Japanese Journal of Medical Technology
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Changes in serum levels of hepatic fibrosis markers in chronic hepatitis C patients during the therapy of direct acting antivirals
Ryosuke JINOKATatsunori TAKAHASHIYukimitsu NISHIOKANoriko NISHIYAMAYasunori MORIYAMAMasataka NISHIYAMAHironori OCHIKouji JOKO
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2020 Volume 69 Issue 1 Pages 75-81

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Abstract

肝線維化評価のゴールドスタンダードは肝生検であるが,より低侵襲な血清学的肝線維化マーカーが日常診療で広く用いられている。一方,近年,直接作用型抗ウイルス薬(direct acting antivirals; DAA)の登場によりC型肝炎の治療奏効率は劇的に改善したが,DAA治療による肝線維化マーカーへの影響は十分に解明されていない。今回我々は,当院においてDAA治療を受けたC型慢性肝炎患者54例を対象とし,各種肝線維化マーカーの治療前後値を比較した。さらに,肝線維化ステージによる変動の差異について検討するため,治療前の肝生検結果に基づき対象を線維化非進展群または進展群に分類後,再度治療前後値の比較を行った。その結果,Mac-2結合蛋白糖鎖修飾異性体,IV型コラーゲン7S,血小板数は線維化進展度を問わずDAA治療後で有意に変動した。一方で,IV型コラーゲンは分類前比較では有意差を認めなかったが,分類後の比較では線維化非進展群で有意に上昇し,線維化進展群では有意差を認めなかった。これは,線維化の進展度や炎症の軽快によってIV型コラーゲンの分解酵素の発現が変化することが一因と考えられた。DAA治療後において肝線維化マーカーは項目により異なる動態を示すため,その解釈には注意が必要であり,肝線維化マーカーを用いた肝線維化評価は,DAA治療前後における各々の値の動態を考慮し総合的に判断すべきである。

Translated Abstract

Liver biopsy is considered the “gold standard” for the evaluation of hepatic fibrosis. On the other hand, we widely use serum fibrosis markers in routine practice because measuring them is less invasive. In recent years, the efficiency of hepatitis C therapy has considerably improved owing to the development of DAA therapy, but the effect of DAA therapy on the levels of fibrosis markers is unclear. In this study, we compared the levels of fibrosis markers before and after therapy in 54 patients with chronic hepatitis C, who were treated with DAAs in our hospital. Furthermore, we compared these levels by classifying patients into those with advanced and those with nonadvanced liver fibrosis on the basis of the results of liver biopsy to examine the difference in the changes depending on the stage of liver fibrosis. Results showed that there were significant changes in platelet counts and the levels of the Mac-2 binding protein glycosylation isomer and type IV collagen 7S in serum after DAA therapy, regardless of the severity of liver fibrosis. On the other hand, although there was no significant difference in the level of type IV collagen in the preclassification comparison, the postclassification comparison showed a significant increase in the type IV collagen level in the patients with nonadvanced liver fibrosis but not in those with advanced liver fibrosis. It was considered that this is due to changes in the expression levels of type IV collagenolytic enzymes depending on the severity of liver fibrosis and inflammation improvement. It is necessary to be careful in the interpretation of the levels of fibrosis markers after DAA therapy because each marker shows different changes. Liver fibrosis assessment based on the levels of fibrosis markers should be carried out comprehensively considering the dynamics among these parameters.

I  目的・背景

直接作用型抗ウイルス剤(direct acting antivirals; DAA)の登場により,C型慢性肝炎における治療は劇的な変化を遂げた。インターフェロンによる治療が主流であった時代と比べ,DAAによる治療では最短8週間と短期間の経口投与で,高率にウイルス学的著効(sustained virological response; SVR)が得られるようになった。肝線維化評価のゴールドスタンダードは未だ肝生検による病理診断であるが,より低侵襲である血清学的肝線維化マーカーの研究が進み,既にその多くが日常診療で用いられている。C型慢性肝炎において線維化進展の程度を把握することは,治療法の選択に加え将来の発癌率予測という点においても極めて重要である。インターフェロン治療例では治療前後で一部の肝線維化マーカーの値が異なることが報告されているため1),2),治療後の値には注意が必要であるが,DAA治療例においては,治療前の肝線維化進展度を加味した肝線維化マーカー値の治療後変動に関する詳細な報告は少ない。そこで今回我々は,DAA治療による各種肝線維化マーカー値の変動について明らかにするため,当院で肝生検を施行したDAA治療例を対象として治療前後値を比較したところ,若干の知見を得たので報告する。

