2020 Volume 69 Issue 1 Pages 69-74
カンジダ種は口腔粘膜,腸管等に常在する二形性真菌であるが,日和見病原体としても知られている。カンジダ症はC. albicansが最多であるが,近年ではノンアルビカンスカンジダ(non-albicans Candida; NAC)症も増加傾向にある。細胞外分泌酵素(extracellular secretory enzymes; ESE)は宿主組織障害,カンジダ種の成長促進に関わっている。本研究ではカンジダ種のESEであるアスパラギン酸プロテアーゼ(secreted aspartyl protease; SAP),ホスホリパーゼ(phospholipase; PL),エステラーゼ,ヘモリジン,フィターゼ測定用寒天平板を作製し活性値をPrice(1982)らの方法を改変した方法にて評価した。C. albicansは全てのESEで陽性を示した。C. glabrataはPL,ヘモリジン,エステラーゼを中心に活性を認め,SAP,エステラーゼは活性を示さなかった。C. tropicalisはほぼ全てのESEで陽性を示したが,一部の株に活性を認めなかった。以上のことより本検討で用いたカンジダ種がESEを産生し,宿主に侵襲を与える可能性があることが示唆された。また活性値は菌種によって変動があることが示唆された。
Candida spp. are dimorphic fungal residents of the normal mucosa such as the oral cavity and intestinal tract. Candida albicans is the most common causative agent of candidiasis; however, an increase in the incidence of candidiasis caused by non-albicans Candida (NAC) spp. has been observed. Candida spp. have many pathogenic factors that contribute to the establishment of host infection, such as the production of extracellular secretory enzymes (ESEs). These enzymes are considered to be involved in host destruction and the growth of Candida. In this study, we aimed to measure the activities of ESEs [namely, secreted aspartyl protease (SAP), phospholipase (PL), esterase, hemolysin, and phytase] and compare them in both C. albicans and NAC species. The activities were calculated by the method reported by Price (1982) with modification. C. albicans was positive for all the ESEs. C. glabrata showed activities of mainly PL, hemolysin, and esterase, but no SAP activity or esterase. C. tropicalis was positive for almost all the ESEs, but some strains did not show activities of the ESEs. Candida spp. produce ESEs and may invade the host tissue. The amounts of ESEs produced by the different species and the differences among the species were also determined.
カンジダは二形性真菌として,口腔粘膜や胃や腸管,そして膣などの正常粘膜に常在している1)。しかしながら,カンジダ種は共生真菌や,日和見病原体としても存在している。カンジダ症は広範囲の化学療法患者やHIV患者のようなcompromised hostによって増加傾向にある2)。北米の医療施設において2,019人の患者から分離されたカンジダ種の調査では,Candida albicans(C. albicans)が45.6%と最も分離頻度が高く,それに続いてCandida glabrata(C. glabrata)が26.0%,Candida parapsilosis(C. parapsilosis)が15.7%であった3)。また,ブラジルのカンジダ血症研究によるとC. albicansが40.9%,続いてC. tropicalisは20.9%,C. parapsiloisが20.5%,C. glabarataが4.9%と続いた4),5)。これらのことよりC. albicansはカンジダ症の最多の原因真菌ではあるが,ノンアルビカンスカンジダ(non-albicans Candida; NAC)症も増加傾向にあり,有意なNAC種の発症率は各国で異なっている。
