Japanese Journal of Medical Technology
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Characteristics and longitudinal kinetic analysis of carbapenem-resistant Escherichia coli detected in a northern Osaka Prefecture medical facility
Minase MAKIHiroyuki ITAGAKIYuji NAKADA
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2020 Volume 69 Issue 1 Pages 10-16

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Abstract

薬剤耐性菌の蔓延が世界的に深刻な課題となり久しい。現在,基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrum beta-lactamase; ESBL)産生菌やカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(carbapenem resistant Enterobacteriaceae; CRE)の出現が問題となっている。本邦では,2014年に確認された大阪市内医療施設でのCREによる医療関連感染が,初期事例として詳細に報告されている。今回大阪府北部所在の医療施設にて,2012年以降4年間で検出されたカルバペネム耐性Escherichia coli 25菌株を対象とし薬剤耐性因子を解析した結果,全ての菌株がCTX-M-2 groupのESBL遺伝子を,24菌株がIMP-6型のメタロ-β-ラクタマーゼ遺伝子を保持していた。これらは大阪市内の事例で報告された特徴と一致し,2012年にはすでに大阪府北部でも同様な菌株が検出されていたことを示す結果となった。さらにPCR-based ORF typing法による菌株識別を行い経年的な動態を解析した結果,年々検出菌株数および多様性が増していることが明らかとなった。また,2016年には本邦での報告が稀な,Amikacinに対しても耐性を示すアセチル化修飾酵素産生株が検出されたことから,今後の動向を注視する必要がある。

Translated Abstract

The spread of antibiotic-resistant bacteria has long been a serious global problem. At present, carbapenem antibiotics are used as drugs of last resort against antibiotic-resistant bacterial infections caused by extended-spectrum β-lactamase (ESBL)-producing Enterobacteriaceae. However, the emergence of carbapenem-resistant Enterobacteriaceae (CRE) renders this treatment ineffective. In Japan, a health-care-associated infection with CRE at a medical facility in Osaka City was recorded in 2014 and has been reported extensively as one of the earliest known incidents of CRE infection. In this study, 25 strains of carbapenem-resistant Escherichia coli detected in a medical facility in northern Osaka Prefecture during a 4-year period, beginning in 2012, were compared to the strains involved in the incident that occurred in Osaka City. Upon analyzing the genetic factors responsible for drug resistance, it was found that all strains contained the CTX-M-2 group of ESBL genes. In addition, 24 strains contained the IMP-6-type metallo-β-lactamase gene. This corresponds to the characteristics of the drug-resistant Enterobacteriaceae reported in the Osaka City incident, suggesting that by 2012, similar strains of Enterobacteriaceae had already been detected in northern Osaka. In addition, when PCR-based ORF typing was performed and the longitudinal dynamics analyzed, it was found that there was an annual increase in the number and diversity of detected strains. Besides, in 2016, a strain of carbapenem-resistant E. coli, which was very rarely reported in Japan, was also found to be resistant to amikacin. Consequently, it is necessary to closely monitor this strain from this point onward.

I  はじめに

以前より懸念されていた薬剤耐性菌の蔓延が,近年世界的に深刻な課題となっている。2015年に世界保健機関は加盟国に対し,薬剤耐性菌に対する啓発・教育やサーベイランス,感染予防管理等の項目を対象に,行動計画の立案を求めるグローバルアクションプランを公表1)した。2016年には本邦でも薬剤耐性アクションプランが策定2)されるなど,積極的な対応が求められている。

現在,主にグラム陰性菌に対する感染症治療の切り札として,β-ラクタム系の細胞壁合成阻害剤であるカルバペネム系抗菌薬が用いられている。しかし,以前より報告3)されているカルバペネム系抗菌薬に耐性を示すPseudomonas aeruginosaAcinetobacter baumanniiに加え,近年Escherichia coliKlebsiella pneumoniaeなどの腸内細菌科細菌でも耐性株が急増4)し,問題となっている。

