2019 Volume 68 Issue 4 Pages 619-625
当院での血液培養の精度管理を行ったところ,汚染率が高いことが判明したため,汚染率を下げ,信頼性の高い検査を実施することを目的に,院内の血液培養検査マニュアルを改訂し,臨床現場での周知徹底に取り組んだ。調査期間は2016年4月から2017年9月までとし,改善前(2016年4月から9月)と改善後(2017年4月から9月)との比較を,過渡期を除いた同一期間について行った。当院のマニュアルは,改善前の消毒薬は「10%ポビドンヨードまたは消毒用アルコール」と記載していたが,改善後は「消毒用アルコールで消毒後,1%クロルヘキシジンアルコールで再度消毒すること」に変更し,これに伴い作用時間も変更した。また,適切な採血量も5 mLから10 mLに改訂した。改善前の汚染率は17.4%であったが,改善後は4.8%に減少した。陽性率も改善前は22.4%であったが,改善後は15.1%に減少した。また,改善前の分離菌株数は466株であったが,改善後は266株となり,検出菌株で比較すると汚染菌の代表であるコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negative staphylococci; CNS)は44.8%から21.8%へと著明に低下した。採血部位の皮膚消毒法の変更とこれらの操作を徹底させたことが採血時の汚染菌混入の著減に効を奏したと考えられた。
As a result of an quality control evaluation of blood culture at our hospital, we found that the contamination rate was high. Thus, to lower the contamination rate and conduct a highly reliable test, we revised the blood culture sampling manual. The investigation period was from April 2016 to September 2017. We compared the contamination rate between the period from April to September 2016 (hereinafter referred to as before improvement) and the period from April to September 2017 (hereinafter referred to as after improvement) excluding the transition period. The disinfectant indicated in our manual before improvement was 10% povidone iodine or alcohol. However, after improvement, we started to disinfect the skin with alcohol and then with 1% chlorhexidine alcohol. Along with this change, we revised the reaction time written in the manual. Also, we revised the appropriate amount of blood from 5 to 10 mL in the manual. The contamination rate before improvement was 17.4%, and after improvement, it decreased to 4.8%. Also, the positivity rate before improvement was 22.4%, and after improvement, it decreased to 15.1%. In addition, the number of strains detected before improvement was 466, and after improvement, it decreased to 266. CNS, which is a representative of bacterial contaminants, decreased markedly in positivity rate from 44.8% to 21.8%. It is considered that altering the skin disinfection method for the blood sampling site and correctly performing the disinfection operations were effective in reducing the contamination at the time of blood collection.
血液培養検査は,重症感染症の迅速な診断と抗菌薬治療に不可欠である。検査結果の信頼性を高めるためには複数セット採取が推奨され,汚染菌の混入を防ぐ,適切な採血手技が要求される。血液培養の精度保障には複数セット採取率,陽性率,汚染率などが指標として推奨されている1)。よりよい血液培養検査を行うため,精度管理を行ったところ汚染率が高いことが判明した。そこで血液培養検査の汚染率を下げることを目的に,当院の血液培養検査マニュアルの改訂,臨床現場への周知徹底に取り組んだ。
