2020 Volume 69 Issue 1 Pages 95-100
国際化に対応するためには何が必要かを考えられる若手技師育成を目的とし,若手技師国際化対応力向上ワーキンググループ(若手WG)が2018年に発足した。若手WGによる初の企画であるInternational Young Biomedical Laboratory Scientist Forum(International Young BLS Forum)が山口県下関市で開催された第68回日本医学検査学会において実施されたのでその内容について紹介する。本フォーラムでは精度管理における人工知能(artificial intelligence; AI)の有用性,進化するゲノム医療及び遠隔医療の未来像の3つのテーマについて議論が行われた。我々は,精度管理と人工知能の有用性について国を超えて議論を交わした。フォーラム当日までに精度管理が抱える各国の現状と問題点を事前に抽出し,フォーラム当日は抽出した課題についてAIがその解決ツールとしてどのような可能性があるかを議論した。議論成果として,AIが臨床検査室に導入された後,私たちはどのように働くべきか,そして予想される働き方について,実例を交えながら成果発表を行った。本フォーラムを通した国際化への取り組みは,我々臨床検査技師の国際化対応力向上に向けた非常に良い内容であり,将来展望を見据えた際にとても期待が持てる内容であったと考えられた。
A working group committee (young WG) for improving the internationalization of young biomedical laboratory scientists (BLSs) was established in 2018. Its purpose is to train young BLSs to think about what is necessary for improving their internationalization. We will introduce the details of the international young BLSs forum, which is the first event organized by the young WG at the 68th Japanese Association of Medical Technologists (JAMT) congress in Shimonoseki. There are three themes: “Will artificial intelligence be a useful tool for quality control in the future?”, “The evolving genomic medicine—The future image of genomic medicine”, and “The BLSs’ future vision of telemedicine”. Our team discussed the first theme across the nations. We looked into the problems and circumstances surrounding quality control (QC) before the forum, and then we discussed the possibility of AI as a tool to fight those problems during the forum. As one of our achievements, we made a presentation about what we should do after introducing AI technology, with some examples. We concluded that the action for the internationalization through this forum is an efficient way to improve the internationalization of young BLSs, and we are hopeful for the future actions arising from this forum.
2018年,若手技師の国際化対応力向上を目的として若手技師国際化対応力向上ワーキンググループ(以下,若手WG)が立ち上げられた。若手WGの第1弾企画として第68回日本医学検査学会においてInternational Young Biomedical Laboratory Scientist Forum(International Young BLS Forum)と題したフォーラムが開催された。
初回となる今回のフォーラムでは,1.Artificial Intelligence could be useful tools for Quality Control in clinical laboratory? 2.The evolving genomic medicine—The future image of the genomic medicine— 3.The future vision of telemedicine for Biomedical Laboratory Scientistsの3つのテーマを掲げた。