β-ラクタム系抗菌薬に対する重要な耐性機構の一つとして,β-ラクタマーゼによる抗菌薬の不活化が挙げられる。中でも第3世代セファロスポリンの分解能を獲得した基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ(extended-spectrum beta-lactamase; ESBL)や,カルバペネム系抗菌薬を分解するメタロ-β-ラクタマーゼ(metallo-beta-lactamase; MBL)の拡散に注意が払われている。ESBLには,Ambler分類でクラスAに属するCTX-M型,TEM型,SHV型やクラスDのOXA型などが,MBLにはクラスBに属するIMP型,VIM型,NDM型などが含まれ,さらにそれぞれの型には亜型が存在しグループ化されている5)。特にMBLはカルバペネム系抗菌薬を含むほぼ全てのβ-ラクタム系抗菌薬に耐性をもたらすため最も危険なβ-ラクタマーゼとして知られており,本邦ではIMP-1 groupの検出頻度が高い6)。これらの耐性遺伝子は伝達性プラスミドにより,菌種や菌株を超えて伝播する特徴を持つ7)ことから注視されている。

本邦におけるカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(carbapenem resistant Enterobacteriaceae; CRE)の動向調査は,厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業8)などにより行われている。現在のところ,CREの拡散の程度は海外の報告9)に比べると低い状態であるが,今後の増加が懸念されている。初期事例として,2014年には大阪市内の医療施設において,2010年から2014年までの4年間で112名の患者からMBL産生CREが検出された大規模な医療関連感染の発生が詳細に報告10)されており,一部の菌株において実施された薬剤耐性因子解析の結果では,CTX-M-2 groupのESBL遺伝子とIMP-6型のMBL遺伝子を保持していたこと,無症状の保菌患者も多く存在していたことなどが明らかとなっている。

我々はこれまでに,大阪市内での初期事例発生と同時期に大阪府北部所在の医療施設にて検出されたカルバペネム耐性E. coliを対象とし,一部の薬剤耐性因子解析を速報11)している。今回これらを含む同一施設での長期にわたるカルバペネム耐性E. coli検出株を対象とした,詳細な薬剤耐性因子解析による初期事例菌株との比較,菌株識別による動態解析および経年推移を明らかにすることを目的とした。また,薬剤感受性試験の結果,本邦で検出されるCREの多くが感性を示す8)アミノグリコシド系抗菌薬であるAmikacin(AMK)に対し耐性を示した菌株について,その耐性因子を解析した。

II  対象および方法

1. 対象菌株

大阪府北部所在の慢性期療養患者が多数を占める病床約1,000床のケアミックス医療施設において,2012年6月から2016年5月までの4年間に検査したE. coli 1,328株中,異なる患者から検出されたMeropenem(MEPM)およびDoripenem(DRPM)のMIC値が≥ 4 μg/mLを示すカルバペネム耐性E. coliを対象菌株とした。

2. 薬剤感受性試験

対象菌株に対するPiperacillin(PIPC),Sulbactam/Ampicillin(S/A),Ceftazidime(CAZ),Sulbactam/Cefoperazone(S/C),MEPM,DRPM,AMK,Levofloxacin(LVFX)の薬剤感受性試験をWalkAway system plus(Beckman Coulter)を用いて行った。薬剤パネルにNeg EN Combo 1Jを使用し,測定方法はClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)のガイドライン12)に準拠し,感性(susceptible; S),中間(intermediate; I),耐性(resistant; R)と判断した。

3. SMA法によるMBL産生株のスクリーニング

対象菌株のMBL産生についてSMA法13)により確認した。McFarland標準濁度0.5となるように調整した菌液を滅菌綿棒に浸し,ミュラーヒントン寒天培地全体に塗沫し,Imipenem(IPM)ディスクおよびCAZディスク(日本ベクトン・ディッキンソン)と隣接してメタロ-β-ラクタマーゼSMA‘栄研’(栄研化学)を静置した。24時間培養後IPMディスク周囲の阻止帯がSMAディスク側に拡大した場合にMBL産生陽性と判定した。

4. PCRによるIMP型MBL遺伝子検出

シカジーニアスDNA抽出試薬(関東化学)を用い,添付文書に従って培養・抽出した各菌株のトータルDNAを鋳型とし,Yanらの方法14)に準じてPCRによるIMP型MBL遺伝子検出を行った。PCRはDNAポリメラーゼにKOD-plus(TOYOBO),サーマルサイクラーにGeneAmp PCR System 2700 thermal cycler(Applied Biosystems)を用い,初期熱変性を94℃で2分行った後,94℃:30秒-57℃:30秒-68℃:1分を27サイクル,最後に68℃で2分伸長する反応条件にて行い,アガロースゲル電気泳動で確認した。

