Japanese Journal of Medical Technology
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Effort of influenza specimen collection by clinical laboratory technicians: Role of clinical laboratory technicians in medical care team
Ryo YABUSHITAIzumi EJIRIYoshihiro BOUIKE
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2019 Volume 68 Issue 4 Pages 743-750

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Abstract

臨床検査技師等に関する法律の一部が改正・施行され,2015年4月より臨床検査技師も検体採取が実施可能となった。法律施行前の鼻腔・咽頭の検体採取率が17.0%であるのに対して,法律施行から約2年後の2017年7月は30.4%であり,伸び率13.4%であった。本研究では臨床検査技師が外来看護師に代わって,外来患者のインフルエンザ検体採取を実施することで,効率的で精度の高いインフルエンザ検査体制を構築することを目的とした。インフルエンザ検査体制の構築により,外来看護師の負担は減少し本来の看護業務に専念できるようになった。また,臨床検査技師は,検体採取に大きな業務負担がないことに加え,検査依頼から実施までの所要時間が延長することなく,チーム医療の中で大きな役割を果たすことができた。検体採取手技の精度管理に関しては,看護師は実施していなかったが,臨床検査技師は検体採取のマニュアル作成・研修・マニュアル遵守率調査・フォロー対策の流れで最終的に正しい検体採取の遵守率は100%となった。今回,臨床検査技師がインフルエンザ検体採取を実施することで,効率的で精度の高いインフルエンザ検査体制を構築することができた。今後は,病棟患者や救急患者の検体採取を実施している看護師に対しても,臨床検査技師が正しい検体採取手技を教育訓練することで,さらなる精度向上を目指していきたい。

Translated Abstract

Since April 1, 2015, amendments to the law for clinical laboratory technicians have allowed these technicians to collect specimens. The sampling rate of nasal and pharyngeal specimens has increased from 17.0% in July 2017 to 30.4% after the law amendment, with an increase rate of only 13.4% in 2 years. In the present study, we aimed to establish a system for efficient and accurate influenza tests wherein an influenza specimen is collected from an outpatient by a clinical laboratory technician instead of an outpatient nurse. The introduction of this system resulted in a decrease in the burden of outpatient nurses, allowing these nurses to concentrate on their primary responsibilities. Clinical laboratory technicians could improve medical care services without extending the time required between examination requests and implementation. Compared with the nurses, the technicians accurately conducted manual creation, training, survey of manual compliance rate, and follow-up on specimen collection. As a result, the compliance rate of correct specimen collection was 100%. This time, the clinical laboratory technician could efficiently and accurately carry out influenza tests by accurately collecting influenza specimens. In the future, we plan to further improve the accuracy of this system by educating and training nurses on accurate specimen collection from ward and emergency patients.

I  はじめに

日本は諸外国にも例をみないスピードで,急速に高齢化が進んでいる1)。2025年には,団塊の世代が75歳以上となり,さらに高齢化が進む2)。インフルエンザ感染については,高齢者が感染すると重症化しやすく合併症も起こしやすい傾向がある3)。臨床検査技師の新たな取り組みの一つとしては,検体採取が挙げられる。これまで検体採取は,医師や看護師が実施していた。しかし,臨床検査技師が検体採取を実施することにより,①医師・看護師の業務負担の軽減,②検体採取・検査・判定・結果報告という総合的な精度管理に繋がると予想される4)。このことから,臨床検査技師等に関する法律の一部が改正・施行され,2015年4月より①鼻腔・咽頭ぬぐい液,鼻腔吸引液等の採取,②膿・表皮・粘膜等の表在組織の採取,③綿棒を用いた肛門からの糞便採取,が実施可能となった4)。約2年後の2017年7月の調査結果では,鼻腔・咽頭からの検体採取の実施率は30.4%で,法律改正前からの伸び率は13.4%であった5)。当院では,2017年12月から,外来看護師に代わり,検体検査担当の臨床検査技師が,外来患者のインフルエンザ検体採取を開始した。

