Japanese Journal of Medical Technology
Online ISSN : 2188-5346
Print ISSN : 0915-8669
ISSN-L : 0915-8669
Technical Articles
Effect of environmental temperature on self-monitoring of blood glucose (SMBG)
Shojiro SASENozomi TAROURASatoshi MIYAOIMasato TERADATakao TASHIRO
Author information
JOURNAL FREE ACCESS FULL-TEXT HTML

2020 Volume 69 Issue 2 Pages 168-178

Details
Abstract

糖尿病患者が血糖自己管理のために行う血糖自己測定(self-monitoring of blood glucose; SMBG)は,自宅や外出先など様々な環境下で測定する。今回,環境因子の中で温度に焦点をあて,その影響について検証するためSMBG機器5機種について,測定機器とセンサーの温度を低温,常温,高温下の7パターンを組み合わせ,血糖値への影響について検証を行った。その結果,SMBG機器およびセンサーが同一温度における低温,高温環境下では,一部の機種において血糖値が高値化あるいは低値化したが,いずれの機種もISO 15197の許容範囲内であった。一方,SMBG機器とセンサー間に温度差が生じた場合,SMBG機器が低温でセンサーが常温では一部の機種を除き異常高値に,逆に,SMBG機器が高温でセンサーが常温では異常低値となりISO 15197の許容範囲から外れた。復温中の血糖の経時的変化は,復温開始後5分で不安定ではあるがISO 15197の許容範囲に収まり,10分以上経過すると,ほぼ,温度の影響が認められなくなった。今回の検証結果から,SMBG機器とセンサー間に,急激な温度差が生じる危険性のある暖房器具や冷房直下での使用を避け,少なくとも室温に10分以上馴染ませる必要が確認された。

Translated Abstract

Diabetic patients perform self-monitoring of blood glucose (SMBG) for glucose control. SMBG can be carried out in various environments, such as at home or on the road. For that reason, we examined the effects of temperature on five SMBG devices. The temperatures of the SMBG devices and sensors were verified by seven combinations of low temperature, normal temperature and high temperature. As a result, we found that the temperatures of the SMBG devices and sensors are within ISO 15197 tolerance at the same temperature of the environment. But when a temperature difference occurred between the SMBG device and the sensor, the blood glucose level deviated from within ISO 15197 tolerance. When the temperature of the SMBG devices were low and the temperature of the sensors were room temperature, the blood glucose level became abnormally high. Conversely, when the SMBG devices were at a high temperature and the sensor were at room temperature, the blood glucose level was abnormally low. Observation of changes in blood glucose during the process of returning the SMBG device and sensor to room temperature showed that after 5 minutes it was within ISO 15197 tolerance. After 10 minutes, no effect of the temperature was observed. On the basis of the results of this study, we avoid the use of heaters and air conditioners where there is a risk of sudden temperature differences between the SMBG devices and sensors. It was confirmed that it is necessary to acclimate the devices and sensors to room temperature for at least 10 minutes.

I  はじめに

糖尿病患者が血糖自己管理のために行う血糖自己測定(self-monitoring of blood glucose; SMBG)は自宅や外出先など様々な環境温度下で測定するため温度補正機能は付いているが,低温や高温環境下では使用可能温度内であっても測定値に影響があることが報告1)~7)されている。

今回,温度変化における影響について検証するためSMBG機器5機種について,測定機器とセンサーの温度を低温,常温,高温下の7パターンを組み合わせ,血糖値への影響について3濃度(低,中,高濃度)の検証を行った。

II  方法

1. 対象機器およびセンサー(Table 1
Table 1  対象機器およびセンサー
No 測定機器名 略称 測定原理 使用温度(℃) センサー
1 グルコカードプラスケアー G機器 GDH-FAD電極法 10~40 Gセンサー
2 フリースタイルフリーダム F機器 GDH-PQQ電極法 5~40 ニプロフリースタイルセンサー
3 メディセーフフィットスマイル M機器 比色法 5~40 メディセーフチップ
4 ワンタッチベリオIQ O機器 GDH-FAD電極法 6~44 ワンタッチベリオセンサー
5 アキュチェックガイド A機器 GDH-FAD電極法 4~45 アキュチェックガイドストリップ