II  対象・方法

当院においてDAAによる治療を行い24週のSVRを達成したC型慢性肝炎症例で,治療前に肝生検を施行し得た男性27例女性27例の計54例(平均年齢63.4歳)を対象とした。対象の治療前後における肝機能検査成績をTable 1に示す。肝生検は16G針でエコーガイド下に生検を施行したのち,当院病理専門医が新犬山分類に従って病理診断を行った。血清の採取はDAA治療前1ヶ月以内とSVR24達成時とし,肝線維化の血清学的評価項目はMac-2結合蛋白糖鎖修飾異性体(mac-2 binding protein glycosylation isomer; M2BPGi),IV型コラーゲン(type IV collagen; IV-C),IV型コラーゲン7S(type IV collagen 7S ; IV-C-7S),ヒアルロン酸(hyaluronic acid; HA),血小板数(platelets; PLT)とした。対象症例のHCV genotypeは1b:35例,2a:12例,2b:7例であり,治療内容はアスナプレビル/ダクラタスビル1例,ソホスブビル/レディパスビル20例,エディパスビル/グラゾプレビル1例,オムビタスビル/パリタプレビル14例,ソホスブビル/リバビリン18例であった。統計ソフトEZR ver1.33を用い3),統計学的処理として各群多重比較にSteel-Dwass検定,治療前後の比較にはWilcoxon符号付順位和検定を用いて行い,有意水準をp < 0.05とした。なお,結果は中央値(四分位範囲)で示した。

Table 1  Case background
Before DAA After DAA p value
T-BIL (mg/dL) 0.8 (0.6–0.9) 0.8 (0.6–0.9) 0.98
ALB (g/dL) 4.3 (4.0–4.4) 4.3 (4.1–4.6) 0.001
AST (U/L) 36 (27–50) 24 (21–28) < 0.0001
ALT (U/L) 32 (21–50) 18 (13–26) < 0.0001
γ-GT (U/L) 24 (18–39) 21 (15–30) < 0.001
HCV-PCR (log IU/mL) 6.1 (5.2–6.7) Undetectable

本研究は当院倫理委員会より承認され,対象症例全例において医師によるインフォームド・コンセントを得ている(承認番号:540)。

III  結果

1. 線維化ステージ別各種線維化マーカー値の比較

線維化の病理学的診断はF1:26例,F2:12例,F3:7例,F4:9例であった。治療前における各種線維化マーカーを肝生検による線維化ステージごとに比較した。その結果,各項目:F1,F2,F3,F4群でそれぞれ,M2BPGi(C.O.I):1.2(0.9–1.8),2.3(1.6–2.9),1.6(1.3–1.8),3.6(2.7–4.2),IV-C(ng/mL):105(90–125),129(119–155),143(119–143),193(169–222),IV-C-7S(ng/mL):4.0(3.5–4.5),4.7(4.1–5.9),5.2(4.1–5.6),7.2(6.5–10.8),HA(ng/mL):43(27–64),63(57–90),84(68–105),150(89–198),PLT(×104/μL):18.3(15.3–20.0),18.5(15.7–19.9),14.0(12.2–17.4),11.6(7.6–14.7)であり,全ての項目においてF1–F4間に有意差を認めた(Figure 1)。

Figure 1 Comparison of each fibrosis markers in fibrosis staging before DAA therapy

The box plots present the interquartile range, 95% confidence, and median value.