調査期間は2016年4月から2017年9月までである。改善前と改善後の比較は過渡期を除いて2016年,2017年ともに4~9月までの同一期間を集計し比較した。なお,消毒薬変更,マニュアルの改訂等に至るまでの啓発期間(2016年10月~2017年3月まで)を過渡期とした。
2. 血液培養法測定機器は2017年3月まではバクテアラート3D(ビオメリュー・ジャパン株式会社),ボトルはFA Plus培養ボトル(好気用)とFN Plus培養ボトル(嫌気用)を使用した。2017年4月以降はBDバクテックTMFXシステム(日本ベクトン・ディッキンソン株式会社)に変更し,ボトルはBDバクテックTM 23F好気用レズンボトルPとBDバクテックTM 22F嫌気用レズンボトルPを使用した。観察日数は両測定法とも7日間である。血液培養件数は,改善前は2,455セット,改善後は2,442セットを対象とした。
3. 検討項目と用語の定義各集計項目は「血液培養検査ガイド」に準じて以下のように定義し,算定した1)。有意差検定にはχ2検定を用い,p値は0.05未満を統計学的に有意差ありとした。
血液培養1セットとは1回の採血で得られた好気,嫌気培養ボトルの1セットを示す。複数セットとは同一日に2回以上採血して得られたセットを示す。血液培養依頼件数は1セットを1件として集計した。
1) 複数セット採取率複数セット採取率(%)=(合計採取セット数a)-合計SBCセット数)/合計採取セット数a) × 100
SBC(solitary blood culture):同一日に1セットのみの血液培養が提出された場合とした。
a)採取セット数はのべ症例数で集計した2)。
2) 陽性率陽性率(%)=陽性セット数/総セット数 × 100
3) 汚染率汚染率はコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(coagulase-negative staphylococci; CNS),Propionibacterium acnes,Micrococcus属,緑色連鎖球菌,Corynebacterium属,Bacillus属陽性例において,同日2セット以上血液培養が提出された症例における,1セットのみ陽性検体数/2セット以上提出検体数の合計と定義した。1セットのみ検出とは4本中1本のみ検出された場合,または4本中2本(同一セット)から同一菌が検出された場合を示す。また,2セット以上提出検体数の合計とは同日に複数セットの血液培養が提出されたのべ症例数とした2)。
4) 採取セット数1,000 patient-daysあたりの採取セット数:
1,000 patient-daysあたりの採取セット数=各年度の全採取セット数 ÷ 在院患者延数 × 1,000
5) 分離菌内訳の比較集計方法は同一患者,同一菌種の重複例は1株のみ集計した。検出菌は改善前と改善後をそれぞれ別々に集計して比較した。
4. 検査科による取り組み適切な血液培養検査の実施を目的に,以下の点について検討した。
1) 血液培養法の現状調査と変更点血液培養検査の現状について臨床側に聞き取り調査を行った。その結果,採血部位の消毒方法が統一されていないことと消毒後の作用時間が守られていないことが大きな問題として洗い出された。消毒方法は主な方法として次の3つのパターンが用いられていた。A.消毒用アルコールで消毒後,10%ポビドンヨードで消毒する方法,B.10%ポビドンヨードで消毒後,もう一度10%ポビドンヨードで計2回消毒する方法,C.10%ポビドンヨード1回のみで消毒する方法,である。作用時間については1.5~2分は長すぎるという意見が多く聞かれた。そこで,2017年3月に血液培養検査の採血法を見直し,消毒薬の変更や採血量を適切な方法に変更し,臨床側に周知徹底をお願いした。これらの主な変更点をTable 1に示す。消毒方法については消毒薬の変更とこれに伴い,作用時間も変更した。消毒薬は10%ポビドンヨード(ポビドンヨード外用液10%「マイラン」®,ファイザー株式会社)から1%クロルヘキシジンアルコール(ヘキザック® AL 1%OR綿棒12,ヨシダ製薬)に変更し,消毒方法はアルコールで消毒後に1%クロルヘキシジンアルコールで消毒する方法を徹底した。ただし,小児に用いる消毒薬はアルコールを使用している。また,1回採血量はボトル一本あたり原則として10 mLとした。それらの変更点を改訂し,採血手順を図示したマニュアルも作成した。マニュアルには改訂前と同様,改訂後も採血前には手指消毒を行うこと,採血者は滅菌手袋を装着することも記載した。
改善点 | 改善前 | 改善後 |
---|---|---|
消毒方法 | ①ポビドンヨード あるいは ②消毒用アルコール |
消毒用アルコール + クロルヘキシジンアルコール |
作用時間 | 約2分 | 約30秒 |
ボトル1本あたりの1回採血量 | 5 mL | 10 mL |
主に医師,看護師を対象に,院内各種会議で啓発活動を行った。Table 2は啓発活動を示す。
活動 | 対象 | 内容 | 時期 |
---|---|---|---|
啓発 | 院内臨床集談会 | 血液培養指標の調査報告 問題点の提示 |
2016年10月 ~ 2016年11月 |
ICC会議 | |||
部長会 | |||
ICC会議 | 実態調査報告 正しい採血手順による採血の啓発 |