II  目的

臨床検査技師が外来看護師に代わり,外来患者のインフルエンザ検体採取を実施することで,効率的で精度の高いインフルエンザ検査体制を構築することを目的とした。

III  インフルエンザ検査体制

当院は,一般病棟116床,地域包括ケア病棟60床,2016年~2018年の月平均外来患者数10,991人・月平均救急患者数45人の感染管理加算Iを取得している急性期病院である。外来の発熱患者は,感染予防の観点から発熱患者待機場所に待機してもらい,常時一般の外来患者と集団隔離して対応している。具体的な流れとしては,外来にて問診・体温測定後,集団隔離が必要と医師が判断した場合は発熱患者待機場所に待機してもらう。発熱患者待機場所は,一般の外来患者待機場所・内科外来・検査室と同階で,飛沫感染や接触感染を防ぐために,一般の外来患者の待機場所から40 m離れたパーテーションで区切られた空間である。なお,内科外来からは約40 m,検査室からは約64.5 m離れた場所にある。インフルエンザ検査を実施する場合は,検体採取者が発熱患者待機場所に出向き,検査説明,検体採取,検査室への検体の運搬を実施している。その後検査室では,臨床検査技師がインフルエンザ検査,検査結果の電子カルテへの入力,電話による結果報告を実施している。陽性であれば,医師・看護師・薬剤師・事務の関係スタッフが発熱患者待機場所に出向き完全に集団隔離して対応している。陰性の場合は,発熱患者待機場所から一般外来患者待機場所に移動してもらい,通常の外来患者として対応している。

外来看護師がインフルエンザ検体採取を実施していた時は,外来看護師が内科外来から発熱患者待機場所まで移動して,検体採取後に検査室へ検体を運搬していた。2017年12月以降は,臨床検査技師が外来患者の検体採取を開始した。検体採取を実施するにあたり,臨床検査技師13名全員が検体採取等に関する厚生労働省指定の講習会を受講した。さらに,院内でも検体採取の研修を実施した。なお,救急患者(休日または平日時間外に受診した外来患者)・病棟患者のインフルエンザ検体採取は従来どおり看護師が実施している。

IV  方法

1. インフルエンザ検査状況

2016年~2018年のインフルエンザ検査数・陽性数・年齢分布を分析した。

2. 外来看護師と臨床検査技師の負担感の変化

インフルエンザ検体採取業務変更後に,外来看護師と臨床検査技師に対して負担感の変化をアンケート調査した。

3. インフルエンザ検体採取所要時間の変化

インフルエンザ検査依頼から検査開始までの所要時間の変化を分析した。臨床検査技師は2018年,外来看護師は2017年のデータを分析した。

4. インフルエンザ検体採取手技の精度管理の変化

外来看護師および臨床検査技師の検体採取手技の精度管理状況を分析した。また,臨床検査技師に対して,インフルエンザ検体採取時に「スワブを鼻孔から耳孔に平行に挿入することの認知度」に関するアンケート調査を実施した。

V  結果

1. 過去3年間のインフルエンザ検査状況

2016年~2018年のインフルエンザ検査数は年間平均542件であった。また,陽性率は年間平均35.3%であった。インフルエンザ陽性のピークは1月~2月で全国平均と相違はなかった(Figure 16)。3年間ともに31歳~50歳と81歳~90歳に二峰性のピークを認めた(Figure 2)。3年間の調査期間中,検査数・陽性率・検査対象者の年齢分布に大きな相違は認めなかった。

Figure 1 インフルエンザ検査数と陽性数の推移

2016年~2018年のインフルエンザ検査数は年間平均542件であった。陽性のピークは1月~2月で全国平均と相違はなかった。また,陽性率の年間平均は35.3%であった。

Figure 2 年齢別インフルエンザ検査数

3年間ともに31歳~50歳と81歳~90歳に二峰性のピークを認めた。

2. インフルエンザ検査体制変更後のインフルエンザ検査業務

検査体制変更後の臨床検査技師の検体採取件数は,2018年インフルエンザ検査数の80%であった(Table 1)。外来看護師は,検査室にインフルエンザ検体採取の依頼電話をするだけとなり業務量は減少した。一方,臨床検査技師は,外来看護師から電話を受け,検体採取を実施するという新たな業務が増加した(Figure 3)。

Table 1  検体採取業務変更後の採取人数
2018年1月~12月 対象者 インフルエンザ検体採取人数(人) 割合(%)
臨床検査技師 外来患者※1 436 80.0
看護師 救急患者※2 病棟患者 109 20.0
合計 545 100.0

