2020 Volume 69 Issue 2 Pages 209-214
可溶性インターロイキン-2受容体(sIL-2R)は非ホジキンリンパ腫や成人T細胞性白血病リンパ腫などで高値を示し病態を反映することから,治療効果の判定や補助診断,経過観察などに用いられている。今回,ルミパルスL2400(富士レビオ株式会社)で測定可能な「ルミパルスプレストIL-2R」(富士レビオ株式会社)が開発されたため,試薬導入に向けて基礎的検討を行った。併行精度,室内再現性,希釈直線性,検出限界および定量限界は良好な結果が得られた。共存物質や分注容器,保存条件等の影響は認められなかった。「ステイシアCLEIA IL-2R」(株式会社LSIメディエンス)との相関係数は0.995と高く,回帰式はy = 1.17x − 34.33と近似した値であり,極端な乖離検体も認められなかった。以上の結果より,基本性能は良好であることから,試薬の導入は可能であることが示唆された。
The levels of the soluble interleukin-2 receptor in serum are elevated in non-Hodgkin’s lymphoma and adult T-cell leukemia/lymphoma and reflect disease activity, so they are used for the assessment of treatment response, auxiliary diagnosis, and follow-up. Since the reagent “Lumipulse Presto IL-2R” that can be used with Lumipulse L2400 was developed this time, a basic study was carried out to introduce the reagent. Good results were obtained for within-run precision, between-day precision, dilution linearity, detection limit, and quantification limit. No effects of coexisting substances or container types were found. The correlation coefficient with “STACIA CLEIA IL-2R” was as high as 0.995, the regression equation was y = 1.17x − 34.33, and no extremely deviated sample was found. In conclusion, because of its good performance, it was suggested that the reagent can be introduced.
インターロイキン-2受容体(interleukin-2 receptor; IL-2R)は分子量55 kdのα鎖と分子量75 kdのβ鎖,分子量64 kdのγ鎖からなる蛋白であり1),リンパ球の活性化に伴って増加し,生体の免疫機構活性化の指標とされている2)。血中に遊離したα鎖の一部である可溶性インターロイキン-2受容体(soluble interleukin-2 reseptor; sIL-2R)値は造血器悪性腫瘍,レトロウイルス感染症,自己免疫性疾患などの病態で上昇し病態を反映することから,幅広い疾患領域での有用性が期待されている3)~5)。
近年,骨髄異形成症候群とともに罹患率・死亡率が増加傾向にある悪性リンパ腫では,活動性を直接反映する項目としてC反応性蛋白(C-reactive protein; CRP)や乳酸脱水素酵素(lactate dehydrogenase; LD)に加えてsIL-2Rが評価されており,成人T細胞性白血病や非ホジキンリンパ腫などの補助診断,経過観察に用いられている6)~8)。
この度,新規導入機器ルミパルスL2400(富士レビオ株式会社)で測定可能な「ルミパルスプレストIL-2R」(富士レビオ株式会社)が開発され,基礎的検討を行ったので報告する。
当院検査部において,sIL-2Rの測定依頼があった患者を対象とした。対象となった患者の残余血清を検体とし,またそれらの残りを自家調整プール血清として使用した。なお,本研究は鳥取大学医学部倫理審査委員会より審査不要と判断された。
2. 方法「ルミパルスプレストIL-2R」を用い,「免疫発光測定装置ルミパルスL2400」(いずれも富士レビオ株式会社)で測定した。対照試薬として,「ステイシアCLEIA IL-2R」を用い,「全自動臨床検査システムSTACIA」(いずれも株式会社LSIメディエンス)で測定した。いずれの試薬も測定原理は化学発光酵素免疫測定法(chemiluminescent enzyme immunoassay; CLEIA)で,「ルミパルスプレストIL-2R」の参考基準範囲は156.6 U/mL~474.5 U/mL,「ステイシアCLEIA IL-2R」は121 U/mL~613 U/mLである。
1) 併行精度2濃度の精度管理用試料LPコントロール・IL-2R(富士レビオ株式会社)を5回連続測定し,併行精度を検討した。
2) 室内再現性試薬搭載後初回のみキャリブレーションし,2濃度の精度管理用試料LPコントロール・IL-2Rを1日1回,19日間測定して室内再現性を検討した。
3) 希釈直線性約65,000 U/mLのプール血清を高濃度域と低濃度域の2試料に調整し,専用希釈液にてそれぞれ2倍段階希釈を行い,希釈直線性を検討した。
4) 検出限界低濃度プール血清を専用希釈液にて10段階希釈を行い,各試料について5重測定し2.6SD法にて検出限界を解析した。
5) 定量限界低濃度プール血清を専用希釈液にて10段階希釈を行い,各試料について5日間連続2重測定し変動係数(coefficients of variation; CV)が10%未満となる測定値を定量限界とした。