5. IMP型MBL遺伝子のDNA配列解析

MBLのIMP型を特定するため,前述のPCR産物を定法15)に従いクローニングし,DNA配列解析を行った。各菌株のPCR産物と,HincII(TOYOBO)で制限酵素処理したpUC118とをDNA Ligation Kit Ver. 1(TAKARA)を用いて添付文書に従いライゲーションし,E. coli DH5 α株への形質転換,プラスミド精製を行った。BigDye® Terminator v3.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystems)を用いてシークエンス反応後,DNAシークエンサー(PRISM3130,ABI)にてDNA配列を決定した。また,得られたDNA配列の相同性解析にBLAST16)を用いた。

6. PCR-based ORF Typing(POT)法による菌株識別,ESBL遺伝子検出

対象菌株のトータルDNAを鋳型とし,シカジーニアス分子疫学解析POTキット(大腸菌用)(関東化学)を用いて添付文書に従いPOT法17)による菌株識別を実施した。

また,E. coliのPOT法では増幅の対象となる特定遺伝子領域にCTX-M-1,-2,-9 groupのESBL遺伝子が含まれることから,各菌株におけるESBL遺伝子保有状況についても明らかにした。

7. AMK耐性因子解析

薬剤感受性試験でAMKに耐性を示した菌株について,アセチル化修飾酵素であるAAC(6')-IaeもしくはAAC(6')-Ibの産生確認をイムノクロマト法であるクイックチェイサーIMP/AAC(ミズホメディー)を用い添付文書に従い実施した。

また,クイックチェイサーIMP/AACでは同時にIMP型MBLの検出も可能であることから,必要に応じてIMP型MBL産生確認に用いた。

III  結果

1. 薬剤感受性試験

薬剤感受性試験により,MEPMおよびDRPMに耐性を示すカルバペネム耐性E. coliが25菌株得られた(Table 1)。LVFXに対し24菌株が耐性を示し,AUH-201のみ感性を示した。また,AMKに対し24菌株が感性を示したが,AUH-256のみ耐性を示した。その他の薬剤感受性試験結果は全て共通していた。

Table 1  Antibacterial susceptibility tests of carbapenem-resistant E. coli
Strain Breakpoint* Period
Number of strains
PIPC S/A CAZ S/C MEPM DRPM AMK LVFX
AUH-81 R R R R R R S R 2012.06~2013.05
5 strains
AUH-84 R R R R R R S R
AUH-89 R R R R R R S R
AUH-96 R R R R R R S R
AUH-107 R R R R R R S R
AUH-136 R R R R R R S R 2013.06~2014.05
4 strains
AUH-137 R R R R R R S R
AUH-139 R R R R R R S R
AUH-140 R R R R R R S R
AUH-150 R R R R R R S R 2014.06~2015.05
7 strains
AUH-156 R R R R R R S R
AUH-157 R R R R R R S R
AUH-161 R R R R R R S R
AUH-168 R R R R R R S R
AUH-172 R R R R R R S R
AUH-180 R R R R R R S R
AUH-193 R R R R R R S R 2015.06~2016.05
9 strains
AUH-201 R R R R R R S S
AUH-210 R R R R R R S R
AUH-229 R R R R R R S R
AUH-231 R R R R R R S R
AUH-246 R R R R R R S R
AUH-251 R R R R R R S R
AUH-254 R R R R R R S R
AUH-256 R R R R R R R R

* AUH-81~AUH-14011)

2. IMP型MBL解析

SMA法により,全ての菌株がMBL産生株であることが明らかとなった(Table 2)。また,IMP-1 groupのMBL遺伝子検出用プライマーを用いたPCRの結果,AUH-193以外の24菌株が陽性を示し,さらに陽性を示したPCR産物のDNA配列解析の結果,全てIMP-6型のMBL遺伝子を保持していることが明らかとなった。また,AUH-193はクイックチェイサーIMP/AACにより,IMP型のMBLを産生していることが確認された(Table 2)。