本フォーラム参加者は,日本臨床衛生検査技師会(Japanese Association of Medical Technologist; JAMT),韓国の大韓臨床病理士協会(Korean Association of Medical Technologist; KAMT)および台湾の中華民国医事検験師公会全国聯合会(Taiwanese Association of Medical Technologist; TAMT)から推薦された計24名と若手WG委員6名の計30名で行った。若手WG委員を含む参加者を3つのグループに振り分け,グループ毎に事前準備と当日の議論を行った。フォーラムの最後は,各グループの議論成果を発表する形式で行われた。
我々のグループは,「Artificial Intelligence will be useful tool for quality control in the future?」のテーマで,精度管理と人工知能の活用について話し合いを行った。
そこで今回我々は,我々のグループがどのように3カ国共同で準備を行い,そして当日どのような成果を得ることができたかについて今後の将来展望を含め報告する。
国際化に対応するためには何が必要かを考えられる若手技師育成を目的とし,若手技師国際化対応力向上ワーキンググループ(若手WG)が2018年に発足した。若手WGメンバーは,日本臨床衛生検査技師会(日臨技)事業の国際化取り組みの一環で,日臨技と友好関係にあるAmerican Society for Clinical Pathology(ASCP)1)との合意のもと行われている事業である米国の医療施設での短期留学経験者及び海外留学経験者等の臨床現場で現職の臨床検査技師で構成された。若手WG委員の内訳は,北海道1名,埼玉県1名,東京都1名,神奈川県1名,愛知県2名,大阪府1名,広島県1名,福岡県1名の9名と日臨技担当理事1名の計10名と日臨技事務局で構成された。
若手WG 9名を,それぞれの専門分野に基づき3名ずつ3つのグループ(精度管理,遠隔医療,ゲノム医療)に振り分けた。各グループ内でフォーラムでの課題テーマの話し合いを行った。精度管理グループは,将来の医療現場において,(artificial intelligence; AI)の台頭により臨床検査技師の立ち位置が大きく変容していくことに疑いの余地がないことを想定し,課題テーマを「精度管理への人工知能の活用」とした。
2. JAMT,KAMT,TAMT参加者の選出2018年10月頃にJAMT参加者を募るため,地域や専門分野等を考慮した上で,若手WGメンバーが2名,下関実行委員会から1名を推薦し,3名のJAMT参加者を決定した。また,KAMTとTAMTにも参加者募集の依頼を行い,それぞれの国から各グループ2名ずつの参加者を選定した。その結果,ひとつのグループ参加者は合計10名となり,このメンバーで開催当時に向けた準備を開始した。
3. 課題テーマに関する事前議論精度管理チームでは各国の精度管理の現状を把握するために次に挙げる質問をKAMTとTAMT参加者に行った。
1)外部精度管理について,2)検査室の国際認証について,3)内部精度管理について,4)顕微鏡検査の精度管理について,5)患者データを使用した精度管理である。これら5つの点について日韓台の現状の共有を行った。また,JAMT,KAMT,TAMT参加者は精度管理に関する自国の現状をフォーラム当日に発表するためのスライド作成を行った。各国との議論や連絡にはチーム内で作成したメーリングリストやSNSを活用した。
先述したスライドに関して各国が15分ずつ発表を行った(Figure 1)。
Pictures of presentation. The left figure shows a group discussion, the right figure shows presentation of pre-preparation slide
スライド発表をベースに各国が精度管理に関して抱えている問題の洗い出しを行った。議論の過程で挙がった各国の問題点をFigure 2に示す。
「外部精度管理に参加していない施設が少なくない」,「技師間差に起因するバラツキ」のように各国に共通する課題もある一方,「生理検査の精度保証が標準化されていない」,「生理検査は臨床検査技師ではなく看護師がしばしば実施している」など各国独自の課題があることが分かった。この結果からも,各国が比較的精度管理について同様の問題を抱えていることが見て取れた。一方で,各国独自の課題については,各国が抱えている医療情勢もあるため単純化することが難しいことも知ることができた。次に浮かび上がった課題について,それらの課題がAIによって解決されうるかについて,「解決される」,「解決される可能性がある」,「解決されない」の3つに分類した。分類をFigure 3に示す。この結果からAIが決してすべてではなく,我々臨床検査技師がAIと共存できる道を常に提案し行動し続けることが重要であると考えられた。その後,議論を進めながら最終発表のためのスライドも同時に作成していった。
我々のグループの最終発表は,JAMT,KAMT,TAMT参加者から代表者1名を選出し,3名で行った。日本が導入部分と精度管理に関する各国の問題点について説明し,台湾がAIによる解決可否について実例を交えながら説明し,最後に韓国が「AIが臨床検査室に導入された後の我々の働き方」について議論から導き出された結論を述べた。今回我々が出した結論としては,AIが臨床検査室に導入されることで精度管理に関する多くの課題は解決されると共にリスクの検知,分析や評価はAIが担うようになり,AIによって導き出されたリスクへの対処やAIを活用するための環境の確立が我々の働き方になるのではないかというものであった。