6) 共存物質の影響干渉チェック・Aプラスおよび干渉チェック・RFプラス(いずれもシスメックス株式会社)をプール血清に添加し,共存物質の影響を確認した。
7) 相関72例の患者血清を用いて測定を行い,相関係数と回帰式を算出した。
8) 分注容器の影響初回測定後の血清(4濃度)をそれぞれ分析前工程統合管理モジュールMPAM(株式会社エイアンドティー)の専用容器であるMPAM用2次容器(株式会社エイアンドティー),IDS-3000子検体チューブ(株式会社アイディエス),PSオートチューブ丸底(アジア器材株式会社),サンプルカップ(Greiner Bio-one),DISC用カップ(株式会社エル・エム・エス)に約0.5 mLずつ分注して22℃~26℃の室温と5℃~6℃の冷蔵に保存し,1時間毎に5時間後まで測定を行った。各容器の主な素材は,MPAM用2次容器,IDS-3000子検体チューブ,DISC用カップはポリプロピレン樹脂,PSオートチューブ丸底とサンプルカップはポリスチレン樹脂である。
CVはそれぞれ1.0%と良好であった(Table 1)。
sIL-2R (U/mL) | Low | High |
---|---|---|
Mean | 423.7 | 5,291.8 |
Max | 429.5 | 5,378.8 |
Minimum | 419.0 | 5,251.3 |
SD | 4.13 | 51.26 |
CV (%) | 1.0 | 1.0 |
CVは2.4%~2.6%と良好であった(Table 2)。
sIL-2R (U/mL) | Low | High |
---|---|---|
Mean | 420.2 | 5,185.3 |
Max | 449.6 | 5,417.8 |
Minimum | 403.6 | 4,854.3 |
SD | 9.95 | 135.95 |
CV (%) | 2.4 | 2.6 |
62,246.0 U/mLまで原点を通る直線が確認された(Figure 1)。
検出限界は1.35 U/mLであった(Figure 2)。
Dotted line: zero concentration value +2.6SD
定量限界は5.94 U/mLであった(Figure 3)。
Dotted line: CV = 10%
ビリルビンF,ビリルビンCは20 mg/dL,ヘモグロビンは500 mg/dL,乳びは3,000 FTU,RFは500 IU/Lまで影響は認められなかった(Figure 4)。
相関係数r = 0.995,回帰式y = 1.17x − 34.33となり,明らかな測定値の差異を認めた検体はなく良好な相関が得られた(Figure 5)。
X: STACIA CLEIA IL-2R
Y: Lumipulse Presto IL-2R
室温・冷蔵保存下5時間後まで,すべての分注容器において影響は認められなかった(Figure 6)。
Diamond: room temperature (22°C~26°C)
Cross mark: refrigerated (5°C~6°C)
基礎的検討の結果,全ての検討項目において良好な結果が得られた。製品仕様では1.9 U/mLの検出限界が1.35 U/mL,6.6 U/mLの定量限界が5.94 U/mLであり,製品仕様よりも良い結果が得られた。検討試薬の測定範囲は30~150,000 U/mLで対照試薬の測定範囲50~100,000 U/mLと比較して低濃度域,高濃度域ともに広いことから再検率の減少につながると考える。
検討機器については一次反応と二次反応の時間をそれぞれ3分ずつ,反応合計時間をおよそ6分短縮した短時間測定法が備えられており,結果報告までの所要時間(turn-around time; TAT)の短縮が実現できると考える。短時間測定法については通常時間測定法と同等の性能を有していることから9),sIL-2Rが高値になる各疾患に対して迅速な検査結果の報告が可能となり,臨床により貢献できるものと考える。しかし短時間測定法の検査項目と通常時間測定法の検査項目の両方を搭載している場合,並行して測定を行う際に両測定法の切り替えに多少の時間が掛かることがある。そのため全ての検体でTATを6分間短縮出来るわけではなく,また通常時間測定法よりもTATが遅延する可能性があるので注意を要する。
以前,分析前工程統合管理モジュールMPAMで使用されるMPAM用2次容器において,容器の原料であるポリプロピレンから検出された溶出物が測定に影響を与えた事例がメーカーから報告された。確認されたのはCRP低値化現象で,2019年3月下旬より原料が変更されており,以後このような現象は確認されていない。当院では測定する際に用いる分注容器が5種類あり,自動搬送の場合や手で分注する場合,検体の量が少ない場合など状況に応じて使い分けており,sIL-2Rの測定値に影響がないか確認を行っていなかった。全ての分注容器において室温・冷蔵保存下5時間後まで測定値の大きな変化はないことから,分注容器や保存条件が測定値に与える影響はないことが確認された。また測定値に影響を与える可能性のある分析前工程として,分注容器以外に血清分離用採血管の種類も挙げられる。高速凝固タイプの血清分離用採血管ではより迅速な検査結果の報告が可能となるが,検査項目によっては採血管容器および分離材への吸着もしくは添加されたトロンビンが測定値に影響を与えることがあるため10),導入する場合には事前に詳細な検討が必要である。
今回の検討では確認されなかったが,ラテックス凝集免疫比濁法のsIL-2R測定試薬において直線性上限の低下や共存物質の影響が存在するという報告や,他社の化学発光酵素免疫測定法のsIL-2R測定試薬において乖離検体を認めたという報告がある11),12)。sIL-2R測定試薬にも様々な特徴があるため,運用上の要求事項に照らし合わせて試薬を選定することが重要であると考える。
ルミパルスL2400におけるsIL-2R測定試薬の基礎的検討を行った結果,基本性能において良好な結果が得られ,試薬の導入は可能であることが示唆された。
本論文の要旨は第68回日本医学検査学会(令和元年5月,山口)にて発表した。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。