Table 2  The strains classification by the POT method and antibiotic resistance factors analysis of carbapenem-resistant E. coli
Strain POT number ESBL MBL* IMP·AAC Period
Number of strain types
by POT method
POT-1 POT-2 POT-3 CTX-M-1 group CTX-M-2 group CTX-M-9 group SMA test PCR detection DNA sequence immuno­chromatography
AUH-81 49 191 238 + + + + IMP-6 N.D. 2012.06~2013.05
3 types
AUH-84 49 191 238 + + + + IMP-6 N.D.
AUH-89 49 184 232 + + + IMP-6 N.D.
AUH-96 49 191 238 + + + + IMP-6 N.D.
AUH-107 49 218 19 + + + + IMP-6 N.D.
AUH-136 49 135 190 + + + + IMP-6 N.D. 2013.06~2014.05
4 types
AUH-137 49 191 254 + + + + IMP-6 N.D.
AUH-139 49 178 83 + + + + IMP-6 N.D.
AUH-140 49 242 19 + + + + IMP-6 N.D.
AUH-150 49 255 238 + + + + IMP-6 N.D. 2014.06~2015.05
6 types
AUH-156 49 199 38 + + + + IMP-6 N.D.
AUH-157 49 199 38 + + + + IMP-6 N.D.
AUH-161 49 189 254 + + + + IMP-6 N.D.
AUH-168 49 191 238 + + + + IMP-6 N.D.
AUH-172 49 182 106 + + + IMP-6 N.D.
AUH-180 49 178 83 + + + + IMP-6 N.D.
AUH-193 49 186 83 + + + N.D. IMP 2015.06~2016.05
7 types
AUH-201 17 128 154 + + + IMP-6 N.D.
AUH-210 49 178 83 + + + + IMP-6 N.D.
AUH-229 49 186 83 + + + + IMP-6 N.D.
AUH-231 49 182 106 + + + IMP-6 N.D.
AUH-246 49 164 164 + + + IMP-6 N.D.
AUH-251 49 213 162 + + + + IMP-6 N.D.
AUH-254 49 164 164 + + + IMP-6 N.D.
AUH-256 49 154 19 + + + + IMP-6 IMP·AAC

*: AUH-81~AUH-14011)

N.D.: Not determined

3. POT法による菌株識別,ESBL遺伝子検出

POT法の結果,カルバペネム耐性E. coli 25菌株は16種類に分類され,AUH-201を除く24菌株のPOT-1値が49を示した(Table 2)。POT-1値は系統依存性を示す18)ことから,24菌株は起源を同じくする派生株であることが明らかとなった。

ESBL遺伝子検出の結果,全ての菌株がCTX-M-2 groupの遺伝子を保持していた。また,CTX-M-2 groupの遺伝子のみを保持する菌株と,CTX-M-2 groupの遺伝子に加えCTX-M-1 groupまたはCTX-M-9 groupの遺伝子を併せ持つ菌株の3種類に分類された(Table 2)。

4. AMK耐性因子解析

AMK耐性を示すAUH-256について,クイックチェイサーIMP/AACによるアセチル化修飾酵素の産生を確認した結果,AAC(6')-IaeまたはAAC(6')-Ibもしくは両酵素の産生が明らかとなった(Table 2)。

IV  考察

本邦で生じたCREによる医療関連感染の初期事例である大阪市内の医療施設での報告10)は,2010年から2014年までの4年間に検出された菌株を対象としている。今回,当該事例と重複する期間を含む2012年から2016年までの4年間で,大阪府北部所在の医療施設にて検出されたカルバペネム耐性E. coli 25菌株について,薬剤耐性因子解析および菌株識別を実施し,大阪市内での事例との比較を行った。