2. DAA治療前後での肝線維化マーカー値の変動について

DAA治療による線維化マーカーの変動を確認するため,DAA治療前と治療終了後24週目の2ポイント間における測定値を比較した。その結果,M2BPGi(p < 0.0001),IV-C(p = 0.109),IV-C-7S(p = 0.0012),HA(p = 0.264),PLT(p < 0.0001)であり,治療前に比べて治療後にM2BPGi,IV-C-7Sにおいて有意な低下を,PLTでは有意な上昇を認めたが,IV-C,HAにおいては有意差を認めなかった。さらにDAA治療前後での各種線維化マーカー値の変動に,肝線維化ステージによる差異があるか確認するため,線維化が軽度なF1(n = 26,線維化非進展群)と線維化が進展したF2,F3,F4(n = 28,線維化進展群)の2群に分けてDAA治療前後の値を比較した。その結果,線維化非進展群においてM2BPGi(p < 0.0001),IV-C(p = 0.0074),IV-C-7S(p = 0.0037),HA(p = 0.495),PLT(p = 0.017),線維化進展群においてM2BPGi(p < 0.0001),IV-C(p = 0.974),IV-C-7S(p = 0.049),HA(p = 0.361),PLT(p = 0.0022)となり,全症例での治療前後値比較にて有意差が認められなかったIV-Cにおいて,線維化非進展群のみに有意な上昇を認めた(Figure 2)。

Figure 2 Comparison of each fibrosis markers before and after DAA therapy in groups of advanced or non-advanced liver fibrosis

The dot plots present change of serum levels of hepatic fibrosis markers, and the bars, median values of each.

IV  考察

現在肝線維化診断の血清学的マーカーは様々なものが測定可能であるが,診断能としてはどのマーカーでも特に肝硬変(F4)において極めて有用性が高い4)。我々の検討でも新犬山分類の線維化ステージごとに各線維化マーカーの値を評価したが,全ての項目において線維化非進展群であるF1に比べ,肝硬変まで線維化が進展したF4において有意な上昇または低下を示した。

実臨床におけるC型肝炎の治療では,Genotype Iに対するソホスブビル/レディパスビル投与症例において,慢性肝炎では98%,肝硬変では92%と非常に高いSVR達成率を誇り5),線維化進展の有無に関わらずほぼ同等の治療効果が得られている。しかし,治療介入後SVRを得た症例であっても肝硬変は重要な発癌危険因子であり6),慢性肝炎に比べてより短期間でのフォローアップが必要となる。また一部のDAA製剤は,慢性肝炎症例と肝硬変症例で投与期間が異なる7)ことから,DAA治療前のみならず治療後においても肝線維化の状態,特に線維化進展の有無を判定することが臨床上極めて重要である。今回我々はDAA治療前後における線維化マーカーの値を線維化進展度により群別し比較したが,その動態は項目により多様であった。豊福ら8)は慢性C型肝炎症例においてDAA治療後のM2BPGiは炎症による修飾が取り除かれるため,治療前に比し有意に低下すると報告している。我々の検討においても,線維化の進展度に依らずDAA治療後に有意に低下したため,DAA治療前のM2BPGiは単純に線維化のみを反映するマーカーではないことが改めて示された。

その一方で,HAは線維化進展の有無に関わらずDAA治療前後で有意な変動を認めなかった。このことからDAA治療前のHA値は炎症による修飾を受けておらず,純粋に線維化を反映していると考えられた。

今回興味深い動態を示したのが,IV-CとIV-C-7Sであった。IV-Cは基底膜に存在する膜型コラーゲンであり,基底膜の増殖に伴い血中の濃度が上昇する。肝組織にはもともと基底膜は存在しないが,慢性肝炎による線維化の進展で類洞周囲に基底膜が増殖する9)。IV-Cの構造はC末端のNC1ドメインと呼ばれる非コラーゲン領域とN末端の7Sドメイン,そして中央部にらせん状三本鎖(triple helix; TH)ドメインとNC-2ドメインで構成されている10)。IV-CはIV-C-7Sと比べて測定原理が異なり,THドメインを認識する抗体と7Sドメインを認識する抗体の2種類を使用し反応させるため,分解された7Sの断片(断片化7S)とは交差反応しない。それに対して,IV-C-7Sは7Sドメインを認識する1種類の抗体のみで測定されるため,分解されたIV-C由来の断片化7Sに加え,分解されていないIV-Cの7Sドメインの両方と反応するとされている11)。すなわち,IV-Cは主に肝線維の生成を,IV-C-7Sは肝線維の生成と分解の両方を反映している。