今回,検証を行ったSMBG機器は,グルコカードプラスケア(以下,G機器),フリースタイルフリーダム(以下,F機器),メディセーフフィットスマイル(以下,M機器),ワンタッチペリオIQ(以下,O機器),アキュチェックガイド(以下,A機器)の5機種である。

2. 検証用試料

1)試料の調整法は,ISO 15197(2013年改定)の「SMBG機器の正確さ精密性を評価する際の試料作製法」8),9)および糖尿病関連検査の標準化に関する委員会10),11)に準拠し調整した。

2)健常人ボランティアから採血したヘパリン加静脈血を37℃で解糖させた後に,ブドウ糖を添加し低濃度域(80 mg/dL),中濃度域(150 mg/dL),高濃度域(300 mg/dL)の3濃度を調整した。なお,試料のヘマトクリットを45%前後になるよう調整した。

3)試料は4℃保冷庫内に保管し,使用する15分前に常温に戻し転倒混和後,パラフィルム上に2 μL滴下してから各SMBG機器で測定した。

なお,本検証は旭中央病院倫理委員会の承認を得て実施した(承認番号2016031513)。

3. 方法

SMBG機器およびセンサーを,以下の環境温度下で放置し測定値への影響について検証を行い,その平均値を評価した。

1) SMBG機器およびセンサーが同一温度条件の場合

SMBG機器およびセンサーを,常温(23 ± 1.0℃の検査室内),低温(6.5 ± 0.5℃の保冷庫内),高温(37 ± 1.0℃の孵卵器内)にそれぞれ1時間放置させた後,検証用試料を3重測定した。

2) SMBG機器とセンサーに温度差が生じた場合

SMBG機器とセンサー間に温度差が生じた場合の影響を検証するため,SMBG機器とセンサーを以下の①~④の条件下で,それぞれ1)と同じ温度に1時間放置させた後に,検証用試料を3重測定した。

①機器/センサー(常温/低温)

②機器/センサー(常温/高温)

③機器/センサー(低温/常温)

④機器/センサー(高温/常温)

3) 復温中における測定値の経時的変化

許容範囲を外れ影響が大きかった,2)の③機器/センサー(低温/常温),④機器/センサー(高温/常温)については,低温あるいは高温環境下から常温環境に移して復温中の測定値の経時的変化をみるため,SMBG機器を常温環境に移してから5分,10分,20分後に検証用試料を3重測定した。

4. 評価法

1) 比較対照(リファレンス)

血糖標準法であるグルコースオキシダーゼ(GOD)電極法による全自動分析装置GA-05(A&T社)による測定値を比較対照(リファレンス)とした。

2) 評価基準と許容範囲

ISO 15197の精確性評価に準拠8),9)し,SMBG機器と比較対照との乖離をバイアス(以下Bias)とし求めた。

ISO 15197ではBiasが血糖値100 mg/dL未満は ±15 mg/dL以内,血糖値100 mg/dL以上は ±15%以内を許容範囲としていることから,Figure 17においてその範囲を網掛枠で示し評価基準とした。

III  成績

1. 環境温度による測定値への影響

1) SMBG機器およびセンサーが同一温度条件の場合

Figure 1に,SMBG機器およびセンサーが同一温度条件の場合における比較対象とのBiasを示した。

Figure 1 SMBG機器およびセンサーが同一温度条件の場合における比較対象とのBias

いずれの機種もISO 15197の許容範囲に入り,Biasも10 mg/dL,または10%以内であったが,環境温度により血糖値が高め,あるいは,低めになるなど機種により一定の傾向が認められた。

いずれの機種もISO 15197の許容範囲に入り,Biasも10 mg/dL,または10%以内であった。環境温度により血糖値が高め,あるいは,低めになるなど機種により一定の傾向が認められた。

各機種の測定値は,G機器は低温では高値化,高温では低値化したが,M機器は逆に,低温では低値化,高温では高値化した。O機器は,低温の高濃度を除き,低温と高温では低値化した。一方,F機器は,環境温度に関係なく低値化となり,A機器は逆に高値化傾向が認められた。

