Japanese Journal of Medical Technology
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Technical Articles
Basic study of urinary oxalic acid measurement using capillary electrophoresis
Isami TSUBOIChie MIZUMURAMizuki KINOSHITASatoshi MACHIDA
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2020 Volume 69 Issue 2 Pages 179-183

Details
Abstract

キャピラリー電気泳動法を用いた尿中シュウ酸の濃度測定法の基礎的評価を行った。日内再現性と日間再現性は6.0%未満であった。希釈直線性の相対誤差(%)は良好な結果であった。添加回収試験も良好な結果であった。また,塩酸とアスコルビン酸はシュウ酸測定に及ぼす影響は特に認められなかった。イオンクロマト法との相関性は,良好な結果であった(y = 0.971x + 0.380, r = 0.997, n = 50)。この検討でキャピラリー電気泳動法を用いた尿中シュウ酸の濃度測定法は,ルーチン検査において有効な方法であることが検証された。

Translated Abstract

We performed basic evaluation studies of the urinary oxalic acid measurement by capillary electrophoresis. This method showed CVs of within-run and between-day precisions of less than 6.0%, and the relative error of dilution linearity was good. The recovery test also showed good results. No effects of hydrochloric acid or ascorbic acid on the urinary oxalic acid measurement were detected. In addition, the correlation of urine samples with high-performance ion chromatography and capillary electrophoresis was good (y = 0.971x + 0.380, r = 0.997, n = 50). This study revealed that this method using capillary electrophoresis is applicable in routine testing.

緒言

体内では,シュウ酸イオンはカルシウムイオン(Ca2+)や鉄(II)イオン(Fe2+)などの2価の陽イオンと結合して,シュウ酸塩を作り,尿から小さな結晶として排出される。この結晶が大きくなると尿路結石となる。尿路結石の約80%がシュウ酸カルシウム由来である1)。高シュウ酸尿症は尿路結石症の一つのリスク因子として考えられている2)

尿中のシュウ酸は,酵素法3)やイオンクロマト法4)などの多くの測定法が開発されている。しかし,酵素法は酵素反応を阻害する物質除去のために,前処理が必要である。また,イオンクロマト法に関しては高濃度の陰イオンが含まれる場合,シュウ酸と干渉してその影響を受ける。キャピラリー電気泳動法は尿の前処理は必要なく,塩酸,硫酸やリン酸などの他の陰イオンが,シュウ酸より非常に高濃度に含まれる尿の分析には他法よりも優れている5)

2018年4月に,尿中のシュウ酸は,再発性尿路結石症の患者に対して,キャピラリー電気泳動法で検査を実施した場合,保険適用可能となった。現在,当社ではイオンクロマト法(以下,従来法)による検査を実施している。そこで,キャピラリー電気泳動法(以下,新法)を用いた尿中シュウ酸の濃度測定法の検討を行った。

I  対象と方法

1. 対象

社内ボランティアの尿50例を対象とした。

6 mol/L塩酸10 mLを入れた容器に24時間蓄尿を入れる。尿量を容器に記入して,3 mLを分取し試料とした。

2. 方法

1) 前処理

新法:塩酸添加検体(尿)0.05 mLに対して精製水1.0 mLで希釈して用いる。

従来法:塩酸添加検体(尿)0.1 mLに対して0.01 mol/L HCL 1.0 mLを加え希釈して用いる。

2) 分析条件

新法はTable 1A,従来法はTable 1Bの通り5)

Table 1  Analytic condition
(A) New method
Measuring equipment 7100 capillary electrophoresis system (Agilent Technologies)
Analytical column Bubble cell capillary (Inner diameter 75 μm, Effective length 72 cm)
Running buffer Inorganic Anion Buffer for CE, pH 7.7
Detction wave Sig. = 350 nm (Band width: 80 nm), Ref = 245 nm (Band width: 10 nm)
Temp. 25°C
Applied voltage −25 kV
Sample infusion condition 50 mbar, 4 sec
(B) Conventional method
Measuring equipment DX-100 ion chromatograph system (Thermo Fisher Scientific)
L-2200 auto sampler (Hitachi High-Technologies Corporation)
L-6200 pump (Hitachi High-Technologies Corporation)
Analytical column RFICTM Ion PacR AS4A-SC 4 × 250 mm
RFICTM Ion PacR AS4A-SC 4 × 50 mm Guard
RFICTM Ion PacR NGI 4 × 35 nm Guard
Elution buffer 0.18 mmol/L Na2CO3/0.17 mmol/L NaHCO3 Flow speed 1.5 mL/min
Regenerating solution 0.025 N H2SO4 Flow speed 0.15 mL/min