今回,IV-CのみF1以下の線維化非進展群においてはDAA治療後で有意な上昇を示したが,F2以上の線維化進展群においてはDAA治療前後で有意差を認めなかった。一方で,IV-C-7Sは線維化の進展に関わらず,どちらにおいてもDAA治療後に有意な低下を認めた。これらはIV-C分解酵素であるマトリックスメタロプロテアーゼ-II(matrix metalloproteinase-II; MMP-II)などの肝線維分解酵素の発現量が線維化進展に従って変化することに起因すると考えられる。高原ら12)は,IV-C分解酵素MMP-IIの遺伝子発現は肝の炎症に伴い増加したが,線維化進展例では肝線維化が軽微な状態と比べてMMP-IIの発現が低下したと報告している。本検討においても,DAA治療後,肝の炎症が軽快してMMP-II発現が低下し断片化7Sの生成が低下したことにより,断片化7Sとも反応するIV-C-7Sの値は線維化進展の程度にかかわらず有意に低下したものと考えられた。また,線維化非進展群のIV-CがDAA治療後有意に上昇した理由としては,炎症が軽快しMMP-IIによるIV-Cの分解が減少したことにより,IV-C自体の数が減少せず見かけ上増加したことが主として考えられた。しかし,MMP-IIの発現がもともと弱い線維化進展群のIV-Cは,DAA治療により炎症が軽快しても,MMP-IIによる変化の影響が少なく,有意な変動を認めなかったものと推察された。以上より,線維化が比較的軽度な症例ではDAA治療後のIV-Cは治療前と比較し有意に上昇する可能性があるため,DAA治療前後での線維化評価では誤判定に十分注意し,総合的に判断する必要がある。

本検討ではいくつかの限界がある。まず,この線維化マーカー値の変動がDAAのみによってもたらされたかどうかは,実際にはDAA非投与症例においても経過を追って対比させる必要がある。しかし,DAAがC型慢性肝炎患者の大多数の症例で投与されており,非投与症例がごく少数例に限られる。また,M2BPGiはDAAが使用可能となってから保険収載されており,ヒストリカルコントロールを組むのが困難である。したがって,本検討ではDAA治療群のみを対象としたが,今後非投与症例での検討も可能な範囲で行う必要があると考える。

DAA治療例における肝線維化マーカー値の変動が肝線維化の改善を表しているかどうかについては多数報告がある。M2BPGi等の非侵襲的肝線維化マーカーのDAA治療後変動は線維化自体の改善を示唆するとの報告13),14)があるが,肝生検による組織学的な検討がないため,実際に肝線維化が改善しているかどうかは不明である。その一方で,C型肝炎におけるDAA治療前後の肝生検結果を比較したEnomotoら15)によると,DAA治療後(41 ± 20週後)において炎症グレードは有意に改善したが,少なくとも治療後1年程度の短期間での線維化ステージに有意差は認められなかったと報告している。我々の検討においては,DAA治療後の組織学的所見が得られなかったため,DAA治療による肝線維化の改善についての最終的な結論には至らなかったが,Enomotoらの報告にもあるように,24週程度の短期間における肝線維化の改善は乏しいのではないかと考える。肝線維化の改善については今後,長期的な観察集団における組織学的所見などを含めたさらなる検討と報告が待たれる。

V  結語

今回我々は当院で治療前に肝生検を施行し得たDAA治療例において,肝線維化ステージを加味した各種肝線維化マーカーのDAA治療後変動についての検討を行った。その結果,M2BPGi,PLT,IV-C-7S値はDAA治療後に有意な変動を認めた一方で,IV-C,HA値では治療後に有意差を認めなかった。しかし,IV-C値の治療後変動においては,治療前の肝線維化ステージによって差異があった。これらの変動は主に炎症の軽快に伴うものと推測されるため,DAA治療後の線維化評価においては誤判定に注意が必要である。治療後の肝線維化自体の改善については,長期に観察し得た症例における組織学的所見を加えた検討を行う必要がある。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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