Japanese Journal of Medical Technology
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Case Reports
A case of dual CD3- and CD4-positive plasma cell neoplasm diagnosed by pleural effusion cytology
Go KOBAYASHIJun SHIBATARyosuke NOBUHIROYoichi SAITONaomi SASAKI
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2020 Volume 69 Issue 1 Pages 117-124

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Abstract

【背景】形質細胞腫瘍(plasma cell neoplasm; PCN)がT cellに関連した抗原をもつことは非常にまれである。今回我々は胸水細胞診においてCD3,CD4の発現を認めたPCNの1例を経験したので報告する。【症例】80歳代,女性。全身倦怠感のため当院を受診した。造影CTでは明らかな腫瘤はみられなかったが,血液検査でLDHとSoluble IL-2Rが高値を示した。MRI検査で,頚椎に骨髄異常信号が出現し骨髄生検が実施され,芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasm; BPDCN)が疑われた。4ヶ月後,両側胸水の貯留が認められ,右胸水細胞診が提出された。胸水中には単核から多核の腫瘍細胞が弧在性に多数出現し,一部核周明庭がみられ,形質細胞様の形態を示していた。セルブロック標本による免疫染色でCD3,CD4,CD56,CD138が陽性,lambda鎖に偏りを認め,dual CD3 and CD4 positive PCNと最終診断された。【結論】本症例は形態的にPCNを疑う所見がみられたが,免疫組織化学的にCD3とCD4が陽性であったため,診断に苦慮した。T細胞抗原を有するPCNが存在することを認識しておくことが重要である。

Translated Abstract

Background: A plasma cell neoplasm with aberrant expression of T-cell-related antigens is exceedingly rare. In this study, we report a case of dual CD3- and CD4-positive plasma cell neoplasm (PCN). Case: The patient was an 80-year-old woman who was referred to our hospital owing to her general fatigue. There was no palpable mass in the contrast-enhanced CT images; however, laboratory tests revealed high levels of LDH and soluble IL-2R. MRI examination detected an abnormal signal in the cervical spine. Bone marrow biopsy was performed and blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasm (BPDCN) was suspected. Four months later, bilateral pleural effusion occurred, and right pleural effusion was obtained for cytological examination. Cytological smears showed mononuclear and multinuclear tumor cells with a perinuclear halo resembling plasma cells. Immunocytochemistry of cell block preparations revealed that the tumor cells were positive for CD3, CD4, CD56, CD138, and kappa light chains. The final diagnosis was PCN. Conclusion: In this patient, although the tumor cells had morphological features of PCN, they were positive for CD3 and CD4. It is important to recognize a plasma cell neoplasm with aberrant expression of T-cell antigens.

I  はじめに

形質細胞腫瘍(plasma cell neoplasm; PCN)は骨髄を主病変とし,B細胞の最終分化段階である形質細胞が腫瘍性に増殖する疾患で,単クローン性免疫グロブリンを産生することを特徴とする1),2)。PCNにおいて,腫瘍細胞が胸水中に出現することはまれであるが,さらにCD3とCD4の発現を認めるPCNは今までの報告では1例しかない3)

今回我々は,骨髄生検で芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasm; BPDCN)が疑われたが,胸水細胞診でdual CD3 and CD4 positive PCNと最終診断された1例を報告する。

II  症例

患者:80歳代,女性。

既往歴:大腸癌術後,非定型抗酸菌症。

現病歴:全身倦怠感のため当院を受診した。造影CTでは大腸癌の再発転移を疑う所見はみられなかった。初診時の血液検査ではLDHとsoluble IL-2Rが高値を示したが,それ以外に異常値を示したものはなく,末梢血に大型不明細胞が少数認められた(Table 1)。MRI検査で上位頸椎にびまん性T1W1低信号の出現を認め,脊椎MRIでは骨髄異常信号が出現していたため,骨髄増殖性疾患を疑い,骨髄生検が実施された。BPDCNが最も考えられ,化学療法のため,他院血液内科へ転科した。約4ヶ月後の血液検査では,貧血と白血化を伴っており,BUNと血清クレアチニンも高値を示し,腎機能の低下が疑われた。末梢血の大型不明細胞数も14%に増加していた(Table 1)。両側胸水の貯留が認められたため,右胸水細胞診が提出された。

