Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Detectability studies on five commercially available antigen detection kits for Mycoplasma pneumoniae
Yuuki KOBAYASHIHiromichi SUZUKIMichiharu ASADAShinji OIKAWAKatsuko OKUZUMIAkira HISHINUMA
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2020 Volume 69 Issue 1 Pages 30-35

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Abstract

肺炎マイコプラズマの抗原検出法は,2013年に保険収載されて以来各社からキットが販売され,迅速・簡便であることから多くの施設で広く用いられている。各社キットは咽頭ぬぐい液を検体として用いるが,肺炎マイコプラズマが主に下気道に感染する感染症であるため,性能比較を行う場合検体採取の手技等が大きく影響することが予想される。そこで,培養菌液を用い検出限界能を測定することで各社キットの比較評価を行った。Mycoplasma pneumoniae 2株を培養し,菌液を2倍希釈系列し各社キットの検出下限を測定したところ,4日培養と14日培養で大きく傾向が異なる結果が得られた。4日培養と14日培養の生菌数と遺伝子コピー数を確認したところ,生菌数は4日培養に比べ14日培養の方が大きく減少していたのに対し,遺伝子コピー数には大きな差が認められなかった。各社キットが標的としている抗原を確認したところ,4日培養の方が感度が高いキットは菌体内タンパクを標的としており,14日培養の方が感度が高いキットは接着器官構成タンパクを標的としていた。このことから,各社キットの検出限界はM. pneumoniaeの生菌・死菌の状態が大きく影響することが推測された。院内での精度管理を行う場合は,自施設での採用キットの特性を十分把握し,適切な培養条件で実施することが重要である。

Translated Abstract

Mycoplasma pneumoniae antigen tests are widely used in many medical laboratories since their approval by the Japan national health insurance in 2013. Because M. pneumoniae primarily infects the lower respiratory tract, the sampling technique considerably affects the kit performance as throat swabs are usually used as specimens. Therefore, we used bacterial cultures to study the performances of five commercially available kits. M. pneumoniae strains ATCC15531 and ATCC29342 were cultured for 4 and 14 days. The 4-day cultures contain live bacterial cells and the 14-day cultures contain dead bacterial cells. Some kits showed better sensitivity in the 4-day cultures, whereas others showed better sensitivity in the 14-day cultures. This difference is due to the antigen species recognized by the antibodies in the different kits. Cytoplasmic proteins such as the L7/L12 ribosomal protein and DnaK are recognized by the kits with better performances in the 4-day cultures, whereas the plasma membrane attachment proteins such as P1 and P30 are recognized by the kits with better performances in the 14-day cultures. In conclusion, this study showed that different M. pneumoniae kits detect different bacterial proteins, which in turn reflect the bacterial state, i.e., alive or dead.

I  序文

肺炎マイコプラズマ(Mycoplasma pneumoniae)が引き起こす感染症の診断法としては,血清抗体検査,培養法,および遺伝子検査がある。本菌は細菌であり,培養検査が基本となるが,発育にコレステロールや血清タンパクを要求するため,分離には特殊な培地が必要であり,培養にも時間がかかる1)。そのため,ペア血清による血清診断法が長く頻用されてきた。しかし近年,より簡便で迅速に肺炎マイコプラズマを検出する目的で抗原検出キットが開発され,2013年より保険診療が可能となった。血清抗体検査のように採血を必要とせず,手軽に,そして迅速に結果が判明するため,特に小児科の日常診療においては,今後重要性が高まっていくことが予想される。

肺炎マイコプラズマは下気道の線毛上皮細胞で増殖するため,上気道の菌量は下気道の約1%以下であり2),いずれのキットも咽頭拭い液を検体として測定することから,検体採取のタイミングや手技により測定結果に影響が出ることが懸念されている。

したがって,臨床ではより高感度の抗原検出キットが求められているが,現在市販されている5種類のキットについて検出能を比較したデータは無く,各社の添付文書を比較しても最小検出感度の設定基準が異なるため一概に比較することができない。