※1 平日8:30~17:15の時間内に受診した外来患者

※2 休日または平日時間外に受診した外来患者

Figure 3 インフルエンザ検査体制の変化

外来看護師は,検査室にインフルエンザ検体採取の依頼電話を実施するのみとなり業務量は減少した。一方,臨床検査技師は新たに検体採取業務が増加した。

3. インフルエンザ検査体制変更後の外来看護師と臨床検査技師の業務負担感の調査

外来看護師の業務負担は減少した。臨床検査技師13人中12人は,インフルエンザ検体採取業務に負担を感じていなかった。「負担増加」と回答した1名の臨床検査技師は負担理由を「検体採取場所が遠い」と回答した(Figure 4)。

Figure 4 外来におけるインフルエンザ検体採取業務変更後のアンケート調査

外来看護師の業務負担は減少した。臨床検査技師はインフルエンザ業務に負担を感じていなかった。

4. インフルエンザ検査開始までの所要時間の比較

検査依頼からインフルエンザ検査開始までの所要時間が5分以内の割合は外来看護師の方が高値であった。しかし,両職種ともにピークは6分~10分で職種による所要時間の変化は認めなかった(Figure 5)。

Figure 5 検査依頼からインフルエンザ検査開始までの所要時間

両職種ともにピーク時間は6分~10分で職種による検体採取時間に差は認めなかった。

5. インフルエンザ検体採取手技の精度管理の変化

外来看護師が検体採取を実施していたインフルエンザ検査体制変更前は,検体採取手技のマニュアルはなく,先輩からの教育後は知識や手技を再確認する機会はなかった。しかし,臨床検査技師による検体採取の実施開始後は,検体採取手技のマニュアル作成,検査部内の研修,検体採取手技の遵守率のアンケート調査,フォロー対策,というインフルエンザ検査体制を構築した(Table 2)。今回,遵守率のアンケート調査結果に基づいて,①マニュアルを検体採取場所に設置,②臨床検査技師に再度個別研修,③感染対策チーム(infection control team; ICT)主催の全体研修などのフォロー対策を実施した。その結果,臨床検査技師の正しい検体採取手技の遵守率は84.6%から100%になった(Figure 6)。

Table 2  検体採取の精度管理
外来看護師 臨床検査技師
検体採取マニュアル なし あり※1
教育方法 先輩からの指導 研修※2
知識・手技の確認 なし アンケート調査

※1 作成後に教育研修,マニュアルは検体採取時に確認できる場所に設置した。

※2 院外研修(厚生労働省指定検体採取研修),院内研修(個人&全体)

Figure 6 臨床検査技師の正しい検体採取手技の遵守率の推移

厚生労働省指定検体採取研修,検査部内研修の実施後のアンケート調査では,正しい検体採取の遵守率は84.6%であった。しかし,アンケート結果に基づいた対策後は遵守率が100%となった。

VI  考察

インフルエンザ検査体制変更後の外来看護師は,検査室にインフルエンザ検体採取の依頼電話をした後,本来の看護業務である患者対応やスタッフ間調整に就くことができ,外来業務全体の効率化や質の向上にも繋がった。他施設においても,臨床検査技師がインフルエンザ検体採取を実施することによって看護師が処置の手を止められる機会が減り患者治療に専念できたとの報告がある7)。一方,臨床検査技師が外来看護師から検体採取依頼電話を受け検体採取を実施することは,大きな業務負担になることが想定されたが,実際には負担に感じていなかった。その理由としては,検体採取を担当した臨床検査技師の業務内容が検体検査であったことが,要因の一つであると考えられる。検体検査業務は検体を扱う業務が主なため,業務を一時中断しやすく,測定開始後は検体採取のために機器から離れても検査は進行する。これらの特徴から負担を感じていなかったと考えられる。唯一「負担増加」と回答した1名の臨床検査技師は,負担理由を「検体採取場所が遠い」と回答した。このことから,検体採取場所への移動距離が長くなると,採取者への負担増加と検査開始時間への影響があると考えられる。他施設では,微生物担当の臨床検査技師が外来患者の検体採取に取り組んだという報告があるが8),検体検査担当者と同様に検体採取に適任かは不明である。

臨床検査技師は外来看護師から検体採取の依頼電話を受けた後,検体採取を開始していたにも関わらず,インフルエンザ検査依頼から検査開始までの所要時間は両職種ともに6分~10分がピークで変化を認めなかった。このことから,臨床検査技師は迅速に検体採取を実施していたと考えられる。他施設では,臨床検査技師が検体採取を実施することで,陽性外来患者の待ち時間が短縮した。待ち時間が短縮した理由としては,インフルエンザ検査の全ての過程を隔離室で実施するという新たな外来診療の形を構築したため,医師や看護師の動線が効率的となり待ち時間が短縮したと報告されている8)。当院では,従来から感染対策として,集団隔離された発熱患者待機場所にて検体採取を実施しており,元々効率的な動線であったため,検体採取所要時間に変化は認めなかったと考えられる。

