Japanese Journal of Medical Technology
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Evaluation of muscle contraction by electromyography and sonography: For early diagnosis and prevention of sarcopenia
Masafumi KATAYAMAYoshio TAKANO
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2019 Volume 68 Issue 4 Pages 637-643

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Abstract

近年,主に加齢による筋委縮が原因となって,日常生活に支障が生ずるサルコペニアと呼ばれる症状が問題になっている。本研究では簡易な測定項目でのスクリーニングを目的として,大腿直筋の表面筋電図と筋の超音波像による計測の精度を検証した後,膝伸展時に一定の負荷をかけた時の変化を観察した。大腿直筋のほか,比較対象として外側広筋および内側広筋についても観察した。3筋の筋腹皮膚上にて,安静時,弱負荷時および強負荷時に筋電図を記録した。記録した筋電図は,整流後に積分してその面積を求め,筋放電量として評価に用いた。形状の観察は超音波検査装置を用いて,筋の径と断面積・周囲長および羽状角を計測した。等尺性収縮により,筋放電量は,弱負荷から強負荷と有意に増加した。超音波像による筋の評価では,短軸で断面の観察において,プローブの触圧で変動する項目があり,筋の周囲長を用いることが適切であると考えた。周囲長と羽状角は自重の負荷で上昇したが,さらに追加の負荷をかけても値はほぼ一定で変化は見られなかった。何らかの補正が必要となる可能性はあるが,本法によって筋の評価が可能であることが示唆された。

Translated Abstract

Diagnostic methods leading to the prevention of sarcopenia are required. We evaluated quadriceps femoris muscle contraction using electromyograms (EMGs) and ultrasound (US) images. Surface EMGs were recorded in the rectus femoris muscle, vastus lateralis and vastus medialis during knee extension with a load. We obtained three muscular discharge ratios, and they were evaluated in terms of the amount of muscular discharge in search of the repand area by integration. From the US image, we determined the circumference and cross-sectional area on the transverse image and measured the pennation angle on the sagittal image. Under isometric contraction conditions, the amount of muscular discharge increased with the strength of contraction from weak to strong. In the rectus femoris muscle, there was a significant positive correlation between the imposed weight and the muscular discharge. Since the circumference was more stable than the cross-sectional area, it was selected for evaluation. The pennation angle was larger during traction than during resting. The circumference and pennation angle tended to increase owing to voluntary contraction. However, the values did not change when the weight exceeded a certain value. We found the possibility of muscle weakness evaluation by functional and morphological analysis using EMGs and US images.

I  はじめに

現在,超高齢化社会をむかえ,国内で65歳以上の高齢者が人口の約4分の1(3,461万人),そのうち80歳以上が1割弱(1,045万人)にのぼるとされている(2018年総務省統計)1)。さらに,近年問題視されているサルコペニアの有病者数は高齢者の約6~12%と推定されている。サルコペニアとは,1989年にRosenberg2)が加齢に伴い骨格筋量の減少が起こることの重要性を主張し,提唱した造語で,加齢や疾患により,筋肉量が減少することで,握力や下肢筋・体幹筋など全身の筋力低下が起こることおよび,歩行スピードの低下,杖や手すりが必要になるなど,身体機能の低下が起こることを指す。その診断基準は,①「筋肉量の低下を裏付ける証拠」は必須で,②「筋力の低下」,③「身体機能の低下」のいずれかを満たしている状態,とされている3),4)。筋は収縮するとその形状が変化するため,筋電図や画像測定の方法,手技によって変動する不確定要素が多い。これまで,表面筋電図によって特定の筋の変化を捉えることは,やや困難とされており,超音波による筋の形状観察も,MRI等と比較するとその解像度の低さは否めない。筋肉量の評価は,CTやMRIなどを用いることが高精度であると思われるが,侵襲や検査費用を考慮すると,より簡易な評価法が求められている。今回我々は筋の機能的評価として表面筋電図,形態的評価として表在超音波画像を用いて,筋の状態評価を試みた。なお本研究は国際医療福祉大学倫理審査委員会の承認を得て実施した(承認番号18-Ifh-012)。

