Japanese Journal of Medical Technology
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Trial Report
Challenges of the International Young Biomedical Laboratory Scientists Forum in collaboration with Biomedical Laboratory Scientists of JAPAN, KOREA and TAIWAN: The 1st International Young Biomedical Laboratory Scientists Forum 2019
Ryosuke KIKUCHIHisashi TAKEURA
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2020 Volume 69 Issue 1 Pages 130-133

Details
Abstract

臨床検査分野では,業務の効率化・高レベルの専門性・情報共有・チーム医療・患者中心の医療が推進されている。また,医師以外の医療職種で可能な限りの業務分担を行うタスクシフティングが求められており,臨床検査技師を取り巻く環境は日々多様化している。さらに,科学技術の進歩とともに交通や通信手段は目覚ましく発展し,ヒト・モノ・情報が国を越えて頻繁に交流する時代となり,グローバル化が益々進んでいる。その結果として,医療機関においても外国人患者を診療するケースが増加傾向にある。臨床検査技師が国際化に取り組む上で大切なことは,一人ひとりが世界を知るための経験を蓄積することである。すなわち,臨床検査技師としての専門的な知識及び技術を有することを前提とした上で,国際的に通用する見識・語学力・対応力と,加えて研究力を有する人材育成が必要となっている。一般社団法人日本臨床衛生検査技師会(日臨技)では国際交流活動の充実が極めて重要であるとの視点で,2018年に若手技師国際化対応力向上ワーキンググループ(若手WG)を発足させた。その若手WGは第68回日本医学検査学会で日本,韓国,台湾の若手技師を対象としたThe 1st International Young Biomedical Laboratory Scientists(BLS)Forumを開催した。今回の活動を通して,3ヶ国の臨床検査技師が国境を越え,お互いを尊重し合い,未来のBLS像について論議を行うことができた。これこそ我々が求める国際対応力であり,今回の取り組みは,若手臨床検査技師にとって大きな財産になったと思われる。

Translated Abstract

The task of sharing clinical works as much as possible in non-physician occupations, along with streamlining of clinical laboratory work, promotion of high-level expertise, promotion of information sharing, and promotion of team medical care, is required. The environment surrounding biomedical laboratory scientists (BLS) is diversifying daily. Furthermore, with the advancement of science and technology, transportation and communication methods have markedly developed, people, goods and information have frequently traveled across countries, and globalization is increasing. Also, medical tourism is increasing. It is important to advance the internationalization of BLS to deepen their experience and understanding of the world. In other words, concerning the acquisition of specialized knowledge as a BLS, it is necessary to develop human resources who have the knowledge, language ability, response capability, and research ability that are of international standard. Therefore, we think that it is extremely important to enhance international exchange activities conducted by organizations centered on the Japanese Association of Medical Technologists (JAMT). On the basis of this background, JAMT established the Working Group for improving the internationals skills of young BLS in 2018. We think that this opportunity to discuss the future roles of BLS and to collaborate with the BLS of the three countries while remaining respectful to each other and without being restricted by borders was a great asset to them. We are convinced that this forum has been a good opportunity for young BLS to engage in internationalization activities in preparation for the future.

I  序

経済・産業・文化などあらゆる分野で国際化が進展している。多様な人々との共存や国際的な協力は日々重要性を増している。実際に街中や医療施設(病院)内においては,外国人とのコミュニケーションが必要となる機会は日常的に増えており,国内のグローバリゼーションは極めて身近なものとなっている。グローバル化した社会環境では生き抜くためのツールとして,英語をはじめとした世界で通用する実践的な語学力が重要である。また,語学力と併せて国際感覚を醸成することも重要である。国際感覚とは,宗教・文化・習慣・教育・感性が国によって異なる中で共存できる能力である。こうした資質や能力に加えて,積極的にコミュニケーションを図る態度や,相手の意図・考えを的確に理解し論理的に説明する能力,反論・説得する能力の習得が必要である。

