2020 Volume 69 Issue 2 Pages 274-277
末梢血スメアでマクロファージおよび血球貪食像を認めた症例を当院で初めて経験した。このような例は極めて稀とされているが,標本の観察方法によって検出頻度が高まることを指摘する報告もある。そこで,これ以降の検体で,血球貪食像が出現する可能性を念頭に置いた注意深い末梢血スメアの観察を続けたところ,5ヶ月間でさらに4症例を検出することができた。血球貪食症候群の診断基準を満たした症例は1症例のみであったが,すべての症例において経過中血球減少を示していた。また全症例で両側性胸水が認められたが,その意義は明らかでない。以上より,末梢血スメアにおけるマクロファージおよび血球貪食像の出現は,それほど稀ではない現象と考えられ,その検出のためには,血球減少や臨床像の特徴から出現が疑われる場合に,末梢血スメアの辺縁部やfeather edge部に注意を払って観察することが重要と考えられた。
We encountered a case with hemophagocytic macrophages in a peripheral blood smear for the first time in our laboratory. It is believed that such a case is quite rare; however, a report mentioned that the detectability of hemophagocytic macrophages could be increased by an extensive screening method. We subsequently carefully performed investigations considering the possibility of this condition, and we identified four additional cases within five months. Although only one case met the criteria for the diagnosis of hemophagocytic syndrome, all cases showed decreases in the numbers of some types of blood cells during the clinical course. Additionally, bilateral pleural fluid was noted in all five cases; however, its significance is unclear. These findings indicate that the presence of hemophagocytic macrophages in a peripheral blood smear is not very rare. For detection, it is important to carefully investigate the side and feathered edges of a blood smear, especially in cases showing decreases in the numbers of some types of blood cells and in those presenting clinical features of possible hemophagocytic syndrome.
血球貪食症候群(hemophagocytic syndrome; HPS)においてみられるマクロファージ(macrophage; MΦ)による血球貪食像は,通常骨髄やリンパ節などの組織中で検出されるもので,末梢血スメアで検出されることは極めて稀とされており,検出症例の報告もわずかである1)~3)。しかし,観察方法の工夫によって検出頻度が高まることを指摘する報告があり4),実際には見逃されている例が多い可能性も考えられる。しかしながら,このことを指摘する報告は他にはなく,追試した成績も知られていないため,今のところエビデンスに乏しい。
今回,われわれは当院で初めて,末梢血スメアで血球貪食像を検出し得た症例に遭遇したことを契機に,それ以降の検体で,MΦおよび血球貪食像の存在を念頭においた注意深い観察を続けたところ,5ヶ月間でさらに4症例を検出することができた。このことから,末梢血スメアでのMΦおよび血球貪食像の検出はそれほど稀ではない可能性があり,臨床的な意義も大きいため,日常的に念頭に置いて注意深く観察することが重要と考えられたので報告する。
当院で初めて末梢血スメアでMΦおよび血球貪食像を検出した症例をCase 1とし,その後5ヶ月間で続けて新たに検出した4症例をCase 2~5とする。各症例の臨床および検査所見の特徴をまとめたものをTable 1に示す。また,各症例で検出された末梢血スメアでのMΦおよび血球貪食像をFigure 1に示す。MΦおよび血球貪食像は,主にスメアの辺縁部やfeather edge部に認められた。Case 1での検出は偶然であったが,Case 2~5では,敢えてこの部分に注意を払うことによって検出することができた。なお,機械分類で異常細胞を示唆するフラッグはどの症例においても表示されていない。
Case 1 | Case 2 | Case 3 | Case 4 | Case 5 | |
---|---|---|---|---|---|
Sex | Female | Female | Female | Female | Male |
Age | 84 | 47 | 93 | 100 | 95 |
Clinical diagnosis | Transcervical bone fracture, Aspiration pneumonia | Sepsis, Infective endocarditis | Aspiration pneumonia | Acute pyelonephritis, Sepsis | Cerebral infarction |
Outcome | Improved | Dead | Improved | Poor | Poor |
Fever | 36.5°C | 38~39°C | 36.1°C | 36.3~36.8°C | 36.8~37.2°C |
Splenomegaly on CT | − | + | − | − | − |
Other CT findings | Pneumonia, Bilateral pleural fluid | Bilateral pleural fluid | Pneumonia, Bilateral pleural fluid | Dilatation of renal pelvis, Ascites, Bilateral pleural fluid | Bilateral pleural fluid, Pericardial fluid |
WBC (×109/L) | 5.99 | 18.53 | 2.06 | 1.86 | 12.59 |
Neutrophils (×109/L) | 3.738 | 19.077 | 0.999 | 0.651 | 11.469 |
RBC (×1012/L) | 3.72 | 3.56 | 2.34 | 2.79 | 3.76 |
Hb (g/dL) | 11.3 | 8.5 | 8.4 | 8.5 | 11.2 |
Platelet (×109/L) | 239 | 64 | 171 | 92 | 91 |
TP (g/dL) | 5.7 | 5.4 | 5.7 | 4.5 | |
Albumin (g/dL) | 2.5 | 2 | 2.1 | 2.4 | 1.8 |
Creatinine (mg/dL) | 0.38 | 0.9 | 0.43 | 1.12 | 1.23 |
CRP (mg/dL) | 3.54 | 14.44 | 1.65 | 0.49 | 1.52 |
PCT (ng/mL) | 0.29 | 5.68 | 0.48 | ||
AST (U/L) | 17 | 76 | 29 | 22 | 67 |
ALT (U/L) | 12 | 43 | 18 | 11 | 80 |
LD (U/L) | 215 | 928 | |||
Na (mEq/L) | 138 | 146 | 133 | 136 | 165 |
K (mEq/L) | 4.6 | 4.8 | 4.1 | 5.4 | 2.6 |
Cl (mEq/L) | 102 | 110 | 101 | 102 | 121 |
Ferritin (ng/mL) | 145 | ||||
Fibrinogen (mg/dL) | 514 | 316 |
Image contains pictures of five cases that hemophagocytic macrophages were detected in peripheral blood smear.