2016年12月 ~ 2017年2月 | |
ICT会議 | |||
研修医カンファランス | |||
救急センターカンファランス | |||
ICC会議 | マニュアル改訂および新手順の周知 | 2017年4月~ | |
ICT会議 | |||
研修医検体採取研修会 | |||
消毒薬変更 | ICC会議 | クロルヘキシジンアルコールへの変更審議 | 2017年1月 |
パイロットスタディ | 救急センター,CCU・ICUにおいて複数の製品の使い勝手を調査 | ||
ICT会議 | 各部署の薬品セットへの定数化を審議 | ||
薬事委員会 | ヘキザックAL 1%OR12綿棒 新規採用決定 | 2017年3月 | |
用度課 | ヘキザックAL 1%OR12綿棒の定数補給手続き | ||
監視 | ICC会議 | 血液培養各種指標の月例報告 | 2017年4月~ |
ICT会議 |
ICC: Infection control committee
ICT: Infection control team
複数セット採取検体のうち1セットのみから汚染対象菌が検出されたものを汚染とし,検出された菌のグラム(Gram)染色鏡検,および同定・感受性検査にかかる検査所要時間と試薬費用を計算した。「Gram染色・鏡検」は塗抹標本作成から電子カルテ報告および電話報告を含めて1検体あたり40分,「同定・感受性検査」は1検体あたり1時間で計算した。試薬は,培地および同定・感受性検査の費用を1検体あたり2,457円で計算した。
費用の計算は4本中1本のみ汚染菌が検出された場合も,4本中2本(同一セット)から同一菌が検出された場合も汚染件数1件と数え,1件につき1菌種と仮定し,計算した。
Figure 1には複数セット採取率の比較を示す。複数セット採血が困難な小児科検体を除く成人のみで算出。小児科検体を除く複数セット採取のべ症例数は改善前が1,034症例,改善後は998症例であった。改善前と改善後ではそれぞれ6ヶ月の平均値を比較するとどちらも87%と大差はなかった。
左に示すのが改善前の月ごとの複数セット採取率と小児科検体を除く成人のみの合計採取セット数(採取セットはのべ症例数),右に示すのが改善後の月ごとの複数セット採取率と小児科検体を除く成人のみの合計採取セット数(採取セットはのべ症例数)である。
Figure 2には陽性率の比較を示す。American Society for Microbiology(ASM)のガイドラインでは,5%以下か15%を超える場合には原因を検索する必要があると指摘している3)。破線は5%と15%を指す。月ごとの比較では,改善前は20%を超えている月が多く,改善後は15%を中心にばらつきが小さくなった。6ヶ月の平均値を比較すると,改善前は22.4%,改善後は15.1%と有意に低下した(p < 0.01)。
左に示すのが改善前の月ごとの陽性率と総セット数,右に示すのが改善後の月ごとの陽性率と総セット数である。
Figure 3には汚染率の比較を示す。ASMのガイドラインでは目安として2~3%以下とする数値目標を示している3)。破線は2%と3%を指す。複数セット採取のべ症例数は改善前が1,039症例,改善後が1,001症例であった。月ごとの比較では改善前は13.4から22.8%と2~3%を大きく上回っていたが,改善後は2.4から6.8%と著しく低下した。6ヶ月の平均値を比較すると,改善前は17.4%,改善後は4.8%と有意に低下した(p < 0.01)。
左に示すのが改善前の月ごとの汚染率と複数セット採取検体数(同日に複数セットが提出されたのべ症例数),右に示すのが改善後の月ごとの汚染率と複数セット採取検体数(同日に複数セットが提出されたのべ症例数)である。
1,000 patient-daysあたりの採取セット数は改善前の2016年度は25.7,改善後の2017年度は26.2であった。
5) 分離菌の内訳と比較改善前の分離株数は466株,改善後は266株である。改善前後を,好気性グラム陽性球菌,好気性グラム陽性桿菌,好気性グラム陰性球菌,好気性グラム陰性桿菌,嫌気性グラム陽性菌,嫌気性グラム陰性菌,酵母様真菌の7つのグループに分類し,比較した。好気性グラム陽性球菌は,改善前は56.9%であり,改善後は44.7%と改善前に比べ,全体の約12%減少しており,有意差がみられた(p < 0.01)。好気性グラム陰性桿菌は,改善前は27.3%であり,改善後は41.0%と改善前に比べ全体の約14%増加しており,有意差がみられた(p < 0.01)が,この結果はCNSが減ったことにより,その反動で見かけ上増加した可能性がある。また,好気性グラム陽性桿菌(改善前7.1%,改善後6.0%),好気性グラム陰性球菌(0%,0%),嫌気性グラム陽性菌(4.5%,3.4%),嫌気性グラム陰性菌(1.9%,1.9%),酵母様真菌(2.4%,3.0%)であった。それらのグループの改善前と改善後については,有意な差はみられなかった。
Figure 4には分離菌の上位5種の菌およびその他の内訳を示す。両者の比較ではCNSが44.8%から21.8%に低下し(約23%低下),有意差がみられた(p < 0.01)。またBacillus sp.は5.8%から2.6%に低下し(3.2%低下),有意差はなかったが,減少傾向であった(p = 0.051)。一方,E. coliは13.7%から22.6%と相対的に割合が増えた(約9%増加)(p < 0.01)。
上に示すグラフは改善後の分離菌上位5種の菌,下に示すグラフは改善前の分離菌上位5種の菌である。
