剤療法,13カ月後からは再びdocetaxel,trastuzumab,pertuzumab併用療法が実施された。経過中に腋窩リンパ節の縮小を認めたが,皮膚浸潤が出現したため,診断より24カ月後に左乳房全摘除術を施行された。術後からはpaclitaxelとbevacizumabによる治療が実施されており,現在,診断後27カ月が経過したが担癌生存中である。

Figure 1 Gross findings of the left breast showing wide erythema occupying a whole of the breast

III  画像所見

1. マンモグラフィー

右乳房には異常所見はなく(カテゴリー1),左乳房において腫大と皮膚の肥厚を認め,CC撮影画像では左乳腺に構築の乱れが観察された(Figure 2)。総合的にカテゴリー5と判定した。

Figure 2 Bilateral craniocaudal mammogram demonstrates skin thickening and architectural distortion in the left breast

2. 乳腺US

右乳房には著変は認めなかった(Figure 3A)。左乳房の皮膚は約5.0 mmと,対側と比較して明らかに肥厚し,真皮には複数のスリット状の無エコー域が観察され,皮下組織には浮腫性変化を認めた(Figure 3B)。明瞭な腫瘤は確認されなかったが,左AC領域において約47 mm大の血流を欠く不整形低エコー域(Figure 3C)を認め,左腋窩部では皮質が肥厚したリンパ節が複数観察された(Figure 3D)。以上より,カテゴリー3と判定し,乳腺炎疑いと診断した。

Figure 3 Ultrasonographic findings

No significant change in the right breast (A). Left breast ultrasonography shows marked skin thickening in comparison with contralateral side, slit-like anechoic spaces within the dermis (arrow) and parenchymal oedema (B). Note the low-echoic area of the left breast (C) and left axillary lymphadenopathy with thickening of the cortex (D).

3. PET/CT

左乳房においては,乳房腫大,皮膚の肥厚,皮下組織を含めた集積増加と境界不明瞭な106 × 43 × 92 mm大の高集積領域(SUV max = 7.0)を認めた(Figure 4)。また,複数の左腋窩リンパ節(level 1~2),鎖骨上窩リンパ節に集積増加を認めた。IBCとして矛盾しない所見であり,T4dN3aM0,stage IIIcと診断された。

Figure 4 PET/CT scanning shows a wide hypermetabolic lesion in the left breast

IV  左乳腺FNAC細胞学的所見

背景には,赤血球と軽度の炎症細胞浸潤を認め,円形ないし類円形の組織球に類似した異型細胞が孤立散在性~結合性の低下した小集塊を形成して出現していた(Figure 5A)。核は円形で偏在し,N/C比は低い細胞が主体であった。核クロマチンは顆粒状を示し,やや大型で明瞭な核小体を認めた。細胞質は豊富で泡沫状ないしライトグリーン好性の微細顆粒に富み(Figure 5B),少数だが細胞質の空胞形成所見や2核の異型細胞も観察された(Figure 5B, inset)。以上の所見からHLCを推定した。

Figure 5 Fine needle aspiration cytology of the left breast showing neoplastic cells occurring both singly and in loosely cohesive groups. The cells have eccentrically located nuclei with obvious nucleoli and abundant foamy or eosinophilic granular cytoplasm, resembling histiocyte (A, B). A few cells show cytoplasmic vacuolation and bi-nucleation (B, inset). A, B: Papanicolaou staining, A, ×20, B, ×40.

V  組織学的所見

1. 左乳腺CNB

索状ないしは充実性胞巣が観察された(Figure 6A)。これらの胞巣はFNAC標本(Figure 5)にみられたものと同様の形態を示す異型細胞から構成さていた(Figure 6B)。diastase消化後の過ヨウ素酸シッフ(periodic acid-Schiff; PAS)染色では,異型細胞の胞体に顆粒状のPAS陽性像が観察された(Figure 6B inset)。免疫染色では,異型細胞はE-cadherinが陰性(Figure 6C),GCDFP15(Figure 6D)とアンドロゲンレセプター(androgen receptor; AR)が陽性であり,HLCと診断した。ホルモン受容体はエストロゲンレセプター(estrogen receptor; ER),プロゲステロンレセプター(progesterone receptor; PgR)はともにJ-score 0,Her2はIHC法で2+,FISH法で増幅を認め(シグナル比2.9),Ki67陽性率は27%であった。

Figure 6 Histological findings of core needle biopsy of the left breast showing neoplastic cells forming single-file or solid nests (A). The cells show the similar morphology withthat of the neoplastic cells in cytology specimen (B). Cytoplasm of some cells is positive for periodicacid-Schiff reaction with diastase digestion (B, inset). The cells are negative for E-cadherin (C) and positive for GCDFP15 (D). A, B: Hematoxylin-Eosin staining, A, ×10, B, ×40. B, inset: Periodic-acid-Schiff reaction with diastase digestion, ×100. C: E-cadherin and D: GCDFP15 immunohistochemical staining, ×20.

2. 左乳房全摘除術標本

肉眼的に複数の衛星皮膚結節が観察され(Figure 7A),割面像では皮膚の肥厚を認め,明瞭な腫瘤形成はなく,乳房全体にわたり腫瘍組織が分布していた(Figure 7B)。組織学的にはFNACとCNB(Figure 5, 6)に認められたものと同様のHLCに相当する異型細胞が観察された(Figure 7C)。壊死と瘢痕組織が散見され,腺癌細胞は乳房全体に浸潤増殖し(腫瘍占拠部位:ABCDE領域,腫瘍浸潤径:160 × 140 × 70 mm),表皮,大胸筋への浸潤を認めた(組織学的波及度:f,s,p)。切除断端評価では深部,側方断端ともに腫瘍組織が露出していた。真皮においては高度のリンパ管侵襲像が観察された(Figure 7D)。免疫染色ではE-cadherinが陰性,GCDFP15とARがびまん性陽性であった。ホルモン受容体はER,PgRがともにJ-score 0,Her2は1+,Ki67陽性率は18%であった。術前化学療法の組織学的効果はgrade 1aと判定した。

Figure 7 Gross findings of the resected specimen showing satellite skin nodules (A) and invasive carcinoma diffusely spreading throughout the breast (B). Histological findings of resected specimen of the left breast showing neoplastic cells with histiocytoid features (C) and dermal lymphatic permeation (D). C: Hematoxylin-Eosin staining, ×20, D: D2-40 immunohistochemical staining, ×20.

