Japanese Journal of Medical Technology
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Evaluation and comparison of examinations for infection-related diseases using VITROS XT7600: Establishing a clinical testing system for disaster mitigation measures
Ryosuke KIKUCHIRika WATARAIAtsuo SUZUKISatoru YOKOYAMAKaori GOTOYoshitaka ANDOTadashi MATSUSHITA
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2020 Volume 69 Issue 1 Pages 54-62

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Abstract

名古屋大学医学部附属病院は愛知県の地域災害拠点病院に指定されている。当院が策定した事業継続計画では,災害時の外部インフラは上水道で2週間,電気が3日間停止すると想定されている。しかし,被災時には手術や処置,検査などにより,血液や体液に暴露する危険性がより高くなることが予想される。すなわち,いかなる状況下においても,患者からの感染リスクを適切に評価し,医療者への感染対策を施行すべきである。このような背景の中,全自動免疫生化学統合システムVITROS XT 7600は給排水装置が不要であり,災害時における検査体制が構築可能であるとして診療貢献が期待されている。本研究では,被災時に必要とされうる免疫感染症関連項目について,VITROS XT 7600と当院で使用している分析装置との性能比較を行い,その有用性について検証することを目的とした。評価項目として,Hepatitis B surface(HBs)抗原,Hepatitis C virus(HCV)抗体,Treponema pallidum(TP)抗体及びHuman immunodeficiency virus(HIV)抗原/抗体の4項目を検証した。その結果,判定一致率はHBs抗原で98.0%(98/100),HCV抗体で92.3%(60/65),TP抗体で100%(53/53),さらにHIV抗原/抗体で100%(67/67)であった。また,seroconversion panelによる早期検出能評価をHBs抗原,HCV抗体及びHIV抗原/抗体について実施した。その結果,VITROS試薬の早期検出能については概ね良好な結果であった。今回の検証結果から,被災時での減災対策としてVITROS XT 7600による免疫感染症関連項目の測定は有用であることが示唆された。

Translated Abstract

Nagoya University Hospital is designated as a regional disaster base hospital in Aichi Prefecture. According to the Business Continuity Plan (BCP) formulated by our hospital, it is assumed that the external infrastructure around the hospital during a disaster will be shut down for two weeks for water supply and three days for electricity. However, medical treatment and preoperative examination during disasters are indispensable. The fully automated VITROS XT 7600 integrated system does not require a water supply/drainage device, and is expected to contribute to medical care during a disaster. Here, VITROS XT 7600 was used to compare the performance of the examinations for infection-related diseases that may be required during disasters with the analyzer used in the hospital, and its usefulness was verified. The hepatitis B surface (HBs) antigen, hepatitis C virus (HCV) antibody, Treponema pallidum (TP) antibody and human immunodeficiency virus (HIV) antigen/antibody were verified as the markers for infection-related diseases. The concordance rates of the results of examinations for infection-related diseases were 98.0% for the HBs antigen (98/100), 92.3% for the HCV antibody (60/65), 100% for the TP antibody (53/53), and 100% for the HIV antigen/antibody (67/67). Moreover, the early detection capability of a seroconversion panel was evaluated for the HBs antigen, HCV antibody, and HIV antigen/antibody. Results showed that the early detection capability was almost the same for all items. Taken together, it was considered that VITROS XT 7600 is useful for examinations of infection-related diseases during disasters.

I  序

災害が起きた際に,検査部としてできるだけ早い段階で臨床検査業務を再開するためには,事前に対応や対策を整理・準備しておくことが極めて重要である。このための計画が事業継続計画(business continuity planning; BCP)である。当院が策定したBCPでは病院周辺の外部インフラが上水道で2週間,電気が3日間停止すると想定されている。このとき,外部からの水供給を一切必要としないVITROSシステムは,給排水設備が不要のため機器の設置が容易であり,災害時に水の供給が途絶えた状況下でも検査業務が行える分析機器である。

肝炎ウイルスなどを代表とする免疫感染症検査は診療上特に術前検査として必須の検査であり,いかなる状況下でも高い信頼性をもち,かつ迅速に検査データを提供することが求められる。また,自然災害の多い本邦において,災害時に検査部が平常に近い状態で機能するために,ウォーターレス機器を用いた臨床検査体制を構築することは一つの手段であり,“減災”の観点からも重要であると考えられる。