そこでわれわれは,各キットの検出限界能を比較し有用性を評価したので報告する。

II  材料および方法

使用菌株

M. pneumoniae ATCC 15531(以下FH株)

M. pneumoniae ATCC 29342(以下M129株)

対象キット

リボテスト®マイコプラズマ(旭化成ファーマ株式会社;以下,リボテスト),プロラスト®Myco(株式会社LSIメディエンス;以下,プロラスト),イムノエース®マイコプラズマ(株式会社タウンズ;以下,イムノエース),クイックチェイサー®Myco(株式会社ミズホメディー;以下,クイックチェイサー),クイックナビTM‐マイコプラズマ(デンカ生研株式会社;以下,クイックナビ)

1. 菌株の培養と各種測定

1) 菌株の培養とpHの測定

培養用液体培地はMYCOPLASMA BROTH BASE(Oxoid社)にMYCOPLASMA SUPPLYMENT G(Oxoid社),0.5%グルコース,および0.002%フェノールレッドを添加したものを使用した。この培養用液体培地2 mLを18本用意し,9本にFH株を,残りの9本にM129株をそれぞれ20 μLずつ添加した。18本を35℃,好気条件下で培養を行った。Lowらの報告の報告3)によれば,生菌数と培養中のpH低下には関連が強く認められるため,培地の色の変化を観察しながら,0,1,2,3,4,5,6,7,14日目にそれぞれ1本ずつサンプリング後pHを測定し,−80℃のディープフリーザーにて凍結保存した。pH測定にはコンパクトpHメーターLAQUAtwin(HORIBA)を使用した。

2) 生菌数の測定

増殖期にあたる2~4日目の培養液と死滅期にあたる14日目の培養液について,マイコプラズマPPLO寒天培地(日研生物医学研究所)にて,35℃の好気条件下で4~5日培養し,コロニー数を測定した。

3) 遺伝子コピー数の測定

リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応(real-time polymerase chain reaction;リアルタイムPCR)により各原液中のマイコプラズマ遺伝子コピー数を測定し,各希釈検体中の遺伝子コピー数を算出した。各サンプルからのDNA抽出は,カネカ簡易DNA抽出キット(株式会社カネカ)を用いて行い,リアルタイムPCRはTjhieらの報告4)に基づいて実施した。

2. 希釈感度試験

今回の検討では,増殖期のサンプルとして培養4日目,死滅期のサンプルとして培養14日目の培養液を用い,リン酸緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline; PBS)にてそれぞれ希釈系列を作製した。作製した希釈系列について,各キットのチューブに20 μL添加し,各キットの添付文書の操作方法5)~9)に従い試験を実施し,検出限界能を比較した。

III  結果

1. 生菌数および遺伝子コピー数

生菌数および遺伝子コピー数測定した結果をpHと合わせてTable 1に示した。FH株,M129株ともに,4日培養で菌数が十分に増殖した一方で,14日培養では,菌がほとんど死滅したこと,また,菌の生死にかかわらず,培養日数が経過するとともに,遺伝子コピー数は増加したことが確認された。

Table 1  pH及び生菌数と遺伝子コピー数
菌株 培養日数 pH 生菌数
(CFU/mL)
遺伝子コピー数
(copies/mL)
FH株 0 7.4 n.t. n.t.
1 7.4 n.t. n.t.
2 7.4 4.8 × 106 n.t.
3 7.2 5.7 × 107 n.t.
4 7.1 1.6 × 108 7.0 × 108
5 6.0 n.t. n.t.
6 5.6 n.t. n.t.
7 5.3 n.t. n.t.
14 5.4 0 9.8 × 108
M129株 0 7.3 n.t. n.t.
1 7.3 n.t. n.t.
2 7.3 9.6 × 106 n.t.
3 7.3 7.0 × 107 n.t.
4 6.8 2.9 × 108 9.0 × 108
5 5.5 n.t. n.t.
6 5.4 n.t. n.t.
7 5.3 n.t. n.t.
14 5.4 1.0 × 10 1.6 × 109

n.t.: not tested CFU: colony forming unit

2. 希釈感度試験

希釈感度試験の結果をTable 2に示した。リボテストは,4日培養において,FH株で200倍希釈,M129株で800倍希釈以上の感度が認められた一方,14日培養では,2株ともに16倍希釈までの感度にとどまった。この結果と同様の傾向が見られたのがプロラストであった。プロラストは,4日培養において,2株ともに100倍希釈までの感度が認められたが,14日培養では,2株ともに原液でも抗原を検出できなかった。

