Japanese Journal of Medical Technology
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Future vision of telemedicine for Biomedical Laboratory Scientists: Report of the International Young Biomedical Laboratory Scientists Forum 2019
Tomomi YASUEEisuke ITODaisuke ITOYuya ONOZAWAMasafumi YAMAMOTOYui NAMIKAWARyosuke KIKUCHIHisashi TAKEURA
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2020 Volume 69 Issue 1 Pages 101-105

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Abstract

2019年5月開催の第68回日本医学検査学会にてThe International Young BLS Forumが開かれた。このフォーラムは,2018年に日本臨床衛生検査技師会で発足した若手技師国際化対応力向上ワーキンググループによる初の企画である。我々は,韓国,台湾の臨床検査技師(biomedical laboratory scientist; BLS)とともに遠隔医療と人工知能(artificial intelligence; AI)の関わり方をテーマに議論した。事前準備として,遠隔医療やAIに関する現状や課題を国ごとに挙げた。フォーラム本番では,事前に挙げた課題をふまえ,遠隔医療の未来像を議論の軸としBLSの今後について論議した。少子高齢化や医療従事者の偏在化など3国共通の社会背景が多く,遠隔医療でのAI活用は社会問題の解消に欠かせないと考えられた。一方で,セキュリティシステムの構築や法整備,AIによる医療過誤における責任の定義など解決すべき課題が多いのも現状といえた。今後,BLSの教育課程でも情報セキュリティやAIに関する知識の習得が必須になることが望まれるとの見解で一致した。遠隔医療分野で活躍するBLSはまだ少ないが,AIと共存し医療分野以外の専門家ともチームを組むことが遠隔地の患者にも医療スタッフにもメリットを生み,BLSの活躍の場を更に拡げることになると結論づけた。

Translated Abstract

The International Young Biomedical Laboratory Scientists Forum was held during the 68th JAMT congress in May 2019. This forum is the first project organized by the Young Professionals Internationalization Improvement Working Group, which was established by the Japan Association of Medical Technologists in 2018. We held discussions on telemedicine and artificial intelligence (AI) with the biomedical laboratory scientists (BLS) of Korea and Taiwan. Each country described the current situation and issues related to telemedicine and AI in advance. At the forum, we also discussed the future vision of telemedicine and BLS. As there are many common social elements in our three countries, such as declining birthrate, aging populations, and uneven distribution of medical workers, we considered the use of AI in the telemedicine field as an indispensable resource for solving these problems. However, many issues remain to be solved, such as the development of security and legal systems, and the definition of responsibility for medical errors caused by AI. Therefore, we agreed that it is desirable to acquire the knowledge necessary for information security and AI in the educational curriculum of BLS. Although there are few BLS active in the field of telemedicine, coexistence with AI and teaming up with experts outside the medical field will produce benefits for patients and medical staff, and further expand the possibility of BLS.

I  背景および目的

近年,情報伝達技術(information and communication technology; ICT)や人工知能(artificial intelligence; AI)などの革新的テクノロジーは医療分野へも導入されつつある。特に,医療格差が課題となっている遠隔医療分野へのICTの応用はめざましく,2018年度の診療報酬改定では,遠隔画像診断や遠隔モニタリングに関する算定拡充がなされたほか,オンライン診療料やオンライン医学管理料も創設された。患者が良質な医療を受けられる機会を少しでも多く得られるよう,どのように遠隔医療を位置づけ,どのように医療従事者が関与していくかは今まさに体制を構築している最中であり,なかでも臨床検査技師(biomedical laboratory scientist; BLS)が活躍できる可能性は未知数である。今回,The 1st Young BLS Forumにて,AIがさらに活用されるであろう遠隔医療の未来像と,その遠隔医療分野で臨床検査技師がどのように関わっていくべきかを,3カ国(日本,韓国,台湾)のBLSの視点から議論しえたので報告する。

II  フォーラム開催までの準備

1. ディスカッションテーマの決定

先行して決定していた日本臨床検査技師会(Japanese Association of Medical Technologists; JAMT)メンバーにて,テーマに関する議論を行った。近年,医療分野へも導入されつつあるAIが遠隔医療分野でも活用されることで,遠隔地における患者や医療従事者の医療でのあり方が変容していくであろうと想定し,「遠隔医療の未来像~臨床検査‍技‍師はこう活躍する!~(The future vision of telemedicine for Biomedical Laboratory Scientists)」をテーマとした。

2. グループメンバーの決定と連絡手段の構築

JAMTの若手技師国際化対応力向上ワーキンググループ(若手WG)メンバー3名に加え,JAMT,韓国の大韓臨床病理士協会(Korean Association of Medical Technologists; KAMT),台湾の中華民國醫事檢驗師公會全國聯合會(Taiwan Association of Medical Technologists; TAMT)から推薦のあった7名の合計10名で,遠隔医療グループとしてフォーラムに臨むこととなった。メーリングリストを作成し,若手WGメンバーから選出した1名の連絡窓口係を中心にアンケートの配布や,各国からの質問への回答を行った。