一方,被災時には手術や処置,検査などにより,血液や体液に暴露する危険性がより高くなることが予想される。すなわち,患者からの感染リスクを適切に評価し,医療者への感染対策を施行すべきである。そのため,災害時には感染症関連項目の測定が必要であると考えられる。

そこで本研究では,免疫感染症関連4項目(hepatitis B surface(HBs)抗原,hepatitis C virus(HCV)抗体,Treponema pallidum(TP)抗体,human immunodeficiency virus(HIV)抗原/抗体)を対象に,全自動免疫生化学統合システムVITROS XT 7600と当院検査部で稼働中の全自動化学発光免疫測定装置ARCHITECT i2000SRとの比較検討を行った。

II  対象および方法

1. 対象

名古屋大学医学部生命委員会承認のもと,2018年11月~2019年1月までに当院でHBs抗原,HCV抗体,TP抗体,HIV抗原/抗体測定の依頼があった入院及び外来患者の中から268例の検査後残血清を用いた(承認番号:2010-1038)。

2. 測定機器

測定機器として,全自動免疫生化学統合システムVITROS XT 7600(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社)(以下,ビトロス)と比較対照機器に全自動化学発光免疫測定装置ARCHITECT i2000SR(アボットジャパン株式会社)(以下,アーキ)を使用した。

3. 測定試薬

測定試薬として,ビトロス専用試薬を使用し,比較対照として当院で使用しているアーキ専用試薬を用いた。

1) ビトロス専用試薬

HBs抗原:ビトロスHBs抗原ES試薬パック(以下,ビトロスHBs),HCV抗体:ビトロスHCV抗体試薬パック(以下,ビトロスHCV Ab),TP抗体:ビトロスTP抗体試薬パック(以下,ビトロスTPAb),HIV抗原/抗体:ビトロスHIV Combo試薬パック(以下,ビトロスHIV Ag/Ab)を使用した。

2) アーキ専用試薬

HBs抗原:アーキテクト・HBsAg QT試薬キット(以下,アーキテクトHBsAg),HCV抗体:アーキテクト・Anti-HCV試薬キット(以下,アーキテクトHCVAb),TP抗体:アーキテクト・TPAb試薬キット(以下,アーキテクトTPAb),HIV抗原/抗体:アーキテクト・HIVAg/Abコンボ試薬キット(以下,アーキテクトHIVAg/Ab)を使用した。

4. 検討項目

感染症関連項目として,HBs抗原,HCV抗体,TP抗体及びHIV抗原/抗体の4項目を以下の点について評価した。

1) 分析機器の性能仕様評価

ビトロスとアーキの機器性能仕様評価を行った。

2) 判定一致率

アーキで測定したHBs抗原検査残検体100検体,HCV抗体検査残検体65検体,TP抗体検査残検体53検体,HIV抗原/抗体検査残検体50検体及びHIV抗原・抗体陽性検体(ProMedDx社)17件を用いて,ビトロス測定値との判定一致率を評価した。判定基準はTable 1の通りである。

Table 1  Cutoff values of HBs Ag, HCV Ab, TP Ab and HIV Ag/Ab
HBsAg HCVAb
ARCHITECT HBsAg Vitros HBsAg ARCHITECT HCV Vitros HCV
Negative 0.05 > IU/mL 0.9 > COI Negative 1.0 > S/CO 0.9 > COI
Indeterminate 0.9 ≤ COI < 1.0 Indeterminate 0.9 ≤ COI < 1.0
Positive 0.05 ≤ IU/mL 1.0 ≤ COI Positive 1.0 ≤ S/CO 1.0 ≤ COI
TPAb HIVAg/Ab
ARCHITECT TP Vitros TP ARCHITECT HIV Vitros HIV
Negative 1.0 > S/CO 0.8 > COI Negative 1.0 > S/CO 0.9 > COI
Indeterminate 0.8 ≤ COI < 1.2 Indeterminate 0.9 ≤ COI < 1.0
Positive 1.0 ≤ S/CO 1.2 ≤ COI Positive 1.0 ≤ S/CO 1.0 ≤ COI