カンジダ種は宿主感染成立の為に寄与する病原因子が多く知られており,酵母から菌糸への形態変化,バイオフィルム形成による宿主免疫からの回避,宿主細胞への付着,細胞外分泌酵素の産生が挙げられる6),7)。またBorstら8)によれば,病原因子の発現は,地理的起源または感染の種類などがカンジダ分離株の特徴と関連している可能性があるとされ,感染症疫学の理解を助ける可能性がある。カンジダ種の細胞外分泌酵素には主としてアスパラギン酸プロテアーゼ(secreted aspartyl protease; SAP),ホスホリパーゼ(phospholipase; PL),ヘモリジンが知られており,これらの因子は宿主組織破壊,組織浸透,カンジダの成長促進作用に関わっているとされている9)。SAPは,病原遺伝子としてSAPファミリー(SAP1–10)が同定されており,ヒトアルブミン,ケラチンなどのタンパク質を分解することができ,また免疫グロブリンAを破壊する能力もSAP2遺伝子によってコードされている10)。PLは,カンジダ症の宿主組織への侵入および破壊に関与するので,重要な病原因子と考えられている。PLは,宿主生体膜中のリン脂質成分を分解し,細胞溶解をもたらし,付着を促進し,宿主細胞における感染を促進する11)。カンジダのヘモリジンの分泌とそれに続く鉄の獲得は,カンジダにおける菌糸浸潤を促進するとの報告がある12)。しかしながら,これらの研究はC. albicansに対したものがほとんどであり,NAC種の細胞外分泌酵素の研究は少ない7)。
そこで我々は測定用寒天培地を作製して,細胞外分泌酵素(SAP,PL,エステラーゼ,ヘモリジン,フィターゼ)の活性を測定し,さらにC. albicansとNAC種間で活性値の比較検討を行うことを目的とした。
大学病院で分離された,C. albicans 20株(呼吸器由来13株,泌尿器由来7株),NAC種として,C. glabrata 20株(呼吸器由来8株,泌尿器由来11株,血液由来1株)C. tropicalis 15株(呼吸器由来7株,泌尿器由来8株)を用いた。また精度管理株として,C. albicans ATCC90028を用いた。
2. 菌液調整と活性値評価法生理食塩水で1.5 × 10⁴ CFU/mLに調整した菌液を測定用培地に10 μL滴下し,細胞外分泌酵素活性をPriceら13)の方法を改変した方法で評価した。コロニーの直径(a)と沈殿ゾーンとコロニーを合算した直径(b)を測定しPz value(a/b)を算出し,Pz Valueを5つのクラスに分類した(Figure 1)。Pz value 1.0はNegative(0+);Pz value 0.90–0.99はweak producers(1+);Pz value 0.80–0.89はmild producers(2+);Pz value 0.70–0.79はstrong producers(3+);Pz value 0.69以下はvery strong producers(4+)と定義した。1枚の平板を3等分しPz valueの平均を求めた。そしてこれらの検討はそれぞれ各2回行った。
The colony diameter (a) and colony diameter plus precipitation zone (b) were measured with calipers, and extracellular secretory enzymes were defined as Pz value (a/b).
アスパラギン酸プロテアーゼ活性測定は牛アルブミン(bovine serum albumin; BSA)含有培地をAokiら14)の方法に準拠して作製した。滅菌精製水60 mLに硫酸マグネシウム7水和物(Kanto Chemical CO. INC., Tokyo, Japan)0.04 g,リン酸二カリウム(Wako Pure Chemical Industries, Osaka, Japan)0.5 g,塩化ナトリウム(Wako Pure Chemical Industries)1.0 g,酵母エキス(BD Diagnostics, Sparks, MD, USA)0.2 g,グルコース(Wako Pure Chemical Industries)4.0 g,BSA(Wako Pure Chemical Industries)0.5 gを加え1規定の塩酸(Wako Pure Chemical Industries)でpH 3.5に調整した。溶液をろ過滅菌し,細菌用寒天3.0 gを140 mLの精製水に溶かし,121℃ 20分オートクレーブ滅菌後,混合した。調整した菌液を培地に滴下し,35℃好気環境下で7日間培養後判定した。
4. PL活性測定ホスホリパーゼ活性測定はPriceら13)の方法に準拠して行った。1 L当たり,麦芽寒天培地(Nissui, Tokyo, Japan)45 g,塩化ナトリウム1 mol/L,塩化カルシウム(Kanto Chemical CO. INC)0.005 mol/L,卵黄液を終濃度4%になるように加え,培地を作製した。調整した菌液を培地に滴下し,35℃好気環境下で5日間培養後判定した。
5. エステラーゼ活性測定エステラーゼ活性測定はZiccardiら15)の方法に準拠して行った。100 mL当たり,ハイポリペプトン(Wako Pure Chemical Industries)1.0 g,塩化ナトリウム0.5 g,塩化カルシウム0.01 g,細菌用寒天(OXIOID LTD., England)1.5 gを加え121℃ 20分オートクレーブ滅菌した。約50℃に冷却後コルベンにTween80(Tokyo Chemical Industry CO. LTD., Tokyo, Japan)を0.5 mL加え,培地を作製した。調整した菌液を培地に滴下し,35℃好気環境下で5日間培養後判定した。