グローバル化社会では,しっかりと自己の意見を主張し,また他者を尊重できる力が必要である。このような背景の中で,世界を知るための経験を積むこと,国際化に対応するためには何が必要かを考えられる若手技師の育成を目的とし,若手技師国際化対応力向上ワーキンググループ(以下;若手WG)が2018年に発足した。若手WGの立ち上げメンバーの条件は,①一般社団法人日本臨床衛生検査技師会(以下,日臨技)(Japanese Association of Medical Technologists; JAMT)とASCP(American Society for Clinical Pathology)との共同事業として実施されている米国短期留学の経験者,②海外留学経験者等で臨床検査業務に従事している臨床検査技師で構成した。若手WG委員の内訳は,北海道1名,埼玉県1名,東京都1名,神奈川県1名,愛知県2名,大阪府1名,広島県1名,福岡県1名の9名(Table 1)と,日臨技理事4名の計13名で構成された。

Table 1  若手WG委員の構成
氏名 都道府県 日臨技・
短期海外留学
所属先
委員長 菊地良介 愛知県 名古屋大学医学部附属病院医療技術部臨床検査部門
副委員長 濤川 唯 神奈川県 桐蔭横浜大学
委員 井上直輝 埼玉県 2016年度 医療法人新青会川口工業総合病院
委員 原 祐樹 愛知県 2018年度 名古屋第二赤十字病院医療技術部微生物検査室
委員 安江智美 大阪府 地方独立行政法人大阪府立病院機構大阪国際がんセンター
委員 山本雅史 北海道 北海道大学病院
委員 石井脩平 東京都 2017年度 公益財団法人がん研究会がん研究所病理部
委員 小林 剛 広島県 2017年度 国家公務員共済組合連合会呉共済病院病理診断科
委員 木村理恵 福岡県 九州大学病院病理部

若手WG委員内訳:北海道1名,埼玉県1名,東京都1名,神奈川県1名,愛知県2名,大阪府1名,広島県1名,福岡県1名の9名で構成された。

II  若手技師国際化対応力向上ワーキンググループの目標

若手WGは,次に示す3つの柱となる目標を掲げた。

1の柱:全国から日臨技所属の概ね40歳以下の技師を招集し,国際対応力の向上に視点を置き,臨床検査の将来像を見据えて国を越えて話し合う場(フォーラム)を提供する。このフォーラムの場をもって,臨床検査における問題点・改善点・将来像について諸外国(韓国や台湾等)と意見交換を行う。

2の柱:フォーラム参加の若手技師は全国学会に加えて各支部学会に於いて,その経験・修得した知識を多くの臨床検査技師と共有し,本事業の裾野を広げ,臨床検査技師の国際化と対応力を向上させる。

3の柱:韓国の大韓臨床病理士協会(Korean Association of Medical Technologists; KAMT),台湾の中華民国医事検験師公会全国聯合会(Taiwan Association of Medical Technologists; TAMT)との継続的なフォーラムの活動成果をアジア医学検査学会(Asia Association of Medical Laboratory Scientists; AAMLS)で公表する。

これら3つの柱を通して,世界臨床検査技師連盟(International Federation of Biomedical Laboratory Science; IFBLS)主催の学会で活動成果を発信し,現場に還元することを到達目標とした。

III  若手技師国際化対応力向上ワーキンググループの取り組み

第68回日本医学検査学会が令和元年5月18日(土)から19日(日)に下関にて開催された。本学会は,JAMTとKAMTの交流40周年となる記念すべき学術集会であり,特別企画として若手WG主催の国際対応力向上フォーラムが企画された。そこで,若手WG企画の第1弾として本学会においてInternational Young Biomedical Laboratory Scientist Forum(International Young BLS Forum)が行われた。このフォーラムはJAMT,KAMTおよびTAMTと共同し,3ヶ国の臨床検査の現状及び課題と今後の展望について,次世代を担う臨床検査技師(概ね40歳以下の技師)が約3時間の討論を行い,共通課題や相違点について意見を交わすことを目的とした。

