2020 Volume 69 Issue 2 Pages 205-208
敗血症や血流感染症(bloodstream infection; BSI)は重篤な病態なため,血液培養が陽性になった際には,迅速な菌種の同定と有効な抗菌薬の選択が重要である。本研究では,レンサ球菌が検出された血液培養の培養液57検体を用い,Lancefield分類,pyrrolidonyl arylamidase(PYR)試験や肺炎球菌抗原検査を行うことで,レンサ球菌の迅速鑑別が可能かどうか検討した。β溶血性グラム陽性レンサ球菌が疑われた培養液12検体についてLancefield分類を実施したところ,B群6株,F群2株,およびG群4株に分類された。B群はStreptococcus agalactiae,F群はStreptococcus constellatus,G群はStreptococcus dysgalactiaeであった。非β溶血性グラム陽性レンサ球菌が疑われた培養液45検体については,41検体がPYR試験陽性,4検体が肺炎球菌抗原検査陽性であった。PYR試験陽性の41検体は,18株がEnterococcus faecalis,23株がEnterococcus faeciumであった。同様に,肺炎球菌抗原検査陽性の4検体は,Streptococcus pneumoniae(S. pneumoniae)であった。以上の結果から,陽性となった血液培養液を用いた迅速鑑別法は,β溶血性レンサ球菌,S. pneumoniaeやEnterococcus属の予測が可能であり,敗血症やBSIの診断に有用と考えられた。
The rapid identification of Streptococcus spp. using Streptococcus-positive blood culture medium is important in patients with sepsis and bloodstream infection (BSI) because these are serious conditions. In this study, we examined whether Streptococcus spp. could be rapidly differentiated by the Lancefield grouping test, pyrrolidonyl arylaminidase (PYR) test, and pneumococcal antigen test using 57 samples of blood culture medium in which Streptococcus was detected. The Lancefield grouping test was performed on 12 isolates from blood culture medium suspected of having β-hemolytic gram-positive Streptococcus. Among the 12 isolates, six were classified into group B, two into group F, and four into group G. These groups B, F, and G were identified as Streptococcus agalactiae, Streptococcus constellatus, and Streptococcus dysgalactiae, respectively, using MALDI Biotyper. Among 45 isolates from the culture medium suspected of having non-β-hemolytic gram-positive Streptococcus, 41 were confirmed to be streptococci by the PYR test and four by the pneumococcal antigen test. Among the 41 isolates that were subjected to the PYR test, 18 were identified as Enterococcus faecalis and 23 as Enterococcus faecium. Similarly, the four isolates that were subjected to the pneumococcal antigen test were identified as Streptococcus pneumoniae. In conclusion, a rapid differentiation of Streptococcus spp. using Streptococcus-positive blood culture medium may be useful for predicting β-hemolytic Streptococcus, S. pneumoniae, and Enterococcus spp. in sepsis and BSI.
敗血症は「感染症に対する制御不能な宿主反応に起因した生命を脅かす臓器障害」と定義される重篤な病態であり,その原因となる感染症のひとつとして血流感染症(bloodstream infection; BSI)が挙げられる。そのため,血液培養が陽性になった際には,迅速な菌種の同定と有効な抗菌薬の選択が重要である。これまで我々は,陽性となった血液培養の培養液を用いた遊離型コアグラーゼ試験により,Staphylococcus aureusの迅速同定が有用であることを報告した1)。本研究では,陽性となった血液培養の培養液を用い,Lancefield分類,pyrrolidonyl arylamidase(PYR)試験,あるいは肺炎球菌抗原検査を行うことで,β溶血性レンサ球菌,Streptococcus pneumoniae(S. pneumoniae),およびEnterococcus属の迅速鑑別が可能かどうか検討したので報告する。
札幌医科大学附属病院において,2016年4月から2018年4月までに血液培養検査でβ溶血性レンサ球菌(Streptococcus agalactiae 6株,Streptococcus constellatus 2株,Streptococcus dysgalactiae 4株の計12株),S. pneumoniae(4株),Enterococcus属(Enterococcus faecalis 18株とEnterococcus faecium 23株の計41株)が検出された培養液57検体を対象とした。同定には,MALDI Biotyper(ブルカージャパン株式会社)を使用した。確認試験としてオプトヒン感受性試験と胆汁溶解試験を行った。本研究は札幌医科大学の臨床研究審査委員会の承認を得て行った(承認番号:302-31)。
2. Lancefield分類,PYR試験,および肺炎球菌抗原検査陽性となった血液培養液のグラム染色でグラム陽性レンサ球菌であった場合,培養液とその遠心上清の溶血性を確認した。明瞭なβ溶血がみられた場合はβ溶血性レンサ球菌を推定し,Lancefield分類を行った。双球菌あるいは非β溶血であった場合はS. pneumoniaeまたはEnterococcus属を推定し,PYR試験と肺炎球菌抗原検査を行った。肺炎球菌抗原検査が陽性の場合はS. pneumoniae,PYR試験が陽性の場合はEnterococcus属とした。