II  対象および方法

1. 測定方法の検証

対象は,同意の得られた若年健常成人男性7名である。本研究では,とくに大腿四頭筋(quadriceps femoris muscle; QF)の中で,正面の最浅部に位置する大腿直筋(rectus femoris; RF)について筋電図および超音波画像の精度を検証し,確認したうえで膝伸展時に一定の負荷をかけた時の変化を観察した。RFの評価を目的として筋腹中央皮膚上にて,安静時,重量負荷時に筋電図を記録した。比較対象として外側広筋(vastus lateralis; VL),および内側広筋(vastus medialis; VM)からも同時に測定を行った。RFの記録電極は筋腹中央に配置し,電極間距離は2 cmで双極誘導である。記録した筋電図は,整流後に積分してその面積を求め,筋放電量として評価に用いた(Figure 1)。3筋の筋電図を同時記録し,より対象筋からの出力を反映すると思われる肢位を予測して,以下の実験に適用した。膝伸展の負荷の際の肢位は,下腿を水平に保ち,大腿-床面の角度を60°とする(a),同じ角度60°で大腿後面に支えがある場合(b),および角度20°,支えありの状態(c)の3パターン(Figure 2)で検証した。

Figure 1 Recording and processing for EMG

The electromyogram was rectified and integrated to measure its area.

Figure 2 Recording position

If legs are raised with no support on the back of the thigh, the action of the RF muscle, which is a two-joint muscle, increases.

形状の観察は超音波検査装置を用いて,筋の径と断面積・周囲長および羽状角を計測した。超音波による臓器観察では,体格差による誤差を軽減するため,下前腸骨棘と膝蓋骨上縁中央部を結んだ線上で遠位側3分の1の点とし,プローブの触圧によってその形状が変化することを考慮し,プローブの触圧が強い場合と,軽く押し当てた際の各計測結果を比較して,評価項目の絞り込みを目指した。筋の短軸像では縦径,横径,断面積および周囲長を,長軸像で羽状角を測定した(Figure 3)。筋電図の記録は(株)日本光電社製MEB-2306,超音波では(株)東芝メディカルシステムズ製SSA-590Aを用い,リニアプローブを使用した。

Figure 3 Measurement item and recording for US image

By US image, we observed the diameter, perimeter and area of muscle on the transverse image and measured the pennation angle on the sagittal image. It could record with low contact pressure in the long-axis image.

2. 荷重負荷による変化

追加で同意が得られた2名について実施した。サルコペニアの診断基準は,筋肉量の低下を必須とし,筋力の低下もしくは身体能力の低下いずれかがみられることと定義されているため,形態的な評価のみではなく,筋に負荷をかけた状態での評価が必要となる。負荷重量を変化させながら筋電図および超音波画像を記録した。被験者は仰臥位で大腿-床面の角度を60°とし,下腿を水平に保つ等尺性の負荷を課した。足首部に1 kg~5 kgの錘を装着し,RFの筋電図および短軸・長軸の超音波画像を記録した。筋電図では整流,積分し筋放電量として面積を測定し,超音波では筋の周囲長および羽状角の変化を観察した。

III  結果

1. 測定方法の検証

脚の挙上による等尺性収縮によって,大腿前面の筋放電が確認された(Figure 4)。(a)から(c)3つのポジションでの結果を示す。RFの活動電位はVLやVMと比較して,大腿後面の支えがない(a)のデザインにおいて最も大きかった。これは被験者全例で同様の結果であり,収縮時の面積は60.5 ± 24.6 mVmSであった(Figure 5)。

Figure 4 Changes in EMG at each position

In order to accurately and stably record the discharge amount when the muscle contracts, we thought that it was better to record with the design (a) with the highest percentage of target muscle.