Table 1  血液検査データ
【初診時】 【4ヶ月後】
Hematology Biochemistry Hematology Biochemistry
Hb 11.2 g/dL TP 6.2 g/dL Hb 8.7 g/dL TP 5.0 g/dL
RBC 347 × 104/μL Alb 3.53 g/dL RBC 259 × 104/μL Alb 2.21 g/dL
Ht 32.4% LDH 2,723 IU/L Ht 27.30% LDH 1,451 IU/L
Plt 347 × 104/μL AST 162 IU/L Plt 13.3 × 104/μL AST 128 IU/L
WBC 5,340/μL ALT 36 IU/L WBC 21,760/μL ALT 18 IU/L
Stab 3.0% T-Bil 0.29 mg/dL Stab 2.0% T-Bil 1.04 mg/dL
Seg 65.0% ALP 327 IU/L Seg 70.0% ALP 245 IU/L
Ly 15.0% Ca 4.6 mEq/L Ly 4.0% Ca 4.6 mEq/L
Mo 14.0% BUN 19 mg/dL Mo 9.0% BUN 119 mg/dL
Eo 0.0% Cr 0.85 mg/dL Eo 0.0% Cr 5.38 mg/dL
Ba 1.0% Serology Ba 1.0%
Other 1.0% sIL-2R 1,136 U/mL Other 14.0%

III  骨髄生検,組織所見

骨髄生検における捺印標本のGiemsa染色では中型から大型リンパ球に相当する大きさの腫瘍細胞が少数確認された。腫瘍細胞のN/C比は大きく,核は類円形から楕円形あるいは核縁不整であった。腫瘍細胞の細胞質は好塩基性で,一部に小空胞を認めた(Figure 1a)。骨髄生検組織標本においても腫瘍細胞が少数認められたため(Figure 1b),免疫組織化学的染色を実施したところ,腫瘍細胞はCD3,CD4,CD56,CD43が陽性で,CD123は弱陽性,その他のB cell,T cell,NK cellマーカーはすべて陰性であった(Figure 2, Table 2)。以上より,CD3が陽性であった点がやや矛盾していたが,BPDCNの疑いと診断された。

Figure 1 骨髄生検の形態像(a: Giemsa staining ×100, b: HE staining ×40)

腫瘍細胞は中型から大型リンパ球に相当するサイズで,細胞質は好塩基性であり,細胞質内に小空胞を認めた。

Figure 2 骨髄生検,免疫組織化学的染色像(a–f: Immunohistochemical staining ×40, a: CD3, b: CD4, c: CD56, d: CD43, e: CD123, f: Ki-67)

腫瘍細胞はCD3,CD4,CD56,CD43が陽性で,CD123は弱陽性,Ki-67陽性率は高率である。

Table 2  骨髄生検の免疫組織化学的染色結果
陽性 陰性
CD3 CD20 CD30
CD4 CD2 TdT
CD56 CD7 CD34
CD123 CD8 CD117
CD43 CD5 TIA-1
Ki-67 high CD10 Granzyme B
EBER

