2019 Volume 68 Issue 4 Pages 731-736
2013年に結合型肺炎球菌ワクチン(pneumococcal conjugate vaccine; PCV)が定期接種化され,PCV普及による分離菌の肺炎球菌莢膜血清型置換が注目されている。今回,小児から分離された肺炎球菌の莢膜血清型を調査し,同じ方法で行った過去2回の調査成績(2002年,2008年)と比較した。2016年8月から2017年7月の1年間に,当院小児科を受診した184例から分離された肺炎球菌184株を対象菌株とした。肺炎球菌莢膜型別用免疫血清「生研」(デンカ生研)を用いたスライド凝集法にて39種の血清型を判定し,凝集を示さない株を型別不能株(non-typable; NT)とした。本検査法はPCV13に関連する血清型の全てを判定できるが,亜型は判定できない。判定された莢膜血清型は,NT 92株(50.0%),15型25株(13.6%),35型18株(9.8%),11型11株(6.0%),22型8株(4.3%),その他の型が30株(16.3%)で,PCV13関連血清型は14株(7.6%)であった。NTの分離率は2002年では3.1%,2008年では5.1%であり,今回大幅な増加を認めた。PCV13関連血清型の分離率が,2002年の83.9%,2008年の85.5%から7.6%に低下したことは,PCV13の普及による肺炎球菌の血清型置換を示唆するものである。
The pneumococcal conjugate vaccine (PCV) was introduced to the routine immunization schedule in 2013, and the serotype replacement of isolated Streptococcus pneumoniae strains has attracted attention. In this study, we surveyed the capsular serotypes of strains isolated from children and compared the results with those of two previous surveys conducted in 2002 and 2008. The materials were 184 Streptococcus pneumoniae isolates from 184 patients who visited the Pediatrics Department of our hospital during the 1-year period from August 2016 to July 2017. We determined 39 capsular serotypes by the slide agglutination method using an immune serum (“SEIKEN”, Denka Seiken Co., Ltd.), and we defined isolates that did not show agglutination as nontypable (NT). All PCV13-related serotypes could be determined by this method, but subtypes could not be assessed. The serotypes were in the following order: 92 NT isolates (50.0%), 25 type-15 isolates (13.6%), 18 type-35 isolates (9.8%), 11 type-11 isolates (6.0%), 8 type-22 isolates (4.3%), and 30 isolates of other types (16.3%). PCV13-related serotypes were found in only 14 isolates (7.6%). NT isolation rates (50.0%) showed a marked increase compared with those in 2002 (3.1%) and 2008 (5.1%). The decrease in isolation rate of PCV13-related serotypes from 83.9% in 2002 and 85.5% in 2008 to 7.6% in this survey suggests that serotype replacement had occurred following the introduction of PCV13.
肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)は,90種以上の莢膜血清型を持つ連鎖球菌であり,気道感染症や中耳炎など非侵襲性の局所感染症に加え,細菌性髄膜炎,敗血症などの侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease; IPD)を引き起こす1)。わが国では,2010年2月に7価肺炎球菌結合型ワクチン(pneumococcal conjugate vaccine; PCV7)が市販され,2013年4月に定期接種化,さらに同年11月にはPCV7から13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)に変更された2)。2013年4月よりIPDが感染症法において5類全数把握疾患となり,IPD報告数は年々増加している3),4)。また,PCVの普及による肺炎球菌の莢膜血清型置換が注目されている。
今回,2016年8月からの1年間に,小児から分離された肺炎球菌の莢膜血清型をスライド凝集法5)により調査し,以前我々が同じ方法で行った2回の調査成績(2002年6),2008年7))と比較した。