3) 早期検出能評価

2症例(HBV6282, HBV6291)のHBV seroconversion panel(ZeptoMetrix社),4症例(HCV6219, HCV6225, HCV6228, HCV10165)のHCV seroconversion panel(ZeptoMetrix社)と3症例(HIV9013, HIV9021, HIV9032)のHIV seroconversion panel(ZeptoMetrix社)を用いて早期検出能を評価した。なお,seroconversion panelとはHBV,HCV,HIV等に感染した一個人の血清あるいは血漿を経時的に採取したものである。

4) HCV抗体プロファイル検査

HCV抗体プロファイル検査試薬(オーソ・クリニカル・ダイアグノスティックス株式会社)にて4症例(HCV6219, HCV6225, HCV6228, HCV10165)のHCV seroconversion panelを測定し,目視判定した。

HCV抗体プロファイル検査試薬の原理はイムノブロット法であり,ニトロセルロース膜を支持体とするストリップに5種類の抗原(c22-3, E1E2, c33c, c100p, NS5)ならびに反応強度を比較評価するための2濃度の抗ヒトIgGがそれぞれバンド状に固相化(以下,各抗原バンドならびにコントロールバンド)されている。測定方法は2ステップ法で,1次反応(室温,2時間)にてニトロセルロース膜上の固相抗原に反応させた後,B/F分離を行った。2次反応(室温,10分間)として,ホースラディッシュペルオキシダーゼ(horse radish peroxidase; HRP)標識抗ヒトIgG抗体を一次反応で捕捉された各抗原バンドに対するHCV抗体を反応させて発色させた(室温,15分間)。コントロールバンドの発色度合(1+,3+相当)を指標とし,各抗原バンドの発色度合から,−,±,1+~4+のグレードで判定を行った。HCVキャリアの場合,常にHCV産生蛋白に対する免疫応答を維持しており,幅広い抗原領域に対する抗体が産生されていることから,総合判定は2種類以上の抗原バンドにおいて1+以上の反応強度が認められた場合を「陽性」とした。しかし,感染初期や他のウイルス及びバクテリア等のHCV抗原に類似した抗原決定基に反応する抗体によると思われる交叉反応の可能性を考慮し,1種類の抗原バンドのみの反応強度が1+以上を示した場合を「判定保留」,それ以外の場合を「陰性」と判定した1)

III  結果

1. 分析機器の性能仕様

分析機器の仕様について比較評価したところ,ビトロスはアーキと比較して測定時間と電力消費量については同等であるが,給排水及び純水消費量がない点が最大の特徴であった(Table 2)。しかし,ビトロスの方がHCVを除き一項目あたりの測定時間が長いことが明らかとなった。

Table 2  Performance specification of analytical instruments
VITROS XT7600 ARCHITECT i2000SR
Reaction principle CLEIA CLIA
Throughput MAX 189 test/h MAX 200 test/h
Power AC 200 V AC 200 V
Line Frequency 50/60 Hz 50/60 Hz
Line Voltage 20 A 20 A
Power consumption 3.3 KVA 3 KVA
Environment 15–30°C 15–30°C
Water supply/h 0 10 L
Plumbing Unnecessary Necessary
Run Time (min)
HBs Ag 37 29
HCV Ab 26 29
TP Ab 35 29
HIV Ag/Ab 48 29

2. ビトロス専用試薬とアーキ専用試薬の判定一致率

ビトロス専用試薬とアーキ専用試薬による判定一致率を下記に示す。

1) HBs抗原

両試薬の添付文書判定基準に従い,定性法での判定一致率を評価した。判定一致率は,98.0%(98/100)であり,2件の乖離があった(Figure 1A)。

Figure 1 Scatter plot and concordance rate of HBs Ag, HCV Ab, TP Ab and HIV Ag/Ab screening tests

Scatter plot (left) and concordance rate (right) of the results of HBs Ag (A), HCV Ab (B), TP Ab (C) and HIV Ag/Ab (D) screening tests. Straight line indicated cutoff value for HBs Ag, HCV Ab, TP Ab and HIV Ag/Ab in ARCHITECT i2000SR (X axis) and VITROS XT 7600 (Y axis).