IV  右胸水,細胞所見

Pap.染色では腫瘍細胞が孤在性に多数出現しており,腫瘍細胞の核は単核あるいは多核で,核形は類円形から不整形であった。また核には大小不同がみられ,核クロマチンは微細顆粒状であり,明瞭な核小体を認めた。Giemsa染色では腫瘍細胞は好塩基性で比較的豊富な細胞質を有し,核は偏在傾向を示し,一部に核周明庭を認めた(Figure 3)。セルブロック標本中にも,単核から多核の腫瘍細胞が多数認められ(Figure 4),免疫組織化学的染色を行ったところ,腫瘍細胞は骨髄標本と同様でCD3,CD4,CD56,CD43が陽性,Ki-67陽性率は高率であり,その他のB cell,T cell,NK cellマーカーはすべて陰性であった(Figure 5)。形質細胞様樹状細胞特異的マーカーであるCD123は弱陽性であったが,CD303は陰性であった(Figure 6a, b)。さらにCD138が陽性であり,免疫グロブリン軽鎖はlambda鎖に偏りを認めた(Figure 6c–e)。またT cell receptorのgene arrangement(遺伝子再構成)は認められなかった。以上より,形態学的特徴および免疫組織化学的特徴から,T cell lymphomaは否定的であり,dual CD3 and CD4 positive PCNと最終診断された(Figure 4, Table 3)。

Figure 3 右胸水細胞診(a: Pap. staining ×100, b: Giemsa staining ×100)

腫瘍細胞が孤立散在性にみられる。腫瘍細胞は単核から多核で,一部には核周明庭を認め,細胞質は好塩基性である。

Figure 4 右胸水セルブロック標本(HE staining ×40)

単核から多核の腫瘍細胞が多数みられる。

Figure 5 右胸水セルブロック標本免疫細胞化学染色像(a–f: Immunocytochemical staining ×40, a: CD20, b: CD3, c: CD4, d: CD56, e: CD43, f: Ki-67)

CD3,CD4,CD56,CD43が陽性で,CD20は陰性,Ki-67陽性率は高率である。

Figure 6 右胸水セルブロック標本免疫細胞化学染色像(a–e: Immunocytochemical staining ×40, a: CD123, b: CD303, c: Kappa, d: Lambda, e: CD138)

形質細胞様樹状細胞マーカーであるCD123は弱陽性であったが,CD303は陰性である。免疫グロブリンはLambdaに偏りを認め,CD138は陽性である。

Table 3  右胸水セルブロック標本の免疫細胞化学的染色結果
陽性 陰性
CD3 CD123 CD20 CD303
CD4 CD43 CD10 CD5
CD56 IgG CD8 IgM
CD138 Lambda TIA-1 IgA
CD79a Ki-67 high Granzyme B Kappa
TdT EBER
CD30 PAX5
CD34 CD117

V  考察

PCNがT-cellに関連した抗原をもつことは非常にまれであり,今までの報告でdual CD3 and CD4 positive PCNと診断された症例は,Luoら3)が報告した1例しかない。Luoらの報告では下顎骨と骨髄に病変を認め,腫瘍細胞は免疫組織化学的にCD138,MUM1,CyclinD1,CD3,CD4が陽性で,kappa鎖に偏りを認め,HIVとEBV infectionは陰性であったとされている3)。またLuoらは考察で,peripheral lymphoid tissuesにおいてPAX5の発現が消失することで,mature B cellが再び前駆細胞に戻り,T cellに分化することがあるため,PAX5の発現消失がCD3とCD4のaberrant expressionを誘導したと推測していた3),4)。本症例においてもCD138,CD3,CD4が陽性で,lambda鎖に偏りを認め,PAX5は陰性であったため,同じような免疫形質の変化が起きていた可能性もあるが,詳細な原因は不明である。

PCNは約6%の頻度で胸水貯留を認め,その胸水中に腫瘍細胞を認める頻度は約0.8%と非常にまれな現象とされている5)。胸水中に腫瘍細胞が出現する機序は,肋骨からの直接浸潤や胸腔内腫瘤からの浸潤,リンパ管閉塞を伴った縦隔リンパ節浸潤などが考えられている5)。本症例の胸水細胞診でみられた腫瘍細胞は好塩基性で比較的豊富な細胞質を有し,核は偏在性で,一部に核周明庭を認めたため,PCNを疑う細胞学的特徴であったと考える。しかし,免疫組織化学的にCD3とCD4の発現を認め,骨髄生検でBPDCNを疑っていたこともあり,診断に苦慮した。