インフルエンザ検査体制変更前は検体採取手技のマニュアルがなく,先輩看護師からの指導後は,知識・手技の確認は実施されていなかった。これに対して変更後は,臨床検査技師が正しい検体採取手技をバラツキなく実施できる検査体制を構築した。具体的には,厚生労働省指定検体採取研修や検査部内研修を受講する体制にした。さらに,検体採取マニュアルを検体採取場所に設置し,検体採取手技の遵守率をアンケート調査にて確認した。調査結果に基づいて個別研修やICT主催の研修会を開催するなどフォロー対策も実施した。最終的には臨床検査技師の正しい検体採取の遵守率は100%となった。他施設では,研修を実施して1年後のアンケート調査では追加研修を望む臨床検査技師が71%いたと報告されている7)。特にインフルエンザは季節性があるため,検体採取を実施しない時期が生じることから,検体採取の精度を保つためには,一度の研修では不十分であり,シーズン前には検体採取の手技を確認することが重要であると考えられる。今回は,患者の安全面と適切な検体採取という二つの意味で重要な手技である「スワブを鼻腔から耳孔に平行に挿入する」という内容を正しい検体採取手技として遵守率を確認した。他にも①スワブの正しい持ち方(患者の安全の為)②スワブ挿入は奥にあたるまで挿入する(適切な検体採取の為)③擦るようにして粘膜表皮を採取する(適切な検体採取の為)の遵守率も,今後確認していく必要があると考えられる9)

臨床検査技師が検体採取手技の精度管理を実施することによって,外来患者の検体採取手技の精度を保証したインフルエンザ検査体制が構築された。今後は全体の20%にあたる救急患者や病棟患者の検体採取を実施している看護師に対しても,正しい検体採取手技の精度管理を実施する必要がある。他施設では,看護師の18.0%が「スワブを耳孔に平行に挿入する」という手技を知らないと回答したと報告されている10)。このことから,臨床検査技師が看護師に対して正しい検体採取手技の教育訓練をしていくことが重要であると考えられる。

インフルエンザ検査の精度に影響する要因として,検査機器の性能も重要である。当院では「クイックチェイサーAUTO Flu A,B」を使用している。特徴は,銀増幅反応を利用した自動判定キットである。銀増幅反応を利用することにより,従来のキットより高感度に検査が可能である11)。さらに,結果判定が機器による自動判定で,従来の目視判定より客観的な判定が可能である12),13)。実際,従来のキットでは検出しにくい,発熱後6時間未満,小児,高齢者に多い傾向の高熱を伴わない患者14)の場合でも従来のキットより検出できたという報告がある15)。当院では,時間外の救急患者のインフルエンザ検査は全ての工程を看護師が実施している,普段慣れていない看護師が精度の高い結果を得るためにも自動判定は有用である。しかし,本キットは,検査時間が長い,複数検体同時に測定できないという短所もある。一般的な従来のキットの検査時間は8分~10分なのに対して,本キットは15分時間を要する3),12)。また,専用機器で検査するため,従来のキットのように複数検体を同時に検査することができない。なお,当院では専用検査機器を2台保有しているため,最大同時測定件数は2件である。

精度の高いインフルエンザ検査体制を構築することは,重症化予防と感染拡大防止という観点から重要であると考えられる。抗インフルエンザウイルス薬はウイルス増殖を抑制する効果があるため,発病後48時間以内に処方することが重要である16),17)。正しい検体採取の遵守率の向上や高感度の検査機器は,偽陰性を減らし,早期診断,早期治療に繋がるため重症化予防になると考えられる。当院は特に81歳~90歳の高齢層が多く,この点からも重要であると考えられる。さらに,陰性患者は通常の外来患者として対応するため,偽陰性を減らすことは,感染拡大防止という観点からも重要であると考えられる。

VII  結語

外来患者のインフルエンザ検体採取を看護師に代わって臨床検査技師が実施したことで,その結果,効率的で精度の高いインフルエンザ検査体制を構築することができた。従って,臨床検査技師としてチーム医療の中で大きな役割を果たすことができた。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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