2) SMBG機器とセンサーに温度差が生じた場合の影響

同一温度条件における影響と比較したところ,以下のような結果となった。

① 機器/センサー(常温/低温)と同温との比較(Figure 2
Figure 2 機器/センサー(常温/低温)と同温との比較

すべての機種は許容範囲内であったが,G機器,F機器,M機器は低値化する傾向が認められ,特に,F機器とM機器はBiasが−10 mg/dL,または−10%を超える低値化傾向を認めた。

すべての機種は許容範囲内であったが,G機器,F機器,M機器では低値化する傾向が認められた。

特に,F機器は高濃度試料のBiasが−10%,M機器は低濃度試料のBiasが−10 mg/dLを超える低値化傾向を認めた。

② 機器/センサー(常温/高温)と同温との比較(Figure 3
Figure 3 機器/センサー(常温/高温)と同温との比較

許容範囲内には入っていたが,高値化する傾向が認められたが,A機器は影響が認められなかった。

すべての機種は許容範囲内には入っていたが,G機器,O機器は低濃度試料が高値化する傾向が認められた。F機器は,低・中濃度試料が,低値化する割合が小さくなった。一方,A機器は影響が認められなかった。

③ 機器/センサー(低温/常温)と同温との比較(Figure 4
Figure 4 機器/センサー(低温/常温)と同温との比較

3機種が,許容範囲内を外れ顕著に高値化する傾向が認められた。A機器は,影響が認められなかった。

3機種が,許容範囲内を外れ顕著に高値化する傾向が認められた。

G機器は,メーカーの指定した使用温度よりも低温環境下で検証したところ高濃度試料が,F機器とO機器は低濃度試料が顕著に高値化する傾向が認められた。M機器とA機器の低濃度試料が高値化する傾向が認められたが許容範囲内であった。

一方,A機器は影響が認められなかった。

④ 機器/センサー(高温/常温)と同温との比較(Figure 5
Figure 5 機器/センサー(高温/常温)と同温との比較

3機種が,低値化する傾向が認められG機器が,最も低値化する傾向が大きく許容範囲を外れた。M機器とA機器は,若干低値化するが大きな影響が認められなかった。

3機種に低値化する傾向が認められた。G機器が,最も低値化する傾向が大きく,特に低濃度試料が許容範囲を外れた。F機器は,許容範囲内であったが全濃度試料において低値化する傾向が,O機器も許容範囲内であったが低濃度試料が大きく低値化する傾向が認められた。一方,M機器とA機器は,若干低値化するが大きな影響が認められなかった。

2. 復温中における測定値の経時的変化

1) 機器/センサー(低温/常温)から復温中の測定値変化(Figure 6
Figure 6 機器/センサー(低温/常温)から復温中の測定値変化

常温に戻ると急速にBiasは小さくなり10分を経過すると,ほぼ常温のBiasに戻った。一方,常温と比較し影響が認められなかったA機器は経時的変化も認められなかった。

多くの機種が,常温に移してから急速にBiasは小さくなり10分を経過すると,ほぼ常温のBiasに戻った。特に,高値化傾向が顕著であったG機器,F機器,O機器,M機器も10分を経過すると,ほぼ常温のBiasに戻った。一方,常温と比較し影響が認められなかったA機器とM機器は経時的変化も認められなかった。

2) 機器/センサー(高温/常温)から復温中の測定値変化(Figure 7
Figure 7 機器/センサー(高温/常温)から復温中の測定値変化

全ての機種が,常温に戻してから急速にBiasは小さくなり10分経過後に常温のBiasに戻った。

全ての機種が,常温に移してから急速にBiasは小さくなり10分経過後に常温のBiasに戻った。

特に,低値化傾向が顕著であったG機器,F機器,O機器は10分を経過すると,ほぼ常温のBiasに戻った。一方,わずかに低値化したが大きな影響が認められなかったM機器とA機器も時間経過と共にBiasが小さくなる傾向が認められた。

IV  考察

今回,環境温度における影響を検証するためSMBG機器5機種について,測定機器とセンサーの温度を低温,常温,高温条件において7パターンの組み合わせにおける,測定値への影響について検証を行った。

