2020 Volume 69 Issue 2 Pages 261-266
緒言:子宮頸部小細胞神経内分泌癌(small cell neuroendocrine carcinoma; SCNEC)は比較的稀な腫瘍で悪性度の高い腫瘍として知られている。今回我々は細胞診で術前診断が可能であった子宮頸部原発のSCNECの1例を報告する。症例:患者は20歳代,女性。持続する子宮出血で,擦過細胞診が施行された。細胞診では特定構築のない集塊配列と核の相互圧排像,裸核状で乏しい細胞質と核の細顆粒状の細胞所見からSCNECと診断された。一方で,細胞質が豊富で大型核を有する異型細胞集塊の細胞所見から扁平上皮癌の存在も疑われた。生検による組織診断では小型で単一のN/C比の高い細胞が密に増殖しておりSCNECと診断され,その後広汎子宮全摘出術が行われ,免疫組織化学的検索により扁平上皮癌成分を含むSCNECと最終診断された。本症例は腫瘍径6 cmで傍大動脈リンパ節転移陽性であったが,術後36ヶ月間再発および転移は認められていない。結論:子宮頸部SCNECの細胞診断には特定構築のない細胞配列と核の相互圧排像および細顆粒状核クロマチンの出現が必要である。
Small cell neuroendocrine carcinoma (SCNEC) of the uterine cervix is a relatively rare, highly aggressive tumor. We report a case of SCNEC of the uterine cervix that could be diagnosed preoperatively by cytology. The patient was a woman in her 20s. Owing to persistent uterine bleeding, cervical smear cytology was performed. The cytological diagnosis was SCNEC based on cell cluster arrangement with no specific structure, nuclear molding, naked nuclei-like cells with scant cytoplasm, and finely granular nuclear chromatin. On the other hand, the presence of squamous cell carcinoma was also suspected from the cytologic findings of atypical cell clusters rich in cytoplasm and having large nuclei. The histological diagnosis was also SCNEC based on a concentrated proliferation of small single cells with a high N/C ratio. Subsequently, radical hysterectomy was performed, and immunohistochemical examination led to the final diagnosis of SCNEC with the squamous cell carcinoma component. The tumor in this case was 6 cm in diameter and was positive for para-aortic lymph node metastasis, but no recurrence or metastasis was observed for 36 months after surgery. The cytological diagnosis of SCNEC requires the presence of cell arrangement with no specific structure, nuclear molding, and finely granular nuclear chromatin.
子宮頸部に発生する小細胞神経内分泌癌(small cell neuroendocrine carcinoma; SCNEC)は比較的稀な腫瘍で悪性度の高い腫瘍として知られており1),早期の診断が重要であるにもかかわらず細胞診による診断率は低い2),3)。今回我々は細胞診で術前診断が可能であった子宮頸部原発SCNECの1例を経験したので,文献的考察を加えて報告する。
患者:20歳代,未経妊,未経産。
主訴:不正性器出血。
既往歴:特になし。
現病歴:3ヶ月前より不正性器出血が持続するため近医を受診,子宮頸癌が疑われたため当院紹介となった。細胞診にてSCNEC(一部扁平上皮癌の存在を疑う),組織生検では免疫組織化学的検索結果を含めSCNECと診断された。画像精査にて子宮頸癌IIB期と診断され,広汎子宮全摘出術と両側付属器切除術,骨盤および傍大動脈リンパ節郭清術が施行された。その後の組織学的診断で一部扁平上皮癌成分を伴うSCNECと診断された。さらに傍大動脈リンパ節に転移が認められたため,術後療法として同時化学放射線療法が行われ,術後36ヶ月間経過するも再発および転移は認められていない。
生化学検査:術前の腫瘍マーカーではNSE(35.7 ng/mL)およびSCC(2.2 ng/mL)が高値を示した。
摘出標本肉眼所見:腟腔に突出する黄白色調の境界明瞭な6 cm大の腫瘍を認めた(Figure 1)。
A yellowish white mass protruding into the vaginal cavity was observed.