6. ヘモリジン活性測定ヘモリジン活性測定はMannsら16),Luoら17)の方法に準拠して行った。100 mLのサブロー寒天培地(Nissui, Tokyo, Japan)に7%のヒツジ血液を加え,そこに最終濃度3%となるようにグルコースを加え培地を作製した。調整した菌液を培地に滴下し,37℃,5%炭酸ガス環境下で48時間培養後判定した。
7. フィターゼ活性測定フィターゼ活性測定は,Tsang18)の方法に準拠して行った。100 mL当たり,グルコース1 g,硫酸アンモニウム(Wako Pure Chemical Industries)0.05 g,塩化カリウム(Wako Pure Chemical Industries)0.02 g,硫酸マグネシウム7水和物0.01 g,フィチン酸カルシウム(Tokyo Chemical Industry CO. LTD.)0.02 g,硫酸マンガン(Alfa Aesar, Heysham, England)0.0005 g,硫酸鉄(II)7水和物(Hayashi Pure Chemical Ind., Osaka, Japan)0.0005 g,細菌用寒天1.5 gを加え,培地を作製した。調整した菌液を培地に滴下し,35℃好気環境下で48時間培養後判定した。
細胞外分泌酵素活性測定結果を百分率表示しTable 1に示した。またPz valueの活性範囲,平均値の結果をTable 2に示した。
C. albicans (n = 20) | C. glabrata (n = 20) | C.tropicalis (n = 15) |
||
---|---|---|---|---|
Secreted aspartyl protease (SAP) | (4+) | 100 | 0 | 0 |
(3+) | 0 | 0 | 0 | |
(2+) | 0 | 0 | 53.0 | |
(1+) | 0 | 0 | 27.0 | |
(0+) | 0 | 100 | 20.0 | |
Phospholipase (PL) | (4+) | 40.0 | 10.0 | 20.0 |
(3+) | 55.0 | 15.0 | 67.0 | |
(2+) | 5.0 | 45.0 | 13.0 | |
(1+) | 0 | 0 | 0 | |
(0+) | 0 | 30.0 | 0 | |
Esterase | (4+) | 90.0 | 0 | 93.0 |
(3+) | 10.0 | 0 | 0 | |
(2+) | 0 | 0 | 0 | |
(1+) | 0 | 0 | 0 | |
(0+) | 0 | 100 | 7.0 | |
Hemolysin | (4+) | 100 | 100 | 100 |
(3+) | 0 | 0 | 0 | |
(2+) | 0 | 0 | 0 | |
(1+) | 0 | 0 | 0 | |
(0+) | 0 | 0 | 0 | |
Phytase | (4+) | 100 | 85.0 | 100 |
(3+) | 0 | 0 | 0 | |
(2+) | 0 | 0 | 0 | |
(1+) | 0 | 0 | 0 | |
(0+) | 0 | 15.0 | 0 |
Extracellular secretory enzymes | C. albicans (n = 20) | C. glabrata (n = 20) | C. tropicalis (n = 15) | |||
---|---|---|---|---|---|---|
Range (Pz) | Mean ± SD (Pz) | Range (Pz) | Mean ± SD (Pz) | Range (Pz) | Mean ± SD (Pz) | |
Secreted aspartyl protease (SAP) | 0.45–0.67 | 0.57 ± 0.06 | 1.00 | 1.00 | 0.84–1.00 | 0.84 ± 0.06 |
Phospholipase (PL) | 0.56–0.83 | 0.70 ± 0.06 | 0.68–1.00 | 0.86 ± 0.11 | 0.68–1.00 | 0.85 ± 0.09 |
Esterase | 0.40–0.76 | 0.53 ± 0.10 | 1.00 | 1.00 | 0.42–1.00 | 0.49 ± 0.14 |
Hemolysin | 0.42–0.51 | 0.45 ± 0.02 | 0.39–0.48 | 0.44 ± 0.02 | 0.39–0.48 | 0.43 ± 0.02 |
Phytase | 0.29–0.51 | 0.37 ± 0.05 | 0.33–1.00 | 0.53 ± 0.21 | 0.27–0.46 | 0.35 ± 0.05 |
C. albicansはSAP,ヘモリジン,フィターゼはすべてにおいて(4+)を示し,平均値はそれぞれ0.57 ± 0.06,0.45 ± 0.02,0.37 ± 0.05であり,活性値も最も高かった。PLは(4+)が40.0%,(3+)が55.0%,(2+)が5.0%であり,平均値は0.70 ± 0.06であった。エステラーゼは(4+)が90.0%,(3+)が10.0%であり,平均値は0.53 ± 0.10であった。