Case name is indicated on the upper of each picture.
Case 1は,84歳女性。左大腿骨頸部骨折にて手術後に誤嚥性肺炎併発。術後8日目の末梢血スメアにてMΦ貪食像検出(Figure 1, Case 1)。当日の検査所見では血球減少はみられなかったが(Table 1),6日前のHbが9.0 g/dLと10 g/dL未満であり,血小板数も117 × 109/Lとやや低値であった。Case 2は,47歳女性。感染性心内膜炎・敗血症で入院。入院後2日目に末梢血スメアでMΦ貪食像検出(Figure 1, Case 2)。本症例は,新たに考案された診断基準(Table 2)5)の2. a~dのすべて(発熱,脾腫,2系統以上の血球減少,肝炎様所見)を有しており,3. a~dの1項目(血球貪食像)も認めたため(Table 1),HPSの診断基準を満たしていた。本症例は検出5日後に死亡している。Case 3は,93歳女性。重症誤嚥性肺炎で救急搬送により入院となった。入院9日目に血球貪食像を検出(Figure 1, Case 3)。本症例は好中球数とHb濃度より2系統の血球減少(Table 1)を伴っていた。その後,経過は改善に転じている。Case 4は,100歳女性。急性腎盂腎炎と敗血症により入院。入院24日目に末梢血スメアでMΦを検出(Figure 1, Case 4)。血球減少は3系統に及んでいた(Table 1)。全身状態が不良となり,管理入院が継続されている。Case 5は,95歳の男性で,脳梗塞で入院。明らかな感染症などの炎症性疾患はみられていないが,入院1ヶ月半後にMΦ貪食像検出(Figure 1, Case 5)。この時期に一致して血小板数の減少がみられた(Table 1)。また,この約2週間前に急性肝炎様のトランスアミナーゼの上昇がみられていた。その後もトランスアミナーゼの軽度上昇は持続している。
1. Molecular diagnosis of hemophagocytic lymphohistiocytosis (HLH) or X-linked lymphoproliferative syndrome (XLP). |
2. Or at least 3 of 4: a. Fever, b. Splenomegaly, c. Cytopenias (minimum 2 cell lines reduced), d. Hepatitis. |
3. And at least 1 of 4: a. Hemophagocytosis, b. ↑ Ferritin, c. ↑ sIL2Rα (age based), d. Absent or very decreased NK function. |
4. Other results supportive of HLH diagnosis: a. Hypertriglyceridemia, b. Hypofibrinogenemia, c. Hyponatremia. |
The proposed version of HLH-2004 by Filipovich5)
これらの症例の中で,37℃以上の発熱は2症例,脾腫は1症例,肝炎様所見は2症例に認められたが,血球減少は全症例で認められた。フェリチン値はHPSの診断基準を満たした1症例でのみ測定されていたが,上昇はなかった。また,全症例に共通した所見として,胸部CT上両側の胸水が認められた。
末梢血スメアにおいてMΦおよび血球貪食像を検出することは稀とされていたが,今回5ヶ月間に連続して5症例の陽性例を見出し得たことから,それほど稀ではなく,従来は見逃されていたり,他の変性細胞と誤認されてきた可能性が考えられる。今回,骨髄検査が実施できた症例はなかったが,過去の報告では,末梢血スメアで血球貪食像の認められた例の全症例で,時期は必ずしも一致しないが骨髄検査で血球貪食像が確認されている4)。血球貪食像の存在はHPSの診断に有力な所見であり,それを末梢血スメアで検出できるのであれば,臨床的意義は大きいと考えられる。
今回の症例で,HPSの診断基準(Table 2)に合致するのはCase 2のみであったが,他の症例でも経過中には(必ずしも2系統以上ではなかったが)血球減少を示す時期が存在しており,末梢血スメアで血球貪食像の検索に注意を向ける重要な所見の一つと考えられる。また,今回の全症例で両側性胸水がみられた。その意義は明らかでないが,胸水が両側性の場合心不全や全身性疾患に伴う症状である可能性が高いため6),今回の症例では局所の疾患によるものよりは血球貪食に伴う症状として解釈すべきかもしれない。またHPSで胸水がみられる頻度は約50%といわれているが7),今回,著者らが経験した症例では頻度が高く,末梢血スメアでの血球貪食像出現と関連が深い可能性があり,血球貪食像の検索に注意を向ける重要な所見と推察される。
末梢血MΦの由来については明らかでないが,骨髄に出現する以前の時期にも認められることが指摘されており4),末梢血中で単球から分化した可能性も考えられる。また,胸水中でもMΦ貪食像が観察されることが知られており8),骨髄や組織外での分化に共通の機序が関与しているのかもしれない。
末梢血スメアにおけるMΦおよび血球貪食像の出現は,従来考えられていたほど稀ではないと考えられる。その検出のためには,末梢血スメアの辺縁部やfeather edge部に注意を払って観察することが重要であり,とくにHPSを合併しやすい疾患が背景にある症例で,原因が明らかでない血球減少や両側性胸水を伴う場合には,検出率が高まる可能性が推測された。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。