細胞診所見:背景に壊死物質は著明ではなく,炎症性の背景に裸核状の腫瘍細胞が主に結合性疎な小集塊状で特定の構築は示さず出現していた(Figure 2a)。腫瘍細胞は小型リンパ球の2~3倍の大きさでN/C比が著しく高く裸核状で,核は円形から楕円形を呈していた(Figure 2b)。核の相互圧排像も認められ,核縁は菲薄で,核クロマチンは細顆粒状に増量し,核小体は不明瞭であった(Figure 3a)。一方で,細胞質が豊富で核が中心性の細胞も少数認められ,中には非常に大型の核を有し,短紡錘形で流れるような配列を示す異型細胞集塊も認められた(Figure 3b)。さらに子宮頸部上皮内腫瘍(cervical intraepithelial neoplasm; CIN)の細胞と考えられる細胞集塊も少数認められた。
(a) Tumor cells resembling bare nuclei were seen in an inflammatory background with no defined structure (10×). (b) Tumor cells were 2 to 3 times larger than lymphocytes and were round to oval-shaped (40×).
(a) Nuclear molding and increased finely granular (salt-and-pepper) chromatin were noted (100×). (b) Cells with abundant cytoplasm and centrally located large nuclei were seen in a streaming arrangement (40×).
組織所見:1.生検材料:小型で単一のN/C比の高い細胞が密に増殖していた。細胞質はほとんど認められず,核は小型卵円形で核クロマチンが顆粒状に増量しており,核分裂像は高率(5 < /HPF)に認められた(Figure 4a)。2.手術材料:単一の小型異型細胞の他に一部で豊富な好酸性細胞質と大型核を有する扁平上皮癌成分を小範囲に認め(Figure 4b),CINも認められた。免疫組織化学所見をTable 1に示す。腫瘍細胞はChromogranin A,Synaptophysin(Figure 5a, b),CD56の3つの神経内分泌系マーカーで陽性を示した一方で,小範囲の扁平上皮癌成分はCK5/6で陽性を示した(Figure 5c)。また,全体でp16がびまん性に陽性であった(Figure 5d)。
(a) Small, single tumor cells with high nuclear/cytoplasmic (N/C) ratios were densely proliferated, and a large proportion of these cells were in the stage of mitosis (40×). (b) There was a small area consisting of squamous cell carcinoma cells with abundant eosinophilic cytoplasm and large nuclei (10×).
Neuroendocrine cell markers and epithelial cell markers | |||
---|---|---|---|
Chromoguranin A | + | P40 | − |
Synaputophysin | + | C-kit | − |
CD56 | + | LCA | − |
AE1/AE3 | + | P53 | weak + |
CK5/6 | focal + | TTF-1 | weak + |
p16 | + |
While tumor cells were positive for chromogranin A (a) (40×) and synaptophysin, (b) (40×) some squamous cell carcinoma cells were positive for cytokeratin (CK) 5/6 (c) (10×). Overall, tumor cells were diffusely positive for p16 (d) (10×).
子宮頸部に発生するSCNECは悪性度の高い腫瘍として知られており1),早期の診断が重要である。しかし,細胞診による診断率は低い2),3)。Zhouら2)は13例,Liら3)は6例をまとめて症例報告しているが,いずれも細胞診にてSCNECと診断できた症例はなかったと報告している。
細胞学的にSCNECの診断を困難にする要因として,(1)本腫瘍が上皮下を中心に増殖することや発生部位が子宮頚管内のより高い位置に発生するため採取が難しいこと2),4),(2)細胞学的な鑑別診断が困難なこと4),が挙げられる。(1)については腫瘍の大きさや採取技術などの問題が関連するため,一様に解決する問題点とは言い難い。一方(2)についてはSCNECの特徴的細胞学的所見の把握と他組織型の細胞像との鑑別点をしっかり捉えることである程度解決できる問題である。