C. glabrataはヘモリジンのみすべて(4+)を示し,平均値は0.44 ± 0.02であった。それに対し,SAP,エステラーゼはすべて(0+)であった。PLは(4+)が10.0%,(3+)が15.0%,(2+)が45.0%であり,(0+)が30.0%であり,平均値は0.86 ± 0.11であった。フィターゼは(4+)が85.0%,(0+)が15.0%でり,平均値は,0.53 ± 0.21であった。
C. tropicalisはヘモリジン,フィターゼはすべて(4+)を示し,平均値はそれぞれ0.43 ± 0.02,0.35 ± 0.05であった。また,SAPは(2+)が53%,(1+)が27%,(0+)は20%であり,平均値は0.84 ± 0.06であった。PLは(4+)が20.0%,(3+)が67.0%,(2+)が13.0%であり平均値は0.85 ± 0.09であった。エステラーゼは(4+)が93.0%であり,1株のみが(0+)を示し,平均値は0.49 ± 0.14であった。
SAPは宿主組織破壊,免疫グロブリンAの不活化などの役割を担う酵素である。C. albicansが持つSAP病原遺伝子はこれまでの研究でSAPファミリーであるSAP1–10までが同定されている。そのうち,SAP2は基質特異性,至適pHが広いことが先行研究で知られている。この特徴が様々な身体箇所での感染を可能にしている10)。本研究では,C. albicansの活性値が最も高く,続いてC. tropicalis,そしてC. glabrataが最も低くなった。これはrapid fluorescence based assayでSAP活性を測定したCapobiancoらの報告を支持する結果となった10),19)。C. tropicalisはSAPT病原遺伝子が同定されており,本研究においてもこれらが培地中のBSAを分解したと考えられる20),21)。C. glabrataは他者の研究ではSAPを産生したという報告22)があったが,本研究とは対照的であった。今回検討したC. glabrata 20株においては,SAP産生株はみられなかった。
PLはリン脂質を加水分解する酵素であり,宿主細胞膜構成成分である脂質を分解する23)。本研究では,PLの活性値はC. albicans(0.70 ± 0.06)が最も高く C. tropicalis(0.85 ± 0.09),C. glabrata(0.86 ± 0.11)のNAC種は同程度であった。C. albicansのSAPやPL,Esteraseなどの活性が高いことがC. albicansによる感染力が最も高い一因になっていると示唆された。
鉄は,生物が生存するために必要な因子である。ヒト体内には遊離鉄が循環していないため,カンジダはヘモグロビンなどから鉄源を獲得する必要がある。その生存の為に用いられるのが,ヘモリジンである17),24)。C. glabrataやC. tropicalisはすべてin vitroでヘモリジンを産生するが,系統や種によって活性値が異なるといわれている25)。しかし本研究では,全種において(4+)を示し,活性値も種間に差はなかった。この結果から本研究で用いたカンジダ種のヘモリジンは強い活性を示している可能性が示唆された。
エステラーゼは脂肪酸を加水分解する酵素であり,PLと同様に,細胞浸透,細胞膜破壊,宿主細胞への接着等に関わっているとされている22)。今回検討したエステラーゼ測定用培地はTween80が添加されており,主にオレイン酸を含んでいる。産生株はそれを加水分解し,培地上に沈殿ゾーンを形成したと考えられる。本研究ではC. glabrataは全株,C. tropicalisでは1株のみが活性を示さなかった。一方ブラジルの病院で分離されたC. glabrataは優れた活性を示し,56%が活性を示した22)。我々の結果と乖離した要因として地理的起源,地理的状況などが考えられ,今後さらなる検討が必要である。
フィターゼはフィチン酸(myo-inositol hexakisphosphate)からリンとイノシトールに分解する酵素である。いずれも生細胞に必要な酵素であり,リンは核酸,ATP,リン脂質の構成要素であり,イノシトールは膜形成,浸透圧調節に関与している。本研究ではほぼ全ての株において(4+)であり,Tsangら18)の結果に類似していたが,それらよりも活性値が高値であった。このことより,本研究で用いたカンジダ種のフィターゼは強い活性を示している可能性が示唆された。
以上のことより,C. albicansがNAC種より細胞外分泌酵素がより強い活性を示す傾向があると考えられた。またブラジルで分離されたC. glabrataはSAP活性を示していたが,本研究で分離されたC. glabrataはSAP活性が確認されなかった。このように細胞外分泌酵素活性値には,地域差が関係していると考えられ,種によっても変化している可能性が考えられた。しかし検討株数が少ないため,今後は検討株数をさらに増やして比較していく必要があると考えられた。
本研究では,カンジダ属がSAP,PL,エステラーゼヘモリジン,フィターゼといった細胞外分泌酵素が寒天平板上で産生した。細胞外分泌酵素の産生性を調べた。またその活性値は菌種,国などによって変動があることが考えられた。さらに他の病原因子との関連性を検討することによってカンジダ種への病原性を理解する助けとなる。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。