2016年8月から2017年7月の1年間に,発熱,気道症状などを主訴に当院小児科を受診した小児3,055名から採取された咽頭および鼻腔ぬぐい液,血液,喀痰および眼脂を分離用検体とした。検体を5%羊血液加トリプチケース培地(日本ベクトン・ディッキンソン)にて35℃ 24時間好気的に培養し,肺炎球菌を疑うコロニーを純培養した。分離されたグラム陽性双球菌について,オプトヒンディスク(日水製薬)感受性試験陽性,または胆汁溶解試験陽性を示すものを肺炎球菌と同定した。1カ月以内の同一患者からの重複分離を除き,184例(1カ月~14歳8カ月,中央値年齢3歳1カ月)から分離された肺炎球菌184株(咽頭ぬぐい液164株,鼻腔ぬぐい液13株,血液5株,喀痰1株,眼脂1株)を対象菌株とした。なお,肺炎球菌の分離された患児に髄膜炎の合併はなく,全例が後遺症なく治癒している。
2. 莢膜血清型対象菌株の莢膜血清型は,肺炎球菌莢膜型別用免疫血清「生研」(デンカ生研)を用いたスライド凝集法により判定した。まず,混合血清を用いて菌株の凝集の有無を判定し,凝集を示した場合,その混合血清を構成する39種の単味血清を用いて血清型を判定した(Table 1)。混合血清に凝集を示さなかった分離株については,39種の単味血清型を用いて再度判定し,全てに凝集を示さない株を型別不能株(non-typable; NT)とした。本検査法では13,26,30,37,42,43,44,45型を除く1~47型が判定可能であり,亜型は全て判定できない。
| Combined serum | Single serum | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| Combination 1 | Type 1 | Type 2 | Type 3 | Type 4 | Type 5 | ||
| Combination 2 | Type 6 | Type 8 | Type 9 | Type 10 | |||
| Combination 3 | Type 11 | Type 12 | Type 14 | Type 15 | Type 16 | ||
| Combination 4 | Type 17 | Type 18 | Type 21 | Type 22 | |||
| Combination 5 | Type 20 | Type 29 | Type 31 | Type 33 | Type 34 | Type 35 | Type 47 |
| Combination 6 | Type 23 | Type 25 | Type 28 | Type 41 | Type 46 | ||
| Combination 7 | Type 27 | Type 32 | Type 36 | Type 38 | Type 39 | ||
| Combination 8 | Type 7 | Type 19 | Type 24 | Type 40 | |||
*The immune serum for the subtype serotyping is not included.
All the serotypes related to PCV7 and PCV13 are measurable.
PCV7の含有血清型は4型,6B型,9V型,14型,18C型,19F型,23F型で,PCV13の含有血清型は1型,3型,4型,5型,6A型,6B型,7F型,9V型,14型,18C型,19A型,19F型,23F型である。本検査法では亜型が判定できないため,4型,6型,9型,14型,18型,19型,23型をPCV7関連血清型,1型,3型,4型,5型,6型,7型,9型,14型,18型,19型,23型をPCV13関連血清型として検討した。なお,PCV7および13が含有する血清型は全てPCV7および13関連血清型でカバーされている。
統計学的検討はχ2検定を用いて行った。なお,本研究は当院臨床研究審査委員会の許可を受けている(臨床研究29-026(280))。
月別分離株数をFigure 1に示す。6月に22株と最も多く,次いで7月と9月に21株,5月に20株の順であったが,明確な季節集積性を認めなかった。年齢別分離株数をFigure 2に示す。1歳が47株と最も多く,次いで3歳30株,2歳26株,4歳19株,0歳17株の順で,5歳以下が83.8%(155/184)を占めた。


莢膜血清型別分離株数をFigure 3に示す。NTが最も多く92株(50.0%)であった。次いで,15型25株(13.6%),35型18株(9.8%),11型11株(6.0%),22型8株(4.3%)の順で,その他の型が30株(16.3%)であった。14株(7.6%)がPCV13関連血清型,13株(7.1%)がPCV7関連血清型であった。血液由来株は22型2株,24型1株,NT 2株であり,全てPCV非関連血清型であった。

*Related to PCV7 and 13, **Related to PCV13
Five strains isolated from blood were 2 of type 22, 1 of type 24, and 2 of NT, and the types were all unrelated to PCV.
過去2回の調査成績を含めたPCV関連莢膜血清型別分離率をFigure 4に示す。過去2回では19型,6型,23型の3種のPCV関連血清型が分離の中心であった。19型は2002年27.4%(97/354),2008年24.1%(58/241)であったが,今回は3.3%(6/184),6型は2002年26.0%(92/354),2008年23.7%(57/241)であったが,今回は0%(0/184),23型では2002年21.2%(75/354),2008年21.2%(51/241)であったが,今回は3.8%(7/184)であり,3種血清型の全てで減少を認めた(p < 0.01)。

Isolation rate of PCV7-related serotypes was 79.4% in 2002, 75.5% in 2008, and 7.1% in this study (p < 0.01 vs. 2002, 2008). Isolation rate of PCV13-related serotypes was 83.9% in 2002, 85.5% in 2008, and 7.6% in this study (p < 0.01 vs. 2002, 2008).