その結果,SMBG機器およびセンサーが同一温度環境でも低温および高温環境下では一部の機種の測定値に変化を認めたがBiasは10 mg/dL,または10%以内であった。

これまでの報告では,SMBG機器およびセンサーが同一温度条件における検証が行われ,低温環境下では低値化2)~4),逆に高値化1),5),または,一定の傾向が認められないが,温度の馴染ませ方が不十分だと高値化6)したと報告されている。

一方,高温環境下では高値化1),5)する傾向があることが報告されている。

また,機種により試料の濃度条件で変化が認められ ISO 15197の許容範囲から外れていたとの報告がある7)

酵素には至適温度があり,温度により反応速度が変化するため,SMBG機器には温度補正機能が付いており補正1),2),6)が行われる。

SMBG機器とセンサーが共に同一温度条件であれば低温あるいは高温においても理論的には適正に補正が行われ影響がないはずである。

今回の検証においては一部機種と特定の濃度試料に影響が認められたが,その影響は許容範囲内であることから,ほぼ適正に補正が行われていたと考えられた。

一方,SMBG機器とセンサーに温度差が生じた場合,許容範囲から外れた機器が認められ,低温では3機種が異常高値化,高温では1機種が異常低値化を示した。

異常高値化した一機種は,メーカー指定の使用温度外であるが,この温度でも測定値が表示されることは問題であると考えられた。

小川ら2)が行った検証では,低温から常温への復温中に異常高値になったと報告しており,その原因を酵素反応が正常に復帰しているのに,機器が低温であると認識し温度補正を行ったと考察している。

この様に,SMBG機器とセンサー間に温度差が生じる現象は一般的に起こりうると考えられる。

実際の医療の現場においても,異常高値の訴えが冬場に多く,その時の状況を確認すると,冷たい状態のSMBG機器とセンサーを用い,使用直前にストーブの前で血糖値を測定している場合がある。

真冬に,暖房器具を使用すると,センサー自体の厚さは薄いため急速に常温に戻るが,補正機能は測定器の中にあるため常温に戻るまで時間を要し,測定時点では温度差が生じてしまうと考えられる。

夏の冷房直下での使用についても,同様のことが起こりえることが危惧される。

今回,行った復温中における血糖値の経時的変化における検証では,常温に移してから急速にBiasは小さくなり10分を経過すると,ほぼ常温のBiasに戻り影響が無くなっていた。

これらのことから,低温あるいは高温下にあったSMBG機器とセンサーを暖房や冷房でコントロールされた環境の部屋に移動して使用する場合,少なくとも10分以上は常温に馴染ませる必要があると考えられた。

SMBGは患者自身が検査を行うため,思わぬ落とし穴があり,重大なミスに繋がる危険性がある。

SMBG機器は,使用可能温度の範囲を逸脱すると測定できない機種もあるが,測定できる機種もあり,このことは山崎7)により2008年には指摘されている。

範囲内であっても,イレギュラーな使用法によっては,本来の血糖値と大きく乖離することがあることを,医療スタッフが十分に理解し情報を共有し,実際に使用する患者への指導に結び付けていくことが,リスクマネジメントの観点から重要であると考えられた。

V  結語

SMBG機器およびセンサーが同一温度条件では,温度による影響はISO 15197の許容範囲内となったが,SMBG機器とセンサーに温度差が生じた場合は,SMBG機器が低温では異常高値,高温では異常低値となり,ISO 15197の許容範囲から外れる機種が存在した。SMBGを行う場合,暖房器具の近くや冷房の直下あるいは夏場の車内に置いてあった機器・試薬は,その場での使用は避け常温環境の温度で10分以上経過してから測定するように,医療スタッフは実際に使用する患者へ注意啓発することが重要であると考えられた。

 

本論文の要旨は第61回日本糖尿病学会年次学術集会において発表した。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

謝辞

本論文の作成にあたり,ご指導とご助言をいただきました旭中央病院中央検査科 羅智靖先生,診療技術局 浅井秀樹先生に深謝いたします。

文献
 
© 2020 Japanese Association of Medical Technologists
feedback
Top