2) HCV抗体

両試薬の添付文書判定基準に従い,定性法での判定一致率を評価した。判定一致率は,92.3%(60/65)であり,5件の乖離があった(Figure 1B)。

3) TP抗体

両試薬の添付文書判定基準に従い,定性法での判定一致率を評価した。判定一致率は,100%(53/53)であった(Figure 1C)。

4) HIV抗原/抗体

両試薬の添付文書判定基準に従い,定性法での判定一致率を評価した。判定一致率は,100%(67/67)であった(Figure 1D)。

3. ビトロス試薬とアーキ試薬によるHBs抗原,HCV抗体とHIV抗原/抗体の早期検出能

1) HBs抗原

HBs抗原の判定不一致が2症例あり,測定系での非特異的反応もしくは,感染後からの検出能に差がある可能性が考えられた(Table 3A)。そこで,HBs抗原早期検出能評価を行った。その結果,HBV seroconversion panelのPanel ID HBV6282,HBV6291ともに両試薬間での早期検出能は同程度であることを確認した(Table 4A, B)。

Table 3  Inconsistent cases of HBsAg (A) and HCVAb (B) tests
A
Case HBeAg HBeAb ARCHITECT HBsAg Vitros HBsAg
S/CO S/CO S/CO Result COI Result
1 95.4 0.4 0.18 POS 0.26 NEG
2 N.T. N.T. 0.65 POS 0.88 NEG

N.T.: Not Test

B
Case HCV RNA ARCHITECT HCV Ab VITROS HCV Ab
S/CO Result COI Result
1 N.T. 1.50 POS 0.93 Indeterminate
2 N.T. 0.90 NEG 1.50 POS
3 N.T. 4.10 POS 0.04 NEG
4 NEG 2.00 POS 0.23 NEG
5 NEG 1.30 POS 0.33 NEG

N.T.: Not Test

Table 4  Initial stage of HBV infection using seroconversion panels. Donor demographics for panel ID HBV6282 (A) and HBV6291 (B)
A
Panel ID Days After Bleed ALT (U/L) Research Use PCR (copies/mL) ARCHITECT i2000SR (S/CO) VITROS XT7600 (COI)
HBV6282-04 12 7 7,100 0.02 0.12
HBV6282-05 14 10 8,200 0.04 0.29
HBV6282-06 19 7 65,000 0.07 1.55
HBV6282-07 21 8 19,000 0.14 3.37
B
Panel ID Days After Bleed ALT (U/L) Research Use PCR (copies/mL) ARCHITECT i2000SR (S/CO) VITROS XT7600 (COI)
HBV6291-04 10 2 500 0.00 0.08
HBV6291-05 15 6 500 0.00 0.10
HBV6291-06 27 8 3,400 0.11 1.91
HBV6291-07 34 3 63,000 0.58 12.50

2) HCV抗体

HCV抗体の判定不一致が5症例あり,測定系での非特異的反応もしくは,感染後からの検出能に差がある可能性が考えられた(Table 3B)。そこで,HCV抗体早期検出能評価を行った。その結果,HCV seroconversion panelのPanel ID HCV6219では,アーキテクトHCV AbでPanel ID HCV6219-03の早期から陽性となった(Figure 2B)。また,Panel ID HCV6228ではPanel ID HCV6228-09からアーキテクトHCV Abが陽性となり(Figure 2D),Panel ID HCV10165ではPanel ID HCV1016-05からビトロスHCV Abが早期に陽性となった(Figure 2E)。Panel ID HCV6228とHCV10165の測定結果から,両試薬間での反応性の違いが存在することが示唆された。

Figure 2 Initial stage of HCV infection using seroconversion panels and profile of HCV antibody

A: Amino acid structure motif of HCV virus. B, C, D, E: Donor demographics and profile of HCV antibody for panel ID HCV6219, HCV6225, HCV6228 and HCV10165.

3) HIV抗原/抗体

HIVスクリーニング検査は,感染の拡散防止・早期治療の観点から感染早期に検出できることが重要である。そのため,判定一致率は100%ではあったが(Figure 1D),HIVの早期検出能についても評価を行った。その結果,HIV seroconversion panelのPanel ID HIV9013では,Panel ID HIV9013-06よりアーキテクトHIV Ag/Abで早期に陽性となった(Table 5A)。一方で,Panel ID HIV9021及びHIV9032では両試薬とも同様の検出能であった(Table 5B, C)。以上の結果から,アーキテクトHIV Ag/Abの方がビトロスHIV Ag/Abより鋭敏にHIVを検出できる可能性が示唆された。