Figure 5 Muscle discharges after voluntary contraction

Increase in muscle discharge was evident by contraction. The slight muscle discharge seen even at rest may be noise.

超音波画像における弱い触圧時RF縦径は10.4 ± 4.0 mm,横径29.1 ± 8.7 mm,縦径×横径329.6 ± 248.6,断面積260.7 ± 148.8 mm2,周囲長は71.6 ± 22.1 mmで,強く押し当てた場合は縦径8.3 ± 2.1 mm,横径31.7 ± 9.0 mm,縦径×横径277.0 ± 159.6,断面積240.0 ± 146.9 mm2,周囲長は73.4 ± 21.9 mmであった。周囲長を除いて他の項目はいずれも有意差を認めた(Figure 6)。短軸像の計測では,強い触圧によって縦径は小さく,横径は大きくなった。また断面積も10%近い誤差を認めた。一方で筋横断面の周囲長の誤差は5%以下で最も安定していた(Figure 7)。長軸像で観察した羽状角は,プローブを強く押し付ける必要はなく,日常検査で用いる程度の触圧では有意な変化は認められなかった。

Figure 6 Change of measured value by probe pressure

The effect of probe pressure was the least in perimeter change.

Figure 7 Errors of US measurement item

In the errors of measured item, perimeter was the smallest.

2. 荷重負荷による変化

筋の放電量は足首の負荷重量が増すと大きくなり,安静時を除いた負荷中には有意な正の直線相関がみられた(Figure 8a)。筋の周囲長と羽状角は,脚を挙上し自重がかかった状態で安静時に比較して増加したが,荷重を増しても明らかな変化は認められずほぼ一定であった(Figure 8b-1, b-2)。

Figure 8 Effect of weight resistance (EMG·US image)

a) In the range of the current experiment, the muscle discharge increased significantly and linearly as the resistance amount increased.

b) It changed to a fixed value when the minimum resistance was applied, and thereafter did not change in the US image evaluation.

IV  考察

従来,筋力の低下を主体とするサルコペニアは,虚弱状態を意味するフレイルに繋がるとされている5)。フレイルの,特に筋力の衰えを評価可能で,誰にでもわかりやすい簡易診断法として,飯島ら6)は「指輪っかテスト」を提唱している。このテストは下腿の周囲長を指標としており,肥満や浮腫による誤差は否めない。さらにサルコペニア診断において「身体機能」の判断材料でもあり,日常生活で重要と思われる「歩行」において,下腿後面の筋は立脚中期および踵離地に作用し,大腿前面の筋は全足底接地,足尖離地および遊脚初期に必要であるとされており7),両者の評価における重要性に大差はないと考えられる。また,簡易な測定法として超音波を用いるうえで,容易に観察できる筋を選択する必要があった。以上を踏まえ本研究では大腿前面の筋を評価対象とした。

QFの中でVL,RF,VMは比較的表在近くの筋であるが,複雑に重なり合った位置関係により,表面筋電図によるRFの筋活動を単独で記録することは困難で,評価に用いる際は注意を要する。検証の結果,大腿後面の支えがない状態での下肢挙上であるポジションで最もRFの収縮を評価できると考えられる。この肢位を取ることは膝関節の伸展に加え股関節の屈曲も兼ねており,RFが膝関節・股関節にまたがる二関節筋であることに矛盾しない。ただし表面電極による記録では,筋の分離に限界があるため,実際に適用する場合は安静時の数値を減算して評価する必要があると考える。超音波短軸像では縦横径の圧迫による変化は予測でき,断面積も筋内圧変化の可能性がある。プローブを比較的密着させる必要がある短軸像の観察では,周囲長による評価が最も適しているといえる。また,わずかでも随意収縮すれば,負荷を増しても形状や計測結果があまり変わらないことから,超音波による測定は随意収縮状態とすることでより安定性が高くなると考える。羽状角の観察は断面と比較すると安定していたが,判定がやや困難で,画像が高品質である必要があり,今後の機器や技術の向上が望まれる。一方で,今後臨床で応用していくうえで,本研究では最良と判断した“RFに選択的に負荷がかかり,触圧による変動が少ない肢位および計測項目”について実例を通して再検証していく必要があると考える。