4. フォーラムに関するアンケート集計フォーラム終了後,チームメンバーに対してフォーラムに対するアンケート調査を実施した。アンケート結果をTable 1に示す。
Questions | Answers | ||
---|---|---|---|
About the discussion theme | Valuable 9 |
Valueless 0 |
Neither 1 |
About the forum summary | Satisfaction 10 |
Dissatisfaction 0 |
Neither 0 |
How was it about preparing the forum? | Satisfaction 9 |
Dissatisfaction 1 |
Neither 0 |
What do you think about sharing your slide before the forum? | Helpful 9 |
Unnecessary 1 |
|
About the progress of the day | Satisfaction 10 |
Dissatisfaction 0 |
Neither 0 |
Are you satisfied with the discussion time and presentation time? | Satisfaction 9 |
Dissatisfaction 1 |
Neither 0 |
Do you want to organize the international forum like this at your national congress? | Yes 8 |
No 2 |
アンケート結果では,概ね好意的な結果が確認できる。しかしその一方で,当日の議論を充実させるために,事前準備なしで臨んだ方がより対応力向上につながるのではないかとの意見もあった。また,課題テーマについては,各国の病院における臨床検査技師の役割や,メディカルスタッフとの連携についての現状も知りたいとの意見もあった。さらに,今回のフォーラムのようなディスカッション形式ではなく,ワークショップ形式で行っても良いのでは?との意見もあった。今後の活動の大きな改善点として取り組む必要があることが窺える。
2018年10月にチームが確定し,各国での精度管理の現状や問題点を抽出することから準備を始めた。本番の構想を練る作業や,自分達の意見を英語で表現できるよう約半年間かけてJAMTチームメンバーで準備をしてきた。本番前日には,KAMT,TAMTメンバーと交流する時間があり,本番当日に議論しやすい雰囲気を築くことができた。今回我々のグループ課題は,日本語でも議論が難しいと思われる“精度管理におけるAIの有用性”というテーマであったが,事前にとても良い関係を築けたことで,当日は想像以上にスムーズに議論を進めることができた。各国の精度管理における問題点やAIと未来の検査技術との関わり方についての考えは意外と似ている点も多く,我々臨床検査技師の課題は共通していることを認識することができた。
今回,我々が議論から導き出した結論は,AIが得意とする分野に関してはAIを活用するとともに,まだAIには難しい部分を我々が担うことでAIへのタスクシフティングと共存を進めていくということであった。すなわち,AIに依存することとしないことをどのように定義していくかが大きな課題であると思われる。
また,今後どのような形で臨床現場へ還元できるかについては今回のフォーラムを通して真摯に考えていく必要があることを認識できた。そうでなければ,このようなフォーラムは“単純に会ってお話をして終わり”になってしまう危険性が高い。今後,このような活動を通して得られたことをどのように学術レベルまで昇華し,臨床現場へ還元できるかが,このような活動の大きな課題であると考える。
本フォーラムはこれまでにない初めての企画であり,さまざまなことが手探りな状態であった。そういった状況の中,若手WGとJAMT推薦参加者がしっかりとコミュニケーションをとることで課題を乗り越え,フォーラム当日を迎えることができた。また,不安視されていた英語も流暢ではなくても「伝えたい」という気持ちをもって話せたことで,各国とコミュニケーションがとれ,最終発表まで進めることができた。こうした経験は,若手WGが目的としていた国際化対応力向上の一助になったと考えられる。実際,KAMT参加者のMs. Kim Sun-Hee(Severance Hospital)からは,Most of all, I appreciate that JAMT gave me the chance to attend the BLS forum. Honestly, it is more than I expect. I’d love to share my work with friends of other country. I am wondering of other country’s circumstances all the time. Now I’ve got the answer what should I do!との言葉を頂いた。
今回の活動が契機となり,今後益々若手WGの企画に参加してくれることを大いに期待したい。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。