3. ディスカッションテーマに関する事前議論

各メンバーを対象に,各国の医療に関する社会情勢や所属施設における遠隔医療への関わり,AI技術の実情を問うアンケート調査を実施した。日韓台での遠隔医療に関する状況や社会情勢を知ることが目的であり,特に4項目(①遠隔医療とAIの現状,②課題や問題点,③実現しつつあるAI技術,④期待する未来像)については国ごとに意見をまとめ,スライド(以下,事前スライド)を作成した。

III  フォーラム当日

1. 事前スライドの発表

事前スライドを用い,各国の推薦参加者1名が各々15分ずつの発表を行った(Figure 1)。

Figure 1 Presentation of preview slides

One recommended participant from each country presented preview slides.

2. 遠隔医療とAIに関するディスカッション

事前スライドでの発表をふまえ,遠隔医療やAIとの関わり方における各国の共通点や相違点を挙げ,論点とした。また,将来どのような技術が必要になるか,その中で我々はどうしていくべきかをチームで議論し,最終プレゼンテーション用のスライドにまとめた(Figure 2)。なお,ディスカッションおよびスライド作成のために充てられた時間は90分であった。

Figure 2 Discussion about telemedicine and AI

Considering the presentation of the preview slide, the similarities and differences between telemedicine and AI in each country were listed, and we discussed the future of BLS in the telemedicine field.

事前スライドから3カ国の現状を把握したうえで挙がった主な論点は,遠隔医療とAIに関する①すでに実行されている技術,②近い将来の実現が期待できる技術,③社会背景,④問題点,⑤①~④を踏まえたうえでのAIを活用した遠隔医療の将来像と我々の将来像,の5項目であった。以下に①~⑤についてなされた論議を示す。

AI分野においては,心臓超音波検査における一部計測項目の自動計測技術や血液細胞の自動解析技術などがすでに行われていた。遠隔医療分野においては,医師が各専門領域のスペシャリストに相談できるtele-consultation,救急医療における遠隔医療システム,慢性心疾患患者や慢性閉塞性肺疾患患者の遠隔モニタリングや埋め込み型心臓デバイスを用いた遠隔モニタリングなどが行われていた。しかしながら,いずれにおいても最終的には人間が関与する必要があるとの見解で一致した。

このような現状を踏まえ,②近い将来の実現が期待できる技術として,モバイル端末を活用した救急医療分野での情報共有,仮想現実システムを活用した手術トレーニング,テレパソロジーにおける重症度分類の自動判定システム,検体検査における測定結果の自動解析や品質管理に関する問題の自動解析アルゴリズムなどが挙がった。すでに研究段階に入っているものもあれば,本フォーラム参加者の意見も踏まえたものもあり,実現の可否を問うものではないが,いずれも興味深い内容である。実現した際には医療に大きなメリットをもたらすものとの見解で一致した。ただ,このような技術の進捗は各国が抱える社会問題と大きく関わることが考えられる。

③AIと遠隔医療に関する各国に共通する社会背景として,少子化や超高齢化社会,医師不足や医療スタッフの偏在化,医療資源の過剰使用や病院の赤字経営などが挙げられた。AIや遠隔医療の活用は,これらの問題点を改善する上で大きな効力を発揮すると期待できる。AIの活用により,様々な作業を自動化することで人間の関与が必須となる業務やより高度な専門性を有する業務に人員を集中させるなど,少ない人員を有効活用でき,働き手不足解消の一助となりうる。また,今まで十分に人員を充てられなかった分野に注力することも可能となり,業務拡大の可能性も見い出せる。これはBLSのみならずすべての医療従事者にもいえることであり,医師不足や医療スタッフの偏在化といった遠隔医療分野での問題解決の一助となり,地域による医療格差の是正にもつながるであろうとの見解で一致した。これらを踏まえ,AIを活用した遠隔医療を実現できれば,医療資源の有効活用や病院経営の側面においてもメリットがもたらされるであろう。