Table 2  各社キットの希釈感度試験成績
4日培養
キット名 菌株 希釈倍率
×10 ×25 ×50 ×100 ×200 ×400 ×800
リボテスト FH株 + + + + +
M129株 + + + + + + +
プロラスト FH株 + + + + n.t n.t
M129株 + + + + n.t n.t
クイックチェイサー FH株 + + + + n.t n.t
M129株 + + + + +
イムノエース FH株 + + + n.t n.t
M129株 + + + + n.t n.t
クイックナビ FH株 + + + +
M129株 + + + + + +
14日培養
キット名 菌株 希釈倍率
原液 ×8 ×16 ×32 ×64 ×128 ×256 ×512 ×1,024
リボテスト FH株 + + + n.t n.t n.t n.t n.t
M129株 + + + n.t n.t n.t n.t n.t
プロラスト FH株 n.t n.t n.t n.t n.t n.t n.t n.t
M129株 n.t n.t n.t n.t n.t n.t n.t
クイックチェイサー FH株 + + + + + + + +
M129株 + + + + + + + n.t
イムノエース FH株 + + + + + + n.t
M129株 + + + + + + n.t n.t n.t
クイックナビ FH株 + + + + + + + +
M129株 + + + + + + + + n.t

n.t: not tested 全て15分判定

リボテスト:リボテスト®マイコプラズマ,プロラスト:プロラスト®Myco,クイックチェイサー:クイックチェイサー®Myco

イムノエース:イムノエース®マイコプラズマ,クイックナビ:クイックナビTM‐マイコプラズマ

続いてクイックチェイサーは,4日培養において,FH株で100倍希釈,M129株で200倍希釈までの感度が認められた一方,14日培養では,FH株で512倍希釈,M129株で256倍希釈と,4日培養よりも14日培養で感度が高くなる傾向を認めた。イムノエースとクイックナビの2キットもクイックチェイサーと同様に,4日培養より14日培養で感度が高くなる傾向を認めた。

これらの結果を踏まえて,生菌数と遺伝子コピー数の最小検出感度を算出したものをTable 3に示した。

Table 3  最小検出感度
培養日数 リボテスト プロラスト クイックチェイサー イムノエース クイックナビ
FH株 生菌数
(CFU/mL)
4 8.0 × 105 1.6 × 106 1.6 × 106 3.2 × 106 1.6 × 106
14 0 0 0 0 0
遺伝子コピー数
(coipes/mL)
4 3.5 × 106 7.0 × 106 7.0 × 106 1.4 × 107 7.0 × 106
14 6.1 × 107 不能 1.9 × 106 7.7 × 106 1.9 × 106
M129株 生菌数(CFU/mL) 4 3.6 × 105以下 2.9 × 106 1.5 × 106 2.9 × 106 7.3 × 105
14 0 0 0 0 0
遺伝子コピー数(coipes/mL) 4 1.1 × 106以下 9.0 × 106 4.5 × 106 9.0 × 106 2.2 × 106
14 1.0 × 108 不能 6.3 × 106 1.3 × 107以下 3.1 × 106以下

CFU: colony forming unit

リボテスト:リボテスト®マイコプラズマ,プロラスト:プロラスト®Myco,クイックチェイサー:クイックチェイサー®Myco

イムノエース:イムノエース®マイコプラズマ,クイックナビ:クイックナビTM‐マイコプラズマ

IV  考察

生菌数,pH,および遺伝子コピー数の関係において,FH株がpH 7.1,M129株がpH 6.8の培養4日目で生菌数が最大になっていたことから,pH 7.0前後で2株とも生菌数が十分に増殖したと考えられる。また,培養5日目にはpHが6以下に低下したことから,培養4日目に生菌数がほぼ最大となり,5日目以降は低下したと推察される。この理由から今回の検討では,培養4日目のサンプルを選択した。何日目のサンプルを選択するかを決定するためには生菌数とpHを合わせて検討することが望ましいと考える。遺伝子コピー数は14日培養のサンプルでも4日培養のサンプルと同様に検出されたことから,死滅しても菌体そのものは残ったままであると考えられる。