3) 測定原理

新法:キャピラリー(細管)内に電解質溶液を満たし,両端に高電圧をかける。サンプルは,電気泳動と電気浸透流を合わせた速度で移動する。電気泳動移動度に差異がある場合,サンプル成分は異なった速度で泳動し分離される。分離されたサンプル成分は移動時間と信号強度によって定量できる。

従来法:イオンクロマトグラフィーは,溶離液を移動相としてイオン交換体などを固定相とした充填カラム内で試料溶液中のイオン種成分を分離し,定量する方法である。

II  検討項目

1. 日内再現性

自社管理尿検体(L, M, H)をそれぞれ6回測定して,変動係数(CV%)を算出した。

2. 日間再現性

自社管理尿検体(L, M, H)をそれぞれ2回測定して,8日間の変動係数(CV%)を算出した。

3. 希釈直線性

検量線用標準試料(4ポイント)の分析を5回測定し,直線性を確認した。

4. 添加回収試験

自社管理尿3検体(ブランク尿)に対して,1,000 mg/L濃度のシュウ酸標準液0.4 mLに対して尿20 mLを添加したものと同様にシュウ酸標準液1.2 mLに対して20 mLを添加したものの理論値を算出した。

5. 共存物質の影響

1) 塩酸

2濃度の自社管理尿0.9 mLに対して,0.1 mLの精製水,0.1 mLの0.3 mol/L塩酸,0.1 mLの0.6 mol/L塩酸,0.1 mLの1 N塩酸をそれぞれ添加してシュウ酸を6重測定した。

2) アスコルビン酸

2濃度の自社管理尿0.9 mLに対して,0.1 mLの精製水,0.1 mLの100 mg/dLアスコルビン酸,0.1 mLの10,000 mg/dLアスコルビン酸をそれぞれ添加してシュウ酸を6重測定した。

塩酸とアスコルビン酸とも各添加濃度での測定値が添加0濃度の平均値 ± 2SD以内であるとき,測定値に影響がないと判断した。

6. 検体の保存安定性

社内ボランティア尿2検体に対して,採尿後冷蔵保存して0,3,7,14,15日目にシュウ酸を測定した。初期値を4重測定し,初期値の平均値 ± 2SD以内であるとき,変動がないと判断した。

7. 相関性

社内ボランティアの尿50例を使用して,新法と従来法の相関性試験を実施した。

III  結果

1. 日内再現性

自社管理尿検体L,M,HともにCV 4.0%未満と良好な結果であった(Table 2)。

Table 2  Repeatability
Oxalic acid L M H
Mean (mg/L) 12.0 31.9 77.4
SD (mg/L) 0.4 1.2 0.9
CV (%) 3.3 3.8 1.2

2. 日間再現性

自社管理尿検体L,M,HともにCV 6.0%未満と良好な結果であった(Table 3)。

Table 3  Intermediate precision
Oxalic acid L M H
Mean (mg/L) 11.8 31.3 73.3
SD (mg/L) 0.7 0.8 1.7
CV (%) 5.9 2.6 2.3

3. 希釈直製性

相対誤差(%)は−3.0から10.0で良好な結果であった(Table 4)。

Table 4  Lineality
Sample Adjustmentconc. (mg/L) 5.0 30.0 50.0 100.0
Oxalic acid Reverse regression conc. (mg/L) 5.5 30.3 48.5 100.6
Relative error (%) 10.0 1.0 −3.0 0.6