VI  考察

本稿ではIBCとしての臨床像を示したHLCの1例につき,IBCの診断に至るまでの臨床所見と画像所見,診断以降の治療を含む臨床経過に加え,本例の腫瘍組織型であるHLCのFNACの細胞学的所見,CNBと乳房全摘除術標本の組織学的所見について報告した。

IBCの診断については,2011年にその診断基準が提唱され,1)急速に発症した乳房皮膚の紅斑・浮腫を認め,橙皮状皮膚や熱感を伴うこともあるが,触知可能な腫瘤を伴うかどうかは問わない,2)病悩期間は6カ月以内,3)紅斑は乳房皮膚の1/3以上を占める,4)浸潤性乳癌の病理診断,の4項目が提示された8)。本例では上記項目1)~4)全てを満たすことからIBCと診断した。

IBCの病理学的特徴としては,1)真皮において腫瘍細胞のリンパ管腫瘍塞栓を認め,浮腫をきたす,2)腫瘍組織型については,ほとんどが浸潤性乳管癌(88%)であり,次いで浸潤性小葉癌(6.8%),その他の組織型として浸潤性微小乳頭癌や化生癌の症例がある,3)腋窩リンパ節転移頻度が高い,と報告されている1),2),9)。本例では,1)皮膚病変については,乳房全摘除術材料の組織標本において真皮に高度のリンパ管侵襲像が観察され,2)組織型については発生頻度の低いHLCであり,3)腋窩リンパ節転移については,PET/CTにおいて高度の腋窩リンパ節転移が認められた。

USにおけるIBCの特徴所見としては,1)皮膚の肥厚(頻度:92.5%),2)皮下組織の浮腫性変化(78%)3)拡張したリンパ管に相当する,真皮におけるスリット状無エコー域(34%),4)単一ないし多発性の腫瘤像(85%),5)腋窩リンパ節腫脹(75.5%),が報告されているが10),11),これらの所見は乳腺炎においても認められるため12),13),両者の鑑別がしばしば問題となる。本例のUS所見では上記の1),2),3),5)と合致した所見がみられたが,4)の腫瘤像は確認されず,低エコー域を認めたため乳腺炎を推定した。しかしながら,IBCにおいても明確な腫瘤像が観察されない場合は,低エコー域が認められることが報告されており11),後方視的には本例のUS所見はIBCとして矛盾しないものと考えられる10),11)。本例のように,US所見で明確な腫瘤像が認められない場合は,IBCの推定は難しいものの,臨床所見を十分に加味したうえでIBCを鑑別診断に挙げることが重要である10),11)

HLCの細胞学的特徴は,1)出現様式は孤立散在性~結合の弱い小集塊を形成する,2)N/Cは低く,核はほとんどが単核で二核細胞が少数混在する,3)核クロマチンは微細ないしは顆粒状で,濃縮クロマチンを示す場合もある,4)核小体は小型,5)細胞質は豊富で泡沫状ないし好酸性顆粒状を呈し,細胞質内小腺腔は極稀に認められる,と報告されている4)~7)。本例の細胞像は,4)の核小体についてはやや大型で明瞭であった点が異なっているが,その他の項目と合致しており,HLCの推定は可能であった。さらに,本例でのCNB組織診における,ジアスターゼ消化後のPAS染色での顆粒状のPAS陽性像や5),7),免疫染色によるE-cadherinの陰性所見とアポクリン分化のマーカーであるGCDFP15とAR陽性所見もHLCの特徴と合致しており4)~7),HLCを支持する結果である。

本例でのFNACにおけるHLCの鑑別診断として,1)組織球,2)アポクリン癌,3)顆粒細胞腫,4)印環細胞型浸潤性小葉癌が挙げられる1),2),6),14),15)。1)組織球では,上皮性結合を示さず,核異型性を認めない点や,サイトケラチン(cytokeratin; CK)が陰性である点がHLCとの鑑別点として重要である1),2)。2)アポクリン癌では,細胞採取量が多く,大型の重積性集塊を形成する点や,細胞質は好酸性顆粒に富み,N/C比は亢進し,核異型が高度である点がHLCの典型像とは異なる1),7)。また,アポクリン癌ではE-cadherinが陽性であることがHLCとの鑑別において重要である1),2),6),7),3)顆粒細胞腫では標本背景に多量の顆粒状物質が存在し,細胞質内には好酸性顆粒が充満し,泡沫状細胞質を示さないことがHLCの細胞像とは異なる14)。さらに,顆粒細胞腫ではCKやGCDFP15が陰性で,S100,CD68,calretininおよびα-inhibinが陽性である点がHLCとは異なる1),2),6),14)。4)印環細胞型浸潤性小葉癌では,多数の細胞質内小腺腔や豊富な胞体内粘液が認められ,核圧排像が観察される点が特徴であり,HLCの細胞像とは異なる15)

VII  結語

IBCの推定には臨床所見や画像所見を加味した総合判断を要する。また,本例ではFNACがIBCの診断と組織型の推定に有用であった。

倫理委員会の承認:不要

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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