Table 3に改善前と改善後の汚染菌群のGram染色鏡検および同定・感受性検査にかかる所要時間,試薬費用を示す。汚染件数は,改善前は181件だったが,改善後は48件まで減少した。改善前に比べ,改善後の試薬費用は半年あたりで約32万円のコストダウンがみられ,検査にかかる所要時間は半年あたりで約220時間の短縮がみられた。
評価項目 | 汚染件数 | 試薬費用(円) | 所要時間(h) | |
---|---|---|---|---|
評価期間* | 改善前 | 181 | 444,717 | 301 |
改善後 | 48 | 117,936 | 80 |
*改善前,改善後ともそれぞれ6ヶ月間
血液培養の汚染は採血時に最も起こりやすいと考えられる1)。今回,消毒薬をポビドンヨードからクロルヘキシジンアルコールに変更した消毒効果と消毒後の作用時間が短縮されることが大きな利点であった。Mimozら4)は,クロルヘキシジンはポビドンヨードでみられる血液などの蛋白による作用の減弱がない上,アルコールの配合により殺菌作用が一層強力となり,血液培養の汚染を減少させる点でクロルヘキシジンアルコールはポビドンヨードより効果的であると報告している。今回のCNSの著減は啓発活動における消毒方法の徹底と消毒薬の作用時間厳守が影響していると思われる。採血方法の統一後,血液培養の汚染率は著明に低下した。また,検出菌はBacillus sp.も減少したが,クロルヘキシジンは本菌のもつ芽胞には無効とされている。減少した理由としては,改善後に徹底したアルコール綿による清拭が物理的に芽胞を除去した可能性が考えられる。汚染率が低下したことで検査試薬にかかるコストダウンや検査にかかる時間の短縮にもつながった。また,今回の費用の計算には人件費を含めていないが,実際にはこの面での費用の節約も加算されることになる。また,雑菌汚染を感染症の起炎菌と誤り,抗菌薬治療が行われたとすると,治療費や入院日数の増加を招き,さらに不必要な医療費を費やすことになる。Ganderらの報告5)では陰性および偽陽性のエピソード間の患者の平均費用の比較では1滞在あたりの追加費用は8,720ドルで,滞在期間の中央値は4日から5日へと増加した。また,汚染率を推奨レベルまで低下させることで,1年間でおよそ410万ドルの患者費用の削減を伴ったと報告している。
検出菌内訳の比較では,腸内細菌科に着目すると,改善前の検出は全体の24%であったが,改善後は全体の38%であったが,この結果はCNSの減少により見かけ上増加したものと考える。
今回の検討では改善前と改善後の測定機器は異なっているが,当院では機器の比較を行っていない。鎌倉らの報告6)によると,比較的分離株数の少ないS. pneumoniaeやCampylobacter sp.はバクテックグループからの分離率が,Candida sp.はバクテアラートグループからの分離率が有意に高率であったが,CNSやE. coli,MRSA,MSSA,K. pneumoniae等比較的分離株数の多い菌種に関しては両装置に差を認めなかったことを報告している。ゆえに本論文における汚染率や検出菌の内訳の統計に,機械の変更はそう大きな影響を及ぼしていないものと考えられる。
1,000 patient-daysあたりの採取セット数は血液培養を適切なタイミングで実施しているかどうかを評価する指標である。当院の1,000 patient-daysあたりの採取セット数は,改善前の2016年度は25.7,改善後の2017年度は26.2であった。これらの結果はCUMITECHの推奨値である103~188を大きく下回っている3)が,米国と日本では平均在院日数や医療機関の違い等があるため,一概に比較はできない。本邦における大曲らの報告7)では2009年集計の中央値(範囲)は25.2(10.4~64.2)であった。そのことから当院の成績では中央値と大差はみられなかった。陽性率は適切なタイミングで血液培養が実施されている場合,5~15%とされているが,当院の改善前はばらつきもあり,20%を超えている月が多かった。改善後では15%を中心にばらつきは小さくなり,全体的に低下した。改善前に比べ改善後は有意差がみられた(p < 0.01)。これは採血時の汚染例が減少したことが大きな要因と思われる。
2018年2月に全職員を対象に,血液培養の汚染率低下の取り組みとして勉強会を行った。また,毎月ICT会議で汚染率,陽性率,複数セット採取率について報告して啓発活動を行っている。活動以降,汚染率は改善前に比べると目標値に近い値(数%前後)であり,複数セット採取率は80%以上の高い値を維持している。陽性率は改善前に比べると,低下したものの,高い場合も認められる。汚染率が減ったことにより,陽性率は改善前に比べ低下していると考えられるが,15%以下まで低下させることが今後の課題である。陽性率が減少するためには血流感染が強く疑われる患者のみでなく,本来血液培養が推奨される患者に対して適切に実施されるなど,血液培養検査への意識が向上することが重要である8)。
今回,精度管理を行ったことで,当院の血液培養検査の問題点を明らかにし,改善することができた。このことは血液培養の臨床的意義を向上させ,感染症の診断と治療に貢献し抗菌薬の適正使用にもつながると考える。
本論文の要旨は第66回日本医学検査学会(2017年5月,千葉),第67回日本医学検査学会(2018年5月,静岡)にて発表した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。