4. 添加回収試験

自社管理尿3検体に対して,2濃度の回収率は93.5~110.7%で良好な結果であった(Table 5)。

Table 5  Recovery test
No. Urinary blank (mg/L) (A) Urinary blank Mean (mg/L) Sample Addition conc. (mg/L) (B) Conc. (mg/L) (B) − (A) (mg/L) Recovery conc. (%) Recovery conc. Mean (%) SD CV (%)
1 12.4 12.0 M 20.0 31.3 19.3 96.5 99.3 1.2 1.2
12.1 30.8 18.8 94.0
11.6 30.9 18.9 94.5
12.1 32.7 20.7 103.5
11.3 33.8 21.8 109.0
12.3 31.7 19.7 98.5
H 60.0 78.4 66.4 110.7 109.1 0.9 0.8
77.1 65.1 108.5
78.0 66.0 110.0
77.0 65.0 108.3
78.0 66.0 110.0
76.1 64.1 106.8
2 12.2 11.5 M 20.0 32.5 21.0 105.0 103.5 0.8 0.8
11.0 32.6 21.1 105.5
11.5 30.7 19.2 96.0
11.4 31.9 20.4 102.0
11.3 32.7 21.2 106.0
11.5 32.8 21.3 106.5
H 60.0 71.3 59.8 99.7 100.9 0.7 0.7
73.0 61.5 102.5
72.9 61.4 102.3
71.6 60.1 100.2
71.8 60.3 100.5
71.6 60.1 100.2
3 11.8 11.8 M 20.0 32.0 20.2 101.0 97.3 0.5 0.5
11.6 31.5 19.7 98.5
12.7 31.0 19.2 96.0
11.7 31.2 19.4 97.0
11.6 31.3 19.5 97.5
11.1 30.5 18.7 93.5
H 60.0 73.3 61.5 102.5 102.0 0.7 0.7
72.5 60.7 101.2
73.9 62.1 103.5
72.8 61.0 101.7
71.9 60.1 100.2
73.4 61.6 102.7

5. 共存物質の影響

塩酸は0.1 mol/Lまで,アスコルビン酸は1,000 mg/dLの添加濃度まで影響は認められなかった(Figure 1)。

Figure 1 Effects of interfering substances on measurement of oxalic acid

Two levels of samples were used to confirm the effects of hydrochloric acid and ascorbic acid

As a results, no influence was observed up to the concentration shown in the figure.

6. 検体の保存安定性

社内ボランティア尿2検体は15日間まで測定値に変動は認められなかった(Figure 2)。

Figure 2 Stability of samples

Two levels of samples were stable until 15 days under refrigeration preservation.

7. 相関性

新法と従来法との相関式と相関係数に関して,y = 0.971x + 0.380,r = 0.997(n = 50)と良好な結果が得られた(Figure 3)。

Figure 3 Correlation

Correlation of measured values between high performance ion chromatograph and capillary electrophoresis method using urine samples. As a results, correlation is good (y = 0.971x + 0.380, r = 0.997, n = 50).

IV  考察

新法を用いた尿中シュウ酸の基礎的評価を行った。日内再現性と日間再現性の精度,直線性の相対誤差及び添加回収も良好であった。また,アスコルビン酸と塩酸に対して影響性は特に認められなかった。新法は従来法との相関性は良好であった。

アスコルビン酸は酸化剤の存在化で容易に分解し,シュウ酸とL-スレオン酸に酸化される。この酸化分解は,温度,pH,金属イオンの存在により影響を受ける。但し,pH 4以下では,この酸化反応はほとんど起こらない6)。現在,検体は6 mol/L塩酸10 mLを含む容器に24時間蓄尿後,所定量を冷蔵で出検してもらっている。24時間蓄尿は通常600~1,500 mLぐらいで,6 mol/L塩酸10 mLを含む容器中ではpH 4以下であり,アスコルビン酸がシュウ酸に酸化されないものと思われる。しかし,アスコルビン酸の酸化分解は温度の影響を受けるので,冷蔵での出検が望ましい。

従来法はシュウ酸と干渉する陰イオンの影響を受けやすいが,新法はシュウ酸より非常に高濃度に陰イオンが含有された尿でも分析可能である5)。現在,尿量が少ないと予想される場合,尿200 mLに対して6 mol/L塩酸1 mLを添加してもらっている。新法は0.1 mol/L塩酸まで影響がないことを確認しており,通常の出検条件では特に測定結果に影響はないものと思われる。また,前処理は,尿を精製水で20倍希釈する簡便な工程で,新法は従来法に比べ分析時間が約4分短縮された。

これらの結果より,新法によるシュウ酸の測定は性能上問題なく,今後当社ではルーチン検査を実施予定である。

V  結語

キャピラリー電気泳動法を用いた尿中シュウ酸の濃度測定法の基礎的評価は良好な成績であり,日常検査に有効な方法であることが実証された。

COI開示

本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。

文献
 
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