今回の調査において,PCV7関連血清型7.1%(13株),PCV13関連血清型7.6%(14株)であった。過去2回のPCV7関連血清型およびPCV13関連血清型は,2002年79.4%(281株)および83.9%(297株),2008年75.5%(182株)および85.5%(206株)であり,今回の調査でPCV関連血清型分離率は大幅に低下した(p < 0.01)。一方,PCV非関連血清型は92.4%(170株)であり,2002年の16.1%(57株),2008年の14.5%(35株)から,大幅に上昇し(p < 0.01),中でもNTの占める割合は2002年の3.1%(11株),2008年の5.4%(13株)から50.0%(92株)に大幅な上昇を認めた。
愛知県の地域中核病院である当院小児科において,受診患者から分離された肺炎球菌184株の莢膜血清型をスライド凝集法により調査した。本調査は2013年のPCV定期接種化後のものであり,この成績をPCV導入前における2回の調査成績(2002年6),2008年7))と比較した。
月別分離率において,2002年では11~2月の冬季に45%と多い傾向がみられていたが,2008年および今回は目立った季節集積性は見られなかった。また,今回の分離株数は184株であり,過去2回(2002年354株,2008年241株)より少なかった。当地域の病院集約化により診療圏の拡大や受診患者紹介率の上昇など当院小児科を取り巻く環境が変化しており,それら過去2回との違いの原因を考察することはできなかった。今後の分離状況の変化に注意していきたい。年齢別分離株数では5歳以下が全体の84%を占めており,分離の中心が乳幼児であることは過去2回と基本的に同じであった。しかし,0歳児に限っては2002年の20%,2008年の19%から,今回では9%と半減していた。この理由として,月齢2カ月から定期接種されているPCVの効果の可能性が考えられた。
分離された肺炎球菌の莢膜血清型はNTが92株(50.0%)で最も多く,次いで,15型25株(13.6%),35型18株(9.8%),11型11株(6.0%),22型8株(4.3%)の順で,その他の型が30株(16.3%)であった。分離株の莢膜血清型は大きく変化し,過去2回において分離の中心であった19型,6型,23型の分離率が大幅に低下した。上位4血清型(15型,35型,11型,22型)はいずれもPCV非関連血清型であり,PCV13関連血清型の肺炎球菌は,23型7株,19型6株,1型1株の計14株(7.6%)であった。一方,NTの分離率(50.0%)は,過去2回(2002年3.1%,2008年5.4%)と比較して大きく上昇した(p < 0.01)。PCV13関連血清型は7.6%であり,過去2回のPCV13関連血清型分離率(2002年83.9%,2008年85.5%)より大幅に低下した。
PCV13が定期接種プログラムに導入されている諸外国において,ワクチン含有血清型によるIPDの大幅な減少と,ワクチン非含有血清型によるIPDの増加傾向が示されている8)~12)。わが国においても同様の傾向が報告され13)~15),その要因としてPCVによる血清型置換が考えられている。今回PCV13関連血清型分離率が大幅に低下したこと,および血液由来分離株が全てPCV非関連血清型であったことは,PCVの普及による血清型置換を示唆するものと考える。PCV13は2014年6月に65歳以上の高齢者にも適応拡大されており,今後さらに血清型置換が進むことが考えられ,今後も継続した莢膜血清型の調査が必要である。また,血清型置換の進展はPCV13の効果を制限させるものであり,血清型をさらに増やしたPCV16)や,血清型とは無関係の抗原を用いた新規肺炎球菌ワクチン17)の開発が望まれる。
本調査の限界は,亜型が判定できないスライド凝集法を用いていることである。莢膜型判定法のゴールドスタンダードは膨潤法18)であり,亜型を含む92種の血清型が判定できる。しかし,この方法は顕微鏡で判定しなければならず,かなりの時間を要し,操作も煩雑である。われわれが用いているスライド凝集法は,操作が簡便で,作業効率が高く,一部の血清型および全亜型血清が判定できないものの,血清型の推移を知るには有用な判定法である。亜型が判定できないため,PCV関連血清型は必ずしもPCV含有血清型を意味していないが,PCV13非関連血清型はPCV13非含有血清型であり,PCVによる血清型置換の把握は可能である。近年,Multiplex PCR法と膨潤法によるもの19),Multiplex PCR法とスライド凝集法によるもの20)~22),あるいはこれら3種の方法の組み合わせ23)などの莢膜血清型の調査成績が報告されている。今後,スライド凝集法を他の方法と組み合わせ,より精度の高い肺炎球菌莢膜血清型の調査を検討していきたい。
2016年8月からの1年間に当院小児科受診患児より分離された肺炎球菌184株の莢膜血清型をスライド凝集法にて調査し,PCV導入前である過去2回の調査成績と比較した。莢膜血清型別分離率はNTが50.0%と最も多く,次いで15型(13.6%),35型(9.8%),11型(6.0%),22型(4.3%)の順であった。PCV13関連血清型の分離率が2002年の83.9%,2008年の85.5%から7.6%に低下したことは,PCV13の普及による肺炎球菌の血清型置換を示唆するものである。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。