IV  The 1st International Young BLS Forum

今回のフォーラムでは,医療現場にも応用されつつある人口知能(artificial intelligence; AI)について,1.精度管理,2.ゲノム医療,3.遠隔医療の関わり方の視点から1. Artificial Intelligence could be useful tools for Quality Control in clinical laboratory? 2. The evolving genomic medicine—The future image of the genomic medicine— 3. The future vision of tele­medicine for Biomedical Laboratory Scientistsのテーマを掲げた。

本フォーラムは,JAMT,KAMTおよびTAMTから推薦された計21名の推薦者と若手WG委員9名の計30名の参加者で行われた(Figure 1)。それぞれのグループに若手WG委員が含まれるよう参加者を3グループに分け,グループ毎に事前準備と当日の議論を行った(Figure 2)。フォーラムの最後には各グループの議論成果をプレゼンテーションする形式で行われた。最大の懸念事項はフォーラム当日の論議であったが,事前にJAMT参加者を中心にどのような流れで論議を進めていくべきか何度も打ち合わせを行った。また,議論の収拾がつかない状況も想定し予備のまとめスライド作成を行うグループもあった。フォーラム前日には参加できるメンバーが集まり,当日のシミュレーションを行いコンセンサスの統一に努めた。さらに,我々WG委員とJAMT,KAMTおよびTAMT参加者が事前に多くのコミュニケーションをとり,一つの目標を目指したことでフォーラム当日は論議に集中できた。また,懸念事項の一つであった英語によるコミュニケーションに関しては,ホワイトボードで意思疎通を行い,理解できない単語等についてはインターネットや翻訳機POCKETALK(SOURCENEXT社)を活用するなどの工夫を行った。

Figure 1 JAMT,KAMTおよびTAMT メンバーでの集合写真

JAMT,KAMTおよびTAMTから推薦された計21名の推薦者と若手WG委員9名の計30名とJAMT,KAMTおよびTAMT役員の方々との集合写真。

Figure 2 議論時のグループ配置

グループ毎に分かれて,テーマ内容について議論を行った。

V  考察

開催までに多くの対策を行ったが,その一方で,当日参加してくれた一般参加者への対応については課題が残った。次回以降,この点に焦点を当てた企画を立案し,より有意義なフォーラムとなるように努めたい。本フォーラムは初めての試みであり,どのように展開していくのか予測出来ない部分が準備段階より多々あった。しかし,JAMT,KAMTおよびTAMT参加者は積極的な姿勢でフォーラムに臨み,3グループの全てが活発な論議を終始繰り広げた。また,自分の表現したいことが上手に伝えられないもどかしさや,相手の主張内容を把握できない状況の中,それでも双方が自分の主張したいことを形に捉われず必死に伝え,相手の意を汲み取ろうとする姿勢がフォーラムを通して随所で感じられた。これは我々が求めている国際対応力であり,お互いを尊重し合い,同じ臨床検査技師として国境を越え,未来のBLS像について論議を行うことができたと考える。また,今回の取り組みは,3ヶ国の若手臨床検査技師にとって大きな財産になったと思われる。

2018年に若手WGが発足し,全国から日臨技所属の臨床検査技師を招集し,臨床検査の将来像を見据えた国を越えてのフォーラムを開催し,臨床検査における問題点・改善点・将来像についてKAMT,TAMTの若手臨床検査技師と意見交換を行うことができた成果は大きいと考えられる。今後は,フォーラムに参加した若手技師が,各支部学会を通してその経験・得られた知識を多くの臨床検査技師と共有したい。さらに,KAMT,TAMTとの活動成果をAAMLSやIFBLSで日本から精力的に発信したい。すでに,2019年8月30,31日に韓国平昌で開催された第57回KAMT学会&International Conferenceでも今回の取り組みをPoster発表し,Poster Awardに選出される成果を挙げることが出来た。このことからも,若手WGの活動は国際的に見ても意義深いと思われる。

最後に,本フォーラムは今後我々臨床検査技師の国際化対応力向上に向けた非常に良い取り組みであり,将来展望を見据えた際にとても期待が持てる内容であったと考えられる。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

 
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