自重より重い負荷をかけた際の筋放電量は,荷重と有意な正の相関を認め,この数値を筋の力学的な出力とみなしての評価が可能であると思われる。ただし,さらに細かい荷重値や本実験の最大重量である5 kgを超える負荷での検証も必要である。また原8)は,筋の放電量に対する皮下脂肪厚の関与について,有意な逆相関が認められ,皮下脂肪厚が増すに従って放電量は減少する傾向が認められた,と報告しており,正確な評価のためには今後何らかの補正が必要になる可能性がある。さらに,疾患対象を評価する際は,単位負荷重量当たりの筋放電の増加量,本法では負荷重量と筋放電量の散布図における近似曲線の傾きも考慮する予定である。一方で,筋の周囲長と羽状角については,力学的出力との相対評価はできなかったが,これも今後有病者の介入前後の比較などで応用可能か否か検証したい。

本研究の結果から,サルコペニア診断の定義である「筋量の低下」と「筋力の低下」について,それぞれ超音波画像と表面筋電図を用いて評価ができる可能性が示唆された。これまで,MRIや二重エネルギーX線吸収測定法(dual-energy X-ray absorptiometry; DXA)などの大掛かりな装置を用いずに筋量低下を評価するには,四肢骨格筋肉量(skeletal muscle mass index; SMI)の推定式を用い,筋力の低下は握力で評価されることも多かった。しかし,いずれも間接的もしくは被験者自身の意思で変動する可能性があった。未だ健常人においても変動がやや大きく,有病者での検証がなされていないが,直接かつ客観的に数値化することが可能な本法による評価は有用であると考える。

有病か否かの診断の基準は,European Working Group on Sarcopenia Older Persons(EWGSOP)3),International Working Group on Sarcopenia(IWG)9)をはじめ様々なグループが評価法を設定しているが,いずれも欧米人を対象としたもので,体格の異なる日本人に対してこれらの基準が適用できるかは明らかでない。その点でアジア人を対象として設けられたAsian Working Group for Sarcopenia(AWGS)10)が最も適しているとされており,今後本研究の結果とAWGSを照らし合わせていく必要があると思われる。筋量については,一般的に70歳までに20歳代に比較すると骨格筋面積は25~30%,筋力は30~40%減少し,50歳以降毎年1~2%程度筋肉量は減少すると言われ11),これは一次性サルコペニアと呼ばれる。この他寝たきり,不活発な生活スタイル,無重力状態が原因となり得るサルコペニアや,重症臓器不全(心臓,肺,肝臓,腎臓,脳),炎症性疾患,悪性腫瘍や内分泌疾患に関連するもの,および吸収不良,消化管疾患,および食欲不振によるものなど,二次性サルコペニアという定義もあり,両者における筋の状態も本研究の手法で検証していきたい。

V  結語

サルコペニアは,要介護状態に至る重要な要因として位置づけられ,健康寿命を延ばすうえでも考慮すべき病態である。高齢者診療にあたる場合は,この存在を念頭に置き,基準に合わせて正確に診断する必要がある。サルコペニアやさらに広義であるフレイルは予防が可能であり,早期発見,介入により効果が期待できることから,簡易に実施できる筋電図や超音波の利用について,記録の際の肢位を工夫し限定することで,さらなる診断精度の向上につながると思われる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本稿を終えるにあたり,筋電図および超音波の記録にご助力いただいた国際医療福祉大学福岡保健医療学部の学生諸子に深謝いたします。

文献
 
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