本症例における鑑別疾患としてはBPDCNが挙げられる。BPDCNは形質細胞様樹状細胞の前駆細胞が腫瘍化したものとされ,高頻度に骨髄と皮膚に病変を認め,白血化を伴う6),7)。形態的にはlymphoblastあるいはmyeloblastに類似した中型から大型腫瘍細胞がみられ,単調な形態像を呈し,症例によっては免疫芽球に類似したimmunoblastoid cellを主体とする像も認める7)。CD4,CD56,CD123,CD303,TCL1が陽性となり,その他のB cell,T-cell,N/K cellマーカーはすべて欠如するのが特徴である6)。本症例において骨髄生検では,腫瘍細胞は少量であったこともあり,確定診断は困難であったが,腫瘍細胞はCD4,CD56が陽性で,CD123も弱陽性であったためBPDCNの疑いと診断された。胸水細胞診においても,セルブロック標本による免疫組織化学的染色では,骨髄生検における免疫染色と同様の発現パターンを示したが,CD138が陽性でT cell recepterは陰性であり,免疫グロブリン軽鎖のlambda鎖にモノクロナリティーを認めたという点でdual CD3 and CD4 positive PCNと診断することができた。形態学的には,BPDCNは芽球様細胞が比較的単調に出現するのに対し,PCNは成熟型,中間型,未熟型,形質芽球型,小細胞型,多形型など腫瘍細胞は多彩な形態像を示すが,多くは形質細胞に類似する1),7)Table 4)。したがって,これらの形態学的特徴を把握し,免疫組織化学的にPCNマーカーであるCD138,Kappa,Lambdaや,形質細胞様樹状細胞マーカーであるCD123,CD303などの検索を行うことが重要な鑑別ポイントと考える(Table 5)。またCD56がPCNのマーカーであることにも注意が必要である8)

Table 4  PCNとBPDCNにおける形態学的特徴
本症例 BPDCN PCN
出現パターン 小型から大型腫瘍細胞が孤立散在性に出現し,多彩な細胞形態を示す。 リンパ芽球および骨髄芽球に類似した腫瘍細胞が単調な出現パターンで出現する。免疫芽球に類似したimmuno­blastoid cellを主体とする像が認められる症例もある。時に多彩な像を示す。 成熟型,中間型,未熟型,形質芽球型,小細胞型,多形型など多彩な形態を示す。
偏在性,類円形,単核から多核 中心性から偏在性,類円形から不整形,単核 偏在性,類円形,単核,時に多核化を示す。
クロマチン 微細顆粒状,繊細 繊細 繊細あるいは車軸状に凝集
核小体 腫大し明瞭 腫大し明瞭 腫大し明瞭
細胞質 好塩基性で比較的豊富,一部に核周囲明庭を認める。 好塩基性で少量から中等度 好塩基性で豊富,しばしば核周囲明庭を認める。時にRussell bodyを認める。
Table 5  PCNとBPDCNにおける免疫組織化学的鑑別
本症例 CD3,CD4陽性PCN BPDCN PCN
CD3 + +
CD4 + + +
CD56 + + + +
CD123 +/− +
CD303 +
CD138 + + +
Kappa, Lamda + + +
CD20 +/−
CD79a + + +
CD2 +/−
CD7 +/−
CD43 + +

PCN: plasma cell neoplasm

BPDCN: blastic plasmacytoid dendritic cell neoplasm

VI  結語

今回,非常にまれなdual CD3 and CD4 positive PCNを経験した。形態的にPCNを疑う所見もみられたが,免疫組織化学的にCD3とCD4が陽性であったため,診断に苦慮した。CD3とCD4陽性のPCNは今までの報告で1例しかなく,非常にまれな現象であるが,T細胞抗原を有するPCNが存在することを認識しておくことが重要である。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

胸水細胞診についてご教示いただいた岡山大学大学院医歯薬総合研究科病理学講座 吉野正教授,岡山大学医学部保健学科病態検査学講座 佐藤康晴教授に深謝いたします。

文献
 
© 2020 Japanese Association of Medical Technologists
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