リボテストとプロラストでは4日培養の方が14日培養より感度が高くなる傾向が認められた。生菌数と遺伝子コピー数の最小検出感度からもこの傾向が見て取れた。リボテストは5キットの中で生菌数の感度が最小であった。プロラストは生菌数の感度は最小とまではいかないが,14日培養で原液でも抗原を検出できなかったため,生菌数にのみ反応していると分かる。つまり,この2キットに関しては,生菌の抗原をよりとらえていることが示唆された。その一方で,イムノエース,クイックチェイサー,クイックナビの3キットに関しては,4日培養と14日培養の感度が同等か,14日培養の方が高くなる傾向が認められた。この傾向は先ほどと同様,生菌数と遺伝子コピー数の最小検出感度にもあらわれている。生菌数の最小検出感度は106 CFU/mL前後あるが,14日培養の遺伝子コピー数の最小検出感度も先に述べた2キットよりも感度が高くなっていた。14日培養の遺伝子コピーは生菌死菌を問わず菌の総数を反映していると考えられる。これらのことから,生菌の抗原も死菌の抗原も同様にとらえていることが推察された。

ここで各キットが抗原検査のターゲットとしているタンパクをTable 4に示した。リボテストはL7/L12というリボゾームタンパクをターゲット10)としている。このタンパクはすべての細菌が保有し,菌種ごとに特異的なアミノ酸配列をもち細胞内に大量に存在する。また,増殖期にはさらに増加することが知られている。プロラスト11)はDnaKという熱ショックタンパクをターゲットとしており,このタンパクは,熱ショックタンパク70(heat shock protein 70; Hsp70)ともよばれる。細胞が熱などのストレス条件下にさらされた際に発現量が上昇し,細胞を保護するタンパクとして知られている。これらのタンパクに共通するのは,どちらのタンパクも菌体内部に存在し,生命活動に必須であるという点である。したがって,この2キットが生菌により高い感度を示した要因はこれらのタンパクをターゲットとしているためだと考えられる。一方,イムノエースおよびクイックナビは接着器官構成タンパクであるP1やP30をターゲットとしている12)。これらのタンパクはヒトの気道粘膜細胞に接着し,増殖可能な部位まで滑走する働きがあるといわれている。このタンパクは肺炎マイコプラズマの表面に存在するタンパクであることから,菌体が壊れてもそこに残存するものと考えられ,この2キットが生菌および死菌で同等,あるいは死菌で感度が高い傾向が認められたのはこのためであると推察される。クイックチェイサーに関しては,ターゲットが公表されておらず不明であるが,今回の希釈感度試験の結果を鑑みると,イムノエースおよびクイックナビと同様のタンパクがターゲットとなっていると考えられる。

Table 4  各社キットのターゲットタンパク
キット名 ターゲット
リボテスト リボゾームタンパク(L7/L12)
プロラスト 熱ショックタンパク(DnaK)
クイックチェイサー 不明
イムノエース 接着器官構成タンパク(P30)
クイックナビ 接着器官構成タンパク(P1およびP30)

リボテスト:リボテスト®マイコプラズマ,プロラスト:プロラスト®Myco,クイックチェイサー:クイックチェイサー®Myco

イムノエース:イムノエース®マイコプラズマ,クイックナビ:クイックナビTM‐マイコプラズマ

V  結語

肺炎マイコプラズマの感染時期には検体採取部位に生菌が多く存在することを考慮した場合,生菌に対しての感度が高い方がより適切な診断を行えることが期待されるが,先に述べたように,その感度は,採取手技によるところが多い点も念頭に置かなければならない。

また,検査施設におけるISO15189取得の増加にともない,抗原検査キットの精度管理を自施設で実施することが多くなることが予想される。今回の検討結果からは,生菌と死菌の間で各キットの感度に大きく差が認められた。したがって,肺炎マイコプラズマの抗原検査キットの検討を実施する場合には,自施設での採用キットを把握した上で,適切な培養条件でデータを取り,検討することが重要だと考えられる。

肺炎マイコプラズマの抗原検出キットによる迅速診断法は,咽頭ぬぐい液を材料にしているため,菌の増殖部位である下気道からの採取が困難であることから,あくまで診断材料の1つであり,適性診断のためには複数の診断法を併用するのが現状である。今後,様々な抗原検査キットが開発されることが予想されるが,その感度や精度について,より有用な情報が提供されることが望まれる。

 

倫理委員会承認番号:29012号

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

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