SCNECの細胞学的特徴として山脇ら5)は1)背景には壊死物質が多く,炎症細胞は少ない。2)腫瘍細胞は,孤立散在性あるいは結合性の弱い上皮性集塊として出現する。3)細胞集塊は,細胞配列に一定の方向性(流れ)を認めず,また,裸核状のほつれ像を伴う。4)N/C比は著しく高度で,核は円形~類円形,核縁は薄く,核クロマチンは細顆粒状,核小体は目立たない。5)同一標本上に,扁平上皮癌,腺癌成分の細胞を認めることがある。の5つの項目を挙げている。この報告以後本邦で報告された子宮頸部SCNECの細胞学的所見はこの5項目と対比して評価されている6)~9)。また,Kimら4)は核の相互圧排像,細胞質の乏しさ,細顆粒状核クロマチン,特定構築のない集塊を特徴として挙げており,Liら3)も細顆粒状核クロマチンが特徴であるとしている。
SCNECの細胞学的に鑑別すべき病変として子宮内膜癌,子宮頸部腺癌,非腫瘍性子宮頚部病変,非ホジキンリンパ腫および小型非角化型扁平上皮癌が挙げられる2),4)。子宮内膜癌および子宮頸部腺癌における鑑別はそれらの腫瘍細胞集塊の特徴すなわち比較的強い結合性と腺様構造を伴う重積集塊となることが鑑別点として挙げられ,慢性子宮頸管炎や非ホジキンリンパ腫では標本上に上皮性結合を示す細胞集塊を認めないことが重要である2),4)。小型非角化型扁平上皮癌との鑑別は困難である場合が多いが,小型非角化型扁平上皮癌では前述のSCNECの特徴的所見に比べると,比較的豊富な細胞質,粗顆粒状の核クロマチン,明確な細胞質境界と構築のある細胞集塊が観察され,これらの所見がSCNECとの鑑別点となる。本症例の細胞学的所見を評価したところ背景については壊死物質には乏しく炎症細胞が優位であった点で過去の報告とは異なっていたものの,特定構築のない細胞配列と核の相互圧排像,裸核状で乏しい細胞質および細顆粒状の核クロマチン所見が顕著に見られ,SCNECの診断は可能であった。一方で,本症例に出現した扁平上皮細胞像は豊富な細胞質を有し核は大型で中心性を呈しており,核クロマチンは粗顆粒状であった点で神経内分泌性腫瘍細胞との鑑別は可能であった。
WHO分類2014年10)では子宮頸部SCNECの組織診断は形態学的診断であり,SynaptophysinやChromogranin Aなどの免疫染色が必須であるとの記載はないが,他報告によると,これらの神経内分泌マーカーが高率に陽性となるため11),組織診断の際には免疫組織化学染色が必要と考えられており,本症例においても組織診断において免疫組織化学染色を加味して診断を行ったため,免疫組織化学染色の重要性は高いと考えられる。また,神経内分泌癌例では約4割程度に腺癌や扁平上皮癌成分を伴うことが知られているが12),本症例でも一部に細胞質が豊富で大型核を有する異型細胞が認められ,CK5/6が陽性を示したことから扁平上皮癌の成分を伴うSCNECであることが免疫組織化学染色から証明された。
子宮頸部に発生するSCNECは子宮頸癌症例の3%未満とされる稀な腫瘍であり,病期I–IIA期およびIIB–IV期の5年生存率はそれぞれ36.8%および8.9%と予後不良な腫瘍としても知られている1)。子宮頸部SCNECの予後因子について,Cohenら1)は5年生存率に有意に関連する臨床病理学的特徴として低stage(IA–IIA)の腫瘍とし,さらにLiaoら13)はFIGO stage I–IIA期,腫瘍サイズ4 cm未満,Chromogranin A陰性状態およびリンパ節の転移なし,浸潤の深さが3分の2未満の患者は良好な予後を示したと報告した。本症例は腫瘍径6 cm,Chromogranin Aは弱陽性,傍大動脈リンパ節に転移が陽性であったが,術後36ヶ月間経過した現在,再発および転移は認められていない。
SCNECは扁平上皮癌および腺癌と同様に,高リスクヒトパピローマウイルス(human papilloma virus; HPV)感染との関連が知られている。ほとんどのSCNECが16型および18型HPVに感染し,その同時感染は扁平上皮癌や腺癌よりも有意に高かった14),15)。本症例はHPV-DNAについては判明していないが,HPV感染と免疫組織化学染色のp16陽性例が高頻度に相関していることが知られており15),本症例がHPV感染陽性例である可能性は高い。なお,子宮頸癌のHPV陽性例と完全奏効率との関連を指摘した報告はあるが16),SCNECの予後との関係は未だ解明されていないのが現状である。
術前の細胞診で診断し得た子宮頸部SCNECの1例について文献的な細胞学的診断所見および予後因子との比較を行い評価した。細胞学的診断には特定構築のない配列,核の相互圧排像および細顆粒状核クロマチンの出現が必要であると考えられた。本症例はstage IIB以上,腫瘍サイズ4 cm以上,Chromogranin A弱陽性状態と予後不良因子が多く備わっていたが,術後36ヶ月間経過後,未だ再発および転移には至っていない。
本論文に関連し,開示すべきCOI 状態にある企業等はありません。