Lancefield分類は,ラテックス凝集法であるPASTREX ストレップ(バイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社)を用いて行った。培養液2 mLを10 mL滅菌スピッツに移し,1,500 rpmで5分遠心した。次に,上清を新たな滅菌スピッツに移し,移した上清に,溶血剤として1.7 g/L Sodium Dodecyl Sulfate(SDS)を500 μL添加し,滅菌精製水で10 mLまでメスアップした。3,000 rpmで5分遠心した後,上清を除去し菌沈渣を得た。菌沈渣に赤血球が残存していた場合は,SDSからの操作を繰り返した。この菌沈渣を試料として,PASTREX ストレップ検査を行った。
PYR試験は,前述のLancefield分類と同じ方法で菌沈渣を作製後,RID zyme PYRテスト(株式会社LSIメディエンス)を用いてPYR試験を行った。
肺炎球菌抗原検査はイムノクロマト法のBinax NOW 肺炎球菌(アボットダイアグノスティクスメディカル株式会社)を用いて行った。培養液にキット付属の綿棒を浸し,キットの綿棒挿入口に挿入し添加試薬を滴下することで,試料中の肺炎球菌抗原を調べた。
β溶血性グラム陽性レンサ球菌が疑われた培養液12検体からLancefield分類を実施したところ,B群が6株,F群が2株,およびG群が4株検出された(Table 1)。B群6株はMALDI BiotyperでS. agalactiae,F群2株はS. constellatus,およびG群4株はS. dysgalactiaeと同定された。
| Identification by MALDI Biotyper | Group B streptococci | Number of positive Group F streptococci | Group G streptococci |
|---|---|---|---|
| S. agalactiae | 6 | 0 | 0 |
| S. constellatus | 0 | 2 | 0 |
| S. dysgalactiae | 0 | 0 | 4 |
| Total | 6 | 2 | 4 |
非β溶血性グラム陽性レンサ球菌が疑われた培養液45検体についてPYR試験と肺炎球菌抗原検査を実施したところ,PYR試験は41検体,肺炎球菌抗原検査は4検体が陽性であった(Table 2)。PYR試験が陽性であった41検体は,MALDI Biotyperで18株がE. faecalis,23株がE. faeciumとして同定された。同様に,肺炎球菌抗原検査が陽性であった4検体は,MALDI Biotyperと確認試験ですべてS. pneumoniaeであった。
| Identification by MALDI Biotyper* |
PYR test | Number of positive Pneumococcal antigen test |
|---|---|---|
| S. pneumoniae | 0 | 4 |
| E. faecalis | 18 | 0 |
| E. faecium | 23 | 0 |
| Total | 41 | 4 |
* Optochin susceptibility testing and bile solubility test were also performed as confirmation tests.
血液培養においてレンサ球菌はしばしば検出され,特にβ溶血性レンサ球菌,S. pneumoniaeやEnterococcus属が検出された場合,真の血流感染症を反映している可能性が高い2)。また,敗血症性ショック患者を対象とした研究では,適切な抗菌薬治療が1時間遅れる毎に生存率が7.6%ずつ減少すると報告されており,敗血症の原因感染症としてのBSIは患者予後に大きく関与する3)。したがって,血液培養陽性時にレンサ球菌を迅速に鑑別することが重要である。
β溶血性レンサ球菌は,劇症型溶血性レンサ球菌感染症(streptococcal toxic shock syndrome; STSS)と呼ばれる急速な多臓器不全を伴った敗血症性ショック病態を引き起こすことがある。STSSは全数把握疾患であり,無菌材料からA群β溶血性レンサ球菌が検出された場合に届け出る必要があった。しかし,C群やG群β溶血性レンサ球菌によるSTSSの報告が近年増加しており,2006年4月からはすべてのβ溶血性レンサ球菌が届出基準の対象となった。STSSの死亡率は約30%と高いことから,血液培養が陽性になった際には,群の違いに関わらずβ溶血性レンサ球菌を迅速に鑑別することの臨床的意義は高いと考えられる4)。
主に肺炎や中耳炎の原因菌であるS. pneumoniaeは,時に侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease; IPD)を起こす。IPDは,無菌材料からS. pneumoniaeが検出された際には全数届け出の必要がある。IPDの多くの症例では菌血症を伴い,その死亡率は約6%と高いことから,血液培養における迅速な検出が重要である5)。
Enterococcus属によるBSIでは,不適切な抗菌薬治療により死亡率が上昇することが知られている。臨床で分離されるEnterococcus属は,多くの種類の抗菌薬に耐性を示すことから,抗菌薬の選択が特に重要となる。そのため,適切な抗菌薬治療を速やかに実施するために,レンサ球菌が疑われた際,Enterococcus属の迅速な鑑別が求められる6)。
これらの背景より,本来コロニーや尿を用いて検査する市販のレンサ球菌検査キットを血液培養液に転用した検査の迅速化が以前から報告されている7)~9)。本研究においても,日常業務で使用しているLancefield分類,PYR試験,および肺炎球菌抗原検査の3種類のキットを転用することにより,培養液からレンサ球菌を迅速に鑑別できることが示唆された。しかしながら,レンサ球菌が疑われた場合,Lancefield分類,PYR試験,および肺炎球菌抗原検査のどのキットを使用するのかについては,グラム染色結果と溶血性が重要であるため,これらの結果が不明瞭な場合には,最終的な鑑別に苦慮するケースも考えられる。今後,さらに検体数を増やして検討することが重要と考えられた。また,肺炎球菌抗原検査の「Binax NOW肺炎球菌」は,Streptococcus mitisやStreptococcus oralisといった一部の菌株で偽陽性となることが知られている10)。S. pneumoniaeが双球菌であるのに対し,S. mitisやS. oralisが連鎖状なので区別が可能であるが,検査キットの転用にあたり包括的な微生物学の知識も必要と考えられた。
陽性となった血液培養液を用いたLancefield分類,PYR試験,および肺炎球菌抗原検査は,β溶血性レンサ球菌,S. pneumoniaeやEnterococcus属の迅速な予測が可能であり,敗血症やBSIに有用と考えられた。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。