Table 5  Initial stage of HIV infection using seroconversion panels. Donor demographics for panel ID HIV9013(A), HIV9021(B) and HIV9032(C)
A
Panel ID Days After Bleed HIV-1 bDNA ARCHITECT i2000SR (S/CO) VITROS XT7600 (COI)
HIV9013-1 0 < 50 0.04 0.07
HIV9013-4 14 < 50 0.04 0.08
HIV9013-5 18 58 0.05 0.07
HIV9013-6 23 56,350 1.30 0.58
HIV9013-7 25 185,800 5.25 4.19
B
Panel ID Days After Bleed HIV-1 bDNA ARCHITECT i2000SR (S/CO) VITROS XT7600 (COI)
HIV9021-1 0 < 50 0.06 0.07
HIV9021-3 7 < 50 0.07 0.06
HIV9021-12 39 < 50 0.05 0.06
HIV9021-13 43 599 0.08 0.09
HIV9021-14 47 143,379 2.52 2.30
HIV9021-15 50 > 500,000 15.20 17.00
HIV9021-17 57 > 500,000 180.55 192.00
C
Panel ID Days After Bleed HIV-1 bDNA ARCHITECT i2000SR (S/CO) VITROS XT7600 (COI)
HIV9032-1 0 < 50 0.07 0.07
HIV9032-6 15 1,507 0.08 0.09
HIV9032-8 22 40,815 1.41 13.80
HIV9032-10 34 2,425 2.77 8.69
HIV9032-11 36 3,161 2.67 7.23

4) HCV抗体プロファイル検査について

Figure 2Bの結果から,HCV6219ではアーキテクトHCV Abが早期より陽性を示していた。そこで,HCV抗体プロファイルについて評価を行った。その結果,HCV6219のHCV抗体プロファイルはすべての領域において陰性もしくは保留であり,HCV RNAが陰性であることからアーキテクトHCV Abでの非特異反応の可能性が示唆された(Figure 2A, B)。一方で,HCV6225では両試薬とも同様の反応性を示していたが(Figure 2C),アーキテクトHCV Abで早期に陽性化したHCV6228は,HCV抗体プロファイルすべての領域において陰性もしくは保留であった。しかし,HCV6228はHCV RNA陽性症例であり,アーキテクトHCV Abの方がビトロスHCV Abより早期にHCV Abを検出していた(Figure 2D)。また,HCV10165ではHCV10165-08からHCV抗体プロファイルが陽性となり,HCV RNA陽性症例であることから,ビトロスHCV Abの方がアーキテクトHCV Abより早期にHCV Abを検出できる結果となった(Figure 2E)。HCV c22-3(Core)領域の抗体を保有している症例では,ビトロスHCV Abの方が鋭敏かつ特異的にHCV Abを検出できる可能性が示唆された。

IV  考察

熊本地震における臨床検査の実情と活動において,熊本大学医学部附属病院中央検査部の反省点として,生化学・免疫分析装置稼働のための水が確保できなかったことが問題点として挙げられている2)。被災時には外傷性疾患の手術や処置により,血液や体液に暴露する危険性が高くなる。そのため,患者から医療者へのHBV,HCV,梅毒やHIV等からの感染対策を実施するべきと考える。このような背景の中で,外部からの水供給を一切必要としないビトロスは災害時に有用となることが期待され,今回我々は術前検査として代表的な免疫感染症関連4項目について検証を行った。

感染症関連項目における比較の結果は概ね良好であった。しかし,HBs抗原及びHCV抗体において乖離症例が散見された。

HBs抗原で乖離した2症例のうち,症例1はHBVキャリアであり,アーキHBs Agの方がビトロスHBs Agより鋭敏にHBs抗原を検出できる可能性が示唆された。しかし,HBV seroconversion panelを用いた検討の結果から,両試薬間での早期検出能は同程度であることが確認された。症例2については糖尿病を主訴とした眼科系疾患症例であり,B型肝炎感染等の可能性は低く,アーキHBs Agによる非特異反応の可能性が否定できなかった。アーキHBs Agの非特異発生率は,アボット社により公開されている情報では2%未満とされている。一方,ビトロスHBsでは,オーソ社により0.2%未満と公開されている。今回の評価件数は100件であることから,この1件はアーキHBs Ag試薬の非特異反応である可能性は十分に考えられた。