しかし,実現するにあたり現実的には様々な問題点がある。個人情報保護の観点から厳格なセキュリティシステムの構築が必要であること,国によって姿勢は異なるもののこのような技術を活用していくために必要な法整備が現時点では十分ではないこと,使用できる機器や施設が限定される可能性が高いことなどが挙がる。また,患者は医師と直接対面して診療を受けることを望むという背景もAIやIoTを活用した遠隔医療が普及しにくい一因かもしれない。これらの事情に加え,万が一,AIを活用した医療や非対面医療において誤診や医療過誤があった際,その責任の所在を明確にできるかどうかは依然大きな問題であり,解決すべき課題でもある。以上の議論を踏まえたうえで,⑤AIを活用した遠隔医療の分野における将来像およびその中で我々BLSはどのように関わっていくべきか議論した(Figure 3)。例えば,在宅医療では医師や看護師が検査を実施するのが主流であり,BLSの活躍はまだ少ない。しかし,専門的判断を要する場面でAIや遠隔相談ツールを活用することで,BLSの活躍の場は拡がるであろう。このような種々の技術は医療の現場のみならず,医療人を育成する教育課程にも関わることであり,教育課程において医療情報学やAIに関する学習時間を設けることが望まれる。このような専門教育を受けることで,BLSが最新技術を実装するため企画に参加し,多方面の専門家と計画を立て実行することも可能になるであろう。また,BLSのライセンス取得後にも医療情報解析などに長けた人材を育てられるようAIや情報セキュリティに関する専門資格を作ることも有用であると考えられる。将来的には,BLSが医療の専門知識のみならず情報セキュリティやAIに関する専門知識を取得し,工学分野やシステム分野の専門家たちと連携することで,ヘルスケアアプリや様々なソフトウェアの開発側のスタッフとして関わっていくことも重要である。

Figure 3 Future vision of Professional BLS

最終的に我々は今回のディスカッションを通して,AIを活用した遠隔医療の発展とBLSとの関わり方において,重要な2つのキーワードを導き出した。1つ目は「BLSとAIの融合」,2つ目は「チームワーク」である。BLSはAIを検査業務で活用するのみならず,情報セキュリティやシステム開発などの専門知識を得て,AIと融合し共存することが重要である。そのうえで,これまでのBLSの枠組みを超えた活動を行い,様々な専門分野のスタッフとチームを組むことでBLSの可能性は拡がっていくと考える。

以上の内容をまとめ,スライドを作成した。

3. 最終プレゼンテーション

JAMT,KAMT,TAMT参加者から各々代表者1名を選出し,計3名で発表した(Figure 4)。まず,現在実用化されている遠隔医療技術とAI技術について紹介し,併せて近い将来には実現が可能であろう技術を紹介した。次に,考慮せざるをない各国の社会情勢(少子高齢化,医師不足など)について言及し,遠隔医療分野でAIを活用していくうえでの問題点を述べた。フォーラム参加者の意見も交えながら,「BLSがどのように活躍していくか」について将来的な展望を示した。

Figure 4 Final presentation

Each representative selected from JAMT, KAMT, and TAMT gave the final presentation.

4. アンケート集計

フォーラム終了後,グループのメンバー10名を対象にフォーラムに関するアンケート調査を実施した。

IV  考察

今回のディスカッションでも意見が挙がったように,在宅医療は今後BLSが取り組むべき課題の一つと考えられる。AI技術の発展とともに,我々BLSの働くフィールドは遠隔医療のみならず現在の病院中心から大きく変革を遂げる可能性が高いと考えられる。遠隔医療についてはいずれの国においても未だ実現できていない内容が多く,議論が進むか不安であったが,いざ始まってみるとディスカッション時間が90分では足りないほど充実した議論が行われた。現に,フォーラム終了後に実施したアンケート調査では,今回のディスカッションテーマは非常に意義ある題目と全員が回答したものの,ディスカッションに充てられた90分という時間が十分であると回答したメンバーは半数にとどまっており,その熱意がうかがえる(Table 1)。国も言語も異なり,前日まで顔も見たことがなかったメンバーで時間が足りなくなるほどの活発な議論がなされたという事実が本フォーラムにおける最大の成果と考えられる。フォーラムの成功は,参加者全員の意識の高さとお互いの立場や文化を尊重する人間性によるところが大きく,各国のBLSが未来について真剣に向き合う姿勢を強く感じることができる貴重な経験となった。

Table 1  Results of questionnaire survey on this forum
About the discussion theme Valuable Valuless Neither
10 0 0
About the forum summary Satisfaction Dissatisfaction Neither
10 0 0
How was it about preparing for the forum? Satisfaction Dissatisfaction Neither
9 0 1
What do you think about sharing your slides before the forum? Helpful Unnecessary Neither
10 0 0
About progress of the day Satisfaction Dissatisfaction Neither
10 0 0
Are you satisfied with the discussion time and presentation time? Satisfaction Dissatisfaction Neither
6 3 1
Do you want to organize the international forum like this at your national congress? Yes No Neither
7 2 1

最後に,あるメンバーのコメントを紹介する。“All the members were passionate and it was an informative and constructive time to raise our position. Although we did it the first time, we did a good job. Thanks.”これはグループメンバーの総意でもあり,このような企画に参加できたことに大いに感謝している。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

 
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