カルバペネム耐性因子解析の結果,25菌株全てがIMP型MBLを産生し,AUH-193を除きIMP-6型MBL遺伝子の保持が確認された。カルバペネム耐性株では外膜透過性の低下等によるカルバペネマーゼ非産生株6)も検出されることが知られているが,今回の検出株は全てがIMP型MBL産生株であるという特徴が見られた。また,ESBL遺伝子検出では全ての菌株がCTX-M-2 group遺伝子を保持していた。大阪市内の事例報告書10)によると,解析が可能であったCREの多くからIMP-6およびCTX-M-2遺伝子を併せ持つIncNのプラスミドが検出されたことが報告されている。今回の解析により保持する薬剤耐性遺伝子が大阪市内の事例で報告された特徴と一致したことから,2012年にはすでに大阪府北部でも同様の菌株が検出され,その後主要なCREとして定着していることを示す結果となった。また,IMP-6型のMBLはIMP-1型MBLのアミノ酸配列の一部が置換したIMP-1 groupに含まれ,IPMよりMEPMを分解しやすいという特徴がある19)。そのため,IMP-6型MBLを産生する菌株はIPMに対して感性を示すことがあり,検出や接触感染予防策の実施が遅れる危険性を備えることから「ステルス型」と呼ばれている。今回MBL産生確認のために実施したSMA法ではIPMディスクを用いて行った。対象菌株では阻止帯の拡大が確認されたが,より確実に検出するためにはMEPMディスクの使用が望ましいと言える。現在このステルス型のCREは大阪府近隣においても広く拡散していると考えられるため,特にIMP-6型MBLの特徴を踏まえた検査を行う必要がある。

遺伝子解析による菌株識別法には,パルスフィールドゲル電気泳動法やmulti-locus sequence typing(MLST)法などが知られている。今回用いたPOT法は,対象菌株が保持する複数の特定遺伝子領域をマルチプレックスPCRにて増幅し,アガロースゲル電気泳動で確認されたPCR産物のパターンを数値表記する菌株識別法であり,検査工程が比較的簡便であることや,他地域検出株との比較を数字により容易に行うことが可能となるなどの特徴を備えている17)。POT法の結果,系統依存性を示すPOT-1値が25菌株中24菌株で49となった。POT-1値が49の菌株は,臨床分離株として優勢であるsequence type(ST)131である18)ことが知られており,今回検出されたカルバペネム耐性E. coliもAUH-201を除きST131系統株であった。AUH-201はLVFXに感性を示すことから,多くの菌株でゲノム上にキノロン耐性となる変異を持つことが知られているST131系統株20)とは異なる系統であることを支持している。

菌株動態解析では,2012年6月から2013年5月までの1年間に検出された5菌株のPOT値は3種類であった。しかし4年後の2015年6月から2016年5月までの1年間では9菌株7種類が検出され,菌株の検出数および種類は経年的に増加し,多様化していることが明らかとなった(Table 2)。またAUH-193とAUH-229について,POT値は同一であったがIMP-1グループ遺伝子の検出ではAUH-193が陰性,AUH-229が陽性と異なる結果を示した。このことからAUH-193は他のIMPグループ型MBLを保持していることや,今回用いた検出用プライマー配列14)に相当する領域が変異しているなどの可能性が考えられる。今後IMP型MBL検出用プライマーを変更し,これらについて明らかにする予定である。

本邦で検出されるCREのほとんどはアミノグリコシド系薬であるAMKに感性である7)が,諸外国では,アセチル化修飾酵素によりAMK耐性となるCRE菌株21)が知られている。これらの多くは,汎用されるほぼすべての系統の抗菌薬に耐性を示すことから大きな問題となっている。今回の薬剤感受性試験にてAMKに対して耐性を示すAUH-256が検出されたことから,この菌株が備えるAMK耐性因子を検討した結果,P. aeruginosaなどで報告22)されるアセチル化修飾酵素(AAC(6')-IaeまたはAAC(6')-Ibもしくは両酵素)を産生していることを本邦で検出されたカルバペネム耐性E. coliで初めて明らかにした。今後,このアセチル化修飾酵素の詳細について解析する予定である。

カルバペネム系抗菌薬耐性遺伝子や,アミノグリコシド修飾酵素遺伝子の多くは,プラスミドにより菌株や菌種を超えて伝播する9),21)ことが知られているため,今後カルバペネム系抗菌薬に対する耐性菌の動向に加え,AMKへの耐性化についても警戒する必要がある。

V  結語

2012年から2016年に,大阪府北部の医療施設にて異なる患者から検出されたカルバペネム耐性E. coli 25菌株すべてがCTX-M-2 groupのESBL遺伝子およびIMP型のMBL遺伝子(24菌株はIMP-6型のMBL遺伝子)を保持しており,同時期に大阪市内で報告された菌株と特徴が一致した。また,AMKに対しても耐性を獲得したアミノグリコシド系抗菌薬のアセチル化修飾酵素産生菌株の存在が明らかとなり,今後の動向を注視する必要があることが示唆された。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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