HCV抗体で乖離が見られた5症例のうち,症例1,2は慢性C型肝炎の既往症例であった。症例4,5はアーキテクトHCV Abで陽性であったが,HCV RNAは陰性であった。症例3は,アーキテクトHCV Abで陽性であったが,肝機能障害等が認められない外科系疾患でありアーキテクトHCV Abの非特異反応が示唆された。そこで,HCV seroconversion panelとHCV抗体プロファイルを評価した。その結果,HCV感染の早期検出能についてはアーキテクトHCV Ab及びビトロスHCV Abにおいて一様に評価することが難しい結果となった。非特異反応による偽陽性の要因として,インフルエンザを含む感染症等により偶発的に産生された抗体が,HCV抗体検出系に使用されている原料抗原のエピトープの一部と反応する,という報告がある3),4)。このような交差反応はHCVに限らずHIVやHTLV-1等の免疫測定系においても課題となっている。今回のPanel ID HCV6219もこのような交差性反応抗体がアーキHCV AbやHCV抗体プロファイル検査でのc33c領域の抗原に反応した可能性が示唆される。実際,当院で使用しているアーキテクトHCV Abによる2018年度のHCV抗体総検査数は18,894件であり,そのうち上記の理由と考えられる偽陽性は75件(0.39%)認められている。アーキテクトHCV Abは第2世代試薬(NS4 + CORE + NS3)であり,ビトロスHCV Abは第3世代試薬(NS4 + CORE + NS3 + NS5)である。HCV抗体測定は,第1~3世代試薬ともウイルスに対する抗体を検出することを目的として構築されている。しかし,HCV抗体の測定感度が向上してもHCV-RNAは陰性であり,HCVそのものの有無とは直接つながらないとする報告がある5)。そのため,第2世代と第3世代のHCV抗体測定結果は臨床的にはあまり差が無いことが示唆されている。しかし,NS5領域抗原を加えた測定系が第3世代であり,感度及び特異性がより優れているため,スクリーニングに最も適していると考える。実際,平成24年度厚労省(肝炎等克服緊急対策研究事業)「肝炎ウイルス感染状況・長期経過と予後調査及び治療導入対策に関する研究」の報告書では,検診検体10,000例を対象とした第2世代と第3世代試薬でのHCV陽性検出率は,第2世代での偽陽性率が高いことが示唆されている6)。しかし,第2世代試薬であるアーキテクトHCV Abでは偽陽性の確率がビトロスHCV Abより高くなることが示唆されるが,HCV抗体が陽性でありながら生化学的な肝機能検査が正常で,過去の感染との鑑別が困難な場合,血中HCV RNA測定などでウイルス感染有無を精査し,臨床症状を加味した上でしっかりと判断する必要がある。

HIVスクリーニング検査は,感染の拡散防止・早期治療の観点から,感染早期に発見できることが重要である。アーキテクトHIV Ag/AbとビトロスHIV Ag/Abでの判定一致率は100%であったが,HIV seroconversion panelの測定から,アーキテクトHIV Ag/Abの方がHIV抗原/抗体を早期に検出できる可能性が示唆された。

HCVとHIV感染における初期のWindow期については,HIVに比べHCVの方が長いとの報告がある7)。HIV検査試薬は第4世代の抗原抗体同時検出系が現在の主流であることから,今後,HCV検査においてもWindow期を考慮したHCV抗原/抗体の同時検出系開発が求められる。

HBV,HCV,TPやHIV等の感染症項目では,使用されている抗体もしくは抗原の特性上,ある程度の反応性の違いが起こりうるという難点がある。その一方で,明らかな感染症陽性患者を検出する観点においては,ビトロス専用試薬とアーキテクト専用試薬両者の差異が大きな問題となる可能性は低いと考えられるが,災害時に求められる臨床検査については,臨床医を交えた議論の必要性があると考えられる。また,ビトロスの感染症関連項目の測定時間については最大48分必要となる項目があり,迅速性の観点からビトロスケミストリーシステムの更なる改善を期待したい。

V  結語

災害時,院内の限りある資源を極力節約して使用することが予想される中で,外部からの水供給を一切必要としないビトロスケミストリーシステムは,被災時に安定稼働が可能な代替機および減災対策の一つとして極めて有用である可能性が示唆された。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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